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第5章 思惑
焦燥
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その夜、ワイリーは一人で机に向かっていた。
彼の視線の先には、これまでの研究資料や今後の計画書などが乱雑に散らばっている。
手元に白紙を引き寄せた彼は、目を瞠るスピードでペンを走らせる。
何度も書き直しているのか、周囲にはぐしゃぐしゃに丸められた紙がいくつも転がっていた。
「……はあ。」
ペンを持つ手を止め、ふと息を吐く。
昨日からの睡眠時間をほとんど削って机に向かっている結果がこれだ。
今後の展開を組み立てるも、思考の隅にちらほらと浮かんでは消える人影が、ワイリーの作業を邪魔していた。
ことごとく、計算外のことばかりだ。
彼のことなど、簡単に手の内に落とせるはずだった。
いくら知恵の園で育っているとはいえ、まだ領主の座についていない若者が器用に立ち回れるはずもなかろう。
知恵の園では魔法に関する勉学ばかりしていただろうし、領地運営については理解が浅いはずだ。
先代である父親が早々に亡くなっているのであれば、なおのこと。
そう高をくくっていたのが間違いだったらしい。
蓋を開けてみれば、予想とは全くの正反対。
彼は、こちらが思っている以上にニューヴェルの事情を網羅していた。
こちらの話にも対等についてくるし、頭の回転も速い。
しかも、ニューヴェルの実質的な権限はすでに彼にあるというではないか。
「……邪魔だな。」
思わず毒づく。
彼が協力する可能性は限りなく低い。
この間話して、そう思った。
彼は迷っていると口にしていたものの、実際にはこちらを危険視している部分が大きいに違いない。
そういう釣り方をしたのは確かだが、あれをどう丸め込んだものか。
「………」
じっと思案する。
彼の存在は、今後を大きく左右する。
味方につけば、とてつもなく大きな切り札に。
敵に回れば、この上ない脅威に。
ワイリーは険しく眉を寄せる。
(脅威となるくらいなら、この場で消してしまおうか……)
「ワイリー様。」
そっと、背後に気配が降り立ったのはその時。
ワイリーは驚くことなくもなく、後ろを振り返りもしない。
「どうだった?」
短く訊ねる。
「彼らは、ニルケーウォル伯爵の別邸にて、今後の貿易についての話し合いをするようです。」
「その後は?」
「レイキーの市場調査で、街を三つほど回るようです。」
「ニルケーウォル伯爵も一緒か?」
「いえ、電話の会話だとお忍びでとのことですので、ニルケーウォル伯爵はご一緒ではないかと思われます。」
一通りの報告を聞き、ワイリーは腕を組む。
背後の気配は、いつの間にか消えていた。
「市場調査か…。なら、必ずカルミヤには立ち寄るはずだ。」
呟いて、ワイリーはカレンダーを手に取る。
明日の昼までには、来客もすべていなくなる。
相手をしなければならない邪魔くさい人間が、ようやく消えるのだ。
「………」
ワイリーは黙り込む。
尚希の推測どおり、ワイリーとしては尚希との決着を早々につけたかった。
彼は今までこちらが裏で作ってきた銃の脅威も、そのからくりも分かっているはず。
だからこそ、彼はあの銃は商品にならないときっぱり否定したのだ。
あの自信ありげな口ぶりから察するに、今頃銃の何が不完全で、どうすればそれが改善されるのかを考えているに違いない。
知恵の園の叡智を存分に吸収している彼が、あの銃に対抗しうる策を打ち出す可能性は大いにあるだろう。
それだけなら利用できる余地があるが、その過程で知恵の園にこの件を報告されたらたまらない。
ここまでの深みに引き込んだ以上、どうしても彼という存在を野放しにできないのだ。
こちらの手中に収められないのなら、今の内に存在を消すしかない。
(いや……)
ふと、ワイリーの口がにたりと歪む。
消してしまうのも一つの選択肢ではあるが、それではあまりにももったいない。
―――もっと、有用な使い道があるではないか。
彼の視線の先には、これまでの研究資料や今後の計画書などが乱雑に散らばっている。
手元に白紙を引き寄せた彼は、目を瞠るスピードでペンを走らせる。
何度も書き直しているのか、周囲にはぐしゃぐしゃに丸められた紙がいくつも転がっていた。
「……はあ。」
ペンを持つ手を止め、ふと息を吐く。
昨日からの睡眠時間をほとんど削って机に向かっている結果がこれだ。
今後の展開を組み立てるも、思考の隅にちらほらと浮かんでは消える人影が、ワイリーの作業を邪魔していた。
ことごとく、計算外のことばかりだ。
彼のことなど、簡単に手の内に落とせるはずだった。
いくら知恵の園で育っているとはいえ、まだ領主の座についていない若者が器用に立ち回れるはずもなかろう。
知恵の園では魔法に関する勉学ばかりしていただろうし、領地運営については理解が浅いはずだ。
先代である父親が早々に亡くなっているのであれば、なおのこと。
そう高をくくっていたのが間違いだったらしい。
蓋を開けてみれば、予想とは全くの正反対。
彼は、こちらが思っている以上にニューヴェルの事情を網羅していた。
こちらの話にも対等についてくるし、頭の回転も速い。
しかも、ニューヴェルの実質的な権限はすでに彼にあるというではないか。
「……邪魔だな。」
思わず毒づく。
彼が協力する可能性は限りなく低い。
この間話して、そう思った。
彼は迷っていると口にしていたものの、実際にはこちらを危険視している部分が大きいに違いない。
そういう釣り方をしたのは確かだが、あれをどう丸め込んだものか。
「………」
じっと思案する。
彼の存在は、今後を大きく左右する。
味方につけば、とてつもなく大きな切り札に。
敵に回れば、この上ない脅威に。
ワイリーは険しく眉を寄せる。
(脅威となるくらいなら、この場で消してしまおうか……)
「ワイリー様。」
そっと、背後に気配が降り立ったのはその時。
ワイリーは驚くことなくもなく、後ろを振り返りもしない。
「どうだった?」
短く訊ねる。
「彼らは、ニルケーウォル伯爵の別邸にて、今後の貿易についての話し合いをするようです。」
「その後は?」
「レイキーの市場調査で、街を三つほど回るようです。」
「ニルケーウォル伯爵も一緒か?」
「いえ、電話の会話だとお忍びでとのことですので、ニルケーウォル伯爵はご一緒ではないかと思われます。」
一通りの報告を聞き、ワイリーは腕を組む。
背後の気配は、いつの間にか消えていた。
「市場調査か…。なら、必ずカルミヤには立ち寄るはずだ。」
呟いて、ワイリーはカレンダーを手に取る。
明日の昼までには、来客もすべていなくなる。
相手をしなければならない邪魔くさい人間が、ようやく消えるのだ。
「………」
ワイリーは黙り込む。
尚希の推測どおり、ワイリーとしては尚希との決着を早々につけたかった。
彼は今までこちらが裏で作ってきた銃の脅威も、そのからくりも分かっているはず。
だからこそ、彼はあの銃は商品にならないときっぱり否定したのだ。
あの自信ありげな口ぶりから察するに、今頃銃の何が不完全で、どうすればそれが改善されるのかを考えているに違いない。
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それだけなら利用できる余地があるが、その過程で知恵の園にこの件を報告されたらたまらない。
ここまでの深みに引き込んだ以上、どうしても彼という存在を野放しにできないのだ。
こちらの手中に収められないのなら、今の内に存在を消すしかない。
(いや……)
ふと、ワイリーの口がにたりと歪む。
消してしまうのも一つの選択肢ではあるが、それではあまりにももったいない。
―――もっと、有用な使い道があるではないか。
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