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第1章 ウェールの民
作戦会議
しおりを挟む「で、おれたちはどうすれば?」
じっと思案する実の隣で、今度は拓也が問いを投げかけた。
すると、ヴィオルとクルオルはわずかに困惑しながら互いに顔を見合わせる。
無言のやり取りの後、実たちに向き直ったヴィオルが口を開いた。
「まず、あなた方のことについてですが、偶然ここに迷い込んでしまったあなた方を保護して、そのまましばらく滞在していただくことになったという形にします。偶然による人の来訪は吉兆の訪れとされていますので、疑われることはないでしょう。」
「なるほど。そこは、話の辻褄を合わせておく必要がありそうだな。」
拓也の呟きに、実も尚希も同意して頷く。
理解が早い実たちに一度頭を下げ、ヴィオルは再び話し始めた。
「私たちの指揮で動いている者たちには弟の失踪を告げず、集落を活気づけるために人を招待する予定で、今の仕事はそのための警護や準備だと言ってあります。人の来訪で浮足立った民衆の裏で私たちが動いても、大した問題にはならないでしょう。」
「つまり、おれたちはお前たちの隠れ蓑になればいいと?」
「かいつまむと、そういうことです。私たちが個人個人を洗っていく間、あなた方は物見遊山という名目で、人が集まる市場などを見て回ることが可能でしょう。ああいった場所は、顔の知られている私たちでは迂闊に調べられませんので。」
なるほど。
小さな集落ならばなおさらに、人が集まる所で民衆の目を欺きながらの捜索というのは難しいかもしれない。
クルオルたちが部下を引き連れて調査に行くよりも、観光を装って自分たちが調査に行く方が自然に見えるはずだ。
具体的な動きが分かって、拓也と尚希の顔が心なしか緊張から解放されたように緩む。
「で、ノルンさんの容姿や特徴は?」
すかさず、実が必要な情報を求める。
「双子ですので、顔は私によく似ています。私の髪がくせで波打ったのが弟だと思っていただければと。加えて、長になった者を示す模様のような赤い痣が目元にあります。私も含め他の民には見られない特徴なので、簡単に見分けはつくかと。」
「そっか。なるほど……」
「……実?」
眉根を寄せる実の様子に気付いたのか、拓也が実の顔を覗き込んだ。
「どうした? 何か気になることでもあるのか?」
「いや、気になるというか……」
実は大仰に息をついて、背もたれに身を預けた。
「情報が足りなさすぎて、不自然なくらい何も見えないっていうか…。最後にノルンさんに会ったのはヴィオルさんなの?」
最終目撃者は家族だったと聞いたので話を振ったのだが、ヴィオルは頭を横に振った。
「最後にノルン様に会ったのは、ノルン様の奥方様と娘のリーネ様です。奥方様は第二子を出産されたばかりですし、リーネ様もまだ幼いので、話を聞くことは難しいかと思います。」
「ああ、そっか。んー…」
クルオルの補足説明を受け、実は難しい顔で唸った。
どうにもこうにも、事態は上手く進まないらしい。
「結局、行動あるのみってか。」
最後に一際大きく息の塊を吐き出して、実はふと目についた杯を手に取った。
細長いシルエットの木製の杯の中には、透き通った紅色の液体が入っている。
どんな飲み物なのかは分からないが、杯の底には小さな丸い果実が沈んでいた。
ちょうど喉も渇いていたので、実はそれを一気に飲み干す。
もちろん、底の果実まで飲んでしまわないように注意していたつもりだったのだが……
「んぐっ!?」
さらさらと流れ込む甘酸っぱい飲み物に流されて、何か冷たいものが口腔内に入り込んできた。
驚いた時には、その異物感はすでに喉の方まで流れてしまった後。
気合いで飲み物を全部飲み込んでから、肺と喉が訴えるままに激しく咳き込む。
すると、隣にいた拓也が慌てて背中をさすってくれた。
「ああもう、何やってんだよ。」
「ごめ……なんか、間違って飲み込んだ…っ」
「そんな一気に呷るから。」
拓也の口調には呆れが滲んでいる。
そしてこれを一つの区切りと見たのか、クルオルが小さく手を叩いた。
「さて、今日はこのくらいにしましょう。協力してくれるのはありがたいのですが、皆様は大事な客人。まずは、ゆっくりと休んでください。実さん、お水でもお持ちしましょうか?」
「ごめん。お願い。」
咳のせいでひりひりする喉を潤したくて、実は素直に頷く。
実たちは気付かなかった。
水を入れるために背を向けたクルオルの口元が、ほんの少しだけ弧を描いたことに―――
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