世界の十字路

時雨青葉

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第2章 声

禁忌とされた理由

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 ウェールの民が住むこの土地に、太陽は昇らない。
 寝ても覚めても、この土地には星の散った夜のカーテンが下り、月が顔を出している。


 ウェールの民の中で月が大切に扱われているのは、こういう環境が背景にあるのだろう。


 とはいえ、その生活様式は人間のものとさして変わりはしない。


 それぞれの住居を構え、狩りを行い、周囲と協力し合いながら日々の生活を営んでいる。


 時おり聞こえる羽ばたきの音を聞きながら、尚希はどっぷりと自分の思考に浸かり込んでいた。


 ウェールの民の中では人間は神聖なものとして伝わっているというが、その本質は違うのではないかというのが個人的な推測だ。


 もしかしたら生き物全体に通ずるのかもしれないが、人間は基本的に自分と姿形が違うものをいとう生き物だ。


 翼を持つ彼らを見た者の多くは、異形の者としてれ物扱いをするか、その珍しさ故に己の所有物にしようとすることだろう。


 彼らが少数民族ならなおのこと、その傾向は強くなるに違いない。


 人間への接触による危険を回避するために、人間が神に通ずる神聖な存在だという建前を作ったのではないかというのが自分の見解だ。


 素直に危険を伝えるよりも、宗教的な意味を持たせて伝えた方が、怖いもの見たさにきんに触れる馬鹿は圧倒的に少なくなるはずだ。


 人間に関わらないことが、彼らが安住を得られる方法だったということなのかもしれない。


 危険はまずけて通れ。
 それは安全管理の原則なのだけど、なんとも複雑な気分だ。


 ウェールの民の先祖たちの考えをみ取っていると、どうしても実と重なってしまうのだから。


「尚希、いるか?」


 ふとその時、控えめな調子の声が飛び込んできたので、尚希は自分の思考に区切りをつけて顔を上げた。


 部屋の入り口を塞ぐ布がゆらゆらと揺れて、そこからひょっこりと拓也が顔を出す。
 拓也は尚希の姿を見つけると、ほっとしたように表情をやわらげた。


「よかった。いなかったらどうしようかと思ったよ。」
「いなかったらって……何かあったのか?」


 拓也は肝がわっている方だし、初めての場所でおろおろするなんてことはありえない。


 しかし、今の拓也は困ったように眉を寄せ、どことなく挙動に落ち着きがなかった。


 まあ、様子を見る限り、緊急事態というわけではなさそうだが……


「いや……その……実の部屋、なんだけどさ。」
「実の部屋?」


 想定外ではあったが、思えば拓也の口から飛び出すべき言葉として、これ以上にふさわしい単語もない。


 おうむ返しに訊き返すと、途端に拓也は慌てたように頭や手を振った。


「あ、いや……別に、実が危ないとかじゃなくって!」


 それは、言われずとも分かっていますって。
 まったく要領を得ない拓也の言動に、尚希はただ首をひねるばかり。


 一方の拓也は上手い説明がないものかと必死に模索していたが、やがてそれが困難だと判断したのだろう。


 縦じわを作るほどに寄せられていた眉から、ふっと力が抜けた。


「ごめん。説明できねぇから、一緒に来てくれ。」
「………?」


 一体何があったというのか。


 結局情報は何も得られなかったのだが、尚希は拓也の後ろに続くために腰を上げるのだった。

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