133 / 189
流浪の如く
慢性化する過呼吸
しおりを挟む
夜の寒空の公園で、オレはナツとベンチに座っていた。
コンビニでナツに会うと、繁華街に逸れた街灯もあまり付いてない公園に連れていかれた。
「何で拒否してるの?もしかして私の話聞いて、ドン引きした?」
怒っているというより、オレが着信拒否をしている事がどういう事なのか、と問いただしてきた。
こんな、寒い公園で長話なんてしたくない。
「それよか、仕事しなくていいのかよ?こんなとこにいたらサボってると思われるぞ」
早く仕事に戻れと話を逸らした。
「いいんだってば、仕事は。どうせ声掛けても入ってこないよ、今日は」
どうやら店は客の入りが悪く、暇みたいだ。
月曜日という事もあり、週の頭からキャバクラに来る客はあまりいないらしい。
「悪いけど、オレには関わらない方がいい。関わったら、お前も不幸になる」
内心はナツと会っていたい。
だが、鴨志田や兄、レンタルクラブのオーナーに母。皆死んでいった。
オレに関わった人間は、不幸な最期を迎えてしまう。
ナツは鴨志田の妹だ。
今更、オレは鴨志田の実の子供だなんて言えないし、ましてや、この世にいないなんて事は、口が避けても言えない。
「えっ、どうして?急に拒否られたから、私ショックだったんだよ」
言うべきなのか…
明日は鴨志田の月命日だ。
ナツも一緒に連れていくべきかどうか。
「黙ってないで、何とか言ったらどうなの?」
プライベートの時と違って、カールしたセミロングの髪につけまつげ、そして濃い目のメイク。
ナツは美人だな。
その美人も、かなり暗い過去を背負ってきた。
暗い過去ならオレの方が遥かに上回っている。
だからこそ、オレに関わらない方がいいんだ。
「とにかく、オレには関わるな、それだけだ」
「古賀くん、もしかしてお姉ちゃんの事…知ってるのね?ねぇ、そうでしょ?」
悟られてしまったか?
いや、それは無い。
それに、ナツが探している姉の名前すら聞いてない。
「何でオレが知ってるんだよ?第一、お前の姉ちゃんの名前すら知らないんだぞ」
寒くて手が悴んできた。
指先にハァーっと、息を吐いて手を暖めていた。
「お姉ちゃんの名前は紗栄子。広瀬紗栄子って言うの」
…やっぱり!鴨志田は養子縁組する前の名字は広瀬のはずだった。
「広瀬紗栄子?名前だけじゃ分かるワケないだろ?しかも高校の先生って言うけど、オレは高校入って一学期で辞めたんだぞ。
学校に縁の無いオレが知るワケないだろ」
「え?一年の一学期で辞めたって、随分早くない?」
「入学したはいいけど、親が亡くなったからな。おまけに身寄りが無いから、15の時から一人で暮らしていたよ」
「ウソっ、15才で一人暮らし?」
そりゃ、驚くだろうな。
おまけにあの兄に騙されて、しばらくは住む場所すら無くて、ホテルやインターネットカフェを転々としていたなんて言っても信用しないだろうからな。
「古賀くん、両親は?」
「オヤジは海外の出張先で強盗に遭って銃で撃たれて死んだよ。オフクロは事故で亡くなったし」
「え、そんな短い期間でご両親を亡くしたの?でも、兄弟とかいるでしょ?」
「アニキがいたけど、家はちょっと複雑な家庭でな。血の繋がってない兄弟だから、今は何してんだか」
兄の事は言えなかった。
兄の事を喋ったら、うっかり鴨志田の事まで喋りそうになってしまうからだ。
「そんな…じゃあ、お兄さんに助けてもらったりとか出来なかったの?」
この前はオレが質問攻めしたが、今日はオレが質問攻めにあってる。
「さぁ、何せお前と一緒で、オレが産まれて間もなくして離婚したから、アニキの顔すら知らない。
まぁ、戸籍上はアニキだけど、実際は血が繋がってないから親が亡くなった時点で赤の他人だよ」
ウソは言ってない。
オレと兄は血の繋がりは無いのだから。
「…」
ナツもどう言えばいいのか、迷っている。
そんなヤツに掛ける声なんてあるワケがない。
「ところで、お前と姉ちゃんは戸籍上、姉妹って事なのか?」
「うん…一応そうなってるけど。そうか、古賀くんもお兄さんと会ってないのか。何か私たち一緒だね、境遇が。
古賀くんは、お兄さんに会いたいとか思わないの?」
忌まわしい出来事が鮮明に蘇ってきた。
あの兄のせいで、母は廃人になり、鴨志田は消された。
…ぐっ、まただ!また呼吸が苦しくなった…
突如速まる心拍数、いてもたってもいられなくなり、じっと座っている事さえ、出来ない…
口元を手で覆い、なるべく鼻で呼吸しようとした。
だが、一向に治まらない。
「…はぁ、はぁ、はぁ~…ぐっ、はぁ、はぁ、苦しい…」
「どうしたの?古賀くん?」
ナツは驚き、どうしていいか分からず、狼狽えていた。
「すぐに…治る…はぁ、はぁ、ぐっ、くそっ!はぁ…」
ベンチで横になった。
ナツは過呼吸だと分かると、オレの背中をさすった。
「古賀くん、大丈夫?ゆっくり呼吸して、大丈夫だから。私ここにいるから安心して…」
オレは苦しいながらも、この言葉でナツとこれからも会っていきたい。
例えバレてもいい、その時はその時だ、と。
コンビニでナツに会うと、繁華街に逸れた街灯もあまり付いてない公園に連れていかれた。
「何で拒否してるの?もしかして私の話聞いて、ドン引きした?」
怒っているというより、オレが着信拒否をしている事がどういう事なのか、と問いただしてきた。
こんな、寒い公園で長話なんてしたくない。
「それよか、仕事しなくていいのかよ?こんなとこにいたらサボってると思われるぞ」
早く仕事に戻れと話を逸らした。
「いいんだってば、仕事は。どうせ声掛けても入ってこないよ、今日は」
どうやら店は客の入りが悪く、暇みたいだ。
月曜日という事もあり、週の頭からキャバクラに来る客はあまりいないらしい。
「悪いけど、オレには関わらない方がいい。関わったら、お前も不幸になる」
内心はナツと会っていたい。
だが、鴨志田や兄、レンタルクラブのオーナーに母。皆死んでいった。
オレに関わった人間は、不幸な最期を迎えてしまう。
ナツは鴨志田の妹だ。
今更、オレは鴨志田の実の子供だなんて言えないし、ましてや、この世にいないなんて事は、口が避けても言えない。
「えっ、どうして?急に拒否られたから、私ショックだったんだよ」
言うべきなのか…
明日は鴨志田の月命日だ。
ナツも一緒に連れていくべきかどうか。
「黙ってないで、何とか言ったらどうなの?」
プライベートの時と違って、カールしたセミロングの髪につけまつげ、そして濃い目のメイク。
ナツは美人だな。
その美人も、かなり暗い過去を背負ってきた。
暗い過去ならオレの方が遥かに上回っている。
だからこそ、オレに関わらない方がいいんだ。
「とにかく、オレには関わるな、それだけだ」
「古賀くん、もしかしてお姉ちゃんの事…知ってるのね?ねぇ、そうでしょ?」
悟られてしまったか?
いや、それは無い。
それに、ナツが探している姉の名前すら聞いてない。
「何でオレが知ってるんだよ?第一、お前の姉ちゃんの名前すら知らないんだぞ」
寒くて手が悴んできた。
指先にハァーっと、息を吐いて手を暖めていた。
「お姉ちゃんの名前は紗栄子。広瀬紗栄子って言うの」
…やっぱり!鴨志田は養子縁組する前の名字は広瀬のはずだった。
「広瀬紗栄子?名前だけじゃ分かるワケないだろ?しかも高校の先生って言うけど、オレは高校入って一学期で辞めたんだぞ。
学校に縁の無いオレが知るワケないだろ」
「え?一年の一学期で辞めたって、随分早くない?」
「入学したはいいけど、親が亡くなったからな。おまけに身寄りが無いから、15の時から一人で暮らしていたよ」
「ウソっ、15才で一人暮らし?」
そりゃ、驚くだろうな。
おまけにあの兄に騙されて、しばらくは住む場所すら無くて、ホテルやインターネットカフェを転々としていたなんて言っても信用しないだろうからな。
「古賀くん、両親は?」
「オヤジは海外の出張先で強盗に遭って銃で撃たれて死んだよ。オフクロは事故で亡くなったし」
「え、そんな短い期間でご両親を亡くしたの?でも、兄弟とかいるでしょ?」
「アニキがいたけど、家はちょっと複雑な家庭でな。血の繋がってない兄弟だから、今は何してんだか」
兄の事は言えなかった。
兄の事を喋ったら、うっかり鴨志田の事まで喋りそうになってしまうからだ。
「そんな…じゃあ、お兄さんに助けてもらったりとか出来なかったの?」
この前はオレが質問攻めしたが、今日はオレが質問攻めにあってる。
「さぁ、何せお前と一緒で、オレが産まれて間もなくして離婚したから、アニキの顔すら知らない。
まぁ、戸籍上はアニキだけど、実際は血が繋がってないから親が亡くなった時点で赤の他人だよ」
ウソは言ってない。
オレと兄は血の繋がりは無いのだから。
「…」
ナツもどう言えばいいのか、迷っている。
そんなヤツに掛ける声なんてあるワケがない。
「ところで、お前と姉ちゃんは戸籍上、姉妹って事なのか?」
「うん…一応そうなってるけど。そうか、古賀くんもお兄さんと会ってないのか。何か私たち一緒だね、境遇が。
古賀くんは、お兄さんに会いたいとか思わないの?」
忌まわしい出来事が鮮明に蘇ってきた。
あの兄のせいで、母は廃人になり、鴨志田は消された。
…ぐっ、まただ!また呼吸が苦しくなった…
突如速まる心拍数、いてもたってもいられなくなり、じっと座っている事さえ、出来ない…
口元を手で覆い、なるべく鼻で呼吸しようとした。
だが、一向に治まらない。
「…はぁ、はぁ、はぁ~…ぐっ、はぁ、はぁ、苦しい…」
「どうしたの?古賀くん?」
ナツは驚き、どうしていいか分からず、狼狽えていた。
「すぐに…治る…はぁ、はぁ、ぐっ、くそっ!はぁ…」
ベンチで横になった。
ナツは過呼吸だと分かると、オレの背中をさすった。
「古賀くん、大丈夫?ゆっくり呼吸して、大丈夫だから。私ここにいるから安心して…」
オレは苦しいながらも、この言葉でナツとこれからも会っていきたい。
例えバレてもいい、その時はその時だ、と。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる