イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow

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第73話 扉の前での団結とお約束のやりとり

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 重厚な扉を前に立ち尽くす俺たち。緊張が走る中、弘美が突然「あっ!」と声を上げた。

「どうした?」

 俺が聞くと、彼女は何も言わず浅香に手を差し出す。

 浅香がそれを受け取るように自分の手を重ね、続いて友理奈もクスクス笑いながら手を伸ばした。

「え、これ…まさか、やるのか?」

 俺が戸惑っていると、浅香がにやりと笑って言う。

「当然でしょ、リーダーの臭いセリフ、期待してますよ!」

「えっ、またかよ…。いや、臭いセリフとか言うな!」

 俺が顔をしかめると、浅香が楽しげに追撃してくる。

「ほらほら、『全員無事に帰るぞ!』的なやつ!テンプレでいいんですよ、テンプレで!」

「まあ、銀治先輩のそういうの聞いてみたいかも」

 友理奈も乗ってきたが、同じクラスなんだが・・・

 弘美は純粋にキラキラした目で俺を見上げ、「お願いします!」と促してくる。

 観念して手を伸ばそうとしたその瞬間、横からスルメイラがそっと俺の手に自分の手を重ねてきた。

「ご主人様、私も仲間ですよ」

「おお…そうだな、スルメイラも大事な仲間だ!」

 その直後、浅香が吹き出しながら言う。

「ねえ、ちょっと待って。スルメイラじゃなくて『スルメイカ』っぽいんだけど!」

「おい、それは完全にアウトなやつだろ!」俺がすかさず突っ込むと、友理奈が「ほんと、アカンやつね」とため息混じりに言い、弘美はきょとんとしている。

「ご主人様、そのように呼ばれると少し悲しいです…」

 スルメイラがしょんぼりとした顔をするが、浅香は「冗談だってば!」と笑い飛ばした。

「いいか、真面目にやるぞ!」

 俺は気を取り直して手を重ねた。そして、深呼吸して言葉を口にする。

「皆の者、死地に臨みて生を求めよ!――生きて帰ることを誓うぞ!」

「おおっ!それ三国志とかで出そうなセリフっぽいじゃん!」

 浅香が笑いながら拍手する。

「よく思いついたわね」

 友理奈も感心した様子だが、多分三國志っぽいのを考えたら出てきだけだ。あくまで俺の中のに眠る中二病の力だ。だが黙っておこう

 弘美は「カッコいいです!」と本気で感激している。

 俺はむず痒さを感じつつ、改めて全員の顔を見渡した。

「さあ、行くぞ!」

 そして、全員で手を引き、扉を押し開けた。その向こうには未知の世界が待っている――俺たちの絆が試される場所だ。

 扉を開けると、そこには薄暗い空間が広がっていた。中心には、巨大な何かがぽつんと佇んでいる。

「……なんだ、あれ?」

 友理奈がポツリと呟いた。

 それは、毛むくじゃらの不思議な存在だった。丸いフォルム、大きな耳、つぶらな瞳――どう見ても着ぐるみだ。

「いやいや、あれ着ぐるみだろ!絶対人間が入ってる!」

 浅香が指を指して大声を上げる。

「こんなダンジョンで着ぐるみとか、それアカンやつだって!」

 弘美も慌てて声を重ねた。

 だが、次の瞬間、全員の視線がその背中に集中した。そこには一本の矢が深々と突き刺さっている。

「……いや、待て待て待て!何で矢が刺さってんだよ!」

 俺も思わず声を上げる。

 浅香が警戒した様子で言った。

「いやいや、まずいでしょこれ。着ぐるみじゃなくてガチの魔物だったらどうすんの?」

「いや、それより着ぐるみに矢が刺さってる状況がもう意味不明なんだが!」

 友理奈が少し考え込んだ。

「これって、誰かが狙ったってこと?でも、ここに人が来るのはおかしくない?」

「まさか、罠とかじゃないよな……?」

 俺が眉をひそめると、スルメイラが静かに前に出た。

「ご主人様、あの存在からは確かに殺気を感じますが、敵意というよりは、何か苦しんでいるような気配があります。」

「苦しんでいる?じゃあ、矢を抜いてあげるべきか……?」

 俺が思案していると、浅香が口を尖らせた。

「いやいや、ちょっと待ってよ!矢を抜いて暴れ出したらどうすんの?あんたら、そんなの映画とかで散々見たでしょ!絶対そっち系よ!」

 俺は浅香の言葉に苦笑しつつ、スルメイラの意見を尊重することにした。

「それでも、何もしないで見てるのは違う気がする。俺が近づいて矢を抜いてみる。みんなはその間、警戒しててくれ。」

 浅香が腕を組みながら不満げに言う。

「はいはい、カッコつけてどうぞ。でも、やばそうだったらすぐ引き返してよ?」

「まあ、年の功ってやつだな。」俺が軽口を叩くと、友理奈が即座に突っ込む。「あなたも私も同じ年でしょ!年上ぶるはどうなの!?」

 そのやり取りに浅香がクスクス笑いながら言った。「ほんと、スルメイラの次は友理奈も面倒見てるとか、あんたどんだけ世話焼きなの?」

 俺は苦笑しながらも、ゆっくりとその“着ぐるみ”に近づいた。次の瞬間、運命を左右する瞬間が訪れる――矢を抜くべきか、それとも戦うべきか。
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