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第41話 改善
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朝の検収(インスペクション)という名の「着衣確認」を終え、俺は逃げるようにカマドの前へ陣取った。
本日の朝食は、ラードで炒めた豆と芋、そして防災用のアルファ米。そして、この殺風景な食卓に彩りを添える「特別な素材」がある。
俺は拠点の隅に設置したプランターへ歩み寄った。
二週間前、ダメ元で導入したポータブル電源と植物育成用LED投光器。この暗い洞窟内で、無理やり光合成を強いる生存実験(テスト)の結果だ。
「……よし。今日はこれを間引くか」
俺は密集して育ち始めた大根の芽を、慎重に抜き取った。いわゆる間引き菜だ。
「あ、お手伝いします……。佐東さん、それ、お野菜……ですよね?」
「ああ。大根の間引き菜だ。本当は味噌汁にでも入れたいんだが、今は贅沢を言ってられないな。貴重なビタミン源だ」
ボア肉を煮込んだスープに、その青々とした葉を散らす。質素な食卓に薪がパチパチと爆ぜる音だけが響く中、雫ちゃんがおずおずと口を開いた。
「あの、佐東さん。……昨日の夜、寝言で『ミマ』さんってお名前を、何度も呼んでいらっしゃいました。……ミマさんって、佐東さんの、その……大切な、恋人の方ですか?」
スープを啜る俺の手が、ピタリと止まった。
一ヶ月の孤独と昨夜の「脳内緊急対策会議」。俺の精神的メモリが限界を超えて漏洩(リーク)していたらしい。俺は深く、重い息を吐き出した。
「……いや。三年前、事故で先立った俺の娘の名前だ。妻も、一緒だった」
「え……」
「飲酒運転のトラックだったよ。一瞬で、俺の人生の『品質保証』は瓦解した。……だから昨夜、君に『信じるしかない』と言われて、あいつら以下のクズにだけはなりたくないと……娘の名を呼びながら、君に手を出すようなエラーだけは起こしたくないと思ったんだ」
淡々と、過去のログを読み上げるように告げた。雫ちゃんは言葉を失い、俺を見つめていたが、やがて「すみません、そんなこと……」と涙声で俯いた。
「謝るな。俺の勝手な事情だ。……さて、感傷はここまでだ。雫ちゃん、昨夜の『衛生装備 Mk-1』のユーザーレビュー(試用評価)を聞かせてくれ。遠慮はいらない、それが次の仕様変更に繋がる」
俺は強引にエンジニアの顔に戻った。雫ちゃんは一瞬呆気に取られていたが、俺の真意を汲み取ったのか、恥ずかしそうに答えてくれた。
「……あの、すごく助かりました。でも、少し……歩くとガーゼが擦れて痛いのと、一度濡れるとずっと湿っている感じがして……」
「なるほど、不適合(バグ)の特定完了だ。医療用ガーゼは吸水性は良いが、逆戻りと摩擦抵抗に難がある。……というわけで、次期モデルを投入する」
俺はショッピング画面から、ある資材を調達(ポチ)した。
『工業用 不織布ワイパー(プロワイプ)』:400 PT
「それは……キッチンペーパーですか?」
「違う。精密機器の清掃やクリーンルームで使われるプロ仕様のワイパーだ。リントフリー(糸くずが出ない)で、表面の平滑性が極めて高い。これの毛細管現象を利用すれば、表面は常にドライに保てる。こいつを表面材(トップシート)に採用し、『衛生装備 Mk-2』として再設計(リデザイン)する」
俺は手際よく、ペットシートを三層サンドイッチにして、この工業用不織布で包み込み、防水テープで封止(シール)した。
「よし、Mk-2実装完了だ。あ、言っておくが、俺が手を貸すのは新品の組み立てまでだ。……流石に、一度でも履いたものに俺が触れるのは君も気が引けるだろうからな。洗濯後の装着は自分でやってもらう」
「……っ、はい! ありがとうございます、佐東さん。……そう言ってもらえると、すごく助かります」
雫ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、安堵したように微笑んだ。
そのまま彼女は、貴重なコップ一杯の水で、自分の下着を丁寧に洗い始めた。
「そういえば、佐東さん。ポイントで佐東さんも何か『魔法』とか取るんですよね? ……レベル20の特典の。もう、決めたんですか?」
俺は自分のステータス画面を見つめた。俺のような「後付け」の転移者にとって、魔法やスキルを得るチャンスは、このレベルアップ時の特典くらいしかない。
「……ああ。俺の役割は、君を守るための『盾』であり、この拠点の『エンジニア』だ。何が一番、この現場の稼働率を上げるか……慎重に選定(セレクト)する必要があるな」
俺がそう答えた時、雫ちゃんが洗い物をしながら「お水……あればいいんですけど」と小さく呟いた。
この直後、彼女の口から出た無意識の「呪文」が、この拠点の全仕様を書き換えることになるとは、俺たちはまだ知る由もなかった。
本日の朝食は、ラードで炒めた豆と芋、そして防災用のアルファ米。そして、この殺風景な食卓に彩りを添える「特別な素材」がある。
俺は拠点の隅に設置したプランターへ歩み寄った。
二週間前、ダメ元で導入したポータブル電源と植物育成用LED投光器。この暗い洞窟内で、無理やり光合成を強いる生存実験(テスト)の結果だ。
「……よし。今日はこれを間引くか」
俺は密集して育ち始めた大根の芽を、慎重に抜き取った。いわゆる間引き菜だ。
「あ、お手伝いします……。佐東さん、それ、お野菜……ですよね?」
「ああ。大根の間引き菜だ。本当は味噌汁にでも入れたいんだが、今は贅沢を言ってられないな。貴重なビタミン源だ」
ボア肉を煮込んだスープに、その青々とした葉を散らす。質素な食卓に薪がパチパチと爆ぜる音だけが響く中、雫ちゃんがおずおずと口を開いた。
「あの、佐東さん。……昨日の夜、寝言で『ミマ』さんってお名前を、何度も呼んでいらっしゃいました。……ミマさんって、佐東さんの、その……大切な、恋人の方ですか?」
スープを啜る俺の手が、ピタリと止まった。
一ヶ月の孤独と昨夜の「脳内緊急対策会議」。俺の精神的メモリが限界を超えて漏洩(リーク)していたらしい。俺は深く、重い息を吐き出した。
「……いや。三年前、事故で先立った俺の娘の名前だ。妻も、一緒だった」
「え……」
「飲酒運転のトラックだったよ。一瞬で、俺の人生の『品質保証』は瓦解した。……だから昨夜、君に『信じるしかない』と言われて、あいつら以下のクズにだけはなりたくないと……娘の名を呼びながら、君に手を出すようなエラーだけは起こしたくないと思ったんだ」
淡々と、過去のログを読み上げるように告げた。雫ちゃんは言葉を失い、俺を見つめていたが、やがて「すみません、そんなこと……」と涙声で俯いた。
「謝るな。俺の勝手な事情だ。……さて、感傷はここまでだ。雫ちゃん、昨夜の『衛生装備 Mk-1』のユーザーレビュー(試用評価)を聞かせてくれ。遠慮はいらない、それが次の仕様変更に繋がる」
俺は強引にエンジニアの顔に戻った。雫ちゃんは一瞬呆気に取られていたが、俺の真意を汲み取ったのか、恥ずかしそうに答えてくれた。
「……あの、すごく助かりました。でも、少し……歩くとガーゼが擦れて痛いのと、一度濡れるとずっと湿っている感じがして……」
「なるほど、不適合(バグ)の特定完了だ。医療用ガーゼは吸水性は良いが、逆戻りと摩擦抵抗に難がある。……というわけで、次期モデルを投入する」
俺はショッピング画面から、ある資材を調達(ポチ)した。
『工業用 不織布ワイパー(プロワイプ)』:400 PT
「それは……キッチンペーパーですか?」
「違う。精密機器の清掃やクリーンルームで使われるプロ仕様のワイパーだ。リントフリー(糸くずが出ない)で、表面の平滑性が極めて高い。これの毛細管現象を利用すれば、表面は常にドライに保てる。こいつを表面材(トップシート)に採用し、『衛生装備 Mk-2』として再設計(リデザイン)する」
俺は手際よく、ペットシートを三層サンドイッチにして、この工業用不織布で包み込み、防水テープで封止(シール)した。
「よし、Mk-2実装完了だ。あ、言っておくが、俺が手を貸すのは新品の組み立てまでだ。……流石に、一度でも履いたものに俺が触れるのは君も気が引けるだろうからな。洗濯後の装着は自分でやってもらう」
「……っ、はい! ありがとうございます、佐東さん。……そう言ってもらえると、すごく助かります」
雫ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、安堵したように微笑んだ。
そのまま彼女は、貴重なコップ一杯の水で、自分の下着を丁寧に洗い始めた。
「そういえば、佐東さん。ポイントで佐東さんも何か『魔法』とか取るんですよね? ……レベル20の特典の。もう、決めたんですか?」
俺は自分のステータス画面を見つめた。俺のような「後付け」の転移者にとって、魔法やスキルを得るチャンスは、このレベルアップ時の特典くらいしかない。
「……ああ。俺の役割は、君を守るための『盾』であり、この拠点の『エンジニア』だ。何が一番、この現場の稼働率を上げるか……慎重に選定(セレクト)する必要があるな」
俺がそう答えた時、雫ちゃんが洗い物をしながら「お水……あればいいんですけど」と小さく呟いた。
この直後、彼女の口から出た無意識の「呪文」が、この拠点の全仕様を書き換えることになるとは、俺たちはまだ知る由もなかった。
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