盾の間違った使い方

KeyBow

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第42話 聖女の泉 ―― 股間の惨事と二度の奇跡

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 拠点の隅で、俺は空になった二十リットル入りのポリタンクを軽く揺らした。チャプ、と頼りない音が一度したきりで、中身はもう空だ。
「また空か。一回百ポイント(100P)、他に飲める水の入手方法について他に選択肢がないからって、この工業用洗浄水をリピートし続けるのはコスト的にキツいな」
 そんな俺のボヤキを聞いて、空のタンクを見つめていた雫ちゃんが、申し訳なさそうに、何かを確認するように呟いた。
「お水、あればいいのですが……。なんだか、不思議と頭の中に浮かんでくる言葉があるんです。属性魔法の初級……『クリエイト・ホーリー・ルミナス』……?」
 彼女がその言葉を口にした、その瞬間だった。
「――っ、きゃっ!?」
「うおっ!?」
 雫ちゃんの指先が白銀の光を放ったかと思うと、そこから清冽な水が勢いよく噴き出した。だが、制御不能なその第一射は、たまたまそこにあったバケツを通り越し、俺の股間を目がけて一直線に直撃した。
「冷たっ……いや、熱くもない……!?」
 ドバシャアアアッ!
 ズボンを容赦なく濡らす衝撃に、俺は咄嗟に足元のバケツをひったくると、雫ちゃんの指先から噴き出す水流の軌道へ強引に割り込ませた。
「雫ちゃん、そのまま動くな! こっちだ、こっちに溜めるぞ!」
「は、はいっ! ……わ、止まりました!」
 バケツがちょうど縁まで満たされたところで、光と水流はピタリと消失した。
「…………」
「……あ、あの、佐東さん……ごめんなさい……わざとじゃなくて、その……!」
 顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうな雫ちゃん。俺はびしょ濡れのズボンを見下ろして、苦笑いした。
「……雫ちゃん。今の俺の見た目、どう思う? 客観的に見てさ」
「えっ……あ、その……」
「……どう見ても、俺がお漏らししちゃったみたいに見えるよな?」
「……っ、ご、ごめんなさい!!」
「いや、冗談だ、気にするな。……それより、これ、なんだか気持ちいいな。ちょっと手を洗ってみるか」
 俺はコップでバケツの水をすくい、汚れた自分の手にざっとかけてみた。すると、しつこい油汚れがあっさり落ちるだけでなく、心まで洗われるような清々しい感覚が走った。
「お、すごいな……。タライに少し入れて、このタオルも洗ってみるか」
 泥汚れのひどかったタオルを浸すと、変色がみるみる取れ、まるで新品のような真っ白さに戻っていく。おまけに、森の朝のような澄んだ匂いまでしてきた。
「す、すごいな……。これ、雫ちゃんが出したってことは……聖なる水、聖水か? 魔法だよな?」
「よ、よくわかりませんが、さっき頭に浮かんだ『クリエイト・ホーリー・ルミナス』って……わわっ、またっ!?」
 ――再び、指先から放水。
 俺は慌てて二杯目のバケツを差し出し、それを満タンにする。
「雫ちゃん、今、魔力の消費とかってどうなってる?」
「え、どうすればよいのですか?」
「ステータスを見て、魔力を確認だな。数値が減っていたら、魔力を消費して水を作り出していると分かる」

「あ! ステータス画面にある魔力の項目ですね!えっとさっきの2回分で、数値が2減っていました!」
「なるほど。一回でバケツ一杯分、燃費も良さそうだな」
 俺はバケツの中の輝く水を見つめ、腕を組んだ。
「いいか、雫ちゃん。この水、飲めるかどうかはまだよく分からない。だから飲み水は、今日まで通りポイントでポチる。……でも、生活用水を全部これに切り替えれば、拠点の生活の質は劇的に上がるぞ」
「……はい! 私、頑張ります!」
「ああ。まずは今日一日、この水で生活してみよう。洗濯も、身体を拭くのも全部だ。飲むのは、少しずつ試してから、そうだな飲むのは明日以降だな。さて、俺もレベル20の特典を選ばないとな」
 股間を濡らしたおっさんと、少し自信をつけた聖女。
 二人のサバイバル生活に、「清潔」という名の革命が起きた瞬間だった。


 注)スキル: 属性魔法(初級) ―― 呪文「クリエイト・ホーリー・ルミナス」
 約バケツ一杯で一定の魔力を消費。
 聖水を生成する、聖女専用の初級聖属性魔法

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