盾の間違った使い方

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第44話 仕様の発見

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 湯浴み上がり。
 聖水を温めたお湯で身体を温め、雫ちゃんと、一ヶ月分の汚れを落とした俺は、カマドの火を囲んでようやく人心地ついていた。
 清潔な服と、温かい飲み物。一息ついたところで、俺たちは今後の生存戦略を練るためのオリエンテーションを開始した。
「さて。雫ちゃん、さっぱりしたところで、改めてお互いの『手札』を確認しよう」
 俺はノートを広げ、まずは自分の魔法習得の経緯から説明を始めた。
「俺の魔法だが、最初にレベル10で習得したのは『聖属性(初級)』だ。この世界には医者も薬もない。治療手段がないと死に繋がるからな。君の腕を治した、あれだ」
「あっ、はい。あの時は驚きました。……たぶん私、それの『中級』が使えます」
「だろうね」
 薄々感づいてはいたが、やはりか。俺は苦笑しながら頷いた。
「被ったけど、無駄じゃない。戦闘中に俺が怪我をした時、君がすぐに治療できるとは限らないからな。止血程度なら俺の初級で可能だ。そうやって戦闘を継続し、終わった後に君にしっかり治してもらう。数人のパーティーなら分業できることが、二人だけだと無理なんだ。だから、この重複は保険(リスクヘッジ)として悪くない」
「はい。私も、佐東さんと居るのが一番安心です」
 雫ちゃんが素直に頷くのを見て、俺は次の議題、レベル20のボーナスについて切り出した。
「で、今回のレベル20の魔法だ。最初は『火属性』にして、ファイアボールとかで攻撃手段を確保しようと思ったんだ。どう思う?」
「そうですね。今のところ遠距離からの攻撃手段がないですし、魔法で攻撃できるのは強みだと思います。良い選択だと思いますけど・・・」
「と思うだろ? でも、そこのボアを見てくれ」
 俺はスチールラックに吊るされた、巨大なブルータルボアの死骸を指差した。
「どうやって倒したと思う?」
「あれ? ……よく見ると、焦げ跡があります。燃えた感じに見えますね。……でも、レベル20になったのって、あのボアを倒してからって言ってましたよね?他に火魔法を使う手立てがあるのですか?」
「ふふふ、代用できるんだよ。ほら、そこに発電機の燃料があるだろう?」
「あっ! ……火炎瓶を作ったんですね!」
「正解だ。火による攻撃は、道具と工夫で代用できる。だから今回は見送った。……で、俺は『土属性』に決めたんだ。今のところ火は次だ」
「なるほど!」
「ああ。取ってみないと詳細は分からなかったが、攻撃魔法もある。だがそれよりも、代用の効かない使い方を考えていたんだ。それは先ほどみたように足場とすることで、なんとか使えそうだ。壁や地面から柱状に土を生成できれば立派な『足場』だからな」
「足場、確かに代用は厳しいですね。地面から少し上がるなら脚立で可能ですけど、高い位置の壁面を走ったりするのは無理ですもんね」
「その通り。品証マンとしては、『代替不可の機能(コア・バリュー)』を優先したい。……というわけで、土魔法に決定したんだ」
 俺の説明に、雫ちゃんは尊敬の眼差しを向けてくれた。
 こうして魔法取得の話を終えた俺は、彼女のギフトについて尋ねてみた。
「ところで、雫ちゃんのギフトの方は、聖水を出すの以外にどんなのがあるのかな?」
 雫ちゃんは空中に浮かぶ自分の画面をじっと見つめ、首をかしげた。
「うーん、えっと……魔法は『聖魔法(中)』としか……。あ、でも、ギフトの説明欄の下の方に、何か更に開けそうなのがありますね……」
 彼女がその小さなアイコンをタップした瞬間、驚いたように声を上げた。
「あっ? ……『アイテムボックス』というのがあると書かれていますよ。ギフトの付属能力みたいです」
「……アイテムボックス?」
 その言葉に、俺は眉をひそめた。そんな便利な機能があるのか。
 ……待てよ。なら俺のギフト『異世界ショッピング』はどうなんだ? 今まで商品リストを見るのに夢中で、ギフトそのものの「詳細」なんて確認したことがなかったかもしれない。
「……ちょっと待ってくれよ」
 俺は慌てて自分の画面を開き、『異世界ショッピング』の項目をタップした。すると、ウィンドウの下部に、今まで気づかなかった小さなタブがあった。
 そこを開くと――
【付属機能:インベントリ】
「……あった」
 俺は愕然とした。一ヶ月間。俺が重い盾を背負い、水を運んでいたあの苦労は、単なる俺の確認不足(ヒューマンエラー)だったのか。
「……雫ちゃん、その『アイテムボックス』、説明文はどうなってる?」
「はい、えっと……【容量:無限】……って書いてあります」
「…………」
 俺は自分の画面に表示された項目を開いた。そこには【最大容量150kg/四畳半空間】という数字。
 ​「無限か。俺は150kg・・・劣化版だな」
 ​ 俺がガックリと肩を落としていると、雫ちゃんが何かを読み込み、ハッと声を上げた。
 ​「あ、でも佐東さん! 私の方、注意書きがあります。『※ただし、生きた状態の生物の収納は不可』……生きている状態だと入れないみたいです」
 ​「……『生きた状態』はダメ? まあ、普通はそうか。死体なら『モノ』として入るけど、生きていると弾かれるか、中で死ぬかだな。……ん?」
 ​ 俺は自分の『インベントリ』の詳細を、目を皿のようにして確認した。そこには、小さな文字で驚くべき一文が記されていた。
 ​【インベントリ仕様:内部空間(四畳半相当)。術者に触れている時に限り、他の生きた状態の生物も一緒に収納が可能】
 ​「……あっ! 『他の生きた状態の生物も収納が可能』だ。……マジか」
 ​ 俺の声に、雫ちゃんが目を丸くし、すぐに真剣な表情で俺の顔を覗き込んだ。
 ​「佐東さん……それって、私のアイテムボックスとは根本的に使い道が違いますよね」

「……使い道?」
「はい。だって、生き物が入れるってことは……いざとなれば、そのインベントリを『テント』代わりに使えるのではないですか?」
「――っ!」
 その言葉に、俺は戦慄した。
 四畳半。150kg。倉庫としては狭いが……「絶対安全な個室(シェルター)」として見れば?
「……なるほど。『術者に触れている時に限り』……つまり、俺が君の手を掴んで念じれば、二人でこの空間に逃げ込めるってことか」
「は、はい……! 敵に襲われても、すぐに消えて隠れられるってことですよね!」
「……凄いな、雫ちゃん。俺はスペックの数字に腐っていたが、本質的な運用(ユースケース)を見落としていた。……これは『荷物入れ』じゃない。俺と君を守るための、最強の『パニックルーム』だ」
「えへへ。佐東さんのお役に立てたようで良かったです」
「役に立てたなんて次元じゃないよ。手詰まりに思えていたここからの脱出がさ、現実味を帯びてきたんだよ!俺一人ならおそらくあと半年は気がつかなかったと思うんだ。有り難う雫ちゃんのおかげだよ!」
 俺の150kgという制限が、急に頼もしい「定員制限」に見えてきた。これなら、どんな強敵が現れても、最悪の場合「逃げる」という選択肢が確実に取れる。
 この発見で気分を良くした俺は、最後の検証、「飲用テスト」を行い、聖水が「高純度の燃料」として体力や活力を回復させることを確認した。また、飲んだ前後で一定時間魔力の回復速度が増していた。どれくらいの時間なのかの検証はこれからだが、後は明日になり、腹を下していなければ飲料にも適すると確定だ。
 水は自給。荷物は無限収納。緊急時は二人で亜空間シェルターへ。そして三次元機動の土魔法。
 不自由だったサバイバルは、この夜、明確に「攻略」へと進化した。
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