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第57話 見当違いの射撃と氷の幾何学
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リザードマンとの連戦を終え、俺たちは拠点への帰路についていた。
アイテムボックスには食料となる肉を十分確保できた。
今日の成果は十分すぎるほどだ。
「よし、このまま拠点に戻って……」
角を曲がった瞬間だった。
ドシッ、ドシッ、という重い足音が響き、通路の前方を塞ぐ巨体が現れた。
「ブモォォォッ!!」
豚の顔に、丸太のような腕。粗雑な皮鎧を身に着け、手には錆びた鉄斧を持っている。
オークソルジャーだ。
オークの上位種であり、パワーだけならリザードマンをも凌ぐ。
「……ツイてないな。帰りがけに遭遇とは」
俺は雫ちゃんを背に庇い、盾を構えた。
だが、後ろから服の裾をクイクイと引っ張られた。
「……佐東さん。あの、お願いがあるんですけど」
「ん? どうした?」
「私に、やらせてもらえませんか? さっきの失敗の……リベンジがしたいんです」
彼女の瞳は、怯えではなく、静かな闘志と、何かを確認しようとする「実験」の色を帯びていた。
「……分かった。だが、無理はするなよ。俺がいつでもカバーに入れる位置にいる」
「はい!」
雫ちゃんが前に出る。
オークが彼女に気づき、鼻息荒く突進の構えを取った。
「ブヒィィィッ!!」
オークが走り出す。
真正面からの突撃。単純だが、だからこそ速くて重い。
雫ちゃんは杖を構える。狙うはオークの顔面か、足か。
「アイスボール!!」
彼女が魔法を放った。
だが――俺は目を疑った。
彼女が放った氷の球は、オークのいる正面ではなく、明後日の方向(右斜め前)へと飛んでいったのだ。
(――ッ!? 外した!?)
焦りか? 手元が狂ったのか?
俺が叫ぼうと踏み出した、その瞬間だった。
カァンッ!!
乾いた音が響く。
右側の壁に激突した氷弾は、砕けることなく、ビリヤードのように鋭角に跳ね返った。
その軌道は、俺の予想を裏切り、通路の天井を支える「石の支柱」へと向かう。
キンッ!!
二度目の反射音。
支柱に当たった氷弾は、さらに角度を変え、突進してくるオークの真横へと加速した。
「ブヒッ……!?」
前しか見ていなかったオークは、完全に反応できなかった。
視界の外、死角となる真横から飛来した氷の塊が、防具のない側頭部(こめかみ)に深々とめり込む。
ズドンッ!!
鈍い衝撃音と共に、オークの脳が揺さぶられた。
巨体がぐらりと傾き、走っていた勢いのまま足をもつれさせ、無様に地面へと転がる。
白目を剥いて痙攣している。一撃で脳震盪を起こしたのだ。
「……え?」
俺は開いた口が塞がらなかった。
偶然? いや、壁と支柱、二回の反射を経て、動いている標的の急所に当てるなんて、ビリヤードの達人でも不可能だ。
「……よし。計算通りです」
静寂の中、雫ちゃんの小さな呟きが聞こえた。
彼女は倒れたオークに近づくことなく、無防備な顔面に、冷徹に魔法を放つ。
「ウォーターボール」
安全な距離を保ち、水の塊でトドメを刺す。
顔面をとらえた水の塊は、頭部を包む。ゴボッ、ゴボッと空気が漏れでる。
オークはビクンと一度大きく痙攣し、そのまま動かなくなった。気絶していたからか、もがくこともなく窒息死した。いや、溺死か?
アンデッドではないため、死体は光になって消えたりしない。
生々しい質感を持ったまま、巨大な豚の死骸がそこに転がっている。
「……雫ちゃん、今のは……」
「あ、はい。最初は普通に狙おうと思ったんですけど、オークの兜が硬そうだったので」
彼女は事もなげに言った。
「壁と柱の材質なら、氷弾は砕けずに反発すると思いました。あとは入射角と反射角を計算して……オークの速度も考慮して、あそこの柱を使えば、一番装甲の薄い横顔に届くかなって」
「計算して……って、一瞬でか?」
「はい。私、こういう計算は得意なんです。パズルゲームみたいで」
彼女は「えへへ」と照れくさそうに笑った。
俺は戦慄した。
この子は、ただの頭でっかちな高偏差値じゃない。空間把握能力と演算能力の両方が、ずば抜けて高い。
一見デタラメに見えたあの一撃は、彼女の脳内で瞬時に導き出された「必然の解」だったのだ。
「……すごいな。君は天才だよ」
「そ、そんなことないです! 佐東さんが守ってくれるから、落ち着いて計算できただけです!」
謙遜する彼女の頭を、俺はガシガシと撫でた。
「おっちょこちょい」なんて前言撤回だ。
彼女は、俺なんかよりよっぽど強力な魔法使いになる素質を秘めている。
「よし、帰ろう。今日はリザードマンに加えて、豚肉(オーク)まで手に入った」
「はいっ! 晩ご飯が楽しみです!」
俺たちは巨大なオークの死体もアイテムボックスに収納し、夕食を楽しみに拠点へと足取り軽く戻っていった。
だが、この時の俺たちはまだ知らなかった。
明日、この「反射(リコシェ)」の技術と、俺の「盾」が、生死を分ける鍵になることを。
アイテムボックスには食料となる肉を十分確保できた。
今日の成果は十分すぎるほどだ。
「よし、このまま拠点に戻って……」
角を曲がった瞬間だった。
ドシッ、ドシッ、という重い足音が響き、通路の前方を塞ぐ巨体が現れた。
「ブモォォォッ!!」
豚の顔に、丸太のような腕。粗雑な皮鎧を身に着け、手には錆びた鉄斧を持っている。
オークソルジャーだ。
オークの上位種であり、パワーだけならリザードマンをも凌ぐ。
「……ツイてないな。帰りがけに遭遇とは」
俺は雫ちゃんを背に庇い、盾を構えた。
だが、後ろから服の裾をクイクイと引っ張られた。
「……佐東さん。あの、お願いがあるんですけど」
「ん? どうした?」
「私に、やらせてもらえませんか? さっきの失敗の……リベンジがしたいんです」
彼女の瞳は、怯えではなく、静かな闘志と、何かを確認しようとする「実験」の色を帯びていた。
「……分かった。だが、無理はするなよ。俺がいつでもカバーに入れる位置にいる」
「はい!」
雫ちゃんが前に出る。
オークが彼女に気づき、鼻息荒く突進の構えを取った。
「ブヒィィィッ!!」
オークが走り出す。
真正面からの突撃。単純だが、だからこそ速くて重い。
雫ちゃんは杖を構える。狙うはオークの顔面か、足か。
「アイスボール!!」
彼女が魔法を放った。
だが――俺は目を疑った。
彼女が放った氷の球は、オークのいる正面ではなく、明後日の方向(右斜め前)へと飛んでいったのだ。
(――ッ!? 外した!?)
焦りか? 手元が狂ったのか?
俺が叫ぼうと踏み出した、その瞬間だった。
カァンッ!!
乾いた音が響く。
右側の壁に激突した氷弾は、砕けることなく、ビリヤードのように鋭角に跳ね返った。
その軌道は、俺の予想を裏切り、通路の天井を支える「石の支柱」へと向かう。
キンッ!!
二度目の反射音。
支柱に当たった氷弾は、さらに角度を変え、突進してくるオークの真横へと加速した。
「ブヒッ……!?」
前しか見ていなかったオークは、完全に反応できなかった。
視界の外、死角となる真横から飛来した氷の塊が、防具のない側頭部(こめかみ)に深々とめり込む。
ズドンッ!!
鈍い衝撃音と共に、オークの脳が揺さぶられた。
巨体がぐらりと傾き、走っていた勢いのまま足をもつれさせ、無様に地面へと転がる。
白目を剥いて痙攣している。一撃で脳震盪を起こしたのだ。
「……え?」
俺は開いた口が塞がらなかった。
偶然? いや、壁と支柱、二回の反射を経て、動いている標的の急所に当てるなんて、ビリヤードの達人でも不可能だ。
「……よし。計算通りです」
静寂の中、雫ちゃんの小さな呟きが聞こえた。
彼女は倒れたオークに近づくことなく、無防備な顔面に、冷徹に魔法を放つ。
「ウォーターボール」
安全な距離を保ち、水の塊でトドメを刺す。
顔面をとらえた水の塊は、頭部を包む。ゴボッ、ゴボッと空気が漏れでる。
オークはビクンと一度大きく痙攣し、そのまま動かなくなった。気絶していたからか、もがくこともなく窒息死した。いや、溺死か?
アンデッドではないため、死体は光になって消えたりしない。
生々しい質感を持ったまま、巨大な豚の死骸がそこに転がっている。
「……雫ちゃん、今のは……」
「あ、はい。最初は普通に狙おうと思ったんですけど、オークの兜が硬そうだったので」
彼女は事もなげに言った。
「壁と柱の材質なら、氷弾は砕けずに反発すると思いました。あとは入射角と反射角を計算して……オークの速度も考慮して、あそこの柱を使えば、一番装甲の薄い横顔に届くかなって」
「計算して……って、一瞬でか?」
「はい。私、こういう計算は得意なんです。パズルゲームみたいで」
彼女は「えへへ」と照れくさそうに笑った。
俺は戦慄した。
この子は、ただの頭でっかちな高偏差値じゃない。空間把握能力と演算能力の両方が、ずば抜けて高い。
一見デタラメに見えたあの一撃は、彼女の脳内で瞬時に導き出された「必然の解」だったのだ。
「……すごいな。君は天才だよ」
「そ、そんなことないです! 佐東さんが守ってくれるから、落ち着いて計算できただけです!」
謙遜する彼女の頭を、俺はガシガシと撫でた。
「おっちょこちょい」なんて前言撤回だ。
彼女は、俺なんかよりよっぽど強力な魔法使いになる素質を秘めている。
「よし、帰ろう。今日はリザードマンに加えて、豚肉(オーク)まで手に入った」
「はいっ! 晩ご飯が楽しみです!」
俺たちは巨大なオークの死体もアイテムボックスに収納し、夕食を楽しみに拠点へと足取り軽く戻っていった。
だが、この時の俺たちはまだ知らなかった。
明日、この「反射(リコシェ)」の技術と、俺の「盾」が、生死を分ける鍵になることを。
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