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第58話 狭路の挟撃と背中合わせの信頼
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オークを倒した翌日。
食事を摂り、身支度を整えた俺たちは、再び薄暗いダンジョンの通路に立っていた。
昨日の戦果に慢心せず、慎重に奥へと進む。
「……ッ! 止まれ」
俺は声を極限まで絞り、足を止めた。
通路を抜けた先、広い空間に「それ」はいた。
身長3メートル近い巨躯。猛牛の頭部に、身の丈ほどもある巨大な戦斧。
俺が恐怖し、避けていた相手・・・ミノタウロスだ。
くそっ、俺が見たあの時の個体で間違いない。
奴は広い部屋の中央で、こちらに背を向ける形で立っており、まだこちらには気づいていない。
「……まずい。あんなの、今の俺たちじゃ無理だ」
「は、はい……威圧感が凄いです……」
俺たちは目配せし、音を立てずに撤退することを決めた。
勇気ある撤退だ。俺たちは抜き足差し足で、狭い通路を引き返そうとした。
だが。
先頭を切って戻ろうとした雫ちゃんが、角を曲がった瞬間だった。
「――っ!?」
「シャァァッ!?」
退路となる通路から、巡回していたリザードマンが現れ、鉢合わせる形になったのだ。
予期せぬ遭遇。
雫ちゃんが息を呑み、リザードマンが驚きと威嚇の声を上げた。
「ブモォォォッ!?」
その声に、部屋にいたミノタウロスが反応した。
重い足音が、地響きと共に通路へ向かってくる。
挟まれた!
「くそっ、雫! こっちへ来い! 俺が背中の盾で……」
俺は彼女を庇おうとした。
だが、彼女は下がらなかった。
振り返り、杖を構え、俺に向かって力強く叫んだのだ。
「佐東さんはミノタウロスをお願いします! こっちは任せてください!」
「なっ、一人でやる気か!? 危険だ!」
「大丈夫です! 私だって、いつまでも守られているだけじゃ嫌なんです!」
「……ッ!」
彼女の瞳に迷いはなかった。
俺は瞬時に覚悟を決める。今の彼女ならやれる。
「分かった! トカゲは任せたぞ!」
俺は踵を返し、迫りくるミノタウロスへと向き直った。
奴は広い部屋から、俺たちのいる狭い通路へ入ってこようとしている。
……好都合だ。
「来いよ牛野郎! そこじゃ自慢の斧は満足に振るえまい!」
俺はあえて広い場所へは出ず、「狭い通路」の中で仁王立ちした。
この通路、天井こそ10メートル以上ありそうで高いが、横幅は人二人が並んで歩ける程度しかない。
ミノタウロスが吼え、巨大な戦斧を横薙ぎに振るおうとする。
ガギィンッ!!
斧の刃が通路の左右の壁に激突し、火花を散らす。
やはりだ。巨体と長大な武器は、この閉所では枷(かせ)になる。
横薙ぎが封じられたミノタウロスは、怒りに任せて斧を頭上高く振りかぶり、縦方向の「唐竹割り」に切り替えた。
「ブモォォォッ!!」
ヒュンッ!!
凄まじい質量の刃が、俺の頭上から降り注ぐ。
まともに受ければ、いかに頑丈な盾でも俺の身体ごと潰される。
天井の高いこの場所なら、縦に繰り出される攻撃は通るが、俺は逃げない。
左手の『鈍撃用ラウンドシールド』を斜めに構え、衝突の瞬間に手首を返した。
「――『受け流し(パリィ)』ッ!」
キィィィンッ!!
甲高い金属音と共に、斧の軌道がわずかに右へと逸れる。
この盾は、この世界の熟練の防具職人が鍛え上げた業物。その強度は折り紙付きだ。
盾の曲面と硬度を信じ、力を真正面から受けず、側面へ滑らせる!
ドゴォンッ!!
逸らされた斧が、俺のすぐ横の石床を粉砕した。
冷や汗が出る威力だが、直撃さえしなければ俺の勝ちだ。
俺は激しい攻防の合間に、チラリと背後を確認した。
「見ててください、佐東さん……!」
雫ちゃんは、迫りくるリザードマンに対し、一歩も引かずに魔法を放った。
「アイスボール・ラピッド!!」
バスンッ! バスンッ! バスンッ!
彼女が放ったのは、三発の速射氷弾だった。
一発目がリザードマンの槍を弾き、二発目が体勢を崩させ、三発目が腹部に直撃して吹き飛ばす。
見事な連続攻撃だ。
だが、リザードマンはまだ息がある。壁際で体勢を立て直そうとしていた。
雫ちゃんは杖を構え直し、深く息を吸い込んだ。
まとう魔力の質が変わる。
それは、ただ名前を呼ぶだけの初級魔法ではない。明確な殺傷能力を持つ、一つ上の領域。
「――我が敵を穿て、」
彼女の口から、凛とした詠唱が紡がれる。
杖の先に、冷気が鋭く収束していく。
「アイスランス!!」
ドシュッ!!
放たれたのは球体ではない。
身の丈ほどもある、巨大な氷の槍。
それが一直線に奔(はし)り、リザードマンの胸部を深々と串刺しにすると、勢いは止まらず、そのまま壁に縫い付けた。
「ギ、ャ……」
リザードマンはビクンビクンと痙攣すると、ほどなくしてぐらりと首を垂れ、力尽きた。
初級魔法とは桁違いの威力。
中級魔法を使いこなした彼女の姿に、俺は戦慄と頼もしさを覚えた。
(……やるな次は俺だ!)
俺はニヤリと笑い、視線を前の巨獣へと戻した。
背後の心配はもういらない。
これで心置きなく、目の前の「特大ステーキ」に集中できる。
「ブモォォォッ!!」
斧が思うように当たらないことに苛立ち、ミノタウロスが咆哮を上げる。
奴は強引に身体を押し込みながら、無理やり前進してきた。
「さあ、こっちもメインディッシュと行こうか!」
俺は職人が持てる技の全てを注ぎ込んだ盾を信じ、巨獣の突進を迎え撃つ!
食事を摂り、身支度を整えた俺たちは、再び薄暗いダンジョンの通路に立っていた。
昨日の戦果に慢心せず、慎重に奥へと進む。
「……ッ! 止まれ」
俺は声を極限まで絞り、足を止めた。
通路を抜けた先、広い空間に「それ」はいた。
身長3メートル近い巨躯。猛牛の頭部に、身の丈ほどもある巨大な戦斧。
俺が恐怖し、避けていた相手・・・ミノタウロスだ。
くそっ、俺が見たあの時の個体で間違いない。
奴は広い部屋の中央で、こちらに背を向ける形で立っており、まだこちらには気づいていない。
「……まずい。あんなの、今の俺たちじゃ無理だ」
「は、はい……威圧感が凄いです……」
俺たちは目配せし、音を立てずに撤退することを決めた。
勇気ある撤退だ。俺たちは抜き足差し足で、狭い通路を引き返そうとした。
だが。
先頭を切って戻ろうとした雫ちゃんが、角を曲がった瞬間だった。
「――っ!?」
「シャァァッ!?」
退路となる通路から、巡回していたリザードマンが現れ、鉢合わせる形になったのだ。
予期せぬ遭遇。
雫ちゃんが息を呑み、リザードマンが驚きと威嚇の声を上げた。
「ブモォォォッ!?」
その声に、部屋にいたミノタウロスが反応した。
重い足音が、地響きと共に通路へ向かってくる。
挟まれた!
「くそっ、雫! こっちへ来い! 俺が背中の盾で……」
俺は彼女を庇おうとした。
だが、彼女は下がらなかった。
振り返り、杖を構え、俺に向かって力強く叫んだのだ。
「佐東さんはミノタウロスをお願いします! こっちは任せてください!」
「なっ、一人でやる気か!? 危険だ!」
「大丈夫です! 私だって、いつまでも守られているだけじゃ嫌なんです!」
「……ッ!」
彼女の瞳に迷いはなかった。
俺は瞬時に覚悟を決める。今の彼女ならやれる。
「分かった! トカゲは任せたぞ!」
俺は踵を返し、迫りくるミノタウロスへと向き直った。
奴は広い部屋から、俺たちのいる狭い通路へ入ってこようとしている。
……好都合だ。
「来いよ牛野郎! そこじゃ自慢の斧は満足に振るえまい!」
俺はあえて広い場所へは出ず、「狭い通路」の中で仁王立ちした。
この通路、天井こそ10メートル以上ありそうで高いが、横幅は人二人が並んで歩ける程度しかない。
ミノタウロスが吼え、巨大な戦斧を横薙ぎに振るおうとする。
ガギィンッ!!
斧の刃が通路の左右の壁に激突し、火花を散らす。
やはりだ。巨体と長大な武器は、この閉所では枷(かせ)になる。
横薙ぎが封じられたミノタウロスは、怒りに任せて斧を頭上高く振りかぶり、縦方向の「唐竹割り」に切り替えた。
「ブモォォォッ!!」
ヒュンッ!!
凄まじい質量の刃が、俺の頭上から降り注ぐ。
まともに受ければ、いかに頑丈な盾でも俺の身体ごと潰される。
天井の高いこの場所なら、縦に繰り出される攻撃は通るが、俺は逃げない。
左手の『鈍撃用ラウンドシールド』を斜めに構え、衝突の瞬間に手首を返した。
「――『受け流し(パリィ)』ッ!」
キィィィンッ!!
甲高い金属音と共に、斧の軌道がわずかに右へと逸れる。
この盾は、この世界の熟練の防具職人が鍛え上げた業物。その強度は折り紙付きだ。
盾の曲面と硬度を信じ、力を真正面から受けず、側面へ滑らせる!
ドゴォンッ!!
逸らされた斧が、俺のすぐ横の石床を粉砕した。
冷や汗が出る威力だが、直撃さえしなければ俺の勝ちだ。
俺は激しい攻防の合間に、チラリと背後を確認した。
「見ててください、佐東さん……!」
雫ちゃんは、迫りくるリザードマンに対し、一歩も引かずに魔法を放った。
「アイスボール・ラピッド!!」
バスンッ! バスンッ! バスンッ!
彼女が放ったのは、三発の速射氷弾だった。
一発目がリザードマンの槍を弾き、二発目が体勢を崩させ、三発目が腹部に直撃して吹き飛ばす。
見事な連続攻撃だ。
だが、リザードマンはまだ息がある。壁際で体勢を立て直そうとしていた。
雫ちゃんは杖を構え直し、深く息を吸い込んだ。
まとう魔力の質が変わる。
それは、ただ名前を呼ぶだけの初級魔法ではない。明確な殺傷能力を持つ、一つ上の領域。
「――我が敵を穿て、」
彼女の口から、凛とした詠唱が紡がれる。
杖の先に、冷気が鋭く収束していく。
「アイスランス!!」
ドシュッ!!
放たれたのは球体ではない。
身の丈ほどもある、巨大な氷の槍。
それが一直線に奔(はし)り、リザードマンの胸部を深々と串刺しにすると、勢いは止まらず、そのまま壁に縫い付けた。
「ギ、ャ……」
リザードマンはビクンビクンと痙攣すると、ほどなくしてぐらりと首を垂れ、力尽きた。
初級魔法とは桁違いの威力。
中級魔法を使いこなした彼女の姿に、俺は戦慄と頼もしさを覚えた。
(……やるな次は俺だ!)
俺はニヤリと笑い、視線を前の巨獣へと戻した。
背後の心配はもういらない。
これで心置きなく、目の前の「特大ステーキ」に集中できる。
「ブモォォォッ!!」
斧が思うように当たらないことに苛立ち、ミノタウロスが咆哮を上げる。
奴は強引に身体を押し込みながら、無理やり前進してきた。
「さあ、こっちもメインディッシュと行こうか!」
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