盾の間違った使い方

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第59話 土塊の階段と空落ちる流星

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 雫はリザードマンが絶命したのを確認すると、慣れた手つきでその死骸をアイテムボックスに収納した。
 そして、すぐさま反転し、俺の背中を追って走り出した。
「佐東さんッ!」
 彼女が駆けつけた時、俺はまさにミノタウロスとの死闘の真っ只中にいた。
 場所は、この階層ダンジョン最下層の最奥――というか中央?未探索エリア。
 ここを抜ければ次の階層への扉がある-と思っている。まさにこのダンジョンを脱出出来るか否かの正念場だ。
 見たことがない場所だから、いつの間にか見探索エリアに迷い込み、ミノタウロスが普段いるところに来てしまった。
だからインベントリに逃げ込む選択肢をとれなかった。
 ガギィンッ!! キィィンッ!!
 巨大な戦斧が火花を散らす。
 俺は職人製のラウンドシールドを巧みに操り、致死の一撃をわずかな角度で受け流し続けていた。
 その攻防は、傍から見れば神業の領域。一歩間違えば挽き肉になるという極限の緊張感が、俺の感覚を研ぎ澄ませていた。
「……背中は任せたぞ、雫!」
「はいッ! 周囲警戒、よしッ!」
 俺は彼女の気配を感じ取り、ニヤリと笑った。
 背後の憂いはない。これで攻めに転じられる!
 俺は斧を受け流した反動を利用し、一歩踏み込んだ。
 イメージするのは、足場。俺が望む場所に、望む形の土を作り出す『土魔法』の行使!
「クリエイト・アース(土生成)!!」
 ボコッ!
 俺の声と共に、通路の壁から頑丈な「突起」が隆起した。
 俺はそれを足掛かりにしてタタタっ!と壁を蹴り、ミノタウロスの頭上へと躍り出た。
 両手に持った二枚のラウンドシールドを大きく広げる。狙うは、牛の耳!
「シンバル・クラッシュ!!」
 ガァァァンッ!!!
 左右からの同時シールドバッシュが、ミノタウロスの側頭部を楽器のシンバルのように挟み撃ちにした。
 脳を直接揺らす衝撃。
「ブモッ……!?」
 ミノタウロスが目と鼻から血が垂れ出し、白目を剥いて首を振る。
 三半規管をやられたのか、足元がふらついた。
 俺はその隙を見逃さず、地面へと着地。狙うは、ふらつく右足!
 俺は右手の盾に魔力を込める。
「エンチャント・アース(土属性付与)!!」
 岩石をまとった盾を、膝関節へ叩き込む!
 ドゴォッ!!
 打撃の瞬間、盾の岩石がミノタウロスの足へと転写された。
 分厚い岩がコンクリートのように固まり、奴の右足を地面へと完全に固定する。
「グオッ!?」
「まだだ! ここからは道具(アイテム)の時間だ!」
 俺は即座にインベントリを開き、予め用意しておいた「とっておき」を取り出した。
 剣でも槍でもない。
 柄の長い、解体用の『工事用大ハンマー(スレッジハンマー)』だ。
 俺はハンマーを担ぐと、再び『クリエイト・アース』で作った足場を駆け上がる。
 足止めされ、動けないミノタウロスの頭上へ。
「脳天砕きだぁぁぁッ!!」
 ゴシャァァッ!!
 遠心力を乗せた鉄塊の一撃が、ミノタウロスの脳天に突き刺さる。
 巨獣は声を上げることもできず、ドズンッと音を立ててうつ伏せに倒れ込んだ。
「……ふぅ、ふぅ……」
 だが、まだだ。これだけタフな奴だ。確実に息の根を止めなければ。
 俺は両手のラウンドシールドとハンマーをインベントリに放り込み、背中に手を回すと固定具を外す。
 ズシリとした重量感。俺の相棒、『タワーシールド』を両手で掴む。
 ピキ、ピキピキ……。
 壁に生えた土塊から嫌な音がした。
 『クリエイト・アース』の効果時間が切れかけ、足場が崩れ始めたのだ。
 だが、それでいい。この一瞬があれば!
「ブ、モ……ォ……」
 脚下では、うつ伏せに倒れたミノタウロスが、必死に腕を突っ張って起き上がろうとしていた。
 鎌首をもたげたその首筋は、無防備に晒されている。
「これで……終わりだッ!!」
 俺は崩れ去る寸前の足場を蹴りジャンプし、宙を舞う。

 頂点に達すると身体をひねり、タワーシールドのエッジを下に向ける。
 全体重と落下速度。その全てを「刃」として叩き込む。まさに断頭台の一撃!
「シールドバッシュ・ギロチン!!!」
 ズバァァァァァァァッ!!!
 鈍器であるはずの盾が、速度と質量によって巨大な刃と化した。
 凄まじい衝撃音が響き渡り、起き上がろうとしていたミノタウロスの首が、その胴体からスパンと弾き飛ばされた。
 首が宙を舞い、鮮血が噴水のように舞い散る。
 四つんばいになっていた巨体は再びドスンと崩れ落ち、二度と動くことはなかった。
「……はぁ……はぁ……ッ」
 俺は着地し、血濡れたタワーシールドを掲げた。
 目の前には前の階層へと続く階段。
 その門番を見事に打ち倒したのだ。
 以前は『食事』
 湧き上がる達成感と共に、俺は腹の底から叫んだ。
「勝ったどぉぉぉぉぉッ!!!」
 俺の咆哮が、最下層の広間に木霊する。
 それは、ただの勝利宣言ではない。生き残ったことへの、魂の実感の叫びだった。
「……す、すごいです……佐東さんっ!」
 背後から、雫が駆け寄ってきた。
 彼女は、魔法で壁を駆け、ハンマーを振るい、最後は盾で首を断つという俺のアクロバティックな戦いに、興奮冷めやらぬ様子で瞳を輝かせている。
 その瞳には紛れもない「英雄」への憧憬が宿っている。
「かっこい・・・」
 彼女の中で、俺への評価がカンストした音が聞こえるようだった。
 だが、当の英雄(おっさん)の頭の中は、もっと本能的な欲求に支配されていた。
 足元の巨大な肉塊を見る。
 リザードマンの比ではない、立派な筋肉。そして適度な脂肪。
「(……牛だ……)」
 俺の口から、ツツーとよだれが垂れた。
 この勝利の味は、格別なものになるだろう。
「(……醤油はある。砂糖もある。……今夜は、すき焼きだ……!!)」
 こうして、階層主との激闘は(その強さから勝手に階層主と思っている)、高らかな勝鬨と、おっさんの食欲と共に幕を閉じたのだった。
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