盾の間違った使い方

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第68話 死の広間の遺品整理と二つの爆弾

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 俺たちは、一目散に拠点へと逃げ帰った。
 セーフエリアに帰り着いた瞬間、俺と雫はどちらからともなくその場にへたり込んだ。
 拠点に持ち帰った、数少ない遺品を確認する。
 だが、風化した布切れや、錆びついた金属片ばかりで、やはりそのまま使えそうなものは何一つなかった。手がかりは、ゼロ。
「佐東さん、あの人は……」
「ああ。禁術か何かで、ダメ元でアンデッドになろうとしたんだろう。だが、何かの理由で、儀式が途中で止まっている」
 味方か、敵か、それすら分からない。
 下手に触れれば、最悪の事態を招きかねない。あの爺さんは、保留だ。
「ならば、もう一度、ドラゴンを調べるしかない」
 俺たちは、再びボス部屋へと向かった。
 今度は、俺が竜に近づき、雫が後方で、あの眠れる魔術師に少しでも異変がないか、叫べるように監視する体制をとる。
「雫ちゃん、試しに、そこに落ちているドラゴンの骨……恐らく右腕の一部だろうが、それを『アイテムボックス』に収納してみてくれ」
「はい!」
 雫が、床に転がる巨大な骨の破片に触れる。
 シュッ、と音もなく、骨は彼女の亜空間へと吸い込まれた。
「入りました! 問題ないです」
「そうか……。よし、じゃあ次は、あのデカい本体も頼む」
 俺は広間の中央に鎮座する、山のような竜の骸を指差した。
 雫は頷き、その巨大な骨の一部に手を触れる。
 だが。
「……あれ?」
 何も起こらない。
 彼女はもう一度、強く念じるように手を押し当てる。
 それでも、竜の骸はそこに在り続けた。
「……ダメです、佐東さん。入りません」
「容量不足か?」
「いえ、違います。容量はまだ余裕があります。なんというか……『収納できない対象です』って弾かれるような感覚で……」
 俺の背筋に、冷たいものが走った。
 落ちている骨(パーツ)は入る。つまり、素材としては認識されている。
 だが、本体は入らない。
 雫の『アイテムボックス』には明確な制限がある。それは、「生きているもの」は収納できないということだ。
「……佐東さん、まさか……」
「ああ。たぶん、こいつは……まだ、生きてる」
 俺たちの間に、戦慄が走った。
 相手が動かず、生命活動の兆候がないのは、死んでいるからではない。休止モードに入っているだけだ。
 おそらく、あの魔術師のアンデッド化の儀式が完了した時、この竜も再び動き出す。そうでなければ、俺たちがここに来た時点で、とっくに活動を再開していたはずだ。
 二つの時限爆弾は、連動している。
 俺は意を決した。
「雫、爺さんを頼む。俺は、上に登る」
 俺は、竜の巨大な骸を梯子代わりに、その胸の中心部へと登っていく。
 ふと、胸骨の隙間から内部に何か、淡く光るものがあるような気がした。そこに違いない。
 俺は、杖代わりにしていたスケルトンの剣を、骨と、干からびた組織の間に差し込んだ。そして、テコの原理で、力任せにこじ開ける。
 ギリ、ギリ、と嫌な音が響く。
 その、時だった。
 ゴトリ。
 何か、丸いものが、骨の隙間から転がり落ちた。
「きゃっ!」
 下で待機していた雫が、慌ててそれを受け止める。
 バスケットボールほどの大きさの、脈動するかのように、禍々しい紅蓮の光を放つ巨大な魔石。
 いや、これは心臓だ。
「雫ちゃん、アイテムボックスに入るか!?」
「い、いえ、ダメです! 弾かれます!」
 やはり、これも「生きている」!
 俺は竜の骸から飛び降りると、彼女が抱えている巨大な魔石に手を伸ばし、叫んだ。
「インベントリ!」
 ずしりとした重みが、俺の手から消えて異空間へと隔離される。
 そしてインベントリを閉じた、その瞬間だった。
『古竜(エンシェント・ドラゴン)を討伐しました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが……』
 フワァァァァァァッ!!!
 凄まじい量の光の奔流が、俺と雫の身体に、滝のように降り注いだ。
「きゃあああああああああああっ!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 雫の悲鳴と、俺の呻き声が、広間に響き渡る。
 身体の内側から焼き尽くされるような、それでいて力が溢れてくるような、未体験の感覚。
 やがて、光の奔流が収まった時、俺は、はっと我に返った。
「雫ちゃん! あの本体は、まだ入らないか!?」
 雫は、涙目になりながらも、近くの竜の本体に恐る恐る触れる。
 そして、驚きの声を上げた。
「は、入ります……!」
 先ほどまで微動だにしなかった巨大な骸が、光の粒子となって、彼女のアイテムボックスに吸い込まれていく。
 やった!
 今度こそ、完全に、殺したんだ。
 その、俺たちの勝利を祝うかのように、広間の隅から、穏やかな、しかし威厳のある老人の声が響いた。
「……何じゃ。終わったのか?」
 俺たちがギクリとして振り返ると。
 そこには、あのミイラ化した魔術師が、棺からゆっくりと身を起こしている姿があった。
「おぬしら、何者じゃ?」

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