【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

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 地下通路の先にある広間の入り口前まで到着したアルフレッドは剣を構え、あたりを警戒する。
 ハディスの部下の魔術師は、中の様子を知るために扉に小さな穴を開けた。

「状況は?」
「…ヘンリー殿下とハディスさん、あと夫人が柱に拘束されています」
「何だって!?」

 シャロンが拘束されていると知り、アルフレッドは声を荒げた。
 そんな彼の口を数名の騎士が咄嗟に抑える。

「団長。声が大きい」
「すまない…」

 現状でこちらの戦力は、刃こぼれした剣を持つ4名の騎士と先の壁のせいでかなり魔力を消費した魔術師が2名だけ。突入するにしても慎重にいかねばならない。
 間違っても、扉前に待機していることを中の犯人に感づかれるわけにはいかないのだ。
 アルフレッドは静かに深呼吸して、中の様子をもう少し詳しく報告するように求めた。

 魔術師の彼は、拘束された3人の前には王が立ち、何かを話していること。
 そして広間の奥には床に何かを描くジルフォード侯爵と、こちらに背を向けてしゃがみ込む半裸の男がいること。それから彼らの影に隠れてよく見えないがもう1人、床に横たわっている女性がいると報告した。


「状況的に見て彼らを拘束しているのは陛下ではないかと…」
「他に怪しい人物はいるか?」
「ジルフォード侯爵の近くにいる半裸の男と、もう1人が怪しいといえば怪しいですが…。僕の見る限りではそれ以外には見当たりません」
「そうか…。その横たわっている女性は被害者か?」
「わかりません。ただ負傷していそうには見えます」
「わかった。では、エディの姿はあるか?」
「半裸の男が彼である可能性もありますが、ここからでは何とも…」
「…いや、半裸の男は違うだろう。この状況で半裸になる囮がどこの世界にいると言うんだ」
「確かに…」

 こんな危機的状況で半裸になってるやつなど本当にただの変態だろうとアルフレッドは言う。

「どうしましょう?突入しますか?」
「いや、もう少し様子を見よう…」

 どうしてこの状況になっているのか見当がつかない以上、慎重になるべきだ。
 アルフレッドは額を押さえて考え込んだ。

「あの、騎士団長。もうひとつ気になることが…」

 もう1人の魔術師が、手をあげて遠慮がちに耳打ちする。
 彼は『国王は多分増幅装置を使っている』と言った。

「増幅装置って?」
「大規模は魔術を行使する時に、術者の負担を軽減するために用いる補助的な役割をする魔法具です…。あれを持っていると瞬間的に魔力量を増幅させることができます。まあ、使用伴うリスクも大きいので使う人はあまりいませんけど」
「…なぜそれを陛下が?」
「わかりません。ただ、チップのない王族があれを持つとなると本当に一時的ですが、禁術使い放題です」
「もうそれチートじゃないか…」

 どうしましょう、と険しい顔をする彼に、アルフレッドは少し時間が欲しいと返事をした。

「厄介だな…」

 基本的に、中距離型の戦闘を得意とする魔術師を相手に戦う場合、近接戦闘しかできない騎士が勝つためには、いかに早くその間合いに入れるかが勝負の決め手となる。
 横たわる女性をの除いたとしても、半裸の男と増幅装置を持つ国王。場合によってはジルフォード侯爵も含めると最大3人の魔術師を一気に制圧せねばならない。

 おそらく一瞬でケリをつけなければ、王は禁術を使うだろう。
 禁術にどんなものがあるかはよく知らないアルフレッドでも、それを使われたら危なそうだなということはわかる。

 必死に考えを巡らせながら、アルフレッドはハディスの部下が開けた小さな穴から中を除いた。
 だが、声を聞くことができないために視覚的な情報しか入ってこない。

「せめて中の声が聞けたら…」
「あ、それならこれを…」

 アルフレッドのボヤキに、魔術師の彼は黒装束のポケットから人間の耳の形をしたゴム素材のカバーのような魔法具を取り出した。

「これを装着した状態で扉に耳をつけてください。魔法具自身に魔力を蓄積させているので、魔力持ちでなくても使えるはずです」

 アルフレッドは言われた通りに魔法具を装着し、壁に耳をつけた。
 すると、中の会話が鮮明に聞こえる。その性能の高さにはアルフレッドも素直に感心した。

「すごいな、これ」
「結構画期的な発明品なんですよ!」
「…そうか。でも、なんていうか…デザインはどうにかならなかったのか?」
「…ハディスさんの趣味なので」
「センス皆無だな、君の上司は」
「変な人なので…」
「なるほど」

   確かにあの変人に普通の美的感覚を求めるのは無理な話だとアルフレッドは妙に納得した。

 
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