【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

文字の大きさ
72 / 129
本編

71:真相(1)

「君が私に協力してくれたら、ジルフォード侯爵にも侯爵領にもこれ以上手を出さないと誓おう」

  王はシャロンの前にしゃがみ込み、彼女の頬を片手で掴むと無理矢理に上を向かせた。
 声を荒げらるハディスを制し、ヘンリーは「どういう意味だ」と父に問う。

 すると、王は愉快そうに語り始めた。

 彼曰く、ジルフォード侯爵は5年前、幻術と物理的な変装で顔を変えて【デイモン】と名乗り、エミリアの治療を行っていたらしい。
 そして、それを知った王は「エミリアの治療はしない」という約束を破った彼に対し、侯爵領と家族を人質に取り、彼女を屋敷から連れ出すように命じた。
 あとは大方シャロンの推論通り、王に命じられた通りにシュゼットを懐柔し、ヘンリエッタを利用してエミリアの死を偽装した。

「デイモンに偽装した医師とシュゼットの2人を列車事故で殺した時は流石の彼も取り乱していたよ」

 王はケラケラと笑う。
 人の命を何とも思っていない彼の発言に、シャロンは奥歯を噛み締めた。

「初めはエミリアがアルフレッドの元にいることが耐えられなくて、治療を拒否するように言ったが、手元に彼女が来たのなら話は別だ。彼女を生かすために尽力してもらおうと思ったんだよ」

 5年前、エミリアを公爵邸から連れ出した侯爵は『彼女を何としても生かせ』と命じられた。 
 だがエミリアは元々心臓が悪く、容体を回復させるには新しい心臓を移植するしかなかった。

 心臓移植は適合する心臓が見つからない限りは行えない。
 尽力すると誓ったものの、その段階では打つ手がなかった。
 そんな時、王は言ったそうだ。

『魔術による臓器移植を行えばいい』と。

 侯爵はまだ不完全な魔術による臓器移植はリスクが高く、犠牲が必要になることを訴えたが、王は聞く耳を持たなかった。
 家族と領地を人質に取られた逃げ場のない侯爵は、少しずつ心をすり減らしながら、ひとり罪を背負い、毎年魔術師を殺し続けた。

「難しく繊細な術らしいね。最初は4人無駄にしてとても落ち込んでいたよ。だが彼はやはり天才だ。年々うまくなっていったよ」
「…ふざけんなよ。人の命を何だと思ってる」

 怒りのあまり、言葉を崩すシャロン。
 王は彼女の頬を掴む手に力を込めた。
 痛みでシャロンの顔は歪む。

「口の聞き方には気をつけろよ。私は優しさで提案してあげているんだ。君のお父君は優しい人だ。エミリアのために死んでいった魔術師たちに心を痛めている。このままでは彼は心を壊してしまうかもしれないよ?」

 君がその身を捧げれば、エミリアは完全に回復し、ジルフォード侯爵は人殺しの役目から解放されると、王は語る。
 シャロンは父の方へと視線を移した。
 すると、視界の端に入った父は首を横に振る。
 おそらく度重なる大義名分のない人殺しで父の精神が摩耗していることは確かだろう。
 けれど、だからといって娘を差し出すような人ではない。

 シャロンは自分の顔を掴む王に唾を吐いた。
 彼女の態度に腹を立てた王は彼女の横っ面を叩く。
 だが、彼女の目は死なない。強い意志を宿した黄金の瞳が王を射抜く。

「あいにくですが、私は他人のために死んでやれるほど綺麗な心を持ち合わせておりませんの」
「親不孝な子だね」

 なかなか首を縦に振らないシャロンに業をにやした王は、再びアルフレッドの仮面を被った。
 そして、

「体力を使うから、あまりエミリアに力を使わせたくないのだが…。仕方がない」

 と呟き、エミリアの名を呼んだ。

 アルフレッドの顔で優しい微笑みを浮かべる王。シャロンはその様子に嫉妬にも似た強い怒りを覚えた。
 それは王がアルフレッドの顔で愛おしそうに『エミリア』と呼んでいるからか、それともアルフレッドにしか反応を示さないエミリアに対してか。

 エミリアは彼の声に反応して、エディに支えられながらゆっくりと状態を起こした。

「エミリア、シャロンにお願いしてごらん?彼女が協力してくれたら、もう手術は受けなくても良くな…」

 ニヤリと口角を上げ、エミリアにそう提案した王の言葉を遮るように、ジルフォード侯爵は叫んだ。

「陛下!待ってください!約束が違います!」
「うるさい、黙れ」

 王は侯爵に向かって手を伸ばす。そして開いていた手のひらをぎゅっと握りしめ、何かを潰した。
 次の瞬間、侯爵は血を吹き出し、むせ返る。

「こ、侯爵!?」

 そばにいたエディは衝撃的な場面に正気をとり戻したのか、慌てて彼に駆け寄る。
 侯爵は「大丈夫だ」とでも言うようにニコッと笑った。

「父に何をした!?」
「声帯を潰しただけだ。死にはしない」
「貴様っ!」

 怒りに震えたハディスは手枷を無理やり破壊しようとする。
 だが、ヘンリーはそれを止めた。

「ハディス!落ち着け!」
「しかし!」
「ここで抗っても勝機はない。そうでしょう?陛下」
「正解だ、ヘンリー。君たちに勝ち目はないよ」

 息子からの問いに、王は薄気味悪い笑みを浮かべて首元に隠していた装飾品を見せた。

「増幅装置…」
「これがある限り、君たちは私には敵わない」
「それは私的利用が禁止されているものでは?」
「エミリアの手術のために必要だから持ち出しただけで、私的利用ではない」

 心臓をシャロンから魔力をエディから補う形で移植手術を終わらせた後、この増幅装置を使って精神干渉の術をかける。そうすることで、自分のことを愛していたエミリアを取り戻すのだと王は語る。
 彼のその言葉にヘンリーの眉間の皺は深くなる一方だった。

「他人の命を犠牲にして生きながらえさせて、挙句魔術で心を書き換えようとしてるってことか?」
「書き換えるんじゃない。元に戻すんだ。彼女は初めから私のものだからね」

 今、エミリアの心はアルフレッドのものだが、本来、彼女の心は自分のものだったのだと王は主張する。
 心の底から本気でそう思っているかのような父の言葉に、ヘンリーは心底幻滅した。
 そして

「頭おかしいんじゃねーのか」

 というヘンリーの呟きを皮切りに、ジルフォード兄妹は言葉の限りを尽くし、王を罵倒し始めた。
感想 151

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。 ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。 失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。 ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。 こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。 二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。