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本編
98:トカゲ(2)
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エミリアがやっと巡り会えた魂の同志に崇高な愛について語っている頃、ヘンリーは王宮の庭園にある花壇の前で蹲るアルフレッドを見つけた。
「あれ?前妻のところに行ったんじゃなかったのか?」
勤務時間が終わるなり、飛び出していった彼がなせここにいるのかわからず、ヘンリーは首をかしげる。
「何してんの?」
「バッタとトカゲを探しています」
「子どもかよ」
こんな天気のいい日の午後に、仕事終わりの服装のままバッタとトカゲを懸命に探す38歳。かなり痛いやつだ。
「なあ、一ついいか?」
「何でしょう」
「今は冬だぞ」
ヘンリーは言いずらそうに、庭園の奥にある雪だるまを指さした。
品種改良されたものならともかく、野生のバッタやトカゲをここで捕まえることはほぼ不可能だ。
「薄々気づいてはいました…」
「薄々も何も、絶賛冬だぞ。コートとマフラーを装備してるやつが何を言ってるんだ」
アルフレッドはマフラーで顔を隠すとその場にうずくまり、ため息をこぼす。
そんな彼が何だか哀れになり、ヘンリーは隣に腰を下ろした。
「それで?何でこんなことしてるんだ?」
「前妻と後妻が欲しがるものですから…」
とほほ、と肩を落とすアルフレッドに、ヘンリーはこいつは本当に大丈夫だろうかと思った。
「…尻に敷かれてるなぁ。公爵は一応公爵だろ?たまにはガツンと言ってやれば?」
「いや、まあ。何というか…。欲張っている分、やれることは全部やらねばなと」
エミリアへの気持ちはもうほとんど残っていないのに、彼女を突き放すことはできず、残り短い時間を笑顔で過ごしてほしいと願い、彼女が望むままに彼女の元に通う日々。
けれど心はシャロンを想い、彼女を手放すこともできず、更にできれば彼女に好かれたいとも願ってしまう。
「意外に欲深いな」
「冷静になると本当にそう思います」
「可能なら冷静にならずともそう思うべきだな。さりげなくハーレム作ってるんじゃないぞ、こら。我が国は一夫一妻制だからな?」
辛辣な言葉を吐きつつも、ヘンリーはアルフレッドの肩をポンポンと叩く。
「公爵。君たちの関係がうまくいっているのはシャロンがああいう人間だからだぞ?」
「わかってますよ」
「ハディスのとこの薬師に負けても知らないからな」
「….どこまで知ってるんですか」
ニヤリと笑うだけで答えないヘンリー。
王族って本当に怖い。
「もう十分負けてますよ、男として」
彼は本当に立派な男だ。
自分ならあの時の彼と同じ状況に立たされたのなら、きっと『好きだ』と言ってしまったと思う。
(…だって、想い人が嫁いだ先はこんな男だ)
本当は問答無用で連れ去りたかったのだろう。それでも彼がそうしなかったのはシャロンが自分の元に残ると決めたからだ。
いや、正確には自分の元に残ったのではなく、公爵邸に残っただけなのだが。
(私は今、シャロンの目に写っているのだろうか。いや、多分写ってはいないのだろうな)
彼女が嫁いで来た時のような謎の自信など皆無だ。
きっとサイモンがジルフォード家に古くから仕えていなければ、シャロンは彼の好意に応えていた。
アルフレッドは、彼が彼女の兄の枠から抜け出せなかった事に救われただけだ。
「陛下…私はどうしたら良いのでしょう」
「まだ陛下じゃない。どうしたら良いかなど自分で考えろ」
「冷たい」
「冬だからな」
ヘンリーは仕方がないと、虫かごを持って立ち上がると仁王立ちでアルフレッドを見下ろした。
「公爵はどう足掻いても薬師のような男にはなれないんだから、それならばお前の持てるものを全部捧げるしかないだろう」
「ほんと、どこまで知ってるんですか」
「やれるだけのことは全部やるんだろ?」
「やりますよ」
「ならついて来い。薬師にはできないが公爵ならできる事がある」
ニヤリと怪しく笑うヘンリーは、アルフレッドをとある場所へと連れて行った。
「あれ?前妻のところに行ったんじゃなかったのか?」
勤務時間が終わるなり、飛び出していった彼がなせここにいるのかわからず、ヘンリーは首をかしげる。
「何してんの?」
「バッタとトカゲを探しています」
「子どもかよ」
こんな天気のいい日の午後に、仕事終わりの服装のままバッタとトカゲを懸命に探す38歳。かなり痛いやつだ。
「なあ、一ついいか?」
「何でしょう」
「今は冬だぞ」
ヘンリーは言いずらそうに、庭園の奥にある雪だるまを指さした。
品種改良されたものならともかく、野生のバッタやトカゲをここで捕まえることはほぼ不可能だ。
「薄々気づいてはいました…」
「薄々も何も、絶賛冬だぞ。コートとマフラーを装備してるやつが何を言ってるんだ」
アルフレッドはマフラーで顔を隠すとその場にうずくまり、ため息をこぼす。
そんな彼が何だか哀れになり、ヘンリーは隣に腰を下ろした。
「それで?何でこんなことしてるんだ?」
「前妻と後妻が欲しがるものですから…」
とほほ、と肩を落とすアルフレッドに、ヘンリーはこいつは本当に大丈夫だろうかと思った。
「…尻に敷かれてるなぁ。公爵は一応公爵だろ?たまにはガツンと言ってやれば?」
「いや、まあ。何というか…。欲張っている分、やれることは全部やらねばなと」
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けれど心はシャロンを想い、彼女を手放すこともできず、更にできれば彼女に好かれたいとも願ってしまう。
「意外に欲深いな」
「冷静になると本当にそう思います」
「可能なら冷静にならずともそう思うべきだな。さりげなくハーレム作ってるんじゃないぞ、こら。我が国は一夫一妻制だからな?」
辛辣な言葉を吐きつつも、ヘンリーはアルフレッドの肩をポンポンと叩く。
「公爵。君たちの関係がうまくいっているのはシャロンがああいう人間だからだぞ?」
「わかってますよ」
「ハディスのとこの薬師に負けても知らないからな」
「….どこまで知ってるんですか」
ニヤリと笑うだけで答えないヘンリー。
王族って本当に怖い。
「もう十分負けてますよ、男として」
彼は本当に立派な男だ。
自分ならあの時の彼と同じ状況に立たされたのなら、きっと『好きだ』と言ってしまったと思う。
(…だって、想い人が嫁いだ先はこんな男だ)
本当は問答無用で連れ去りたかったのだろう。それでも彼がそうしなかったのはシャロンが自分の元に残ると決めたからだ。
いや、正確には自分の元に残ったのではなく、公爵邸に残っただけなのだが。
(私は今、シャロンの目に写っているのだろうか。いや、多分写ってはいないのだろうな)
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「冷たい」
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「ほんと、どこまで知ってるんですか」
「やれるだけのことは全部やるんだろ?」
「やりますよ」
「ならついて来い。薬師にはできないが公爵ならできる事がある」
ニヤリと怪しく笑うヘンリーは、アルフレッドをとある場所へと連れて行った。
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