【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

97:トカゲ(1)

 後日、エミリアの元を訪れたシャロンは深々と頭を下げた。

「エミリーこの間はごめんなさい」
『シャロン。それは私のセリフよ。私があなたにあんなことを言わせたの』

 だから謝るのは自分の方だとエミリアも頭を下げる。

 気まずい沈黙が2人の間を流れた。
 見かねたベネット子爵はお茶とお菓子を用意し、場を繋ぐ。
 ハーブティーを一口啜り、一瞬だけ少しホッとしたような笑顔を見せたシャロンにエミリアは優しく微笑んだ。

『この間より、顔色がいい』

 そう言ってエミリアはシャロンの頬に触れる。
 突然頬に触れられた彼女は顔を赤くした。

『シャロン、私ね、シャロンのことが大好きよ』
「そ、それは性的な意味でですか!?」
『友情的な意味よ。目が怖い』

 目をギラギラさせて前のめりになる彼女をエミリアはすかさず制止する。そして、『友人として』仲良くしてほしいと念押した。

「性別の壁は超えられる事をこの本で学んだのです。だから私にもチャンスあるかなって」

 シャロンは不服そうに頬を膨らませながら、カバンから一冊の本を取り出した。
 それは見覚えのある装丁の本。かつてエミリアがハマった恋愛小説だった。

『うそ、貴女その手の本を読むの?』
「はい。恋愛小説は読まない方ですが、これはハマりました」

 エミリアは両手で顔を隠し、天を仰ぐ。
  
「どうしました?エミリー」
『死ぬ間際に同志に出逢わせてくれたことを神に感謝しているのよ』

 コテンと首をかしげるシャロンの肩をガシッと掴むと、エミリアは興奮気味に目で訴えた。

『語っても良いか』と。

 本当はこの手の本について誰かと語り合いたかったが、人と接することの少なかった彼女は同士に巡り会えなかったらしい。
 シャロンはもちろんだと親指を立てて笑顔で応えた。


 しかし、そこにタイミング悪く、早番だったアルフレッドがやってくる。

「遅くなって悪かった…って、何その目」

 2人してジトーっとした目で見てくるものだから、アルフレッドはまた何かやらかしたんだろうかとヒヤヒヤした。
 やらかしたという自覚はなくともやらかしている可能性は十分にある男だ。

 エミリアは小さく息を吐く。

『アル。私ね、トカゲを飼ってみたいわ』
「え?突然どうした?」
「あら?エミリーは爬虫類派ですか?」
『実はね。昔も飼いたかったのだけれど、アルが嫌がりそうだから我慢していたの』

 彼女は『自分はもう先が短いの』と潤んだ瞳でアルフレッドを見つめる。

「…それは、採取してこいということだろうか?」

 顔面蒼白のアルフレッドに、エミリアは満面の笑みで頷いた。
 昆虫よりはマシだが、爬虫類もなかなかに苦手だ。
 すると、シャロンがスッと手を挙げる。
 アルフレッドはきっと、彼女が『自分が取ってこようか』と提案してくれるのだと思った。
 しかし、シャロンに期待しても良いことはない。

「私はバッタがいいです」
「…は?」
『じゃあ、アル。バッタとトカゲ捕まえてきて』
「よろしくお願いします」

 ベネット子爵は黙って虫かごを彼に渡すと、一言『どんまい』と囁いた。
 アルフレッドは『ちくしょう!』と叫びながら部屋を飛び出した。

「…追い出して良かったんですか?貴重な面会時間なのに」
『今はアルへの愛を語るより、これについて語りたいのよ』

 キリッとした顔で本を掲げるエミリア。

「なるほど。では存分にどうぞ」
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