【完結】これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々

文字の大きさ
24 / 36

23:試してみる?(3)

しおりを挟む
「次期侯爵……?」

 クロードは、はて?と首を傾げた。
 ミゲルも、アンリエッタも同じように首を傾げる。

「次期侯爵って、…………誰が?」

 ミゲルが尋ねた。するとグレイスは指先をピンと伸ばし、クロードを指差した。

「誰って、クロードよ!当たり前でしょ!?」
「……当たり前」
「そしてクロードの隣で彼を支えるに相応しいのはそこの貧乏人じゃなく、私!私が次期侯爵夫人に相応しいの!!」

 グレイスは自分の胸をトンッと拳で叩き、胸を張った。彼女の信者であるメイドたちは、何故かうんうんと同意するように頷く。
 クロードはもう呆れ果てて、笑うしかない。

「ははっ。何から説明すれば良いのやら……」
「な、何よ。何がおかしいのよ」
「グレイス。どうしてそんな勘違いをしているのか知らないが、たとえ俺がアンリエッタと離婚してお前と再婚しようとも、お前は侯爵夫人にはなれないぞ」
「………………え?」
「次期侯爵はアンリエッタだからな」
「どういう、こと?」
「どういうことって言われても……、ペリゴール家は例外的に女でも爵位の継承が認められていてるんだよ」

 基本的に爵位の継承は男子にしか認められていない。
 つまり本来ならば、男子のいないペリゴール家の爵位は必然的に、シャルルの弟の家に移るのだが、ペリゴール家は建国時から続く伝統ある家柄であるため、例外として女子の爵位の継承が認められているのだ。

「つまり、次期侯爵はアンリエッタ。その次の侯爵はアンリエッタが生んだ子どもだ。俺はただの婿養子だし、ペリゴールを名乗ることはできても、ペリゴール侯爵を名乗ることは許されない」
「そんな……。クロードは侯爵になれるんじゃないの?貴族になれるんじゃないの?」
「は?そんなわけないだろ」

    貴賤の区別をハッキリとつけているこの国では、何かしらの大きな功績を上げない限り、平民が貴族になれることはほぼない。また、爵位の売買も容易ではなく、いくら金があっても生粋の平民が爵位を買うことはほぼ不可能とされている。

「……まあ、家系図を遡り、どこかで貴族の血が混ざっていれば爵位を買える可能性はあるけどな」

 スラム出身で辿れる家系図もない自分には関係のない話だ。クロードは自嘲するように呟いた。
 
「うそ……じゃあ、どうして結婚したの?」
「そ、それは……!」
「どうしてって、クロードは平民だから、貴族の仲間入りをしたければ貴族の配偶者をもらうしかないからでしょ?ねえ、クロード?」
「………………それだけじゃないけどな」
「え、何か言った?」
「いや、別に」

 クロードは不貞腐れたように口を尖らせるもの、アンリエッタは彼のその表情の意味がわからず、首を傾げた。

「そ、そんな……」

 ガクッと膝をつき、グレイスは項垂れた。
 その様子を見て、アンリエッタは「なるほど」納得した。

「……あなた、別にクロードが好きなわけじゃないのね」
「は?」
「だって、ペリゴール侯爵ではないクロードには興味がないのでしょう?」
「……そんなことないわ!私はちゃんとクロードのことが好きだもの!」
「じゃあ、どうしてそんなにショックを受けているの?」
「そ、それは……!」
「ねえ、グレイス。私はすごく安心したわ。もっと純愛なのかと思っていたけれど、違ったのね」
 
 もしグレイスの恋が純愛ならば、アンリエッタは横から彼女の想い人を掻っ攫ってしまった最低な女になる。
 だがこれが純愛でないのなら、アンリエッタはもう彼女に悪いと思う必要はない。

「貴族の仲間入りをしたければ、あなたも貴族の男を捕まえることね」

 アンリエッタは彼女を見下ろし、そう助言した。
 その言葉が気に障ったのか、グレイスはキッと彼女を睨みつけ、再び襲い掛かろうとした。
 だが、振り上げたその手は呆気なくミゲルに押さえつけられる。

「離しなさいよ!裏切り者!」
「裏切るも何も貴女の味方だった事なんて一度もありませんけどね」
「私たち、商会の仲間でしょう!?」
「僕と貴女はただの同僚です。いや、違うな。商会の不利益になる今の貴女は同僚ですらありませんね」
「なっ……!?」
「ところで、グレイス。ちょーっと聞きたいことがあるんですけど…………、これは何ですか?」

 ミゲルはニコッと微笑み、彼女の左手の薬指を摘んだ。
 皆の視線が彼女の薬指に集まる。
 そこにはピンクダイヤの指輪がハマっていた。


 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...