未来から来た5歳児と始める、不器用パパの子育て逆転生活

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二度目の週末は、雲一つない完璧な晴天だった。
俺とヒナは少しだけおめかしをして、約束の公園へと向かった。俺の心は不思議なほど穏やかだった。

公園の入り口で、桜木さんと湊くんが手を振っているのが見えた。
「相生さん、こんにちは!」
「こんにちは」
俺はもう、ぎこちなく頭を下げるのではなく、自然に笑顔を返すことができていた。

ヒナと湊くんは再会を喜び合うように、すぐに駆け出して遊具の方へと消えていく。俺たち二人は、その後ろ姿をベンチに座って眺めていた。

気まずい沈黙が流れるのではないか、という俺の心配は杞憂に終わった。桜木さんは、屈託のない笑顔で話しかけてくれた。
「先日はメール、ありがとうございました。なんだか私の身の上話みたいになっちゃって、すみません」
「いえ、そんなこと。むしろ、教えてくださってありがとうございます。俺も、少し安心しました」
「安心?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「あ、いや、その、桜木さんも大変なんだなって。俺だけじゃないんだなって思えて」
俺は慌てて言葉を繕った。彼女の夫がいないことに安堵したなんて、口が裂けても言えない。だが、桜木さんは俺の言葉を素直に受け取ってくれたようだった。

「本当にそうですよね。特に男の人の場合、周りに同じような境遇の人って少ないんじゃないですか」
「ええ。正直、誰に何を相談していいのかも分からなくて」

俺は、自分の秘密を明かさない範囲で、素直な気持ちを彼女に話した。突然子供の面倒を見ることになった戸惑い。仕事と育児の両立の難しさ。そして、時々全てを投げ出したくなるほどの孤独感。

俺の話を、桜木さんは一度も遮ることなく静かに聞いてくれた。そして俺が話し終えると、彼女も自分のことを少しずつ話してくれた。海外にいる夫とのすれ違い。一人で息子の成長の全てを背負わなければならないプレッシャー。仕事で評価されればされるほど、母親としての自分に自信がなくなっていく不安。

俺たちは、互いの鎧の下にある、柔らかくて傷つきやすい部分を見せ合った。
それは、恋愛感情とは全く違う。同じ時代に、同じように不器用にもがきながら子供を育てている、一人の人間としての、静かで深い共感だった。

俺は初めて、誰かに自分の弱さを受け止めてもらえた気がした。それだけで、心がふわりと軽くなるのを感じた。

俺たちがそんな話をしている間も、子供たちの楽しそうな笑い声は途切れることがなかった。シーソーに乗り、滑り台を滑り、砂場でお城を作る。その一つ一つの光景が、愛おしくて尊いものに思えた。

夕方になり、そろそろ帰ろうかと腰を上げた、その時だった。
ヒナが、俺と桜木さんの間にちょこんと立った。そして、二人を交互に見上げ、あの残酷なまでに純粋な瞳で言ったのだ。

「ねえ、パパ。さくらぎさんは、ママじゃないの?」

その問いかけに、公園の空気が一瞬、凍りついた。俺の心臓が大きく、どきりと音を立てる。まずい、と思った。

だが、桜木さんは少しだけ驚いた顔をした後、すぐにふわりと優しく微笑んだ。彼女はヒナの目線に合わせて、ゆっくりとしゃがみこんだ。

「うーん、残念。私はね、湊のママなのよ。ヒナちゃんのママじゃなくて、ごめんね」

その完璧な答えに、俺はただ感嘆するしかなかった。ヒナは少しだけ残念そうな顔をしたが、「そっかあ」と素直に納得したようだった。

帰り道、俺たちは四人で並んで歩いた。その光景は、まるで本当の家族のように見えたかもしれない。だが、俺の心は以前のようにパニックにはなっていなかった。むしろ、不思議なほど静かだった。

ヒナが、母親の存在を探し始めている。それは、彼女の成長の証だ。俺は、その事実を正面から受け止めなければならない。

***

その夜、ヒナを寝かしつけた後、俺は一人リビングでスケッチブックを眺めていた。そこには、今日ヒナが新しく描いた絵があった。公園で、四人が笑っている絵だ。

俺は、この光景を守りたい。そのためなら、どんな未来の謎にも立ち向かえる。

俺は自分のノートパソコンを開いた。だが、未来に関する何かを検索するためではない。俺は、使い慣れたデザインソフトを立ち上げた。

そして、新規ファイルを作成し、そこにシンプルなロゴを描き始めた。丸っこいハンバーグの形をモチーフにした、温かいデザイン。添えられた文字は、『HINA'S AWESOME HAMBURGS』。

クライアントのいない、誰にも評価されない、完全に自己満足のデザイン。だが、俺はこの作業に、今まで感じたことのないほどの集中力と愛情を注ぎ込んでいた。

俺の、古くて孤独だった世界。
ヒナがもたらした、新しくて温かい世界。
その二つが、このロゴデザインの中で初めて一つに融合した気がした。

俺の仕事は、未来の母親を見つけることじゃない。
俺の仕事は、ヒナの父親であり続けることだ。
どんな時も、彼女の一番の味方でいること。一番のファンでいること。
そして、世界で一番、彼女の幸せをデザインしてやること。

まだ、何も解決はしていない。未来は謎だらけだ。
でも、それでいい。俺はもう、答えを急がない。

この、温かくて少しだけ切ない「今」という時間を、ヒナと大切に積み重ねていこう。
俺は完成したロゴを満足げに眺めながら、静かに、そう心に誓った。
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