5 / 30
5
しおりを挟む
俺の問いかけに、最初に反応したのはルナだった。
ぱっと顔を輝かせ、ぶんぶんと手を振りながら叫ぶ。
「るなね、るなね、お姫様が座るみたいな椅子がほしい!」
「お姫様の椅子、か。なるほどな」
子供らしい、実に可愛らしいお願いだ。
前の世界の記憶を探ると、豪華な飾りがついた椅子のイメージが浮かんでくる。
猫脚と呼ばれる、曲線を描いた美しい脚があった。
背もたれには、細かい彫刻が施されている。
「あとねあとね、お菓子のおうちみたいな、本棚!」
「お菓子のおうちの本棚?」
それはまた、難しい要求だ。
しかし、子供の夢を形にするのは、物作りをする者にとって最高の喜びでもある。
クッキーの壁に、チョコレートの屋根、そんなイメージだろうか。
木でどこまで表現できるか、挑戦してみるのも面白い。
「分かった、ルナのためだけの、特別な家具を作ってやるよ」
「ほんと!?やったー!」
ルナは、飛び上がって喜んだ。
その場でくるくると踊り始める、その無邪気な姿に、俺も自然と笑みがこぼれた。
次に、俺はリリアの方を向いた。
彼女は、妹のはしゃぐ姿を微笑ましそうに眺めていたが、俺の視線に気づくと、少し恥ずかしそうに下を向いた。
「リリアは、何か欲しいものはないか?」
「え、えっと……私は、別に……」
遠慮しているのが、手に取るように分かる。
この子は、いつも自分のことより妹や俺のことを先に考えようとする。
その優しさは素晴らしいが、たまにはわがままを言ってもらいたいものだ。
「遠慮するな、リリアが快適に暮らせるための家具だ。何でも言っていいんだぞ」
俺がそう言って頭を撫でると、リリアは少しだけ迷った後、おずおずと口を開いた。
「……じゃあ、あのね。本を、たくさんしまっておける棚が、ほしいです」
「本棚か、いいな」
「それと……もし、もしもいいなら、字の練習ができるような、机と椅子も……」
声が、どんどん小さくなっていく。
なんて健気な願いだろうか、自分の楽しみのためではなく、勉強の道具を欲しがるなんて。
「もちろん、いいに決まってるだろ。読み書きの勉強か、偉いな、リリア」
「……うん。お母さんに、少しだけ教わったの。でも、もっとたくさん覚えたいから」
この世界では、文字の読み書きができる者は少ない。
貴族や商人ならまだしも、普通の人の識字率は決して高くない。
エルフの村ではどうだったのか分からないが、リリアの知りたいという気持ちは素晴らしいものだ。
「よし、分かった。リリア専用の、世界一勉強がはかどる机と椅子、そして大きな図書館みたいな本棚を作ってやる」
「だ、大図書館だなんて、そんな……!小さくていいのよ!」
慌てて首を横に振るリリアだったが、その顔は嬉しそうにほころんでいた。
「それじゃあ、善は急げだ。早速、作り始めよう!」
俺は腕まくりをすると、砦の中に作った作業場所へと向かった。
そこには、家具の材料にするために、あらかじめ何本か丸太を運び込んでおいた。
まずは、リリアの机と椅子からだ。
勉強に集中できるよう、デザインはシンプルにする。
しかし、長い時間座っていても疲れないように、体に合わせた設計を取り入れよう。
前の世界の知識が、ここでも役に立つ。
俺は一本の太い丸太の前に立つと、技術を発動させた。
「『創造(木工)』!」
丸太が宙に浮き、見る見るうちに形を変えていく。
まずは天板だ、表面を滑らかに磨き上げ、角は丸くして、安全に気をつける。
脚は四本で、安定感のあるしっかりとした作りだ。
天板の下には、ペンや紙をしまっておけるように、浅い引き出しを二つ作った。
この引き出しも、特別な部品はないのに、驚くほどスムーズに開け閉めできるのが、俺の技術のすごいところだ。
次に椅子を作る。
背もたれの角度、座る面の高さ、リリアの今の身長に合わせて、完璧に調整する。
少しだけ背伸びをすれば、丁度足が床に着くくらいの高さだ。
子供の成長は早いから、後で調整できるようにしておくのもいいかもしれない。
「できたぞ、リリア。ちょっと座ってみてくれ」
十分もかからずに完成した学習机のセットを、リリアの前に差し出す。
「わ……すごい……」
リリアは目を輝かせながら、恐る恐る椅子に座った。
そして、机に両手を置いてみる。
「ぴったり……、すごく、座りやすい……」
「だろ?これなら、何時間勉強しても疲れないはずだ」
「ありがとう、ルーク!すっごく嬉しい!」
リリアは椅子からぴょんと降りると、俺に駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。
その小さな体から伝わってくる喜びが、俺の心を温かくする。
「次は私の番だ!私の番!」
ルナが、早く早くと急かすように俺の服を引っ張る。
「はいはい、分かってるよ。次はルナのお姫様の椅子だな」
俺はもう一本の丸太に向き直る、今度は、さっきとは全く違うイメージを頭に描く。
優雅な曲線、華やかな飾り。
技術を発動させると、木材がまるで生き物のように曲がり、複雑な形を作っていく。
背もたれには、バラの花とつるの模様を彫り込む。
肘掛けは、白鳥の首のように滑らかな曲線を描き、脚は優美な猫脚にした。
仕上げに、全体を白い木の色合いのまま、しかし光沢が出るまで磨き上げる。
「どうだ、ルナ。君だけの玉座だぞ」
「わ……わあああ!すごい!お姫様みたい!」
ルナは完成した椅子を見て、歓声を上げた。
早速よじ登るようにして座ると、すました顔で背筋を伸ばし、満足そうにふふん、と鼻を鳴らした。
その姿は、まるでおとぎ話に出てくる小さな女王様のようだ。
リリアも、その見事な出来栄えに感心の声を漏らしている。
「すごいわ、ルーク……。これが、本当に木でできてるなんて……。まるで、魔法の国の家具みたい」
「まあな、俺の技術は、こういうのを作るのが得意なんだ」
その後も、俺は二人の願いに応えて、次々と家具を作り出していった。
ルナのために作った「お菓子のおうちの本棚」は、屋根の部分が三角になっていて、壁にはクッキーのような丸い模様を彫り込んだ。
扉は、板チョコをイメージしたデザインだ。
リリアのための本棚は、彼女の背の高さでも一番上の段に手が届くように、側面に梯子を取り付けた、遊び心のあるデザインにした。
これなら、たくさんの本をしまえるし、本を選ぶのも楽しくなるだろう。
二人のための家具が一通り完成したところで、俺は街で売るための商品の製作に取り掛かった。
まずは、簡単な椅子だ。
これは、いくつあっても困らないだろう。
デザインを変えて、座る面が丸いもの、四角いものをそれぞれ十個ずつ作った。
次に、小物入れを作る。
アクセサリーや手紙などを入れておくための、蓋付きの小さな箱だ。
表面には、森の動物や花の模様を彫り込んで、価値をつける。
これも、デザインをいくつか変えて二十個ほど製作した。
それから、子供向けのおもちゃも作る。
昨日ルナに作ったような動物の木彫りの他に、いくつかの部品を組み合わせて遊ぶ、積み木のようなものも作った。
前の世界で言う、知育玩具というやつだ。
この世界には、まだそういった考えはないかもしれない。
だが、子供が夢中になって遊ぶ姿を想像すれば、親はきっと買ってくれるはずだ。
荷車に積めるだけの家具やおもちゃが完成した頃には、太陽はもう西の空に傾き始めていた。
「ふう、こんなものか」
荷車は、大小様々な木工品でいっぱいになった。
これだけあれば、それなりの稼ぎになるだろう。
「ルーク、お疲れ様」
「すごーい!お店屋さんみたい!」
リリアがねぎらいの言葉をかけてくれ、ルナが無邪気にはしゃいでいる。
「さあ、晩ごはんの準備をしよう。今日は、魚を釣ってみようか」
俺は、昼間のうちに作っておいた木の釣り竿と、植物の丈夫なつるを編んで作った釣り糸を手に取った。
釣り針も、硬い木を削って作ったものだ。
三人で川辺に行くと、俺は早速、釣り糸を垂らした。
餌は、その辺にいた虫だ。
すると、すぐにぐぐっと強い引きがあった。
「お、きたきた!」
慎重に引き上げると、二十センチほどの、銀色に輝く魚が釣れていた。
「わーい!お魚だ!」
「すごいわ、ルーク!釣りも上手なのね!」
その後も、面白いように魚が釣れた。
あっという間に、夕食には十分すぎるほどの数が釣れてしまう。
その日の夕食は、魚の塩焼きと、木の実のスープだった。
昨日よりもずっと豪華な食卓だ。
自分たちで釣った魚の味は特別で、リリアもルナも、夢中になって食べていた。
「おいしいね、ルーク!」
「ええ、本当に。こんな美味しいお魚、初めて食べたわ」
お腹がいっぱいになった俺たちは、暖炉の火を囲んで、しばらく話をしていた。
そして、明日の予定をもう一度確認する。
「明日は、いよいよリリアの言っていた畑に行ってみようと思う。でも、絶対に無理はしないこと。危ないと思ったら、すぐに引き返す、いいな?」
俺が念を押すと、リリアはこくりと頷いた。
その表情には、期待と同時に、少しの不安の色が浮かんでいる。
「大丈夫よ、きっと、何もないわ」
そう言うリリアの言葉は、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「ああ、そうだな。それに、俺がついている」
俺はリリアの頭を優しく撫でた。
「万が一のために、これを作っておいた」
俺は技術を使い、手元にあった木材で、自分の背丈ほどの長さの頑丈な棒と、丸くて小さな盾を作り出した。
「わ……」
「これがあれば、大抵の魔物は追い払えるはずだ。お前たちのことは、俺が必ず守るから」
俺がそう言ってにっと笑うと、リリアは少し驚いたような顔をした後、ふわりと花が咲くように微笑んだ。
「うん、ありがとう、ルーク」
その笑顔を見て、俺は改めて心に決めた。
この子たちとの平和な暮らしを、何があっても守り抜こう。
夜が更けていき、森は静けさに包まれる。
暖炉の火だけが、俺たちの新しい生活を、静かに見守っているようだった。
ぱっと顔を輝かせ、ぶんぶんと手を振りながら叫ぶ。
「るなね、るなね、お姫様が座るみたいな椅子がほしい!」
「お姫様の椅子、か。なるほどな」
子供らしい、実に可愛らしいお願いだ。
前の世界の記憶を探ると、豪華な飾りがついた椅子のイメージが浮かんでくる。
猫脚と呼ばれる、曲線を描いた美しい脚があった。
背もたれには、細かい彫刻が施されている。
「あとねあとね、お菓子のおうちみたいな、本棚!」
「お菓子のおうちの本棚?」
それはまた、難しい要求だ。
しかし、子供の夢を形にするのは、物作りをする者にとって最高の喜びでもある。
クッキーの壁に、チョコレートの屋根、そんなイメージだろうか。
木でどこまで表現できるか、挑戦してみるのも面白い。
「分かった、ルナのためだけの、特別な家具を作ってやるよ」
「ほんと!?やったー!」
ルナは、飛び上がって喜んだ。
その場でくるくると踊り始める、その無邪気な姿に、俺も自然と笑みがこぼれた。
次に、俺はリリアの方を向いた。
彼女は、妹のはしゃぐ姿を微笑ましそうに眺めていたが、俺の視線に気づくと、少し恥ずかしそうに下を向いた。
「リリアは、何か欲しいものはないか?」
「え、えっと……私は、別に……」
遠慮しているのが、手に取るように分かる。
この子は、いつも自分のことより妹や俺のことを先に考えようとする。
その優しさは素晴らしいが、たまにはわがままを言ってもらいたいものだ。
「遠慮するな、リリアが快適に暮らせるための家具だ。何でも言っていいんだぞ」
俺がそう言って頭を撫でると、リリアは少しだけ迷った後、おずおずと口を開いた。
「……じゃあ、あのね。本を、たくさんしまっておける棚が、ほしいです」
「本棚か、いいな」
「それと……もし、もしもいいなら、字の練習ができるような、机と椅子も……」
声が、どんどん小さくなっていく。
なんて健気な願いだろうか、自分の楽しみのためではなく、勉強の道具を欲しがるなんて。
「もちろん、いいに決まってるだろ。読み書きの勉強か、偉いな、リリア」
「……うん。お母さんに、少しだけ教わったの。でも、もっとたくさん覚えたいから」
この世界では、文字の読み書きができる者は少ない。
貴族や商人ならまだしも、普通の人の識字率は決して高くない。
エルフの村ではどうだったのか分からないが、リリアの知りたいという気持ちは素晴らしいものだ。
「よし、分かった。リリア専用の、世界一勉強がはかどる机と椅子、そして大きな図書館みたいな本棚を作ってやる」
「だ、大図書館だなんて、そんな……!小さくていいのよ!」
慌てて首を横に振るリリアだったが、その顔は嬉しそうにほころんでいた。
「それじゃあ、善は急げだ。早速、作り始めよう!」
俺は腕まくりをすると、砦の中に作った作業場所へと向かった。
そこには、家具の材料にするために、あらかじめ何本か丸太を運び込んでおいた。
まずは、リリアの机と椅子からだ。
勉強に集中できるよう、デザインはシンプルにする。
しかし、長い時間座っていても疲れないように、体に合わせた設計を取り入れよう。
前の世界の知識が、ここでも役に立つ。
俺は一本の太い丸太の前に立つと、技術を発動させた。
「『創造(木工)』!」
丸太が宙に浮き、見る見るうちに形を変えていく。
まずは天板だ、表面を滑らかに磨き上げ、角は丸くして、安全に気をつける。
脚は四本で、安定感のあるしっかりとした作りだ。
天板の下には、ペンや紙をしまっておけるように、浅い引き出しを二つ作った。
この引き出しも、特別な部品はないのに、驚くほどスムーズに開け閉めできるのが、俺の技術のすごいところだ。
次に椅子を作る。
背もたれの角度、座る面の高さ、リリアの今の身長に合わせて、完璧に調整する。
少しだけ背伸びをすれば、丁度足が床に着くくらいの高さだ。
子供の成長は早いから、後で調整できるようにしておくのもいいかもしれない。
「できたぞ、リリア。ちょっと座ってみてくれ」
十分もかからずに完成した学習机のセットを、リリアの前に差し出す。
「わ……すごい……」
リリアは目を輝かせながら、恐る恐る椅子に座った。
そして、机に両手を置いてみる。
「ぴったり……、すごく、座りやすい……」
「だろ?これなら、何時間勉強しても疲れないはずだ」
「ありがとう、ルーク!すっごく嬉しい!」
リリアは椅子からぴょんと降りると、俺に駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。
その小さな体から伝わってくる喜びが、俺の心を温かくする。
「次は私の番だ!私の番!」
ルナが、早く早くと急かすように俺の服を引っ張る。
「はいはい、分かってるよ。次はルナのお姫様の椅子だな」
俺はもう一本の丸太に向き直る、今度は、さっきとは全く違うイメージを頭に描く。
優雅な曲線、華やかな飾り。
技術を発動させると、木材がまるで生き物のように曲がり、複雑な形を作っていく。
背もたれには、バラの花とつるの模様を彫り込む。
肘掛けは、白鳥の首のように滑らかな曲線を描き、脚は優美な猫脚にした。
仕上げに、全体を白い木の色合いのまま、しかし光沢が出るまで磨き上げる。
「どうだ、ルナ。君だけの玉座だぞ」
「わ……わあああ!すごい!お姫様みたい!」
ルナは完成した椅子を見て、歓声を上げた。
早速よじ登るようにして座ると、すました顔で背筋を伸ばし、満足そうにふふん、と鼻を鳴らした。
その姿は、まるでおとぎ話に出てくる小さな女王様のようだ。
リリアも、その見事な出来栄えに感心の声を漏らしている。
「すごいわ、ルーク……。これが、本当に木でできてるなんて……。まるで、魔法の国の家具みたい」
「まあな、俺の技術は、こういうのを作るのが得意なんだ」
その後も、俺は二人の願いに応えて、次々と家具を作り出していった。
ルナのために作った「お菓子のおうちの本棚」は、屋根の部分が三角になっていて、壁にはクッキーのような丸い模様を彫り込んだ。
扉は、板チョコをイメージしたデザインだ。
リリアのための本棚は、彼女の背の高さでも一番上の段に手が届くように、側面に梯子を取り付けた、遊び心のあるデザインにした。
これなら、たくさんの本をしまえるし、本を選ぶのも楽しくなるだろう。
二人のための家具が一通り完成したところで、俺は街で売るための商品の製作に取り掛かった。
まずは、簡単な椅子だ。
これは、いくつあっても困らないだろう。
デザインを変えて、座る面が丸いもの、四角いものをそれぞれ十個ずつ作った。
次に、小物入れを作る。
アクセサリーや手紙などを入れておくための、蓋付きの小さな箱だ。
表面には、森の動物や花の模様を彫り込んで、価値をつける。
これも、デザインをいくつか変えて二十個ほど製作した。
それから、子供向けのおもちゃも作る。
昨日ルナに作ったような動物の木彫りの他に、いくつかの部品を組み合わせて遊ぶ、積み木のようなものも作った。
前の世界で言う、知育玩具というやつだ。
この世界には、まだそういった考えはないかもしれない。
だが、子供が夢中になって遊ぶ姿を想像すれば、親はきっと買ってくれるはずだ。
荷車に積めるだけの家具やおもちゃが完成した頃には、太陽はもう西の空に傾き始めていた。
「ふう、こんなものか」
荷車は、大小様々な木工品でいっぱいになった。
これだけあれば、それなりの稼ぎになるだろう。
「ルーク、お疲れ様」
「すごーい!お店屋さんみたい!」
リリアがねぎらいの言葉をかけてくれ、ルナが無邪気にはしゃいでいる。
「さあ、晩ごはんの準備をしよう。今日は、魚を釣ってみようか」
俺は、昼間のうちに作っておいた木の釣り竿と、植物の丈夫なつるを編んで作った釣り糸を手に取った。
釣り針も、硬い木を削って作ったものだ。
三人で川辺に行くと、俺は早速、釣り糸を垂らした。
餌は、その辺にいた虫だ。
すると、すぐにぐぐっと強い引きがあった。
「お、きたきた!」
慎重に引き上げると、二十センチほどの、銀色に輝く魚が釣れていた。
「わーい!お魚だ!」
「すごいわ、ルーク!釣りも上手なのね!」
その後も、面白いように魚が釣れた。
あっという間に、夕食には十分すぎるほどの数が釣れてしまう。
その日の夕食は、魚の塩焼きと、木の実のスープだった。
昨日よりもずっと豪華な食卓だ。
自分たちで釣った魚の味は特別で、リリアもルナも、夢中になって食べていた。
「おいしいね、ルーク!」
「ええ、本当に。こんな美味しいお魚、初めて食べたわ」
お腹がいっぱいになった俺たちは、暖炉の火を囲んで、しばらく話をしていた。
そして、明日の予定をもう一度確認する。
「明日は、いよいよリリアの言っていた畑に行ってみようと思う。でも、絶対に無理はしないこと。危ないと思ったら、すぐに引き返す、いいな?」
俺が念を押すと、リリアはこくりと頷いた。
その表情には、期待と同時に、少しの不安の色が浮かんでいる。
「大丈夫よ、きっと、何もないわ」
そう言うリリアの言葉は、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「ああ、そうだな。それに、俺がついている」
俺はリリアの頭を優しく撫でた。
「万が一のために、これを作っておいた」
俺は技術を使い、手元にあった木材で、自分の背丈ほどの長さの頑丈な棒と、丸くて小さな盾を作り出した。
「わ……」
「これがあれば、大抵の魔物は追い払えるはずだ。お前たちのことは、俺が必ず守るから」
俺がそう言ってにっと笑うと、リリアは少し驚いたような顔をした後、ふわりと花が咲くように微笑んだ。
「うん、ありがとう、ルーク」
その笑顔を見て、俺は改めて心に決めた。
この子たちとの平和な暮らしを、何があっても守り抜こう。
夜が更けていき、森は静けさに包まれる。
暖炉の火だけが、俺たちの新しい生活を、静かに見守っているようだった。
114
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。
黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた!
「この力があれば、家族を、この村を救える!」
俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。
「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」
孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。
二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。
優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』
雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。
前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。
しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。
これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。
平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -
花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。
魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。
十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。
俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。
モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる