追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

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バルトロさんの提案は、まさに渡りに船だった。
この街の領主である、辺境伯ヴィスコンティ様。
民からの信頼も厚い名君だと、話に聞いている。
その人物の後ろ盾を得られれば、アルダー伯爵家の乱暴を抑えられるかもしれない。

「どうだルーク君、悪い話ではないだろう」
バルトロさんが、俺の返事を静かに待っていた。
その目には、俺への信頼と期待が浮かんでいる。

俺は貴族という存在に、良い思い出が全くない。
父親は冷酷だったし、兄たちは陰湿だった。
権力を振りかざしては、弱い者から奪い取る。
それが、俺の知っている貴族の本当の姿だった。

だがバルトロさんの話すヴィスコンティ様は、そんな貴族とは違うようだ。
民の暮らしを第一に考え、領地の発展に力を尽くす。
もし本当にそんな人物なら、一度会ってみる価値はある。

何よりも、俺には守るべきものがあるのだ。
リリアとルナとの、森での穏やかな暮らし。
それを守るためならば、俺はどんなことでもする覚悟だ。
たとえ、それが再び貴族と関わることであっても。

俺はゆっくりと、しかしはっきりと頷いてみせた。

「分かりましたバルトロさん、そのお話をお受けします」
「ヴィスコンティ様にお会いして、俺の目で確かめたいのです」

俺の返事を聞くと、バルトロさんは満足そうに頷いた。

「うむ、そう言ってくれると信じていたぞ」
「よし、ならば早速わしの方で面会の準備をしよう。おそらく、二、三日中にはお呼びがかかるはずだ」

「そんなに、早くですか」

「当たり前だ、ヴィスコンティ様も橋の建設で困っておられる」
「お主のような職人が現れたと知れば、すぐにでも会いたいと思われるだろう」

話は、俺の予想よりも早く進みそうだ。
俺は、一つだけ気になっていたことを尋ねる。

「そのヴィスコンティ様は、俺のスキルについてご存知なのですか」

「ふむ、わしからは神が与えたとしか思えぬ、常識外れの木工技術を持つとだけ伝えた」
「具体的なことまでは話しておらん、お主の口から直接説明した方が良かろう」

バルトロさんの配慮に、俺は心から感謝した。
俺のスキルは、あまりにも規格外すぎる。
下手に情報が漏れてしまえば、厄介な連中が寄ってくるかもしれない。

「ありがとうございます、それと面会の際には同席していただけると心強いです」

「はっはっは、任せておけ。お主と辺境伯様との、大事な商談だからな。わしのような商人が、出ないわけにはいかんだろう」

バルトロさんは、とても大胆に笑った。
この人がいてくれるなら、俺も安心して交渉に臨める。

話がまとまったところで、俺は席を立った。
あまり長く街にいるのは、危険だと判断した。
それに、リリアとルナをいつまでも待たせるわけにはいかない。

「それでは、俺は一度森に戻ります。呼び出しがあり次第、すぐにまた参りますので」

「うむ、分かった。道中、くれぐれも気をつけるんだぞ。アルダー家の犬が、どこで見ているか分からんからな」

俺はバルトロさんとセバスさんに見送られ、サンライズ商会を後にする。
マントで顔を隠し、人目を避けるようにして路地裏のステルス・キャンパーへと戻った。

魔力を流し込むと、馬車は音もなく動き出す。
街の門を抜けて、再び森の中へと入っていく。
完璧な偽装のおかげで、誰にも気づかれることはない。

俺は馬車を自動運転にして、居住スペースの椅子に深く座った。
そして、これからのことをゆっくり考える。

ヴィスコンティ様との面会は、俺たちの運命を大きく左右するだろう。
もしうまくいけば、アルダー家の脅威から解放される。
そして、本当の意味で平穏な生活を手に入れられるかもしれない。

だが、もしヴィスコンティ様が父と同じような人間だったら。
俺のスキルを利用することしか、考えていないような貴族だったら。
その時は、きっぱりと断るだけだ。
そして、また別の方法を探すことにする。

どんな未来が待っていようと、俺のやるべきことは変わらない。
リリアとルナを守り、三人で幸せに暮らす。
俺の望みは、ただそれだけなのだ。

馬車は、月明かりに照らされた森の道を進む。
窓の外には、見慣れた景色が流れていった。
俺たちの家に、もうすぐで着く頃だ。
二人は、ちゃんと留守番をしてくれているだろうか。

そんなことを考えていると、自然と頬が緩んでくる。
あの二人が、俺の帰りを待っている。
そう思うだけで、心が温かくなるのを感じた。

俺には、帰りを待つ家族がいるのだ。
その事実が、何よりも俺の力になっていた。

砦に到着したのは、深夜のことだった。
見張り台から、俺の馬車に気づいたらしい。
砦の門が、ゆっくりと内側から開かれた。

そこに立っていたのは、リリアとルナだった。
二人とも眠い目をこすりながら、俺の帰りを待っていてくれたようだ。

「ルーク!」
「おかえりなさい!」

二人は、馬車から降りた俺に駆け寄ってくる。
そして、強く抱きついてきた。

「ただいま、リリア、ルナ。ちゃんと留守番できたか」

「うん、悪いオオカミさんは来なかったよ」
ルナが、得意げに胸を張って言った。

「ルークこそ、ご無事でよかったわ。本当に、心配していたのよ」
リリアは、心から安心したような表情を浮かべている。

俺は、そんな二人の頭を優しく撫でた。

「ありがとう、お前たちがいてくれるから俺も頑張れるんだ」

家の中に入ると、暖炉の火が温かく燃えていた。
テーブルの上には、冷めたスープが置いてある。
俺のために、残しておいてくれたのだろう。
その心遣いが、とても嬉しかった。

俺はスープを温め直しながら、街での出来事を二人に話す。
バルトロさんに、相談したこと。
アルダー伯爵家の動きが、活発になっていること。
そして、この街の領主であるヴィスコンティ様と、会う約束をしたこと。

俺の話を、二人は真剣な顔で聞いていた。

「領主様と、会うの」
リリアが、少し不安そうに尋ねてきた。

「ああ、俺たちの暮らしを守るために力を貸してくれるかもしれない」

「そっか、ルークが決めたことなら私は信じるわ」
リリアは、健気にもそう言ってくれた。

「でもルーク、どこか遠くに行っちゃうの」
ルナが、目に涙を浮かべて俺の服の裾を掴む。

「大丈夫だよルナ、どこにも行ったりしないさ」
俺はルナを膝の上に乗せ、優しく抱きしめた。

「大きな橋を作るのを、少しだけ手伝うだけだ。それが終われば、またずっとここで三人一緒に暮らせる」

「ほんと?」

「ああ、本当だ。約束するよ」
俺が小指を差し出すと、ルナは小さな小指を絡めて頷いた。
それで、ようやく安心したようだ。

その夜、俺は二人が眠った後で一人作業場に向かった。
ヴィスコンティ様との面会に備え、いくつか準備をしておきたい。

まずは、俺の技術を分かりやすく示すための見本だ。
ただ家具を持って行っても、インパクトに欠ける。
どうせなら、相手の度肝を抜くようなものを作ってやろう。

俺は、最高級の木材をいくつか選び出す。
そして、スキルを発動させた。
頭の中に、橋の模型をイメージする。
それも、ただの模型ではない。

前世の知識を使い、この世界にはないトラス構造という技術を用いた、美しいアーチ橋を設計する。
部品の一つ一つを、少しの狂いもなく作り出した。
それらを、丁寧に組み上げていく。
細部には、エルフの村で見たような植物の彫刻を施した。

数時間後、俺の手元には全長一メートルほどの精巧な橋の模型が完成していた。
それは、もはや芸術品と呼んでもいいほどの出来栄えだ。

「これなら、俺のスキルの価値を理解させられるはずだ」
俺は、満足げに頷く。

さらに、俺は自分のための服も作ることにした。
貴族に会うのに、いつもの格好では失礼だろう。
かといって、堅苦しい貴族の服は着たくない。

俺は、植物の繊維を加工して丈夫で動きやすい生地を作り出す。
その生地を使い、前世で着ていたジャケットとパンツに似た、機能的で洗練された服を仕立てた。
これなら、職人としての誇りも示せるだろう。

全ての準備を終えた頃には、東の空が白み始めていた。
俺は、完成した橋の模型と新しい服をステルス・キャンパーにそっと運び込む。
これから始まる、新しい舞台が待っている。
期待と、ほんの少しの緊張を胸に、俺は新しい朝の光を浴びていた。
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