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「ルーク、朝ごはんができたわよ」
リリアの明るく澄んだ声が、ログハウスの中に優しくこだまする。
俺は作業場で木材を片付けていた手を止め、食堂へと足を向けた。
テーブルの上には、温かい湯気が立ち上る色鮮やかな料理が並んでいる。
そのどれもが、食欲をそそる良い香りを放っていた。
「わあ、これはすごいごちそうだな。毎日、料理の腕を上げているじゃないか」
こんがりと焼かれたパンに、鶏小屋でとれたばかりの新鮮な卵で作った目玉焼きが添えてある。
畑で今朝収穫したばかりの野菜が、たっぷり入ったスープも並んでいた。
ルナが小さな両手で一生懸命に木の皿を運んでくる姿は、とても微笑ましい光景だ。
「るなもね、お皿を並べるお手伝いをしたんだよ」
「そうか、ありがとうなルナ。すごく助かったぞ」
俺がルナの頭を優しく撫でると、彼女はくすぐったそうに可愛らしく笑った。
リリアは、本当に料理の腕前が上達していた。
俺が一度教えたことを、驚くほどの速さで自分のものにしてしまうのだ。
今では、俺が知らない森のハーブを使い、新しい味付けを試したりもしている。
「いただきます」
三人で食卓を囲んで手を合わせ、温かい朝食に感謝した。
自分たちで種から育てた野菜の味は、本当に特別なものだった。
鶏たちが毎朝産んでくれる滋養たっぷりの卵も、俺たちの食卓を豊かにしてくれる。
こんな何気ない穏やかな毎日こそが、俺にとっては何よりも代えがたい宝物なのだ。
食事を終えた後、俺たちは暖炉の前に集まってくつろいだ。
リリアは王都で買ってやった物語の本を、もう何度も何度も繰り返し読んでいる。
その熱中する姿は、本当に楽しそうで、見ている俺の心まで温かくなった。
「そんなに、その物語が好きなのか」
俺が何気なく尋ねると、リリアは夢中になっていた本から顔を上げた。
そして、こくりと深く頷いてみせる。
「うん、すごく面白いわ。ここには、私の知らない世界や色々な人たちの暮らしが描かれているから」
彼女はそう言うと、少しだけ遠くを見るような目をして続けた。
「私たちの村は、森から外に出ることがほとんどなかったの。だから本を読むと、まるで自分が旅をしているような気持ちになれるのよ」
「そうか、それならもっとたくさんの本が、この家にあったらいいな」
俺の言葉に、リリアはぱっと顔を輝かせた。
その無邪気な表情は、まるで宝物を見つけた子供のようだった。
「いいの、でも本はすごく高いって、村の大人たちが言っていたわ」
リリアは、少しだけ遠慮がちに言葉を紡いだ。
彼女のそういう優しい気遣いが、俺はとても好きだった。
「ははは、今の俺にはこの国で一番偉い王様がついている。だから、お金の心配はもうこれっぽっちもしなくていいんだよ」
俺は、リリアの頭を優しく撫でた。
そうだ、この子のために何か特別なものを作ってやろう。
この子の尽きることのない好奇心を、満たしてやれるような最高の贈り物を。
「よし、決めたぞ。リリアのために、この家にもっとすごい図書館を作ってやる」
「え、図書館ですって」
リリアが、信じられないといった様子で目を見開いている。
ルナも、図書館という言葉が何のことか分からず、俺と姉の顔を交互に見上げた。
「ああ、世界中のあらゆる本を集めた、君だけのための特別な図書館だ。まずは、その大切な本をしまうための、世界一の本棚から作るとしようか」
俺はそう宣言すると、すぐに作業場へと向かった。
どんな本棚にするか、頭の中で具体的な設計図を組み立てていく。
ただ頑丈で、たくさん本が入るだけの本棚では全く面白くない。
俺のスキルを使うのだから、誰も見たことがないような魔法の仕掛けを加えたい。
「そうだ、読みたい本の名前を言うと、その本が自動で手元まで滑り出てくる仕組みはどうだろうか」
俺がそう呟くと、いつの間にか後ろからついてきていたリリアが、驚きの声を上げた。
「そんなこと、本当にできるの。まるで、物語に出てくる魔法みたいだわ」
「もちろんさ、俺のスキルにかかればな。お前たちが喜ぶ顔を、見るのが俺の一番の楽しみなんだから」
俺は、砦の倉庫に大切に保管していた巨大な月光樹の木材を運び出した。
これは、希望の橋の建設で余った、最高級の素材だ。
その神秘的な木材に、俺はゆっくりと両手を触れる。
そして、体中の魔力を指先に集中させた。
「『創造(木工)』、我がイメージを形にしろ」
俺の魔力に反応して、銀色に輝く月光樹が淡い光を放ち始めた。
巨大な木材が、まるで柔らかい粘土のように形を変えていく。
まずは、本棚の大きな枠組みからだ。
天井に届くほどの高さで、ログハウスの壁一面を覆う巨大なものになる予定だ。
それは、もはや家具ではなく、建築物と呼ぶ方がふさわしいかもしれない。
「ねえルーク、本棚のデザインだけど、一番上のところにお星様の形を彫るのはどうかしら。夜になったら、キラキラ光るの」
「るなは、お花の模様がいいな。私と、リリアのお花を彫ってほしいな」
リリアとルナが、瞳を輝かせながら楽しそうにアイデアを出してくれた。
俺は、二人の素晴らしい意見を取り入れて設計を少し変更する。
本棚の上部には、大小様々な星の彫刻を施すことにした。
そして、棚の両側の柱には、可愛らしい二輪の花が仲良く寄り添い、蔓を伸ばしているデザインを彫り込む。
姉妹の絆を、象徴するような美しい模様だ。
製作は、驚くほどの集中力で数時間で完了した。
ログハウスの、ただの木の壁だった場所が、まるごと芸術品のような本棚へと生まれ変わっていた。
月光樹の銀色の木肌が、部屋の中のランプの明かりを優しく反射する。
その輝きは、キラキラと幻想的な光景を作り出していた。
「すごい、すごいわルーク。まるで、賢者が住む塔の書斎みたいだわ」
リリアが、うっとりとした表情で完成した本棚を隅から隅まで見上げている。
その瞳は、星空のようにきらめいていた。
「これから、一番大事な仕掛けを作るぞ」
俺は、本を収納する棚の一つ一つに、特殊な魔術回路を木の表面に直接刻み込んでいった。
これは、人の声に含まれる魔力の波長に反応させるための仕組みだ。
棚板がわずかに傾き、本を滑り出させるための、非常に高度な技術を要する。
少しでも気を抜けば、回路はうまく機能しないだろう。
俺は、息を止めて魔力の制御に全神経を集中させた。
まるで、細い糸を針に通すような、繊細な作業が続く。
全ての棚に、魔術回路を組み込み終える。
「よし、これで本当に完成だ。リリア、何か好きな本の名前を言ってみてくれ」
「え、ええと。じゃあ、私が一番好きな『星の海の冒険』をお願いします」
リリアが、少しだけ緊張した面持ちで、お気に入りの本の題名を言った。
すると、本棚の中段あたりに収められていた一冊の本が、するすると音もなく前に滑り出てきた。
そして、リリアが手を伸ばしやすい位置で、ぴたりと優雅に停止する。
「「わあああああっ!」」
リリアとルナが、同時に魔法を目の当たりにしたかのような、素直な歓声を上げた。
その声は、驚きと喜びに満ちていた。
「本当だわ、本が自分で出てきた。私の声に応えてくれたのね」
「すごーい、お話する本棚さんだね。こんにちは」
二人は、興奮した様子で次々といろんな本の名前を言ってみる。
そのたびに、本棚は一冊も間違えることなく、正確に目的の本を差し出した。
その光景は、本当に魔法そのものだった。
まるで、本棚に命が宿ったかのようだ。
俺が作った魔法の本棚に、三人はすっかり夢中になっていた。
夕方になり、砦の門を叩く音が力強く響き渡る。
バルトロさんが、たくさんの荷物を積んだ大きな馬車で訪ねてきてくれたのだ。
「やあルーク君、頼まれていた本を山というほど持ってきたぞ」
バルトロさんは、荷台に山積みにされた大きな木箱を指差して豪快に笑った。
その中には、俺が彼に特別に頼んでおいた、様々な種類の本がぎっしりと詰まっている。
子供向けの物語の本から、歴史や科学についての難しい専門書まであった。
ルナのために、可愛らしい動物の絵がたくさん描かれた絵本もたくさんある。
その数は、小さな町の図書館にも匹敵するほどだろう。
「すごい量ですね、本当にありがとうございますバルトロさん」
「なに、これくらいお安い御用さ。それより、なんだこのとんでもない本棚は」
バルトロさんは、家の中に入るとすぐに俺が作った本棚の存在に気づいた。
そして、その圧倒的な存在感と神々しいまでの美しさに、完全に言葉を失っている。
「こ、これは、君が作ったのかね。信じられん、王城の宝物庫にあるどんな国宝よりも素晴らしいじゃないか」
彼は、大商人としての鋭い目利きで、この本棚の計り知れない価値を一瞬で見抜いたようだ。
その目は、驚愕と興奮で大きく見開かれていた。
俺は、バルト
ロさんに本棚の魔法の仕掛けを実演して見せた。
声に反応して本が滑り出てくる様子を見て、彼は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「神よ、君という男は一体どこまで我々を驚かせれば気が済むのだ。これはもはや、家具などという次元のものではないぞ」
その日の夜、俺たちはバルトロさんが持ってきてくれた新しい本を、完成したばかりの本棚に丁寧に並べていった。
空っぽだった棚が、色とりどりの美しい背表紙で埋まっていく。
それは、まるで知識の森がこの家に生まれる瞬間のようだった。
一冊一冊が、未知の世界への扉に見える。
リリアは、早速新しい歴史書を手に取ると、夢中になって読みふけっている。
その真剣な横顔は、まるで小さな学者のようにも見えた。
彼女の知的好奇心は、底なし沼のようだ。
ルナは、森の動物たちがたくさん出てくる可愛らしい絵本を見つけてきた。
そして、俺の膝の上にちょこんと座る。
「ルーク、これよんでほしいな」
甘えた声で、そうせがんできた。
その可愛らしいおねだりに、俺が断れるはずもない。
「はいはい、分かったよ。どれどれ、どんなお話かな」
俺は、ルナを膝に乗せたまま、絵本のページをゆっくりと開いた。
暖炉の火が、ぱちぱちと優しく心地よい音を立てている。
リリアが、時折本のページをめくる、かすかな音も聞こえてきた。
穏やかで、満ち足りた時間が流れていく。
「むかしむかし、あるところに、一匹の小さなリスがいました」
俺が、優しい声で絵本を読み始める。
ルナは、物語の世界にすっかり引き込まれたように、静かに耳を傾けていた。
そんな幸せな時間が、俺は何よりも好きだった。
この温かな日常が、どうか永遠に続けばいいと心の底から思う。
俺は、ルナの柔らかな銀色の髪を撫でながら、ゆっくりと物語の続きを読んでいった。
彼女の小さな寝息が、聞こえてくるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
俺は、物語の次のページをゆっくりとめくった。
リリアの明るく澄んだ声が、ログハウスの中に優しくこだまする。
俺は作業場で木材を片付けていた手を止め、食堂へと足を向けた。
テーブルの上には、温かい湯気が立ち上る色鮮やかな料理が並んでいる。
そのどれもが、食欲をそそる良い香りを放っていた。
「わあ、これはすごいごちそうだな。毎日、料理の腕を上げているじゃないか」
こんがりと焼かれたパンに、鶏小屋でとれたばかりの新鮮な卵で作った目玉焼きが添えてある。
畑で今朝収穫したばかりの野菜が、たっぷり入ったスープも並んでいた。
ルナが小さな両手で一生懸命に木の皿を運んでくる姿は、とても微笑ましい光景だ。
「るなもね、お皿を並べるお手伝いをしたんだよ」
「そうか、ありがとうなルナ。すごく助かったぞ」
俺がルナの頭を優しく撫でると、彼女はくすぐったそうに可愛らしく笑った。
リリアは、本当に料理の腕前が上達していた。
俺が一度教えたことを、驚くほどの速さで自分のものにしてしまうのだ。
今では、俺が知らない森のハーブを使い、新しい味付けを試したりもしている。
「いただきます」
三人で食卓を囲んで手を合わせ、温かい朝食に感謝した。
自分たちで種から育てた野菜の味は、本当に特別なものだった。
鶏たちが毎朝産んでくれる滋養たっぷりの卵も、俺たちの食卓を豊かにしてくれる。
こんな何気ない穏やかな毎日こそが、俺にとっては何よりも代えがたい宝物なのだ。
食事を終えた後、俺たちは暖炉の前に集まってくつろいだ。
リリアは王都で買ってやった物語の本を、もう何度も何度も繰り返し読んでいる。
その熱中する姿は、本当に楽しそうで、見ている俺の心まで温かくなった。
「そんなに、その物語が好きなのか」
俺が何気なく尋ねると、リリアは夢中になっていた本から顔を上げた。
そして、こくりと深く頷いてみせる。
「うん、すごく面白いわ。ここには、私の知らない世界や色々な人たちの暮らしが描かれているから」
彼女はそう言うと、少しだけ遠くを見るような目をして続けた。
「私たちの村は、森から外に出ることがほとんどなかったの。だから本を読むと、まるで自分が旅をしているような気持ちになれるのよ」
「そうか、それならもっとたくさんの本が、この家にあったらいいな」
俺の言葉に、リリアはぱっと顔を輝かせた。
その無邪気な表情は、まるで宝物を見つけた子供のようだった。
「いいの、でも本はすごく高いって、村の大人たちが言っていたわ」
リリアは、少しだけ遠慮がちに言葉を紡いだ。
彼女のそういう優しい気遣いが、俺はとても好きだった。
「ははは、今の俺にはこの国で一番偉い王様がついている。だから、お金の心配はもうこれっぽっちもしなくていいんだよ」
俺は、リリアの頭を優しく撫でた。
そうだ、この子のために何か特別なものを作ってやろう。
この子の尽きることのない好奇心を、満たしてやれるような最高の贈り物を。
「よし、決めたぞ。リリアのために、この家にもっとすごい図書館を作ってやる」
「え、図書館ですって」
リリアが、信じられないといった様子で目を見開いている。
ルナも、図書館という言葉が何のことか分からず、俺と姉の顔を交互に見上げた。
「ああ、世界中のあらゆる本を集めた、君だけのための特別な図書館だ。まずは、その大切な本をしまうための、世界一の本棚から作るとしようか」
俺はそう宣言すると、すぐに作業場へと向かった。
どんな本棚にするか、頭の中で具体的な設計図を組み立てていく。
ただ頑丈で、たくさん本が入るだけの本棚では全く面白くない。
俺のスキルを使うのだから、誰も見たことがないような魔法の仕掛けを加えたい。
「そうだ、読みたい本の名前を言うと、その本が自動で手元まで滑り出てくる仕組みはどうだろうか」
俺がそう呟くと、いつの間にか後ろからついてきていたリリアが、驚きの声を上げた。
「そんなこと、本当にできるの。まるで、物語に出てくる魔法みたいだわ」
「もちろんさ、俺のスキルにかかればな。お前たちが喜ぶ顔を、見るのが俺の一番の楽しみなんだから」
俺は、砦の倉庫に大切に保管していた巨大な月光樹の木材を運び出した。
これは、希望の橋の建設で余った、最高級の素材だ。
その神秘的な木材に、俺はゆっくりと両手を触れる。
そして、体中の魔力を指先に集中させた。
「『創造(木工)』、我がイメージを形にしろ」
俺の魔力に反応して、銀色に輝く月光樹が淡い光を放ち始めた。
巨大な木材が、まるで柔らかい粘土のように形を変えていく。
まずは、本棚の大きな枠組みからだ。
天井に届くほどの高さで、ログハウスの壁一面を覆う巨大なものになる予定だ。
それは、もはや家具ではなく、建築物と呼ぶ方がふさわしいかもしれない。
「ねえルーク、本棚のデザインだけど、一番上のところにお星様の形を彫るのはどうかしら。夜になったら、キラキラ光るの」
「るなは、お花の模様がいいな。私と、リリアのお花を彫ってほしいな」
リリアとルナが、瞳を輝かせながら楽しそうにアイデアを出してくれた。
俺は、二人の素晴らしい意見を取り入れて設計を少し変更する。
本棚の上部には、大小様々な星の彫刻を施すことにした。
そして、棚の両側の柱には、可愛らしい二輪の花が仲良く寄り添い、蔓を伸ばしているデザインを彫り込む。
姉妹の絆を、象徴するような美しい模様だ。
製作は、驚くほどの集中力で数時間で完了した。
ログハウスの、ただの木の壁だった場所が、まるごと芸術品のような本棚へと生まれ変わっていた。
月光樹の銀色の木肌が、部屋の中のランプの明かりを優しく反射する。
その輝きは、キラキラと幻想的な光景を作り出していた。
「すごい、すごいわルーク。まるで、賢者が住む塔の書斎みたいだわ」
リリアが、うっとりとした表情で完成した本棚を隅から隅まで見上げている。
その瞳は、星空のようにきらめいていた。
「これから、一番大事な仕掛けを作るぞ」
俺は、本を収納する棚の一つ一つに、特殊な魔術回路を木の表面に直接刻み込んでいった。
これは、人の声に含まれる魔力の波長に反応させるための仕組みだ。
棚板がわずかに傾き、本を滑り出させるための、非常に高度な技術を要する。
少しでも気を抜けば、回路はうまく機能しないだろう。
俺は、息を止めて魔力の制御に全神経を集中させた。
まるで、細い糸を針に通すような、繊細な作業が続く。
全ての棚に、魔術回路を組み込み終える。
「よし、これで本当に完成だ。リリア、何か好きな本の名前を言ってみてくれ」
「え、ええと。じゃあ、私が一番好きな『星の海の冒険』をお願いします」
リリアが、少しだけ緊張した面持ちで、お気に入りの本の題名を言った。
すると、本棚の中段あたりに収められていた一冊の本が、するすると音もなく前に滑り出てきた。
そして、リリアが手を伸ばしやすい位置で、ぴたりと優雅に停止する。
「「わあああああっ!」」
リリアとルナが、同時に魔法を目の当たりにしたかのような、素直な歓声を上げた。
その声は、驚きと喜びに満ちていた。
「本当だわ、本が自分で出てきた。私の声に応えてくれたのね」
「すごーい、お話する本棚さんだね。こんにちは」
二人は、興奮した様子で次々といろんな本の名前を言ってみる。
そのたびに、本棚は一冊も間違えることなく、正確に目的の本を差し出した。
その光景は、本当に魔法そのものだった。
まるで、本棚に命が宿ったかのようだ。
俺が作った魔法の本棚に、三人はすっかり夢中になっていた。
夕方になり、砦の門を叩く音が力強く響き渡る。
バルトロさんが、たくさんの荷物を積んだ大きな馬車で訪ねてきてくれたのだ。
「やあルーク君、頼まれていた本を山というほど持ってきたぞ」
バルトロさんは、荷台に山積みにされた大きな木箱を指差して豪快に笑った。
その中には、俺が彼に特別に頼んでおいた、様々な種類の本がぎっしりと詰まっている。
子供向けの物語の本から、歴史や科学についての難しい専門書まであった。
ルナのために、可愛らしい動物の絵がたくさん描かれた絵本もたくさんある。
その数は、小さな町の図書館にも匹敵するほどだろう。
「すごい量ですね、本当にありがとうございますバルトロさん」
「なに、これくらいお安い御用さ。それより、なんだこのとんでもない本棚は」
バルトロさんは、家の中に入るとすぐに俺が作った本棚の存在に気づいた。
そして、その圧倒的な存在感と神々しいまでの美しさに、完全に言葉を失っている。
「こ、これは、君が作ったのかね。信じられん、王城の宝物庫にあるどんな国宝よりも素晴らしいじゃないか」
彼は、大商人としての鋭い目利きで、この本棚の計り知れない価値を一瞬で見抜いたようだ。
その目は、驚愕と興奮で大きく見開かれていた。
俺は、バルト
ロさんに本棚の魔法の仕掛けを実演して見せた。
声に反応して本が滑り出てくる様子を見て、彼は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「神よ、君という男は一体どこまで我々を驚かせれば気が済むのだ。これはもはや、家具などという次元のものではないぞ」
その日の夜、俺たちはバルトロさんが持ってきてくれた新しい本を、完成したばかりの本棚に丁寧に並べていった。
空っぽだった棚が、色とりどりの美しい背表紙で埋まっていく。
それは、まるで知識の森がこの家に生まれる瞬間のようだった。
一冊一冊が、未知の世界への扉に見える。
リリアは、早速新しい歴史書を手に取ると、夢中になって読みふけっている。
その真剣な横顔は、まるで小さな学者のようにも見えた。
彼女の知的好奇心は、底なし沼のようだ。
ルナは、森の動物たちがたくさん出てくる可愛らしい絵本を見つけてきた。
そして、俺の膝の上にちょこんと座る。
「ルーク、これよんでほしいな」
甘えた声で、そうせがんできた。
その可愛らしいおねだりに、俺が断れるはずもない。
「はいはい、分かったよ。どれどれ、どんなお話かな」
俺は、ルナを膝に乗せたまま、絵本のページをゆっくりと開いた。
暖炉の火が、ぱちぱちと優しく心地よい音を立てている。
リリアが、時折本のページをめくる、かすかな音も聞こえてきた。
穏やかで、満ち足りた時間が流れていく。
「むかしむかし、あるところに、一匹の小さなリスがいました」
俺が、優しい声で絵本を読み始める。
ルナは、物語の世界にすっかり引き込まれたように、静かに耳を傾けていた。
そんな幸せな時間が、俺は何よりも好きだった。
この温かな日常が、どうか永遠に続けばいいと心の底から思う。
俺は、ルナの柔らかな銀色の髪を撫でながら、ゆっくりと物語の続きを読んでいった。
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