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彼の描いてくれた地図は、驚くほど正確なものでした。
『主様、この地図の通りに飛びましたら、本当に月光草を見つけることができました』
数日後、南の霊峰から帰還したフィリアが、興奮した声で報告してくれます。
彼女のくちばしには、月の光のように淡く輝く、小さな種がいくつか大切にくわえられていました。
「まあフィリア、ありがとうございます。さぞ大変だったでしょう」
『いえ、主様のお役に立てるのでしたら、これくらいのことは平気です』
フィリアは、誇らしそうに胸を張って言いました。
私は、彼女から受け取った貴重な種を、そっと手のひらの上に乗せます。
種は、じんわりと温かく、不思議な力を秘めているのが分かりました。
私は、早速その種に【清浄】の力を注ぎ込みます。
すると種は、さらに強い輝きを放ち始めました。
まるで、眠っていた力が、完全に目を覚ましたかのようです。
『おお、これは素晴らしいですな。主殿の力は、素材の持つ力を、最大限まで引き出す効果があるようです』
ホーウェルさんが、感心したように言いました。
私のスキルには、ただ浄化するだけでない、そんな特別な力もあったのですね。
私は、ノームの若者と一緒に、その種を薬草園の特別な一角に丁寧に植えました。
水の精霊に頼んで、清らかな水をたっぷりと撒いてもらいます。
きっと、この種は元気に芽を出し、素晴らしい薬草に育ってくれるでしょう。
グレンも、火山の火口近くで、太陽の雫という薬草を見つけてきてくれました。
それは、太陽の光を固めたような、真っ赤な実をつける薬草でした。
こうして私の薬草園には、世界中から集めた伝説級の薬草が、次々と植えられていきました。
その光景は、まさに奇跡の庭園と呼ぶにふさわしいものです。
私は、毎日薬草園の手入れをするのが、新しい日課になりました。
薬草たちが、日に日に成長していくのを見るのは、とても楽しいことです。
私の聖なる力と、精霊たちの祝福を受けて、薬草たちは驚くべき速さで育っていきました。
その頃、アステリア王国の王城では、聖女ミレイがますます追い詰められていました。
「ミレイ、まだ何の成果も出せぬのか。この役立たずが」
アルフォンス王太子は、日に日にミレイへの当たりを強くしていきます。
彼のいら立ちは、もう頂点に達していたのです。
エリアーナとの取引で、聖水は定期的に手に入ります。
しかし、それは彼のプライドを、ひどく傷つけるものでした。
民衆が、森の聖女エリアーナを褒めたたえる声を聞くたびに、彼は屈辱で気が狂いそうになります。
「も、申し訳ございません。ですが、私には豊穣の奇跡など起こせません」
「言い訳は聞きたくないと、言ったはずだ」
アルフォンスは、近くにあった高価な壺を、壁に投げつけて粉々に砕きました。
その大きな音に、ミレイの肩がびくりと震えます。
「いいかミレイ、次が最後の機会だ。もしエリアーナを超える奇跡を、民衆の前で見せられなければ追放するぞ」
「そ、そんなことは」
ミレイの顔から、さっと血の気が引きました。
この国を追放されるということは、彼女にとって死を意味するも同然です。
元の世界に帰る方法など、彼女は知りません。
この贅沢な暮らしと、聖女という地位を失えば、彼女には何も残らないのです。
「お待ちください殿下、必ず、必ず奇跡を起こしてみせます」
ミレイは、必死にアルフォンスの足元にすがりつきました。
彼女の瞳には、もはや正気の色はありませんでした。
追い詰められた人間は、時に、とんでもない行動に出るものです。
その夜、ミレイは、王城の禁書庫に忍び込みました。
そして、一冊の古びた魔導書を、手に入れます。
その表紙には、不気味な文字でこう記されていました。
『大地の生命を喰らう、禁断の豊穣魔法』
それは、土地に眠る生命エネルギーを、無理やり吸い上げて作物に注ぐという、古代の邪悪な魔法でした。
一時的には、驚くほどの豊作をもたらします。
しかし生命力を奪われた大地は、その後、百年は草木も生えない死の大地と化します。
ミレイは、その魔法の危険性を十分に理解していました。
でも、今の彼女には、他に選択肢はありませんでした。
「エリアーナ、あなたが、私をここまで追い詰めたのですよ」
彼女は、魔導書を胸に抱きしめ、暗い笑みを浮かべます。
「見てなさい、あなたの奇跡なんか、すぐに忘れさせてあげます」
王国の未来に、また一つ、大きな災いの種が蒔かれようとしていました。
私の森は、そんな王国の不穏な空気など、全く知らないかのように平和です。
薬草園の薬草たちも、すくすくと成長していました。
そしてある日、月光草が、初めて美しい花を咲かせたのです。
その花びらは、月の光を集めたかのように、淡い銀色に輝いています。
夜になると、花全体が、ほのかに光を放ちました。
その幻想的な美しさに、森の誰もが見とれてしまいます。
「ホーウェルさん、この花を、いよいよ薬として使えるのでしょうか」
『うむ、見事に咲きましたな。この花びらを乾燥させて粉にすれば、どんな傷にも効く万能薬が作れるはずです』
ホーウェルさんの言葉に、私の胸は高鳴りました。
私は、早速ホーウェルさんに教わりながら、初めてのポーション作りに挑戦します。
ノームが作ってくれた、立派な調合室。
そこには、ガラス製のビーカーやフラスコが、綺麗に並べられています。
私は、収穫した月光草の花びらを、石臼で丁寧にすり潰していきました。
そして、聖なる泉の水を加えて、ゆっくりと煮詰めていきます。
最後に、私の【清浄】の力をそっと注ぎ込みました。
すると、鍋の中の液体が、美しい虹色に輝き始めたのです。
やがて輝きが収まると、そこには透き通った銀色の液体が残っていました。
「できたわ、初めてのポーションです」
私は、完成したポーションを、小さなガラス瓶に詰めます。
その時でした。
グリフォンのフィリアが、慌てた様子で調合室に飛び込んできたのです。
『主様、大変です。森の外れの村で、重い病気の子供がいるとの知らせがありました』
「なんですって」
フィリアの話によると、その村は森の南にある、小さな貧しい村だそうです。
最近、原因不明の熱病が流行り始めました。
特に、体の弱い子供たちが、次々と倒れているというのです。
王都から届く聖水は、量が限られています。
それに、貴族や裕福な商人たちが、優先的に手に入れてしまうのでしょう。
こんな辺境の村まで、十分に行き渡っていなかったのです。
村人たちは、万策尽きて、森の聖女の噂に最後の望みを託しました。
そして村の代表者が、森の入り口で必死に祈りを捧げていたのを、フィリアが見つけたのでした。
私の心は、すぐに決まります。
「私、その村へ行きます」
私の言葉に、周りにいた仲間たちが、少しだけざわつきました。
『主様、しかし、王国との約束があります』
グレンが、心配そうに言います。
森から、決して出ないという約束。
それを破れば、アルフォンス殿下が、また何を言ってくるか分かりません。
「ええ、分かっています。だから、誰にも気づかれぬように、こっそりと行くだけです」
私は、みんなを安心させるように、にっこりと微笑みました。
「目の前に、助けを求める人がいるのに、見過ごすことなどできません」
私の、強い決意を感じ取ってくれたのでしょう。
仲間たちは、もう何も言いませんでした。
ただ、その瞳で、私を力強く応援してくれています。
「ルーン、一緒に行ってくれますね」
「わふん!」
ルーンが、頼もしい声で一声鳴きました。
私は、完成したばかりのポーションを、数本ポーチに入れます。
そしてシルフたちに頼んで、私の姿が見えにくくなる、風の魔法をかけてもらいました。
初めて、自分の意志で、森の外の世界へと足を踏み出します。
私は、ルーンと共に、病に苦しむ子供が待つ村へと、静かに歩き始めました。
『主様、この地図の通りに飛びましたら、本当に月光草を見つけることができました』
数日後、南の霊峰から帰還したフィリアが、興奮した声で報告してくれます。
彼女のくちばしには、月の光のように淡く輝く、小さな種がいくつか大切にくわえられていました。
「まあフィリア、ありがとうございます。さぞ大変だったでしょう」
『いえ、主様のお役に立てるのでしたら、これくらいのことは平気です』
フィリアは、誇らしそうに胸を張って言いました。
私は、彼女から受け取った貴重な種を、そっと手のひらの上に乗せます。
種は、じんわりと温かく、不思議な力を秘めているのが分かりました。
私は、早速その種に【清浄】の力を注ぎ込みます。
すると種は、さらに強い輝きを放ち始めました。
まるで、眠っていた力が、完全に目を覚ましたかのようです。
『おお、これは素晴らしいですな。主殿の力は、素材の持つ力を、最大限まで引き出す効果があるようです』
ホーウェルさんが、感心したように言いました。
私のスキルには、ただ浄化するだけでない、そんな特別な力もあったのですね。
私は、ノームの若者と一緒に、その種を薬草園の特別な一角に丁寧に植えました。
水の精霊に頼んで、清らかな水をたっぷりと撒いてもらいます。
きっと、この種は元気に芽を出し、素晴らしい薬草に育ってくれるでしょう。
グレンも、火山の火口近くで、太陽の雫という薬草を見つけてきてくれました。
それは、太陽の光を固めたような、真っ赤な実をつける薬草でした。
こうして私の薬草園には、世界中から集めた伝説級の薬草が、次々と植えられていきました。
その光景は、まさに奇跡の庭園と呼ぶにふさわしいものです。
私は、毎日薬草園の手入れをするのが、新しい日課になりました。
薬草たちが、日に日に成長していくのを見るのは、とても楽しいことです。
私の聖なる力と、精霊たちの祝福を受けて、薬草たちは驚くべき速さで育っていきました。
その頃、アステリア王国の王城では、聖女ミレイがますます追い詰められていました。
「ミレイ、まだ何の成果も出せぬのか。この役立たずが」
アルフォンス王太子は、日に日にミレイへの当たりを強くしていきます。
彼のいら立ちは、もう頂点に達していたのです。
エリアーナとの取引で、聖水は定期的に手に入ります。
しかし、それは彼のプライドを、ひどく傷つけるものでした。
民衆が、森の聖女エリアーナを褒めたたえる声を聞くたびに、彼は屈辱で気が狂いそうになります。
「も、申し訳ございません。ですが、私には豊穣の奇跡など起こせません」
「言い訳は聞きたくないと、言ったはずだ」
アルフォンスは、近くにあった高価な壺を、壁に投げつけて粉々に砕きました。
その大きな音に、ミレイの肩がびくりと震えます。
「いいかミレイ、次が最後の機会だ。もしエリアーナを超える奇跡を、民衆の前で見せられなければ追放するぞ」
「そ、そんなことは」
ミレイの顔から、さっと血の気が引きました。
この国を追放されるということは、彼女にとって死を意味するも同然です。
元の世界に帰る方法など、彼女は知りません。
この贅沢な暮らしと、聖女という地位を失えば、彼女には何も残らないのです。
「お待ちください殿下、必ず、必ず奇跡を起こしてみせます」
ミレイは、必死にアルフォンスの足元にすがりつきました。
彼女の瞳には、もはや正気の色はありませんでした。
追い詰められた人間は、時に、とんでもない行動に出るものです。
その夜、ミレイは、王城の禁書庫に忍び込みました。
そして、一冊の古びた魔導書を、手に入れます。
その表紙には、不気味な文字でこう記されていました。
『大地の生命を喰らう、禁断の豊穣魔法』
それは、土地に眠る生命エネルギーを、無理やり吸い上げて作物に注ぐという、古代の邪悪な魔法でした。
一時的には、驚くほどの豊作をもたらします。
しかし生命力を奪われた大地は、その後、百年は草木も生えない死の大地と化します。
ミレイは、その魔法の危険性を十分に理解していました。
でも、今の彼女には、他に選択肢はありませんでした。
「エリアーナ、あなたが、私をここまで追い詰めたのですよ」
彼女は、魔導書を胸に抱きしめ、暗い笑みを浮かべます。
「見てなさい、あなたの奇跡なんか、すぐに忘れさせてあげます」
王国の未来に、また一つ、大きな災いの種が蒔かれようとしていました。
私の森は、そんな王国の不穏な空気など、全く知らないかのように平和です。
薬草園の薬草たちも、すくすくと成長していました。
そしてある日、月光草が、初めて美しい花を咲かせたのです。
その花びらは、月の光を集めたかのように、淡い銀色に輝いています。
夜になると、花全体が、ほのかに光を放ちました。
その幻想的な美しさに、森の誰もが見とれてしまいます。
「ホーウェルさん、この花を、いよいよ薬として使えるのでしょうか」
『うむ、見事に咲きましたな。この花びらを乾燥させて粉にすれば、どんな傷にも効く万能薬が作れるはずです』
ホーウェルさんの言葉に、私の胸は高鳴りました。
私は、早速ホーウェルさんに教わりながら、初めてのポーション作りに挑戦します。
ノームが作ってくれた、立派な調合室。
そこには、ガラス製のビーカーやフラスコが、綺麗に並べられています。
私は、収穫した月光草の花びらを、石臼で丁寧にすり潰していきました。
そして、聖なる泉の水を加えて、ゆっくりと煮詰めていきます。
最後に、私の【清浄】の力をそっと注ぎ込みました。
すると、鍋の中の液体が、美しい虹色に輝き始めたのです。
やがて輝きが収まると、そこには透き通った銀色の液体が残っていました。
「できたわ、初めてのポーションです」
私は、完成したポーションを、小さなガラス瓶に詰めます。
その時でした。
グリフォンのフィリアが、慌てた様子で調合室に飛び込んできたのです。
『主様、大変です。森の外れの村で、重い病気の子供がいるとの知らせがありました』
「なんですって」
フィリアの話によると、その村は森の南にある、小さな貧しい村だそうです。
最近、原因不明の熱病が流行り始めました。
特に、体の弱い子供たちが、次々と倒れているというのです。
王都から届く聖水は、量が限られています。
それに、貴族や裕福な商人たちが、優先的に手に入れてしまうのでしょう。
こんな辺境の村まで、十分に行き渡っていなかったのです。
村人たちは、万策尽きて、森の聖女の噂に最後の望みを託しました。
そして村の代表者が、森の入り口で必死に祈りを捧げていたのを、フィリアが見つけたのでした。
私の心は、すぐに決まります。
「私、その村へ行きます」
私の言葉に、周りにいた仲間たちが、少しだけざわつきました。
『主様、しかし、王国との約束があります』
グレンが、心配そうに言います。
森から、決して出ないという約束。
それを破れば、アルフォンス殿下が、また何を言ってくるか分かりません。
「ええ、分かっています。だから、誰にも気づかれぬように、こっそりと行くだけです」
私は、みんなを安心させるように、にっこりと微笑みました。
「目の前に、助けを求める人がいるのに、見過ごすことなどできません」
私の、強い決意を感じ取ってくれたのでしょう。
仲間たちは、もう何も言いませんでした。
ただ、その瞳で、私を力強く応援してくれています。
「ルーン、一緒に行ってくれますね」
「わふん!」
ルーンが、頼もしい声で一声鳴きました。
私は、完成したばかりのポーションを、数本ポーチに入れます。
そしてシルフたちに頼んで、私の姿が見えにくくなる、風の魔法をかけてもらいました。
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