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私の「世界一の製鉄所を創る」という宣言に、集会所は一瞬、水を打ったように静まり返った。
ガンツも、ボリンたち職人も、皆が呆気にとられた顔で私を見ている。無理もないだろう。製鉄所の建設は、通常であれば国家規模の一大事業だ。それをこんな辺境の、小さな村で始めると言うのだから、正気を疑われても仕方がなかった。
最初に沈黙を破ったのは、やはり鍛冶職人のボリンだった。彼はその大きな体を乗り出し、興奮と疑念が入り混じった声で尋ねてきた。
「せ、製鉄所、ですかい?エリアーナ様。そりゃあ俺たちにとっちゃ願ってもない話ですが……。無茶だ。製鉄には質の良い鉄鉱石と、山を一つ丸裸にするほどの莫大な木炭、そして巨大な溶鉱炉が必要になりやす。この土地に、それだけの資源が本当にあるんで……?」
彼の疑問はもっともだった。従来の製鉄法では、森林を伐採して大量の木炭を作り、それを使って鉄鉱石を還元する必要がある。環境への負荷も大きく、コストも計り知れない。
しかし、私の考えている方法はそれとは全く異なるものだった。
「ええ、ボリン。あなたの言う通り、従来の製法では難しいでしょう。ですが、私たちにはこの土地ならではの圧倒的な利点があります」
私は立ち上がると、集会所の床に手を触れて創成魔法を発動させた。土が静かに盛り上がり、みるみるうちにこの辺り一帯の立体的な地形図が形成されていく。村の位置、森、川の流れ、そして……。
「まず、鉄鉱石。この村の東にあるあの岩山を見てください。あそこには不純物が極めて少ない、最高品質の鉄鉱石がほぼ無限と言っていいほど眠っています」
私は地形図のとある一点を指し示した。ボリンと石工のヒューゴが、食い入るようにそれを見つめている。
「次に、燃料です。私たちは木炭を一切使いません。その代わり、この大地の熱そのものを使います」
私は地形図の下、深い地層の部分を淡く光らせた。そこには温泉の源泉ともなっている、巨大なマグマ溜まりが描かれている。
「このマグマの熱を直接利用し、鉄鉱石を溶かすのです。これならば森林を伐採する必要もありません。そして従来の溶鉱炉では決して到達できないほどの高温を、安定して得ることができます」
私の説明に、職人たちは息を呑んだ。彼らの頭の中では、これまでの常識が根底から覆されようとしていた。大地の熱で鉄を溶かすなど、まるで神話の世界の話だ。
「そ、そんな馬鹿なことが……本当に可能なんで……?」
大工のラルスが、信じられないといった様子で呟く。
「可能です。そのための特別な溶鉱炉を、これから皆さんと一緒に創り上げます」
私は再び創成魔法を使い、今度は新しい溶鉱炉の精密な模型をその場に創り出した。それは彼らが見慣れたものとは全く違う、白く輝く塔のような形をしていた。地中深くから熱を取り込むための導管、超高温に耐えるために特殊なセラミックレンガで覆われた炉、そして不純物を効率的に取り除くための仕組み。その全てが私の知識と、この世界の物理法則に基づいて緻密に計算され尽くした設計だった。
「こ、これは……なんという構造だ……!熱の循環、空気の送り込み方、全てが合理的で一切の無駄がない……!まるで神が設計したみてえだ……!」
ボリンは模型にかじりつくようにして見入り、その目に狂気にも似た輝きを宿していた。職人としての彼の魂が、この革新的な技術に激しく揺さぶられているのが分かった。
「ヒューゴ、あなたにはこの炉の基礎と外壁の建設を。ラルス、あなたには足場や周辺施設の建設をお願いします。そしてボリン、あなたには炉の心臓部と、全体の監修を任せます。ガンツ、あなたは資材の管理と、人員の配置をお願いします」
私がそれぞれの役割を告げると、彼らは皆、引き締まった表情で力強く頷いた。
「「「はっ!お任せください!」」」
彼らの目にはもはや疑念の色はなかった。あるのは歴史的な事業に携わることへの興奮と、私に対する絶対的な信頼だけだった。
翌日から、製鉄所の建設は驚異的なスピードで始まった。場所は鉄鉱石が採掘できる岩山の麓に定められた。
まずはヒューゴ率いる石工たちが、私の創り出した設計図通りに寸分の狂いもなく基礎を築いていく。彼らの熟練した技術は、まさに芸術の域に達していた。
並行して、ラルス率いる大工たちが巨大な木材を巧みに組み上げ、建設のための足場や作業員たちのための宿舎を建設していく。村人たちも、元騎士団のメンバーも皆がこの一大事業に参加し、現場は常に活気に満ちていた。
そして建設の中心にいたのがボリンだ。彼は寝る間も惜しんで、私が創成魔法で作り出した特殊なセラミックレンガの性質を調べ、最も効率的な積み方を研究していた。彼の職人としての探求心と情熱は周囲の者たちにも伝播し、現場全体の士気を高めていた。
私は全体の指揮を執りながら、彼らが必要とする資材や道具を創成魔法で次々と創り出していった。高温に耐える特殊な金属の工具、重い資材を軽々と持ち上げるための簡易的なクレーン、そして作業員たちのための栄養満点の食事。私の力はこの国造りにおいて、まさに万能の潤滑油として機能していた。
『主よ、人間とは面白いものだな。目的を与えられると、これほどまでに輝くのか』
建設現場を見下ろす丘の上で、私の隣に座るシラスが感心したように言った。
「ええ、本当に。彼らは今、自分たちの手で未来を創っている。その実感こそが何よりの力になるのよ」
建設が始まってから、わずか一月が過ぎた。岩山の麓には、まるで天を突くかのような巨大で異様な建造物がその姿を現していた。白亜のセラミックレンガで覆われたその姿は、溶鉱炉というよりは神殿のようにも見える。
そしてついに、製鉄所が完成の日を迎えた。
完成式典にはヴァイスランドの住民全員が集まった。誰もが目の前の巨大な建造物を見上げ、固唾を飲んでその瞬間を待っている。
「皆さん、長らくお待たせしました。これより、ヴァイスランド製鉄所に最初の火を入れます」
私がそう宣言すると、わあっ、という歓声が上がった。
私はボリンと共に、溶鉱炉の制御室へと入る。内部は地熱の影響でほんのりと暖かい。
「準備はいいですか、ボリン」
「へい、いつでも!エリアーナ様!」
彼の額には、玉のような汗が光っていた。
私は炉の中心にある制御盤に手を置き、創成魔法を発動させた。私の魔力が大地深くに眠るマグマ溜まりへと伸びていく。そしてその膨大な熱エネルギーを、慎重に少しずつ導管へと引き込み始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
大地が、わずかに震えた。溶鉱炉の内部から地鳴りのような音が響き渡る。炉の温度計がみるみるうちに上昇していくのが見えた。千度、千五百度、二千度……。従来の溶鉱炉では決して到達できない、未知の領域だ。
「炉内温度、安定しました!鉱石、投入します!」
ボリンが力強く叫んだ。彼の合図で待機していた作業員たちが、滑車を使って鉄鉱石を炉の上部から投入していく。最高品質の鉄鉱石が、灼熱の炉心へと吸い込まれていった。
私たちは息を詰めてその様子を見守った。炉の内部を覗くための特殊な耐熱ガラスの窓が、真っ赤に、そしてやがて白く輝き始める。鉄鉱石が瞬く間に溶けていくのが見えた。
数時間後。全ての工程が完了し、いよいよ溶けた鉄を取り出す時が来た。
ボリンが緊張した面持ちで、出湯口のレバーを引く。
ゴウッ、という音と共に、眩いばかりの光を放つ溶けた鉄の流れが姿を現した。それはまるで太陽のかけらのように輝き、鋳型へと注がれていく。不純物をほとんど含まない、完璧な溶鋼だった。
「「「おおおおおっ!!」」」
外で待っていた人々から、今日一番の歓声が上がった。
鋳型の中でゆっくりと冷やされていく鉄は、やがて美しい銀白色の輝きを放つ鋼の塊、インゴットとなった。
ボリンは、まだ熱を帯びているそのインゴットを万感の思いを込めたような手つきで掴むと、作業台の上に乗せ、ハンマーを振るい始めた。カン、カン、という小気味良い音が製鉄所に響き渡る。彼はその鋼の品質を、自らの腕で確かめているのだ。
やがて彼の巧みな技によって、一本の剣が打ち上がった。それは装飾など何もない、無骨な剣だった。しかしその刀身が放つ輝きは、これまで誰も見たことのないほど深く澄み切っていた。
ボリンはその剣を手に私の前に進み出ると、恭しく膝をついた。
「エリアーナ様。これが、このヴァイスランドで生まれた最初の鋼です。お受け取りください」
私はその剣を静かに受け取った。手に取ると驚くほど軽い。しかしその刀身からは、圧倒的なまでの強靭さが伝わってくる。
私は近くにあった石の塊に、剣を軽く振り下ろしてみた。
キィン、という甲高い音と共に、石は吸い込まれるように真っ二つに断ち切れた。剣の刃には、刃こぼれ一つない。
「すごい……なんという切れ味と強度だ……」
グレゴール隊長が、呆然と呟いた。騎士である彼には、この剣の価値が誰よりも良く分かったのだろう。
「これは、ただの鋼じゃねえ。伝説に謳われるミスリルやオリハルコンに匹敵する……いや、それ以上の代物だ!」
ボリンが興奮を隠しきれない様子で叫んだ。
その言葉は決して大袈裟なものではなかった。地熱を利用した高温精錬によって生み出されたこの鋼は、これまでの常識を覆す奇跡の金属だったのだ。
私は手の中の剣を高く掲げた。
「皆さん、見てください!これが私たちの力です!この鋼があれば、私たちはもっと良い農具を、もっと頑丈な家を、そして私たち自身を守るためのもっと強い武具を作ることができます!ヴァイスランドの未来は、今、この手の中にあります!」
私の宣言に、人々は熱狂的な歓声で応えた。
誰もがこの奇跡の金属の誕生を、そして自分たちの未来が無限の可能性に満ちていることを確信していた。
私は歓声に包まれながら、静かに思う。
ジュリアス殿下、ユナ。あなた方が私から奪ったのは、窮屈なだけの婚約者の地位だけでした。そしてあなた方が私に与えてくれたのは、この広大な大地と無限の可能性、そして何にも代えがたい信頼できる仲間たちです。
今の私には、あなた方への憎しみも未練も何一つありません。ただ感謝している。私をこの場所に解き放ってくれたことを。
私は手の中の剣をもう一度見つめた。
この輝きこそが、私の答えだ。私の国造りは、まだ始まったばかり。
これからこのヴァイスランドは、世界の誰もが目を見張るような素晴らしい国へと成長していくだろう。
その中心に、私は、そして私の仲間たちがいる。
私は隣に立つシラスの首筋にそっと手を置いた。
彼の黄金の瞳が、誇らしげに私を見つめ返してくる。
私たちはこれからも共に、この道を歩んでいくのだ。
ふと、ガンツが私のそばにやってきて、商人の目つきで言った。
「エリアーナ様。この鋼……もし他国に売れば、とんでもない富を築けますぞ」
彼の言葉に、私は微笑んで頷いた。
「ええ、その通りね。でも、売るのはまだ先。まずは私たちの国を豊かにするために使いましょう。全ての民がこの鋼の恩恵を受けられるように。まずはボリン。全ての農家に、この鋼で作ったクワとスキを配りたいの。お願いできるかしら?」
私の言葉に、ボリンは胸を叩いて答えた。
「へい、お任せを!最高の道具を打ってご覧にいれやす!」
その頼もしい返事を聞きながら、私の思考はすでに次の段階へと移っていた。この鋼の安定供給が可能になった今、次に整備すべきは物流だ。
ガンツも、ボリンたち職人も、皆が呆気にとられた顔で私を見ている。無理もないだろう。製鉄所の建設は、通常であれば国家規模の一大事業だ。それをこんな辺境の、小さな村で始めると言うのだから、正気を疑われても仕方がなかった。
最初に沈黙を破ったのは、やはり鍛冶職人のボリンだった。彼はその大きな体を乗り出し、興奮と疑念が入り混じった声で尋ねてきた。
「せ、製鉄所、ですかい?エリアーナ様。そりゃあ俺たちにとっちゃ願ってもない話ですが……。無茶だ。製鉄には質の良い鉄鉱石と、山を一つ丸裸にするほどの莫大な木炭、そして巨大な溶鉱炉が必要になりやす。この土地に、それだけの資源が本当にあるんで……?」
彼の疑問はもっともだった。従来の製鉄法では、森林を伐採して大量の木炭を作り、それを使って鉄鉱石を還元する必要がある。環境への負荷も大きく、コストも計り知れない。
しかし、私の考えている方法はそれとは全く異なるものだった。
「ええ、ボリン。あなたの言う通り、従来の製法では難しいでしょう。ですが、私たちにはこの土地ならではの圧倒的な利点があります」
私は立ち上がると、集会所の床に手を触れて創成魔法を発動させた。土が静かに盛り上がり、みるみるうちにこの辺り一帯の立体的な地形図が形成されていく。村の位置、森、川の流れ、そして……。
「まず、鉄鉱石。この村の東にあるあの岩山を見てください。あそこには不純物が極めて少ない、最高品質の鉄鉱石がほぼ無限と言っていいほど眠っています」
私は地形図のとある一点を指し示した。ボリンと石工のヒューゴが、食い入るようにそれを見つめている。
「次に、燃料です。私たちは木炭を一切使いません。その代わり、この大地の熱そのものを使います」
私は地形図の下、深い地層の部分を淡く光らせた。そこには温泉の源泉ともなっている、巨大なマグマ溜まりが描かれている。
「このマグマの熱を直接利用し、鉄鉱石を溶かすのです。これならば森林を伐採する必要もありません。そして従来の溶鉱炉では決して到達できないほどの高温を、安定して得ることができます」
私の説明に、職人たちは息を呑んだ。彼らの頭の中では、これまでの常識が根底から覆されようとしていた。大地の熱で鉄を溶かすなど、まるで神話の世界の話だ。
「そ、そんな馬鹿なことが……本当に可能なんで……?」
大工のラルスが、信じられないといった様子で呟く。
「可能です。そのための特別な溶鉱炉を、これから皆さんと一緒に創り上げます」
私は再び創成魔法を使い、今度は新しい溶鉱炉の精密な模型をその場に創り出した。それは彼らが見慣れたものとは全く違う、白く輝く塔のような形をしていた。地中深くから熱を取り込むための導管、超高温に耐えるために特殊なセラミックレンガで覆われた炉、そして不純物を効率的に取り除くための仕組み。その全てが私の知識と、この世界の物理法則に基づいて緻密に計算され尽くした設計だった。
「こ、これは……なんという構造だ……!熱の循環、空気の送り込み方、全てが合理的で一切の無駄がない……!まるで神が設計したみてえだ……!」
ボリンは模型にかじりつくようにして見入り、その目に狂気にも似た輝きを宿していた。職人としての彼の魂が、この革新的な技術に激しく揺さぶられているのが分かった。
「ヒューゴ、あなたにはこの炉の基礎と外壁の建設を。ラルス、あなたには足場や周辺施設の建設をお願いします。そしてボリン、あなたには炉の心臓部と、全体の監修を任せます。ガンツ、あなたは資材の管理と、人員の配置をお願いします」
私がそれぞれの役割を告げると、彼らは皆、引き締まった表情で力強く頷いた。
「「「はっ!お任せください!」」」
彼らの目にはもはや疑念の色はなかった。あるのは歴史的な事業に携わることへの興奮と、私に対する絶対的な信頼だけだった。
翌日から、製鉄所の建設は驚異的なスピードで始まった。場所は鉄鉱石が採掘できる岩山の麓に定められた。
まずはヒューゴ率いる石工たちが、私の創り出した設計図通りに寸分の狂いもなく基礎を築いていく。彼らの熟練した技術は、まさに芸術の域に達していた。
並行して、ラルス率いる大工たちが巨大な木材を巧みに組み上げ、建設のための足場や作業員たちのための宿舎を建設していく。村人たちも、元騎士団のメンバーも皆がこの一大事業に参加し、現場は常に活気に満ちていた。
そして建設の中心にいたのがボリンだ。彼は寝る間も惜しんで、私が創成魔法で作り出した特殊なセラミックレンガの性質を調べ、最も効率的な積み方を研究していた。彼の職人としての探求心と情熱は周囲の者たちにも伝播し、現場全体の士気を高めていた。
私は全体の指揮を執りながら、彼らが必要とする資材や道具を創成魔法で次々と創り出していった。高温に耐える特殊な金属の工具、重い資材を軽々と持ち上げるための簡易的なクレーン、そして作業員たちのための栄養満点の食事。私の力はこの国造りにおいて、まさに万能の潤滑油として機能していた。
『主よ、人間とは面白いものだな。目的を与えられると、これほどまでに輝くのか』
建設現場を見下ろす丘の上で、私の隣に座るシラスが感心したように言った。
「ええ、本当に。彼らは今、自分たちの手で未来を創っている。その実感こそが何よりの力になるのよ」
建設が始まってから、わずか一月が過ぎた。岩山の麓には、まるで天を突くかのような巨大で異様な建造物がその姿を現していた。白亜のセラミックレンガで覆われたその姿は、溶鉱炉というよりは神殿のようにも見える。
そしてついに、製鉄所が完成の日を迎えた。
完成式典にはヴァイスランドの住民全員が集まった。誰もが目の前の巨大な建造物を見上げ、固唾を飲んでその瞬間を待っている。
「皆さん、長らくお待たせしました。これより、ヴァイスランド製鉄所に最初の火を入れます」
私がそう宣言すると、わあっ、という歓声が上がった。
私はボリンと共に、溶鉱炉の制御室へと入る。内部は地熱の影響でほんのりと暖かい。
「準備はいいですか、ボリン」
「へい、いつでも!エリアーナ様!」
彼の額には、玉のような汗が光っていた。
私は炉の中心にある制御盤に手を置き、創成魔法を発動させた。私の魔力が大地深くに眠るマグマ溜まりへと伸びていく。そしてその膨大な熱エネルギーを、慎重に少しずつ導管へと引き込み始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
大地が、わずかに震えた。溶鉱炉の内部から地鳴りのような音が響き渡る。炉の温度計がみるみるうちに上昇していくのが見えた。千度、千五百度、二千度……。従来の溶鉱炉では決して到達できない、未知の領域だ。
「炉内温度、安定しました!鉱石、投入します!」
ボリンが力強く叫んだ。彼の合図で待機していた作業員たちが、滑車を使って鉄鉱石を炉の上部から投入していく。最高品質の鉄鉱石が、灼熱の炉心へと吸い込まれていった。
私たちは息を詰めてその様子を見守った。炉の内部を覗くための特殊な耐熱ガラスの窓が、真っ赤に、そしてやがて白く輝き始める。鉄鉱石が瞬く間に溶けていくのが見えた。
数時間後。全ての工程が完了し、いよいよ溶けた鉄を取り出す時が来た。
ボリンが緊張した面持ちで、出湯口のレバーを引く。
ゴウッ、という音と共に、眩いばかりの光を放つ溶けた鉄の流れが姿を現した。それはまるで太陽のかけらのように輝き、鋳型へと注がれていく。不純物をほとんど含まない、完璧な溶鋼だった。
「「「おおおおおっ!!」」」
外で待っていた人々から、今日一番の歓声が上がった。
鋳型の中でゆっくりと冷やされていく鉄は、やがて美しい銀白色の輝きを放つ鋼の塊、インゴットとなった。
ボリンは、まだ熱を帯びているそのインゴットを万感の思いを込めたような手つきで掴むと、作業台の上に乗せ、ハンマーを振るい始めた。カン、カン、という小気味良い音が製鉄所に響き渡る。彼はその鋼の品質を、自らの腕で確かめているのだ。
やがて彼の巧みな技によって、一本の剣が打ち上がった。それは装飾など何もない、無骨な剣だった。しかしその刀身が放つ輝きは、これまで誰も見たことのないほど深く澄み切っていた。
ボリンはその剣を手に私の前に進み出ると、恭しく膝をついた。
「エリアーナ様。これが、このヴァイスランドで生まれた最初の鋼です。お受け取りください」
私はその剣を静かに受け取った。手に取ると驚くほど軽い。しかしその刀身からは、圧倒的なまでの強靭さが伝わってくる。
私は近くにあった石の塊に、剣を軽く振り下ろしてみた。
キィン、という甲高い音と共に、石は吸い込まれるように真っ二つに断ち切れた。剣の刃には、刃こぼれ一つない。
「すごい……なんという切れ味と強度だ……」
グレゴール隊長が、呆然と呟いた。騎士である彼には、この剣の価値が誰よりも良く分かったのだろう。
「これは、ただの鋼じゃねえ。伝説に謳われるミスリルやオリハルコンに匹敵する……いや、それ以上の代物だ!」
ボリンが興奮を隠しきれない様子で叫んだ。
その言葉は決して大袈裟なものではなかった。地熱を利用した高温精錬によって生み出されたこの鋼は、これまでの常識を覆す奇跡の金属だったのだ。
私は手の中の剣を高く掲げた。
「皆さん、見てください!これが私たちの力です!この鋼があれば、私たちはもっと良い農具を、もっと頑丈な家を、そして私たち自身を守るためのもっと強い武具を作ることができます!ヴァイスランドの未来は、今、この手の中にあります!」
私の宣言に、人々は熱狂的な歓声で応えた。
誰もがこの奇跡の金属の誕生を、そして自分たちの未来が無限の可能性に満ちていることを確信していた。
私は歓声に包まれながら、静かに思う。
ジュリアス殿下、ユナ。あなた方が私から奪ったのは、窮屈なだけの婚約者の地位だけでした。そしてあなた方が私に与えてくれたのは、この広大な大地と無限の可能性、そして何にも代えがたい信頼できる仲間たちです。
今の私には、あなた方への憎しみも未練も何一つありません。ただ感謝している。私をこの場所に解き放ってくれたことを。
私は手の中の剣をもう一度見つめた。
この輝きこそが、私の答えだ。私の国造りは、まだ始まったばかり。
これからこのヴァイスランドは、世界の誰もが目を見張るような素晴らしい国へと成長していくだろう。
その中心に、私は、そして私の仲間たちがいる。
私は隣に立つシラスの首筋にそっと手を置いた。
彼の黄金の瞳が、誇らしげに私を見つめ返してくる。
私たちはこれからも共に、この道を歩んでいくのだ。
ふと、ガンツが私のそばにやってきて、商人の目つきで言った。
「エリアーナ様。この鋼……もし他国に売れば、とんでもない富を築けますぞ」
彼の言葉に、私は微笑んで頷いた。
「ええ、その通りね。でも、売るのはまだ先。まずは私たちの国を豊かにするために使いましょう。全ての民がこの鋼の恩恵を受けられるように。まずはボリン。全ての農家に、この鋼で作ったクワとスキを配りたいの。お願いできるかしら?」
私の言葉に、ボリンは胸を叩いて答えた。
「へい、お任せを!最高の道具を打ってご覧にいれやす!」
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