【奨励賞】元・地味な令嬢ですが、婚約破棄されたので聖獣と建国します~追放した王太子と聖女は、今さら私を求めないでください~

旅する書斎(☆ほしい)

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マーサが興奮気味に広げた布は、夜空そのものを切り取って織り上げたかのような神秘的な輝きを放っていた。深い藍色の生地の中に、まるで本物の星々のように銀色の粒子が無数にきらめいている。その手触りはルナシルク以上に滑らかで、信じられないほど軽くしなやかだった。

「これは……ルナシルクではないわね。マーサ、あなたまたとんでもないものを創り出したの?」

私の言葉に、マーサは誇らしげに、そして少しはにかんで頷いた。

「はい。エリアーナ様がドワーフの里から持ち帰られた、あの光る鉱石の糸。あれをルナシルクの繊維に特別な方法で織り込んでみたのです。すると布自体の魔力伝導率が飛躍的に高まり、このような星空のような輝きを放つようになりました」

私はその布を手に取り、自らの魔力を僅かに流し込んでみた。すると布は私の魔力に呼応するように、きらめきを一層強くした。まるで生きているかのようだ。

「すごいわ……。ただ美しいだけじゃない。この布は着用者の魔力を増幅させ、精神を安定させる効果もある。ルナシルクの性能をあらゆる面で上回っているわね」

「はい。ですので僭越ながら、この布に新しい名前を付けさせていただきました。『スターライトシルク』と」

「スターライトシルク……。素晴らしい名前ね、マーサ」

私は彼女の成し遂げた偉業を心から称賛した。彼女は私が与えたきっかけを元に、自身の探求心と技術でそれを遥かに超えるものを生み出したのだ。これこそが私がこの国で見たかった光景だった。

「このスターライトシルクがあれば、防衛隊の装備をさらに強化できるわ。鎧の下に着るインナーのほか、魔力を扱う者のローブや式典で使う礼服など、様々な用途が考えられる。マーサ、あなたにこのスターライトシルクの本格的な生産と、それを使った製品開発の責任者をお願いします」

「は、はいっ!お任せください、エリアーナ様!私の持てる全てを尽くします!」

マーサは目に熱いものを浮かべ、力強く答えた。彼女の背後には彼女を慕う多くの女性職人たちの姿が見える。ヴァイスランドの織物産業は、彼女を中心にこれから大きく発展していくだろう。

スターライトシルクの開発から数日後、南の砦の見張り台から待望の報告がもたらされた。
グレゴール隊長とガンツが、ドワーフの使節団を伴ってヴァイスランドの領内に入ったというのだ。

その報に村中が歓迎の熱気に包まれた。私はクラウスさんや職人たちの代表と共に、村の入り口で彼らの到着を今か今かと待ち構えていた。

やがて街道の向こうから一団の姿が見えてきた。先頭を歩くのはヴァイスランドの旗を掲げたグレゴール隊長と、どこか誇らしげな表情のガンツ。そしてその後ろに続くのは、紛れもないドワーフたちの一団だった。

その数はおよそ三十名。先頭に立つのは見覚えのある、豊かな白髭を揺らしたギムリ長老その人だった。彼の隣には燃えるような赤髭を持つ、一際屈強な体つきのドワーフが巨大な戦斧を肩に担いで歩いている。他のドワーフたちも皆、頑丈な革鎧と使い込まれた武具を身につけ、その佇まいは精強そのものだった。

彼らはシルヴァヌス号が走る線路や、整然と広がるヴァイス麦の畑、そして美しく整備された村の姿を目の当たりにして驚きの声を隠せないでいるようだった。

「おお……!これは、ガンツ殿から聞いていた以上ですな!なんと見事な村だ!」
ギムリ長老が感嘆の声を上げる。

一団が村の入り口に到着すると、私は代表して前に進み出た。

「ようこそ、ヴァイスランドへ。ギムリ長老、そして地潜り族の皆さん。心から歓迎いたします」

私がそう言って微笑むと、ギムリ長老もその厳めしい顔をほころばせた。

「おお、エリアーナ様!お久しゅうございますな。この度はご招待いただき誠に感謝いたします。我ら、この目であなた様の国を見せていただくのを楽しみにしておりましたぞ」

彼の隣にいた赤髭のドワーフが、私を値踏みするような目で見つめギムリ長老に尋ねた。

「長老、このお方がフェンリル様を従えるという……。思ったよりも随分と華奢なご様子だが」

その言葉には若干の疑念が混じっているように聞こえた。ドワーフは力の強さを尊ぶ種族だ。私の見た目が彼らの価値観とは少し異なっていたのかもしれない。

その時、私の背後からぬっと巨大な銀色の影が現れた。

『ボルガン、久しいな。我が主を、その濁った目で見定めるでない』

シラスが赤髭のドワーフ――ボルガンに向かって、威厳に満ちたテレパシーを送った。その圧倒的な存在感にボルガンは思わず息を呑み、そして慌ててその場に膝をついた。

「ふぇ、フェンリル様!ご無礼をお許しください!」

「ふふ、シラス、あまり怖がらせないであげて。ボルガン殿、ようこそ。あなたがグズ=ドゥーム一の戦士であり鍛冶師でもあると、ギムリ長老から伺っています。お会いできて光栄ですわ」

私が穏やかに声をかけると、ボルガンは顔を真っ赤にしながら立ち上がった。

「も、もったいないお言葉……!」

そのやり取りを見て、他のドワーフたちも私に対する見方を改めたようだった。彼らの目に確かな敬意の色が宿る。

私たちはドワーフの使節団を、完成したばかりの迎賓館へと案内した。彼らはその頑丈で快適な作りに感嘆の声を上げていた。

その夜、私たちは広場で盛大な歓迎の宴を開いた。
テーブルにはヴァイス麦のパン、ヴァイスランド鋼のフライパンで焼かれたジューシーな肉料理、そして私が温泉熱を利用して醸造した特別なエールが並ぶ。

「うまい!このパンも肉も、そしてこの酒も!全てが絶品だ!」
ボルガンが豪快にエールを飲み干し、満足げに叫んだ。

ドワーフたちは最初は少し緊張していたが、美味しい食事と酒、そして村人たちの温かいもてなしにすぐに打ち解けていった。
特にボリンとボルガンは、まるで昔からの親友のようにすぐに意気投合していた。

「ボルガン殿!あんたが打ったというその戦斧!見事なもんだ!その重心のバランス、そして刃の鋭さ!まさに名人芸だ!」

「ふん、お主こそボリンとやら。この酒杯、ヴァイスランド鋼とか言ったな。これほどの強度と軽さを両立させるなど信じられん!一体どういう製法なのだ!?」

二人は互いの作品を手に取り、熱く語り合っている。その周りにはヴァイスランドの職人たちとドワーフの職人たちが集まり、言葉は通じなくとも身振り手振りを交えながら楽しそうに技術談義に花を咲かせていた。

その光景を、私はギムリ長老と共に少し離れた場所から微笑ましく眺めていた。

「ギムリ長老。私たちの民とあなた方の民は、きっと良い友人になれますわ」

「うむ。私もそう確信いたしました。エリアーナ様、あなた様は本当に素晴らしい国を創られた。我らが数千年も引きこもっていた間に、地上にはこれほど希望に満ちた場所が生まれていたとはな」
ギムリ長老は感慨深げに呟いた。

宴が最高潮に達した頃、私は皆の注目を集めると、今回の使節団来訪の最大の目的を切り出した。

「皆さん、そしてギムリ長老。今日はあなた方にお見せしたいものがあります。私たちがこれから共に創り上げていきたい、未来の設計図です」

私は広場の中央に、創成魔法で巨大な立体模型を創り出した。それは先日私が構想した「地下大動脈計画」の完成予想図だった。

地上に広がるヴァイスランドの街並み。地下深くに存在する壮大なドワーフの都グズ=ドゥーム。そしてその二つを垂直に結ぶ巨大な昇降施設と、地下を縦横に走る魔導鉄道網。

そのあまりにも壮大で美しい光景に、その場にいた誰もが言葉を失って見入っていた。

「こ、これは……なんということだ……」
ギムリ長老が震える声で呟いた。

「地上と地下を一つに結ぶ……?そのようなこと、我らの祖先ですら考えもしなかった……」
ボルガンも呆然とその模型を見上げている。

「不可能だと、思いますか?」

私の問いに、ギムリ長老はゆっくりと首を横に振った。

「……いや。あなた様とあなた様の国の民、そして我らの技術があれば……あるいは可能やもしれん」

彼の目に、ドワーフという種族が忘れかけていた新たな創造への情熱の炎が、再び燃え上がっているのが分かった。

「素晴らしい……!実に素晴らしい計画だ!エリアーナ様!この計画、我ら地潜り族も全力で協力させていただくことをここに誓いましょう!」

ギムリ長老の力強い宣言に、他のドワーフたちも「おおっ!」と賛同の雄叫びを上げた。
ヴァイスランドの民からも割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
地上と地下。人間とドワーフ。二つの異なる種族が、一つの壮大な目標に向かって心を一つにした瞬間だった。

翌日、私は早速ギムリ長老やボルガン、そしてボリンやヒューゴたち両国の技術者のトップを集め、具体的な計画会議を開いた。
広げられた巨大な設計図を前に、専門家たちの間で熱い議論が交わされる。

「この昇降施設の巻き上げ機構だが、蒸気の力だけではこれほどの重量と深度を支えきれんかもしれん。ボルガン殿、あなた方のルーン刻印で機構の力を増幅させることは可能か?」
ボリンが技術的な問題点を指摘する。

「ふむ、面白いことを考える。重量を軽減させる『浮遊のルーン』と力を増幅させる『怪力のルーン』を組み合わせればあるいは……。だがそれほどのルーンを刻むには、相当に純度の高い魔力媒体が必要になるぞ」
ボルガンが腕を組んで唸る。

「その点は問題ありません」
私は会話に割って入った。
「私が地下世界で発見した、あの未知の金属鉱脈。あれを使いましょう。あれはヴァイスランド鋼以上に魔力伝導率が高い。さらに私がスターライトシルクで開発した技術を応用すれば、ルーンの力を最大限に引き出す新しい合金を創り出せるはずです」

私の言葉に、ボリンとボルガンの目が同時にカッと見開かれた。

「なんだと!?」
「そんなことが本当に可能なのか!?」
二人の声が綺麗に重なる。

私はにっこりと微笑み、設計図の上に新しい合金の分子構造モデルを創成魔法で描き出してみせた。
それはヴァイスランド鋼の頑強さ、ドワーフの鉱石が持つ魔力親和性、そしてスターライトシルクの繊維構造の柔軟性、その全てを兼ね備えたまさに奇跡の金属だった。

「この合金を『オリハルコン・アダマント』と名付けましょう。これを使えば私たちの計画は必ず実現できます」

私の宣言に、その場にいた全ての技術者がゴクリと唾を飲み込んだ。
彼らは自分たちが今、歴史を、いや神話そのものを創り出そうとしているのだという事実を肌で感じ取っていた。

ボルガンは床に広げられた設計図の上に身を乗り出すと、その節くれだった指で特定の箇所を力強く指し示した。

「エリアーナ様、この縦坑の掘削方法だが、ただ掘り進めるだけでは途中で岩盤の崩落や水脈の噴出に見舞われる危険性が高い。我らドワーフに伝わる古代の『地脈探査術』と、お主のその創成の力を組み合わせれば、より安全かつ迅速に掘り進める道筋を見つけ出せるはずだ。まずは地質調査隊を編成し、俺自らが隊長となってこの大穴の基点となる場所の選定から始めさせてもらいたい」

彼の提案は極めて実践的で理に適っていた。

「素晴らしい提案です、ボルガン殿。その任、あなたにお願いします。ヒューゴ、あなたも彼の補佐として調査隊に加わってください。石工としてのあなたの知識が必ず役に立つはずです」

「はっ!かしこまりました!」
ヒューゴも武者震いを抑えきれない様子で力強く頷いた。

会議はその後も夜更けまで続いた。
蒸気機関の専門家、歯車の専門家、建築の専門家、そしてルーン刻印の専門家。それぞれの分野の第一人者たちが種族の垣根を越えて、一つの目標のために知恵を出し合っている。

その光景は私が夢見ていた理想の国そのものだった。
様々な知識と技術が互いを尊重し融合し、そしてこれまで誰も成し遂げられなかった新しい価値を創造していく。
このヴァイスランドはもはや単なる辺境の領地ではない。世界の未来を創り出す巨大な実験工房へと変貌を遂げようとしていた。

その様子を部屋の隅でシラスが静かに見守っていた。彼の黄金の瞳はどこまでも優しく、そして誇らしげに私と私の仲間たちを映している。

「よし、では基本設計はこの方針で進めることにしよう。明日からは各部門に分かれて、より詳細な設計と必要な資材の洗い出しに入るぞ!」

ボリンの力強い声が会議の終わりを告げた。
職人たちは皆疲れているはずなのに、その顔は満足感とこれから始まる大事業への期待で生き生きと輝いていた。

翌朝、ボルガンとヒューゴが率いる地質調査隊が早速、縦坑の建設予定地へと出発していった。彼らの荷物の中には私が特別に創り出した、地中の構造を音波で探査する魔道具も含まれている。ドワーフの経験と私の技術が合わされば、きっと最適な場所を見つけ出してくれるだろう。

彼らを見送った後、私はガンツと共に市場の様子を視察して回ることにした。ドワーフたちが訪れたことで市場はいつも以上の賑わいを見せている。彼らはヴァイスランドの珍しい産物に興味津々のようだった。特にヴァイス麦で作ったパンやエールは、彼らの間で大人気となっていた。

「ガンツ、ドワーフたちとの交易も本格的に始めなければなりませんね」

「はい、エリアーナ様。彼らの持つ鉱物資源や工芸品は我々にとって非常に魅力的です。通貨の問題さえ解決できれば、すぐにでも大規模な取引が可能かと」

「通貨の問題、ですか?」

私の問いにガンツは頷いた。

「はい。我らが使う『ヴァイス』と彼らが使う通貨とでは価値の基準が異なります。まずはその交換レートを正式に定めなければ、公正な取引はできません」
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