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アルゴス号は、灼熱の風と火山灰が舞う赤い空を、慎重に降下していく。船体を覆うヴァイスランド鋼の装甲が、摂氏数百度の熱波から私たちを守っていた。
ブリッジのスクリーンには、周囲の地形が詳細に映し出されている。無数の火山が、まるで大地の牙のように天を突き上げていた。
その麓では真っ赤な溶岩が川となって流れている。この世の終わりのような光景だった。
「すげえ場所だな、おい。本当にこんなところに何かが眠ってんのか?」
ボリンが、感嘆とも呆れともつかない声を上げた。
「アークのセンサーは嘘をつきません。この地獄の中心にこそ、この星の心臓があるのです」
私は冷静に答えると、操縦桿を握るラルスに指示を出した。
「目標の中央火山から、約五キロ離れた比較的安定した岩盤の上に着陸します」
「そこをベースキャンプとして、探索を開始しましょう」
「了解しました、女王陛下!」
ラルスの巧みな操縦により、アルゴス号は巨大な黒曜石でできた平原に、静かに着陸した。船外に出る前に、私たちは全員、銀色の防護服『サラマンダースーツ』を身につける。
ヘルメットの気密性を確認し、背中に背負った小型の空気清浄機を起動させた。準備に抜かりはない。
「全員、準備はいいか!これより、人類未踏の地へと足を踏み入れる!気を引き締めていけ!」
グレゴール隊長が檄を飛ばす。彼の指揮のもと、防衛隊の精鋭たちも完璧な装備で整列していた。
プシュー、という音と共に、アルゴス号のハッチが開かれた。流れ込んできたのは、全てを焼き尽くすかのような熱風だ。
鼻を突く強烈な硫黄の匂いもした。
私たちは、一列になって灼熱の大地へと第一歩を踏み出した。足元の黒曜石は、目玉焼きが焼けるほどの熱を持っている。
しかし、サラマンダースーツのおかげで、その熱は全く感じなかった。
「うおお、本当に平気だぜ!快適そのものだ!」
ボルガンが、自分の足元を確かめるように何度か踏み鳴らし、満足げに言った。
「アーク、周辺の生命反応をスキャンして」
『了解。スキャンを開始します……。半径一キロ圏内に、複数の高エネルギー生命体の存在を確認』
アークが報告を続ける。
『彼らは、この灼熱の環境に完全に適応した、独自の進化を遂げた生物です』
報告と同時に、ヘルメットの内側に搭載されたディスプレイに、赤い光点が表示された。その光点は、かなりの速度で私たちの方へと接近してきている。
「敵が来るぞ!全員、戦闘準備!」
グレゴール隊長が号令をかける。防衛隊の兵士たちは、即座に円陣を組み、ヴァイスランド鋼の盾を構えた。
その盾の表面には、ボルガンが刻んだ冷却のルーンが、淡い青色の光を放っている。
やがて、地平線の向こうから、何かが陽炎のように揺らめきながら近づいてくるのが見えた。
それは、体長三メートルはあろうかという、巨大なトカゲの群れだった。
彼らの鱗は、まるで溶岩そのもののように赤黒く輝く。その口からは、絶えず炎が漏れ出していた。
「サラマンダーか!古文書で読んだことがある!炎の精霊獣だ!」
ボルガンが、その敵の正体に気づき、戦斧を握りしめた。
「グルルルルァァァァッ!」
サラマンダーの群れは、私たちを侵入者と認識したのだろう。一斉に威嚇の咆哮を上げた。
そして次の瞬間、その口から灼熱の火球をいくつも吐き出してきた。
「盾、構え!」
グレゴール隊長の指示で、兵士たちが盾を掲げる。火球は、冷却のルーンが張られた盾の壁に激突した。
爆発音と共に霧散する。盾は少し赤熱したが、兵士たちにダメージはない。
「怯むな!弓兵、攻撃開始!」
後方の兵士たちが、特殊な冷却矢をつがえ、一斉に放つ。ヒュン、という音と共に飛んでいった矢は、サラマンダーたちの硬い鱗に突き刺さった。
矢に込められた冷却の魔力が、彼らの体温を急激に奪っていく。
「ギャウッ!?」
体内の熱を奪われたサラマンダーたちは、苦しげな声を上げた。その動きが目に見えて鈍くなる。
「今だ!前衛、突撃!」
グレゴール隊長の号令一下、盾の壁が開かれた。剣と槍を手にした兵士たちが躍り出る。
ボルガンも、「うおおおおっ!」と雄叫びを上げながら、その巨大な戦斧を振りかぶった。一番大きなサラマンダーに襲いかかる。
ガキィン!
ボルガンの戦斧が、サラマンダーの頭部を叩き割った。しかし、相手もさるものだ。
死に際に、その巨大な尻尾を薙ぎ払い、ボルガンの体を吹き飛ばそうとした。
「させん!」
グレゴール隊長が、ボルガンの前に割って入り、その一撃を大盾で受け止める。凄まじい衝撃に彼の体は数メートル後退したが、倒れることはなかった。
「やるじゃねえか、隊長さんよ!」
「あなたこそ、無茶をしないでください、ボルガン殿!」
二人は、背中を合わせながら、不敵に笑う。人間とドワーフ、種族を超えた完璧な連携が、この灼熱の戦場で生まれていた。
私も、ただ見ているだけではなかった。
「創成魔法――『絶対零度の牢獄』!」
私は、両手を地面につけ、この大地の構造に干渉した。サラマンダーの群れがいる地面の温度を、一瞬にして絶対零度近くまで下げる。
灼熱の黒曜石が、瞬時に白い氷へと変化した。サラマンダーたちの足を凍りつかせる。
「なっ!?地面が凍った!?」
動きを完全に封じられたサラマンダーたちは、もはや防衛隊の兵士たちの敵ではなかった。
兵士たちの正確無比な剣と槍が、次々とサラマンダーたちの命を刈り取っていく。
『主よ、あちらからも来るぞ』
シラスが、低い声で警告した。見ると、私たちの背後にある溶岩の川から、新たな敵が出現していた。
それは、溶岩そのものでできた、巨大なゴーレムだった。その体からは、絶えずマグマが滴り落ちている。
その巨体は五メートルを優に超えていた。
「ラヴァ・ゴーレムか!厄介なやつが出てきたな!」
ボリンが、ゴーレムの姿を見て舌打ちした。
「あれは、物理攻撃がほとんど効かない。半端な攻撃は、その体で吸収してしまうからだ」
ラヴァ・ゴーレムは、その巨大な腕を振り上げ、私たちに向かって叩きつけてきた。
「全員、退避!」
グレゴール隊長が叫ぶ。私たちは、一斉にその場から飛び退いた。
ゴーレムの拳が叩きつけられた地面は、轟音と共に砕け散る。灼熱の破片が周囲に飛び散った。
「さて、どうしたものかしら」
私がそう呟いた時、マーサが私の隣に進み出てきた。彼女も、この探索チームに医療班として同行している。
彼女の手には、スターライトシルクで作られた、美しい弓が握られていた。
「女王陛下、私にお任せください。あのゴーレムの核、私には見えています」
マーサの瞳が、淡い光を放った。スターライトシルクの服が、彼女の持つ魔力を増幅させているのだ。
彼女には、魔力の流れを視覚的に捉える能力があった。
「分かったわ、マーサ。お願い」
マーサは、頷くと、特殊な素材で作られた一本の矢をつがえた。その矢の先端には、私がアークの技術で作った、小型のエネルギー圧縮カプセルが取り付けられている。
マーサは、静かに息を吸い、弓を引き絞った。彼女の集中力が高まり、その姿はまるで月の女神のようだ。
そして、放たれた矢は、一筋の銀色の閃光となった。ラヴァ・ゴーレムの胸の中心へと吸い込まれていく。
矢が命中した瞬間、ゴーレムの動きがぴたりと止まった。そして、次の瞬間、その体内から凄まじい光が溢れ出し、大爆発を起こす。
灼熱のマグマが、雨のように降り注いできた。
「創成魔法――『金剛の天蓋』!」
私は、頭上に巨大なドーム状の障壁を瞬時に創り出した。降り注ぐマグマから仲間たちを完璧に守る。
やがて、マグマの雨が止んだ。そこには、跡形もなく消し飛んだゴーレムと、静かに弓を下ろすマーサの姿があった。
「……すごい。マーサさん、あんた、そんな力があったのか」
ボリンが、呆然と呟いた。
マーサは、はにかんで微笑んだ。
「私も、ただ守られているだけではいたくありませんから」
彼女の成長もまた、この国の強さの証だった。
私たちは、最初の戦闘を、犠牲者ゼロで完璧に乗り切った。
仲間たちの顔には、疲労よりも大きな自信が満ち溢れている。
「よし、進むぞ!目的地は、あの中央火山だ!」
グレゴール隊長の号令で、私たちは再び歩き始めた。
いくつかの魔物の群れを退け、私たちはついに、目的の中央火山の麓へとたどり着く。
その山は、他の火山とは比べ物にならないほどの威容を誇っていた。山頂からは、天を焦がすかのような巨大な噴煙が絶えず立ち上っている。
山肌を無数の溶岩の滝が流れ落ちていた。
「アークの示す場所は、この山の内部……。どこかに入り口があるはずよ」
私たちは、山の周囲を探索し始めた。しばらくして、ヒューゴが巨大な岩壁の前で足を止める。
「女王陛下、ここです。この壁の向こうに、巨大な空洞が存在します」
「岩の密度が、ここだけ他と明らかに違います」
石工としての彼の目は、ごまかせない。
「分かったわ。ヒューゴ、下がっていて」
私は、その岩壁の前に立つと、両手を壁に触れた。
「創成魔法――『門よ、開け』」
私の魔力が、巨大な岩盤の分子構造に干渉する。ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、岩壁がまるで巨大な観音扉のように、左右にゆっくりと開いていった。
扉の向こう側には、下へと続く、広大な洞窟が口を開けていた。内部からは、マグマの熱気と、そして何か強大なエネルギーの波動が、ごうごうと吹き付けてくる。
「ここが、ガイアの心臓へと続く道……」
私たちは、顔を見合わせ、頷き合うと、その灼熱の洞窟へと、決意を固めて足を踏み入れた。内部は、まるで巨大な生物の体内のように、赤い光が壁面を脈打つように明滅している。
道は、下へ下へと続いていた。時折、横穴から強力な魔物が襲いかかってきたが、もはや私たちの敵ではなかった。
どれくらい進んだだろうか。私たちは、信じられないほど広大な地下空洞へとたどり着いた。
その空洞の中央には、巨大なマグマの湖が広がっている。その中心に、一つの祭壇のような島が浮かんでいた。
そして、その祭壇の上に、赤く脈動する巨大な心臓のような水晶が鎮座していた。
「あれが……ガイアの心臓……!」
その水晶からは、大地そのものの鼓動とも言うべき、力強く、そして温かいエネルギーが放たれている。
私たちが、その光景に息を呑んでいると、マグマの湖の表面が、突如として激しく泡立ち始めた。
そして、その中から、一体の巨大な生物が、その姿を現したのだ。
それは、伝説に謳われる、炎の竜――エンシェント・レッドドラゴンだった。その体は山のように大きく、その全身を覆う鱗は、ヒヒイロカネのように深紅に輝いている。
その黄金の瞳は、絶対者の威厳をたたえ、私たちを見下ろしていた。
『何者だ、人の子らよ。ここは、我らが守護する聖域。立ち去るがよい』
ドラゴンの声は、テレパシーとなって、私たちの脳内に直接響き渡った。その声には、圧倒的な力と、古代からの叡智が宿っている。
「私たちは、この星を救うために来た。そのアーティファクト、ガイアの心臓を、譲ってはもらえないだろうか」
私が、敬意を払って答えると、ドラゴンは鼻から灼熱の息を吐き出した。
『星を救う、だと?小賢しい。お前たち人間こそが、この星を最も傷つけてきた存在ではないか』
その言葉に、私は反論できなかった。確かに、過去の人間は過ちを犯した。
『このガイアの心臓は、お前たちのような未熟な種族に扱える代物ではない』
ドラゴンは続ける。
『力を欲するならば、我を倒してみせよ。さすれば、主として認めてやらぬこともない』
エンシェント・レッドドラゴンは、その巨大な翼を広げた。その翼が起こした風圧だけで、私たちは吹き飛ばされそうになる。
「……仕方ないようね」
私は、サラマンダースーツのヘルメットの中で、不敵に微笑んだ。
「皆さん、準備はいいかしら。これから、伝説の竜退治を始めるわよ」
私の言葉に、仲間たちは皆、最高の武器を構え、その目に闘志を燃やした。
「望むところだぜ!」
ボルガンが雄叫びを上げる。
私たちの、この冒険における最大の試練が、今、始まろうとしていた。
ドラゴンは、その巨大な顎を開く。全てを焼き尽くす灼熱のブレスを放つ体勢に入った。
私たちは、一斉に散開し、それぞれの得物を構える。グレゴール隊長が盾を構え、ボリンとボルガンが左右に回り込もうとする。
マーサは弓を引き絞り、その一点に集中していた。私は創成魔法を発動させるべく、両手に魔力を集束させ始める。
シラスは低い姿勢をとり、いつでも飛びかかれるようにドラゴンの動きをうかがっている。エンシェント・レッドドラゴンの喉の奥が、太陽のように赤く輝き始めた。
その熱波が、ここまで届く。私たちのスーツの表面温度が急上昇していくのをアラートが知らせた。
ブリッジのスクリーンには、周囲の地形が詳細に映し出されている。無数の火山が、まるで大地の牙のように天を突き上げていた。
その麓では真っ赤な溶岩が川となって流れている。この世の終わりのような光景だった。
「すげえ場所だな、おい。本当にこんなところに何かが眠ってんのか?」
ボリンが、感嘆とも呆れともつかない声を上げた。
「アークのセンサーは嘘をつきません。この地獄の中心にこそ、この星の心臓があるのです」
私は冷静に答えると、操縦桿を握るラルスに指示を出した。
「目標の中央火山から、約五キロ離れた比較的安定した岩盤の上に着陸します」
「そこをベースキャンプとして、探索を開始しましょう」
「了解しました、女王陛下!」
ラルスの巧みな操縦により、アルゴス号は巨大な黒曜石でできた平原に、静かに着陸した。船外に出る前に、私たちは全員、銀色の防護服『サラマンダースーツ』を身につける。
ヘルメットの気密性を確認し、背中に背負った小型の空気清浄機を起動させた。準備に抜かりはない。
「全員、準備はいいか!これより、人類未踏の地へと足を踏み入れる!気を引き締めていけ!」
グレゴール隊長が檄を飛ばす。彼の指揮のもと、防衛隊の精鋭たちも完璧な装備で整列していた。
プシュー、という音と共に、アルゴス号のハッチが開かれた。流れ込んできたのは、全てを焼き尽くすかのような熱風だ。
鼻を突く強烈な硫黄の匂いもした。
私たちは、一列になって灼熱の大地へと第一歩を踏み出した。足元の黒曜石は、目玉焼きが焼けるほどの熱を持っている。
しかし、サラマンダースーツのおかげで、その熱は全く感じなかった。
「うおお、本当に平気だぜ!快適そのものだ!」
ボルガンが、自分の足元を確かめるように何度か踏み鳴らし、満足げに言った。
「アーク、周辺の生命反応をスキャンして」
『了解。スキャンを開始します……。半径一キロ圏内に、複数の高エネルギー生命体の存在を確認』
アークが報告を続ける。
『彼らは、この灼熱の環境に完全に適応した、独自の進化を遂げた生物です』
報告と同時に、ヘルメットの内側に搭載されたディスプレイに、赤い光点が表示された。その光点は、かなりの速度で私たちの方へと接近してきている。
「敵が来るぞ!全員、戦闘準備!」
グレゴール隊長が号令をかける。防衛隊の兵士たちは、即座に円陣を組み、ヴァイスランド鋼の盾を構えた。
その盾の表面には、ボルガンが刻んだ冷却のルーンが、淡い青色の光を放っている。
やがて、地平線の向こうから、何かが陽炎のように揺らめきながら近づいてくるのが見えた。
それは、体長三メートルはあろうかという、巨大なトカゲの群れだった。
彼らの鱗は、まるで溶岩そのもののように赤黒く輝く。その口からは、絶えず炎が漏れ出していた。
「サラマンダーか!古文書で読んだことがある!炎の精霊獣だ!」
ボルガンが、その敵の正体に気づき、戦斧を握りしめた。
「グルルルルァァァァッ!」
サラマンダーの群れは、私たちを侵入者と認識したのだろう。一斉に威嚇の咆哮を上げた。
そして次の瞬間、その口から灼熱の火球をいくつも吐き出してきた。
「盾、構え!」
グレゴール隊長の指示で、兵士たちが盾を掲げる。火球は、冷却のルーンが張られた盾の壁に激突した。
爆発音と共に霧散する。盾は少し赤熱したが、兵士たちにダメージはない。
「怯むな!弓兵、攻撃開始!」
後方の兵士たちが、特殊な冷却矢をつがえ、一斉に放つ。ヒュン、という音と共に飛んでいった矢は、サラマンダーたちの硬い鱗に突き刺さった。
矢に込められた冷却の魔力が、彼らの体温を急激に奪っていく。
「ギャウッ!?」
体内の熱を奪われたサラマンダーたちは、苦しげな声を上げた。その動きが目に見えて鈍くなる。
「今だ!前衛、突撃!」
グレゴール隊長の号令一下、盾の壁が開かれた。剣と槍を手にした兵士たちが躍り出る。
ボルガンも、「うおおおおっ!」と雄叫びを上げながら、その巨大な戦斧を振りかぶった。一番大きなサラマンダーに襲いかかる。
ガキィン!
ボルガンの戦斧が、サラマンダーの頭部を叩き割った。しかし、相手もさるものだ。
死に際に、その巨大な尻尾を薙ぎ払い、ボルガンの体を吹き飛ばそうとした。
「させん!」
グレゴール隊長が、ボルガンの前に割って入り、その一撃を大盾で受け止める。凄まじい衝撃に彼の体は数メートル後退したが、倒れることはなかった。
「やるじゃねえか、隊長さんよ!」
「あなたこそ、無茶をしないでください、ボルガン殿!」
二人は、背中を合わせながら、不敵に笑う。人間とドワーフ、種族を超えた完璧な連携が、この灼熱の戦場で生まれていた。
私も、ただ見ているだけではなかった。
「創成魔法――『絶対零度の牢獄』!」
私は、両手を地面につけ、この大地の構造に干渉した。サラマンダーの群れがいる地面の温度を、一瞬にして絶対零度近くまで下げる。
灼熱の黒曜石が、瞬時に白い氷へと変化した。サラマンダーたちの足を凍りつかせる。
「なっ!?地面が凍った!?」
動きを完全に封じられたサラマンダーたちは、もはや防衛隊の兵士たちの敵ではなかった。
兵士たちの正確無比な剣と槍が、次々とサラマンダーたちの命を刈り取っていく。
『主よ、あちらからも来るぞ』
シラスが、低い声で警告した。見ると、私たちの背後にある溶岩の川から、新たな敵が出現していた。
それは、溶岩そのものでできた、巨大なゴーレムだった。その体からは、絶えずマグマが滴り落ちている。
その巨体は五メートルを優に超えていた。
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ボリンが、ゴーレムの姿を見て舌打ちした。
「あれは、物理攻撃がほとんど効かない。半端な攻撃は、その体で吸収してしまうからだ」
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「全員、退避!」
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ゴーレムの拳が叩きつけられた地面は、轟音と共に砕け散る。灼熱の破片が周囲に飛び散った。
「さて、どうしたものかしら」
私がそう呟いた時、マーサが私の隣に進み出てきた。彼女も、この探索チームに医療班として同行している。
彼女の手には、スターライトシルクで作られた、美しい弓が握られていた。
「女王陛下、私にお任せください。あのゴーレムの核、私には見えています」
マーサの瞳が、淡い光を放った。スターライトシルクの服が、彼女の持つ魔力を増幅させているのだ。
彼女には、魔力の流れを視覚的に捉える能力があった。
「分かったわ、マーサ。お願い」
マーサは、頷くと、特殊な素材で作られた一本の矢をつがえた。その矢の先端には、私がアークの技術で作った、小型のエネルギー圧縮カプセルが取り付けられている。
マーサは、静かに息を吸い、弓を引き絞った。彼女の集中力が高まり、その姿はまるで月の女神のようだ。
そして、放たれた矢は、一筋の銀色の閃光となった。ラヴァ・ゴーレムの胸の中心へと吸い込まれていく。
矢が命中した瞬間、ゴーレムの動きがぴたりと止まった。そして、次の瞬間、その体内から凄まじい光が溢れ出し、大爆発を起こす。
灼熱のマグマが、雨のように降り注いできた。
「創成魔法――『金剛の天蓋』!」
私は、頭上に巨大なドーム状の障壁を瞬時に創り出した。降り注ぐマグマから仲間たちを完璧に守る。
やがて、マグマの雨が止んだ。そこには、跡形もなく消し飛んだゴーレムと、静かに弓を下ろすマーサの姿があった。
「……すごい。マーサさん、あんた、そんな力があったのか」
ボリンが、呆然と呟いた。
マーサは、はにかんで微笑んだ。
「私も、ただ守られているだけではいたくありませんから」
彼女の成長もまた、この国の強さの証だった。
私たちは、最初の戦闘を、犠牲者ゼロで完璧に乗り切った。
仲間たちの顔には、疲労よりも大きな自信が満ち溢れている。
「よし、進むぞ!目的地は、あの中央火山だ!」
グレゴール隊長の号令で、私たちは再び歩き始めた。
いくつかの魔物の群れを退け、私たちはついに、目的の中央火山の麓へとたどり着く。
その山は、他の火山とは比べ物にならないほどの威容を誇っていた。山頂からは、天を焦がすかのような巨大な噴煙が絶えず立ち上っている。
山肌を無数の溶岩の滝が流れ落ちていた。
「アークの示す場所は、この山の内部……。どこかに入り口があるはずよ」
私たちは、山の周囲を探索し始めた。しばらくして、ヒューゴが巨大な岩壁の前で足を止める。
「女王陛下、ここです。この壁の向こうに、巨大な空洞が存在します」
「岩の密度が、ここだけ他と明らかに違います」
石工としての彼の目は、ごまかせない。
「分かったわ。ヒューゴ、下がっていて」
私は、その岩壁の前に立つと、両手を壁に触れた。
「創成魔法――『門よ、開け』」
私の魔力が、巨大な岩盤の分子構造に干渉する。ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、岩壁がまるで巨大な観音扉のように、左右にゆっくりと開いていった。
扉の向こう側には、下へと続く、広大な洞窟が口を開けていた。内部からは、マグマの熱気と、そして何か強大なエネルギーの波動が、ごうごうと吹き付けてくる。
「ここが、ガイアの心臓へと続く道……」
私たちは、顔を見合わせ、頷き合うと、その灼熱の洞窟へと、決意を固めて足を踏み入れた。内部は、まるで巨大な生物の体内のように、赤い光が壁面を脈打つように明滅している。
道は、下へ下へと続いていた。時折、横穴から強力な魔物が襲いかかってきたが、もはや私たちの敵ではなかった。
どれくらい進んだだろうか。私たちは、信じられないほど広大な地下空洞へとたどり着いた。
その空洞の中央には、巨大なマグマの湖が広がっている。その中心に、一つの祭壇のような島が浮かんでいた。
そして、その祭壇の上に、赤く脈動する巨大な心臓のような水晶が鎮座していた。
「あれが……ガイアの心臓……!」
その水晶からは、大地そのものの鼓動とも言うべき、力強く、そして温かいエネルギーが放たれている。
私たちが、その光景に息を呑んでいると、マグマの湖の表面が、突如として激しく泡立ち始めた。
そして、その中から、一体の巨大な生物が、その姿を現したのだ。
それは、伝説に謳われる、炎の竜――エンシェント・レッドドラゴンだった。その体は山のように大きく、その全身を覆う鱗は、ヒヒイロカネのように深紅に輝いている。
その黄金の瞳は、絶対者の威厳をたたえ、私たちを見下ろしていた。
『何者だ、人の子らよ。ここは、我らが守護する聖域。立ち去るがよい』
ドラゴンの声は、テレパシーとなって、私たちの脳内に直接響き渡った。その声には、圧倒的な力と、古代からの叡智が宿っている。
「私たちは、この星を救うために来た。そのアーティファクト、ガイアの心臓を、譲ってはもらえないだろうか」
私が、敬意を払って答えると、ドラゴンは鼻から灼熱の息を吐き出した。
『星を救う、だと?小賢しい。お前たち人間こそが、この星を最も傷つけてきた存在ではないか』
その言葉に、私は反論できなかった。確かに、過去の人間は過ちを犯した。
『このガイアの心臓は、お前たちのような未熟な種族に扱える代物ではない』
ドラゴンは続ける。
『力を欲するならば、我を倒してみせよ。さすれば、主として認めてやらぬこともない』
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「……仕方ないようね」
私は、サラマンダースーツのヘルメットの中で、不敵に微笑んだ。
「皆さん、準備はいいかしら。これから、伝説の竜退治を始めるわよ」
私の言葉に、仲間たちは皆、最高の武器を構え、その目に闘志を燃やした。
「望むところだぜ!」
ボルガンが雄叫びを上げる。
私たちの、この冒険における最大の試練が、今、始まろうとしていた。
ドラゴンは、その巨大な顎を開く。全てを焼き尽くす灼熱のブレスを放つ体勢に入った。
私たちは、一斉に散開し、それぞれの得物を構える。グレゴール隊長が盾を構え、ボリンとボルガンが左右に回り込もうとする。
マーサは弓を引き絞り、その一点に集中していた。私は創成魔法を発動させるべく、両手に魔力を集束させ始める。
シラスは低い姿勢をとり、いつでも飛びかかれるようにドラゴンの動きをうかがっている。エンシェント・レッドドラゴンの喉の奥が、太陽のように赤く輝き始めた。
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