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警備兵の言葉は、とても冷たくて威圧的だった。
俺たちの身なりを見て、完全に馬鹿にしているのが分かる。
もし俺が一人だったら、少しはこわくなってしまったかもしれない。
だが、今の俺の隣には頼もしい仲間がいた。
バルガスが、一歩前に進み出た。
その大きな体が、警備兵の前に立ちはだかる。
「おい、てめえ。客に対する、その口の利き方はなんだ」
バルガスの低い声には、怒りがこもっていた。
そのはくりょくに、警備兵は少しだけたじろいだようだった。
だが、すぐに強がって言い返す。
「なんだと、てめえ。我々は、ダリウス様の建物を守っているのだ。怪しい者を、通すわけにはいかん」
「誰が怪しい者だ、俺たちはダリウスさんと約束があってここに来たんだ」
バルガスと警備兵が、にらみ合いを始めた。
一触即発の、危険な雰囲気がただよう。
俺は、慌てて二人の間に割って入った。
「まあまあ、二人とも落ち着いてください」
俺は、できるだけおだやかな声で言った。
ここで騒ぎを起こすのは、良いことではない。
俺は、警備兵に向かって丁寧に頭を下げた。
「突然の訪問、申し訳ありません。俺はミナトと申します、ダリウス様とは先日霧の渓谷でお会いする約束をしました」
俺がそう言うと、警備兵の顔つきが少しだけ変わった。
どうやらダリウスさんから、話は伝わっているらしい。
「ミナト殿だと、確か旦那様からそのような名前を伺っている。船で旅をしている、腕の立つ商人だと」
警備兵は、俺の全身を改めて値ぶみするように見た。
その目には、まだうたがいの色が浮かんでいる。
「本当に、そのミナト殿本人なのか。何か、証拠はあるのか」
証拠と、言われても困ってしまう。
ダリウスさんからもらった、羊皮紙はもう手元にないのだ。
どうしたものかと、俺が考えていると。
「証拠なら、ここに最高のがあるぜ」
バルガスが、にやりと笑って言った。
そして、ふところから布に包まれた何かを取り出す。
それは、俺が作った魚のくんせいだった。
バルガスは、それを警備兵の鼻先に突きつける。
香ばしいくんせいの匂いが、あたりに広がった。
「なんだ、このいい匂いは」
警備兵は、思わずごくりと喉を鳴らした。
「こいつが、俺たちの旦那が作る幻のくんせいだ。ダリウスさんは、こいつの味にほれ込んで俺たちと契約を結んだんだぜ」
バルガスの言葉に、警備兵は半信半疑の顔をしていた。
だが、その目はくんせいに釘付けになっていた。
食欲には、あらがえないらしい。
ちょうどその時だった。
「何を騒いでいるのですか」
建物の内側から、りんとした女性の声がした。
重い扉が、ゆっくりと開かれる。
そこに立っていたのは、秘書らしい服装をした知的な雰囲気の女性だった。
年のころは、俺と同じくらいだろうか。
きりりとした眉と、涼しげな目元が印象的だ。
「ああ、エリアーナ様。いえ、これは」
警備兵は、女性の姿を見ると慌てて背筋を伸ばした。
エリアーナと呼ばれた女性は、俺たちに視線を移す。
そしてバルガスが持つくんせいを見て、わずかに眉をひそめた。
「あなた方は、どなたでしょうか。ここは神聖な商いの場なので、食べ物の持ち込みはご遠慮ください」
その口調は、丁寧だがどこか冷たい。
いかにも、仕事ができそうな女性という感じだった。
「申し訳ありません、俺たちはダリウス様と約束がありまして」
俺が、改めて説明しようとすると。
エリアーナさんは、俺の言葉を手でさえぎった。
「ダリウス様は、今お忙しいのです。予約のない方は、お引き取りください」
彼女は、まったく話を聞いてくれないという態度だった。
これは、困ったことになった。
俺がどうしようかと考えていると、ルナが俺の前にちょこんと立った。
そして、エリアーナさんをじっと見上げる。
「あのねお姉さん、わたしたちダリウスさんとお友達なの」
ルナの、けがれのない純粋な言葉だった。
その言葉に、エリアーナさんの表情がほんの少しだけゆらいだように見えた。
彼女は、ルナのまっすぐな瞳をしばらく見つめている。
そして、小さくため息をついた。
「……分かりました、ダリウス様に一度おつなぎしてみましょう。こちらへ、どうぞ」
どうやらルナの言葉が、彼女の心を動かしたらしい。
俺たちは、エリアーナさんに案内されて建物の中へと入った。
建物の中は、外見以上に豪華けんらんだった。
床は、磨き上げられた大理石でできている。
天井からは、巨大なシャンデリアがつるされていた。
壁には、有名な画家が描いたであろう絵画が飾られている。
多くの職員たちが、忙しそうに働いていた。
誰もが、高価で品の良い服を着ている。
その光景に、俺たちは完全に気圧されてしまった。
「すげえ、王宮でもここまでじゃねえぞ」
バルガスが、小声でつぶやく。
俺も、全く同感だった。
俺たちは、エリアーナさんに従って長い廊下を歩いていく。
そして一番奥にある、ひときわ豪華な扉の前で足を止めた。
「ここが、ダリウス様の執務室です。あなた方は、ここでお待ちください」
エリアーナさんは、そう言うと扉を軽くノックした。
「ダリウス様、エリアーナです。お客様が、お見えです」
「うむ、入れ」
中から、聞き覚えのあるダリウスさんの声がした。
エリアーナさんは、俺たちをちらっと見ると部屋の中へと入っていく。
そして、すぐに戻ってきた。
「ダリウス様が、お会いになるそうです。どうぞ、中へ」
俺たちは、少し緊張しながら部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中は、信じられないほど広かった。
壁一面が、本棚でうめつくされている。
床には、ふかふかのじゅうたんが敷かれていた。
部屋の奥には、大きな仕事机がある。
その向こう側で、ダリウスさんが葉巻をくゆらせていた。
俺たちの姿を見ると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「おおミナト殿、よくぞ来てくださいましたな。お待ちしておりましたぞ」
ダリウスさんは、椅子から立ち上がると俺たちに近づいてきた。
そして、俺の手を力強くにぎりしめる。
「長旅、ご苦労だったでしょう。ささ、どうぞお座りください」
彼は、俺たちを革張りの豪華なソファへと案内した。
すぐに、メイドがお茶を運んでくる。
その手厚い歓迎ぶりに、俺たちは少し戸惑ってしまった。
「ダリウスさん、お元気そうで何よりです」
「はっはっは、あなた方と再会できる日を指折り数えて待っておりましたからな」
ダリウスさんは、心の底から嬉しそうだった。
その時、部屋の隅にひかえていたエリアーナさんが口を開いた。
「ダリウス様、この方々が例の」
「うむ、そうだ。紹介しようエリアーナ、彼こそが私が話していたミナト殿だ」
ダリウスさんが、俺を紹介する。
エリアーナさんは、改めて俺の方を見た。
その目には、まだ少しだけうたがいの色が残っているようだった。
「この度は、私の部下が失礼をいたしました。ダリウス様のお客様とは、存じ上げず」
彼女は、そう言って丁寧に頭を下げた。
だが、その表情はどこか固い。
どうやら、まだ俺たちのことを完全には信用していないらしい。
「いや、こちらこそ突然おしかけて申し訳ありません」
俺も、頭を下げた。
「してミナト殿、例の品はお持ちですかな」
ダリウスさんが、期待に満ちた目で聞いてくる。
「ええ、もちろん。最高の出来のものを、お持ちしました」
俺は、ふところから布に包んだくんせいをいくつか取り出した。
そして、テーブルの上に並べて見せる。
香ばしいくんせいの匂いが、部屋いっぱいに広がった。
その匂いをかいだ瞬間、エリアーナさんの鼻がぴくりと動いたのを俺は見逃さなかった。
彼女も、このくんせいの魅力にはあらがえないようだ。
「おお、これですこれです。この香り、忘れられませんぞ」
ダリウスさんは、子供のように目を輝かせた。
そして、くんせいを一本手に取る。
「エリアーナ、君も食べてみるといい。ミナト殿の作るこのくんせいは、まさに神の食べ物だ。一度食べたら、もう忘れられなくなるぞ」
ダリウスさんに勧められて、エリアーナさんは少し戸惑ったような顔をした。
だが、主人の命令にはさからえないらしい。
彼女は、おそるおそるくんせいを一口かじった。
その瞬間だった。
彼女の涼しげな目が、驚きで大きく見開かれた。
そして、その頬がほんのりと赤くそまる。
「な、なんですのこれ。こんな、美味しいもの……」
彼女は、信じられないというようにつぶやいた。
そして、あっという間に一本を平らげてしまう。
その食べっぷりは、彼女の知的な雰囲気とは少し違っていた。
「どうだ、私の言った通りだろう」
ダリウスさんは、満足そうにうなずいた。
エリアーナさんは、しばらくぼうぜんとしていた。
そしてはっと我に返ると、顔を真っ赤にして俺に向き直る。
「み、ミナト様。先ほどは大変失礼な態度をとり、誠に申し訳ございませんでした」
彼女は、今度は心の底から深く頭を下げた。
どうやらこのくんせいの味は、彼女の固い心もとかしてしまったらしい。
俺は、思わず苦笑してしまった。
「いえ、お気になさらず。気に入っていただけたようで、何よりです」
こうして俺たちは、ダリウス商会のナンバーツーであるエリアーナさんにも認められることになった。
俺の商売の、大きな一歩だった。
「さてミナト殿、早速ですが商売の話を始めましょうか」
ダリウスさんは、葉巻を灰皿に置くと商人の顔になった。
ここからが、本番だ。
俺は、背筋を伸ばして彼と向き合った。
俺たちの身なりを見て、完全に馬鹿にしているのが分かる。
もし俺が一人だったら、少しはこわくなってしまったかもしれない。
だが、今の俺の隣には頼もしい仲間がいた。
バルガスが、一歩前に進み出た。
その大きな体が、警備兵の前に立ちはだかる。
「おい、てめえ。客に対する、その口の利き方はなんだ」
バルガスの低い声には、怒りがこもっていた。
そのはくりょくに、警備兵は少しだけたじろいだようだった。
だが、すぐに強がって言い返す。
「なんだと、てめえ。我々は、ダリウス様の建物を守っているのだ。怪しい者を、通すわけにはいかん」
「誰が怪しい者だ、俺たちはダリウスさんと約束があってここに来たんだ」
バルガスと警備兵が、にらみ合いを始めた。
一触即発の、危険な雰囲気がただよう。
俺は、慌てて二人の間に割って入った。
「まあまあ、二人とも落ち着いてください」
俺は、できるだけおだやかな声で言った。
ここで騒ぎを起こすのは、良いことではない。
俺は、警備兵に向かって丁寧に頭を下げた。
「突然の訪問、申し訳ありません。俺はミナトと申します、ダリウス様とは先日霧の渓谷でお会いする約束をしました」
俺がそう言うと、警備兵の顔つきが少しだけ変わった。
どうやらダリウスさんから、話は伝わっているらしい。
「ミナト殿だと、確か旦那様からそのような名前を伺っている。船で旅をしている、腕の立つ商人だと」
警備兵は、俺の全身を改めて値ぶみするように見た。
その目には、まだうたがいの色が浮かんでいる。
「本当に、そのミナト殿本人なのか。何か、証拠はあるのか」
証拠と、言われても困ってしまう。
ダリウスさんからもらった、羊皮紙はもう手元にないのだ。
どうしたものかと、俺が考えていると。
「証拠なら、ここに最高のがあるぜ」
バルガスが、にやりと笑って言った。
そして、ふところから布に包まれた何かを取り出す。
それは、俺が作った魚のくんせいだった。
バルガスは、それを警備兵の鼻先に突きつける。
香ばしいくんせいの匂いが、あたりに広がった。
「なんだ、このいい匂いは」
警備兵は、思わずごくりと喉を鳴らした。
「こいつが、俺たちの旦那が作る幻のくんせいだ。ダリウスさんは、こいつの味にほれ込んで俺たちと契約を結んだんだぜ」
バルガスの言葉に、警備兵は半信半疑の顔をしていた。
だが、その目はくんせいに釘付けになっていた。
食欲には、あらがえないらしい。
ちょうどその時だった。
「何を騒いでいるのですか」
建物の内側から、りんとした女性の声がした。
重い扉が、ゆっくりと開かれる。
そこに立っていたのは、秘書らしい服装をした知的な雰囲気の女性だった。
年のころは、俺と同じくらいだろうか。
きりりとした眉と、涼しげな目元が印象的だ。
「ああ、エリアーナ様。いえ、これは」
警備兵は、女性の姿を見ると慌てて背筋を伸ばした。
エリアーナと呼ばれた女性は、俺たちに視線を移す。
そしてバルガスが持つくんせいを見て、わずかに眉をひそめた。
「あなた方は、どなたでしょうか。ここは神聖な商いの場なので、食べ物の持ち込みはご遠慮ください」
その口調は、丁寧だがどこか冷たい。
いかにも、仕事ができそうな女性という感じだった。
「申し訳ありません、俺たちはダリウス様と約束がありまして」
俺が、改めて説明しようとすると。
エリアーナさんは、俺の言葉を手でさえぎった。
「ダリウス様は、今お忙しいのです。予約のない方は、お引き取りください」
彼女は、まったく話を聞いてくれないという態度だった。
これは、困ったことになった。
俺がどうしようかと考えていると、ルナが俺の前にちょこんと立った。
そして、エリアーナさんをじっと見上げる。
「あのねお姉さん、わたしたちダリウスさんとお友達なの」
ルナの、けがれのない純粋な言葉だった。
その言葉に、エリアーナさんの表情がほんの少しだけゆらいだように見えた。
彼女は、ルナのまっすぐな瞳をしばらく見つめている。
そして、小さくため息をついた。
「……分かりました、ダリウス様に一度おつなぎしてみましょう。こちらへ、どうぞ」
どうやらルナの言葉が、彼女の心を動かしたらしい。
俺たちは、エリアーナさんに案内されて建物の中へと入った。
建物の中は、外見以上に豪華けんらんだった。
床は、磨き上げられた大理石でできている。
天井からは、巨大なシャンデリアがつるされていた。
壁には、有名な画家が描いたであろう絵画が飾られている。
多くの職員たちが、忙しそうに働いていた。
誰もが、高価で品の良い服を着ている。
その光景に、俺たちは完全に気圧されてしまった。
「すげえ、王宮でもここまでじゃねえぞ」
バルガスが、小声でつぶやく。
俺も、全く同感だった。
俺たちは、エリアーナさんに従って長い廊下を歩いていく。
そして一番奥にある、ひときわ豪華な扉の前で足を止めた。
「ここが、ダリウス様の執務室です。あなた方は、ここでお待ちください」
エリアーナさんは、そう言うと扉を軽くノックした。
「ダリウス様、エリアーナです。お客様が、お見えです」
「うむ、入れ」
中から、聞き覚えのあるダリウスさんの声がした。
エリアーナさんは、俺たちをちらっと見ると部屋の中へと入っていく。
そして、すぐに戻ってきた。
「ダリウス様が、お会いになるそうです。どうぞ、中へ」
俺たちは、少し緊張しながら部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中は、信じられないほど広かった。
壁一面が、本棚でうめつくされている。
床には、ふかふかのじゅうたんが敷かれていた。
部屋の奥には、大きな仕事机がある。
その向こう側で、ダリウスさんが葉巻をくゆらせていた。
俺たちの姿を見ると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「おおミナト殿、よくぞ来てくださいましたな。お待ちしておりましたぞ」
ダリウスさんは、椅子から立ち上がると俺たちに近づいてきた。
そして、俺の手を力強くにぎりしめる。
「長旅、ご苦労だったでしょう。ささ、どうぞお座りください」
彼は、俺たちを革張りの豪華なソファへと案内した。
すぐに、メイドがお茶を運んでくる。
その手厚い歓迎ぶりに、俺たちは少し戸惑ってしまった。
「ダリウスさん、お元気そうで何よりです」
「はっはっは、あなた方と再会できる日を指折り数えて待っておりましたからな」
ダリウスさんは、心の底から嬉しそうだった。
その時、部屋の隅にひかえていたエリアーナさんが口を開いた。
「ダリウス様、この方々が例の」
「うむ、そうだ。紹介しようエリアーナ、彼こそが私が話していたミナト殿だ」
ダリウスさんが、俺を紹介する。
エリアーナさんは、改めて俺の方を見た。
その目には、まだ少しだけうたがいの色が残っているようだった。
「この度は、私の部下が失礼をいたしました。ダリウス様のお客様とは、存じ上げず」
彼女は、そう言って丁寧に頭を下げた。
だが、その表情はどこか固い。
どうやら、まだ俺たちのことを完全には信用していないらしい。
「いや、こちらこそ突然おしかけて申し訳ありません」
俺も、頭を下げた。
「してミナト殿、例の品はお持ちですかな」
ダリウスさんが、期待に満ちた目で聞いてくる。
「ええ、もちろん。最高の出来のものを、お持ちしました」
俺は、ふところから布に包んだくんせいをいくつか取り出した。
そして、テーブルの上に並べて見せる。
香ばしいくんせいの匂いが、部屋いっぱいに広がった。
その匂いをかいだ瞬間、エリアーナさんの鼻がぴくりと動いたのを俺は見逃さなかった。
彼女も、このくんせいの魅力にはあらがえないようだ。
「おお、これですこれです。この香り、忘れられませんぞ」
ダリウスさんは、子供のように目を輝かせた。
そして、くんせいを一本手に取る。
「エリアーナ、君も食べてみるといい。ミナト殿の作るこのくんせいは、まさに神の食べ物だ。一度食べたら、もう忘れられなくなるぞ」
ダリウスさんに勧められて、エリアーナさんは少し戸惑ったような顔をした。
だが、主人の命令にはさからえないらしい。
彼女は、おそるおそるくんせいを一口かじった。
その瞬間だった。
彼女の涼しげな目が、驚きで大きく見開かれた。
そして、その頬がほんのりと赤くそまる。
「な、なんですのこれ。こんな、美味しいもの……」
彼女は、信じられないというようにつぶやいた。
そして、あっという間に一本を平らげてしまう。
その食べっぷりは、彼女の知的な雰囲気とは少し違っていた。
「どうだ、私の言った通りだろう」
ダリウスさんは、満足そうにうなずいた。
エリアーナさんは、しばらくぼうぜんとしていた。
そしてはっと我に返ると、顔を真っ赤にして俺に向き直る。
「み、ミナト様。先ほどは大変失礼な態度をとり、誠に申し訳ございませんでした」
彼女は、今度は心の底から深く頭を下げた。
どうやらこのくんせいの味は、彼女の固い心もとかしてしまったらしい。
俺は、思わず苦笑してしまった。
「いえ、お気になさらず。気に入っていただけたようで、何よりです」
こうして俺たちは、ダリウス商会のナンバーツーであるエリアーナさんにも認められることになった。
俺の商売の、大きな一歩だった。
「さてミナト殿、早速ですが商売の話を始めましょうか」
ダリウスさんは、葉巻を灰皿に置くと商人の顔になった。
ここからが、本番だ。
俺は、背筋を伸ばして彼と向き合った。
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