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第4章 おじさんとソロキャンプ
第64話
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翌朝、まだ太陽が本格的に昇る前、俺は店の裏口に立っていた。
荷物はすでにまとめてある。小さなバックパックに最低限の道具を詰め、肩に掛ける。
腰には、煙草用のポーチをしっかりと結わえた。
「さて、と……」
ぼそりと独り言をこぼし、一本火をつける。
紫煙を肺に吸い込み、ゆっくり吐き出すと、体が少し軽くなった気がした。
誰に急かされるでもない、誰かを待たせているわけでもない。
好きなタイミングで、好きなように出発できる。
これが、俺の望んだ自由だ。
「行くか」
ポケットに火打ち石を仕舞い、俺は森へ向けて歩き出した。
マーレ村を抜け、なだらかな丘を越え、深い緑が広がる森へ。
道中、顔見知りの村人たちに軽く手を振られたが、俺は軽く会釈するだけで足を止めなかった。
今は、誰とも話す気分じゃない。
森の入口にたどり着いた時、もう一度煙草を取り出す。
一本火をつけ、森に向かって一服。
「お邪魔するぜ」
誰にともなくそう呟き、歩を進めた。
森は、思ったよりも湿っていた。
昨夜、軽く雨が降ったらしい。
足元にはしっとりした草と、まだ乾ききらない落ち葉が積もっている。
だが、俺には関係ない。
どんなコンディションだろうと、楽しめるのがソロキャンプだ。
目指すのは、森の奥の、小さな空き地。
以前、散歩中に見つけた、程よく開けた場所だ。
木々が適度に陽を遮り、地面も比較的平らで、焚き火にも困らない。
人の気配は皆無、音もほとんど届かない。
最高のソロキャンプ地だ。
荷物を降ろし、まずは周囲を確認する。
新しい獣道ができていないか、倒木や水たまりはないか、念入りに見て回った。
問題なし。
これなら、思いきりのんびりできそうだ。
「よし」
まずはタープを張る。
寝るための場所を確保するのが先決だ。
持ってきた布を木と木の間に渡し、ロープで固定する。
少し角度をつけて、雨除けにもなるように調整。
杭代わりの小枝を見つけるため、近場の林に入ると、程よい太さのものがすぐに見つかった。
ナイフで先を尖らせ、地面に打ち込む。
「まあ、上出来だな」
自己満足の呟きとともに、もう一本煙草に火をつける。
焚き火台は、後回しにした。
まだ日が高いし、夜までに組めばいい。
タープの下、椅子代わりに持ってきた小さな折りたたみ椅子を広げ、どっかりと腰を下ろす。
背もたれなんてない、シンプルな造りだが、それがいい。
バッグから水筒を取り出し、軽く喉を潤す。
水の冷たさが心地いい。
次は、コーヒーの準備だ。
バッグの中から、ドリップ用の器具と豆を取り出す。
湯を沸かす鍋もセットする。
火はまだ起こさない。
ゆっくり、じっくり、流れに任せる。
何も焦る必要はない。
「……さて」
煙草をふかしながら、森の音に耳を傾ける。
風が葉を揺らす音。
小鳥たちのか細い囀り。
どこかで水が滴る音。
すべてが、心地よかった。
「こういうのが……欲しかったんだよな」
誰にも気を遣わず、誰にも急かされず、ただ自分のペースで過ごす。
それだけで、俺の中の疲れた何かが、少しずつほぐれていく。
煙草の灰を指で落とし、ふっとため息をついた。
やがて、陽が少し傾き始めたころ。
ようやく、焚き火の準備をする気になった。
小枝を集め、乾いていそうなものを選び、組み上げる。
火打ち石を取り出し、乾いた苔に火花を落とす。
ぱち、ぱち、と小さな音がして、やがて細い煙が立ち上った。
「いいな」
にやりと笑い、さらに太い枝をくべる。
焚き火の光に照らされながら、珈琲を淹れる準備に取り掛かる。
まずは豆をミルで挽く。
ゆっくりと、一定のリズムで、手を動かす。
コリコリと響く心地よい音。
(これだ)
湯が沸くのを待ちながら、俺は心の中で何度も呟いた。
これが、俺の求めた時間だ。
ようやく湯が沸き、ドリップを始める。
じっくりと湯を落としながら、香ばしい香りに包まれる。
煙草、焚き火、珈琲。
そして、誰にも邪魔されない時間。
(……これ以上、何を望むってんだ)
カップに落ちた一杯を手に取り、焚き火を見ながら口に運ぶ。
深い、コクのある味わい。
そして、後からふわりと広がる甘み。
「……うまい」
誰に聞かせるでもない独り言をこぼし、また一口飲む。
夜は、まだまだこれからだ。
俺だけの夜が、今、始まったばかりだ。
荷物はすでにまとめてある。小さなバックパックに最低限の道具を詰め、肩に掛ける。
腰には、煙草用のポーチをしっかりと結わえた。
「さて、と……」
ぼそりと独り言をこぼし、一本火をつける。
紫煙を肺に吸い込み、ゆっくり吐き出すと、体が少し軽くなった気がした。
誰に急かされるでもない、誰かを待たせているわけでもない。
好きなタイミングで、好きなように出発できる。
これが、俺の望んだ自由だ。
「行くか」
ポケットに火打ち石を仕舞い、俺は森へ向けて歩き出した。
マーレ村を抜け、なだらかな丘を越え、深い緑が広がる森へ。
道中、顔見知りの村人たちに軽く手を振られたが、俺は軽く会釈するだけで足を止めなかった。
今は、誰とも話す気分じゃない。
森の入口にたどり着いた時、もう一度煙草を取り出す。
一本火をつけ、森に向かって一服。
「お邪魔するぜ」
誰にともなくそう呟き、歩を進めた。
森は、思ったよりも湿っていた。
昨夜、軽く雨が降ったらしい。
足元にはしっとりした草と、まだ乾ききらない落ち葉が積もっている。
だが、俺には関係ない。
どんなコンディションだろうと、楽しめるのがソロキャンプだ。
目指すのは、森の奥の、小さな空き地。
以前、散歩中に見つけた、程よく開けた場所だ。
木々が適度に陽を遮り、地面も比較的平らで、焚き火にも困らない。
人の気配は皆無、音もほとんど届かない。
最高のソロキャンプ地だ。
荷物を降ろし、まずは周囲を確認する。
新しい獣道ができていないか、倒木や水たまりはないか、念入りに見て回った。
問題なし。
これなら、思いきりのんびりできそうだ。
「よし」
まずはタープを張る。
寝るための場所を確保するのが先決だ。
持ってきた布を木と木の間に渡し、ロープで固定する。
少し角度をつけて、雨除けにもなるように調整。
杭代わりの小枝を見つけるため、近場の林に入ると、程よい太さのものがすぐに見つかった。
ナイフで先を尖らせ、地面に打ち込む。
「まあ、上出来だな」
自己満足の呟きとともに、もう一本煙草に火をつける。
焚き火台は、後回しにした。
まだ日が高いし、夜までに組めばいい。
タープの下、椅子代わりに持ってきた小さな折りたたみ椅子を広げ、どっかりと腰を下ろす。
背もたれなんてない、シンプルな造りだが、それがいい。
バッグから水筒を取り出し、軽く喉を潤す。
水の冷たさが心地いい。
次は、コーヒーの準備だ。
バッグの中から、ドリップ用の器具と豆を取り出す。
湯を沸かす鍋もセットする。
火はまだ起こさない。
ゆっくり、じっくり、流れに任せる。
何も焦る必要はない。
「……さて」
煙草をふかしながら、森の音に耳を傾ける。
風が葉を揺らす音。
小鳥たちのか細い囀り。
どこかで水が滴る音。
すべてが、心地よかった。
「こういうのが……欲しかったんだよな」
誰にも気を遣わず、誰にも急かされず、ただ自分のペースで過ごす。
それだけで、俺の中の疲れた何かが、少しずつほぐれていく。
煙草の灰を指で落とし、ふっとため息をついた。
やがて、陽が少し傾き始めたころ。
ようやく、焚き火の準備をする気になった。
小枝を集め、乾いていそうなものを選び、組み上げる。
火打ち石を取り出し、乾いた苔に火花を落とす。
ぱち、ぱち、と小さな音がして、やがて細い煙が立ち上った。
「いいな」
にやりと笑い、さらに太い枝をくべる。
焚き火の光に照らされながら、珈琲を淹れる準備に取り掛かる。
まずは豆をミルで挽く。
ゆっくりと、一定のリズムで、手を動かす。
コリコリと響く心地よい音。
(これだ)
湯が沸くのを待ちながら、俺は心の中で何度も呟いた。
これが、俺の求めた時間だ。
ようやく湯が沸き、ドリップを始める。
じっくりと湯を落としながら、香ばしい香りに包まれる。
煙草、焚き火、珈琲。
そして、誰にも邪魔されない時間。
(……これ以上、何を望むってんだ)
カップに落ちた一杯を手に取り、焚き火を見ながら口に運ぶ。
深い、コクのある味わい。
そして、後からふわりと広がる甘み。
「……うまい」
誰に聞かせるでもない独り言をこぼし、また一口飲む。
夜は、まだまだこれからだ。
俺だけの夜が、今、始まったばかりだ。
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