外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

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リリアーナ王女からの手紙に書かれていた内容は、まさに衝撃的だった。
俺とゼフィルス様が生み出した治療薬が、人間に対しても劇的な効果を発揮したという知らせ。
そして、その奇跡の噂を聞きつけた近隣諸国の使節団が、俺のいるこの辺境の地にまで殺到しているというのだ。

「……救世主、ねえ」

俺は苦笑しながら、手紙をゆっくりと折りたたんだ。
自分では、そんな大層なことをしたつもりはない。
ただ、目の前に困っている人がいて、自分の力が役に立つかもしれないと思ったから、行動しただけだ。
だが、その結果が、今や世界を揺るがすほどの事態に発展しつつある。

「アルス様! 今の手紙は、本当なのですか!?」

「近隣諸国の使節団が、こちらへ!? まことですか!?」

小屋の中にいた常駐騎士たちが、興奮した様子で俺に詰め寄ってくる。
彼らも、俺が読み上げる手紙の内容を、固唾を飲んで聞いていたのだ。
その顔には、驚きと、そして隠しきれない誇らしさが浮かんでいる。
自分たちが守護している人物が、世界中から注目される存在になったのだから、当然かもしれない。

「ああ、本当だ。リリアーナ王女殿下からの親書だからな。どうやら、この静かだった俺の拠点も、いよいよ国際的な社交場になりそうだ」

俺が冗談めかして言うと、騎士たちは「おおおっ!」と歓声を上げた。

「素晴らしい! アルス様の御威光が、ついに世界に轟く時が来たのですな!」

「我々も、エルグランド王国の騎士として、諸国の使節団に恥じぬよう、警備と応対に全力を尽くさねばなりますまい!」

彼らは俄然張り切り始め、すぐさま持ち場に戻っていくと、警備計画の見直しや、拠点内のさらなる美化作業に取り掛かり始めた。
その熱意は、研究所建設に従事している作業員たちにもすぐに伝播した。

「聞いたか! 各国のお偉方が、この地にやってくるらしいぞ!」

「俺たちの作っているこの研究所が、世界の中心になるってことか!?」

「すげえ! 俺は、歴史的な大事業に参加してるんだ!」

「これも全部、俺たちに毎日美味い飯を食わせてくれる、アルス様のおかげだ!」

作業員たちの士気は、これ以上ないほどに高まった。
彼らは、俺への感謝と、自分たちが歴史の転換点に立ち会っているという興奮を原動力に、さらに猛烈な勢いで建設作業を進めていく。
建築士長のバルトロさんは、そんな彼らの様子を見て、目を細めながら深く頷いていた。

「アルス様、あなた様は、人の心を動かし、奮い立たせる天才ですな。この活気、この熱意があれば、研究所の完成はさらに早まることでしょう。これもまた、あなた様の持つ、偉大なるお力の一つですな」

そんな大袈裟なものではないと思うのだが、まあ、結果的に作業が捗るのなら良いことだ。
俺は、活気に満ち溢れた建設現場を眺めながら、自分の畑へと向かった。
使節団が来るというのなら、彼らをもてなすための準備もしておかなければならない。
最高の果物や、特別な料理を用意して、長旅の疲れを癒してやろう。

俺はまず、先日開発した「集中力向上」の効果を持つ青い実の量産に取り掛かった。
これから行われるであろう、各国との複雑な交渉や会議の場では、きっとこの実が役に立つはずだ。
スキル【畑耕し】を発動させ、一度に大量の苗を育てる。
あっという間に、サファイアのように美しい実がたわわに実った低木の森が出来上がった。
早速、収穫した実を建設現場の技術者たちに差し入れてみた。
彼らは、緻密な設計図の作成や、精密な部品の加工で、常に頭脳を酷使している。

「アルス様、これは……? 見たこともない美しい実ですな」

「集中力が続くようになる、特別な木の実だよ。試しに食べてみてくれ」

技術者たちは、半信半疑でその青い実を口に放り込んだ。
すると、次の瞬間、彼らの顔に驚きの色が浮かぶ。

「なっ……なんだこれは!?」

「頭の中の靄が、一瞬で晴れていくような感覚だ!」

「複雑な計算式が、すらすらと頭に浮かんでくる! まるで、脳が何倍にも賢くなったようだ!」

「すごい……これがあれば、作業効率が格段に上がるぞ! もしかしたら、記憶力も良くなっているような……!」

青い木の実は、俺の予想以上の効果を発揮したようだった。
技術者たちは、その効果に狂喜乱舞し、俺のことを「知恵の神」とまで崇め奉り始めた。
やれやれ、俺の神様としてのレパートリーも、ずいぶんと増えてきたものだ。

そんな中、俺の相棒であるクロも、また新たな才能を開花させていた。
その日、俺たちは研究所の建設に必要な、特殊な鉱石が不足しているという問題に直面していた。
エルグランド王国から輸送するには時間がかかりすぎるし、近隣でその鉱石が採れるという話も聞かない。
バルトロさんをはじめ、技術者たちが頭を悩ませていた、その時だった。

クロが、俺のズボンの裾をくんくんと引っ張り、何かを訴えるように鳴いた。
そして、拠点から少し離れた西の山の方を、じっと見つめている。

「どうした、クロ? あの山に何かあるのか?」

俺がそう尋ねると、クロは力強く「きゅい!」と頷き、俺を促すように駆け出した。
俺は、何かを感じ取ったクロの後を追って、騎士数名と共に西の山へと向かった。

クロは、迷うことなく山の奥深くへと進んでいく。
その鼻を、まるで獲物を追う猟犬のように、クンクンと鳴らしながら。
やがて、クロはごく普通のがけ崩れの跡地のような場所で、ぴたりと足を止めた。
そして、前足で地面の一点をガリガリと引っ掻き始めた。

「クロ、ここか? ここに何かあるのか?」

「きゅるる!」

クロは自信満々に鳴くと、その場所の土の匂いをしきりに嗅いでいる。
俺が騎士に指示してその場所を掘らせてみると、驚くべきことが起こった。
深さにして、わずか数メートル。
そこから現れたのは、キラキラと鈍い銀色に輝く、巨大な鉱石の塊だった。

「こ、これは……! 間違いない、我々が探していた希少金属の鉱脈だ!」

同行していた技術者の一人が、歓喜の声を上げた。

「まさか、こんな場所にあったとは……! しかも、この埋蔵量……これだけあれば、研究所の建設どころか、王都で数十年は使えるほどの量だぞ!」

「クロ殿は、土や草の匂いだけでなく、鉱石の匂いまで嗅ぎ分けることができるというのか……! なんという恐るべき能力……!」

騎士たちも、クロの新たな能力に驚愕の声を上げている。
クロ本人は、そんな周囲の驚きをよそに、「どうだ、すごいでしょ」とでも言いたげに胸を張り、俺に頭を撫でろとせがんでくる。
俺は、そんな頼もしい相棒の頭を、思い切り撫でてやった。

「すごいじゃないか、クロ! お前のおかげで、また一つ大きな問題が解決したぞ!」

「きゅいーん!」

クロは嬉しそうに声を上げ、俺の体にすり寄ってきた。
この小さなドラゴンは、本当に俺の最高の相棒だ。

希少金属の鉱脈発見のニュースは、すぐに拠点全体に広まった。
作業員たちの士気はさらに上がり、建設のペースはもはや神がかり的な速度に達していた。
地盤改良、特殊建材の加工、そして資材の現地調達。
研究所建設における全てのボトルネックが、俺とクロの力によって、いとも簡単に解消されてしまったのだ。

そして、ついにその日がやってきた。
リリアーナ王女からの連絡通り、近隣諸国の使節団、その第一陣が俺の拠点に到着するという日だ。
朝から、拠点全体がどこかそわそわとした空気に包まれている。

「アルス様、まもなくご到着かと思われます!」

見張りの騎士からの報告を受け、俺はバルトロさんや常駐騎士の隊長と共に、拠点の入り口で彼らを待った。
やがて、地平線の向こうから、色とりどりの旗を掲げた、壮麗な馬車の列が姿を現した。
その規模と豪華さは、リリアーナ王女の行列に勝るとも劣らない。
ここが辺境の地であることを忘れさせるような、きらびやかな光景だった。

俺たちの前で、次々と馬車が止まり、中から様々な衣装をまとった人々が降りてくる。
肥えた体に高価な装飾品をじゃらじゃらとつけた商人風の男。
厳格な雰囲気の、武人と思われる男。
そして、博識そうな、学者のようなローブをまとった老人。
彼らは皆、それぞれの国の代表として、この地にやってきたのだ。
その表情には、長旅の疲れと共に、期待と、そしてわずかな緊張の色が浮かんでいる。

彼らは、辺境とは思えないほど巨大で、そして活気に満ちた俺の拠点の様子を見て、まず度肝を抜かれたようだった。
そして、その中心に立つ、ごく普通の農夫のような格好をした俺を見て、少しばかり戸惑いの表情を浮かべた。

「……あなたが、あの奇跡の薬を開発されたという、アルス殿……ですかな?」

使節団の中から、一番年長者と思われる、学者のような老人が、おそるおそる俺に問いかけた。
その声には、畏敬の念と、そして信じられないといった響きが混じっていた。
無理もないだろう。
彼らが想像していた「救世主」は、もっと神々しい姿をしていたに違いないのだから。

俺は、穏やかに微笑み、ゆっくりと頷いた。

「ようこそ、辺境の地へ。俺がアルスです。皆様の長旅の労をねぎらうため、ささやかですが、食事の用意をさせていただきました。まずは、ゆっくりと休んでいってください」

俺の言葉に、使節団の一同は、緊張が解けたようにほっとした表情を浮かべた。
そして、俺が案内するままに、建設中の研究所の隣に特設された、巨大な食堂テントへと向かう。
そこには、俺が心を込めて準備した、特別な歓迎の宴が待っているのだった。
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