外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい

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クロの背に乗り、俺たちは故郷の空を後にした。眼下には俺が築き上げたアルス連合の首都が、まるで模型のように小さくなっていく。研究所や議事堂、そして活気に満ちた人々の姿。あそこが俺が守るべき場所だ。そして今から向かう南の大陸もまた、俺が守るべき世界の一部なのだ。

「クロ、全速力で頼む」

「きゅいーん」

俺の言葉に応え、クロは力強く翼を打ち付けた。その速度はもはや音速を超えているのではないかと思うほどだ。風が轟音となって俺の耳を打ち、景色は一瞬で後方へと流れ去っていく。クロの体は俺が毎日与えている栄養満点の作物のおかげで、驚異的な成長を遂げていた。その翼は鋼のように強く、体躯はもはや若き竜と呼ぶにふさわしい威容を誇っている。

数時間も飛んだだろうか。眼下に広がる海の様子が徐々に変化してきた。生命力に満ちた紺碧の海が次第に色を失い、よどんだ灰色へと変わっていく。空気もひんやりとしたものから、肌を刺すような不気味で冷たいものへと変わっていた。

「……間違いない。あれが南の大陸だ」

水平線の向こうに巨大な大陸の影が見えてきた。だがその大陸から放たれているのは生命の息吹ではない。死と静寂。そして全てを石に変えようとする強大で邪悪な波動だった。その波動は俺の肌を刺激し、クロもまた警戒するように低く唸り声を上げている。

俺たちはリリアーナからの最後の連絡があった、邪悪な水晶体のある巨大な窪地の上空を目指した。高度を下げていくと、その惨状がより鮮明に目に飛び込んでくる。千里眼の水晶で見た光景よりも遥かに悲惨な現実がそこにはあった。

街も森も川も、全てが灰色一色に染まっている。まるで世界から色彩という概念が失われてしまったかのようだ。そしてその大地の上には無数の石像が転がっていた。それはかつてこの地で生きていた人々や動物たちの最後の姿だった。

「……ひどい……」

思わず言葉が漏れた。これほどの絶望を俺は今まで見たことがない。紫斑熱もガイア帝国の侵攻も、これに比べればまだ生命の営みの中にあった。だがこれは違う。生命そのものを存在ごと否定するような絶対的な悪意だ。

やがて巨大な窪地が視界に入ってきた。その中心部で邪悪な水晶体が巨大な心臓のように、どくん、どくんと不気味な脈動を繰り返している。その脈動に合わせて周囲の大地から、残されたわずかな生命力が根こそぎ吸い上げられていくのが分かった。そして水晶体から放たれる灰色の靄が、さらにその汚染領域を広げようとしている。

窪地の縁ではリリアーナ率いるアルス連合の艦隊が必死の抵抗を続けていた。彼らは俺が遠隔で送り届けた植物兵器を駆使し、水晶体が操る石化の魔物たちと死闘を繰り広げている。だがその戦況は明らかに劣勢だった。兵士たちの顔には疲労と絶望の色が濃く浮かんでいる。

「リリアーナ」

俺は旗艦希望号の甲板で、懸命に指揮を執る彼女の姿を見つけた。その美しい銀の鎧も今は泥と埃にまみれ、額には汗が光っている。

俺の声に気づいた彼女は、はっとしたように空を見上げた。そしてクロの背に乗る俺の姿を認めると、その美しい瞳を信じられないといったように大きく見開いた。

「アルス様……」

その声は驚きと、ようやく訪れた救いへの歓喜に震えていた。

「待たせたな、リリアーナ」

俺はクロの背から希望号の甲板へと軽やかに飛び降りた。

俺の突然の登場に、周囲で戦っていた兵士たちが一斉にどよめく。

「アルス様だ」

「聖者アルス様が我々を助けに来てくださったぞ」

「おお……。これで我々は勝てる」

絶望の淵にいた兵士たちの顔に、一瞬にして希望の光が灯った。彼らの士気は俺という存在が現れただけで爆発的に跳ね上がる。

「アルス様……。本当に来てくださったのですね……」

リリアーナが震える声で俺に駆け寄ってきた。その瞳には大粒の涙が浮かんでいる。

「当たり前だろ。仲間が困っているのに黙って見ていられるか」

俺は彼女の肩を力強く抱き寄せた。

「よくここまで持ちこたえてくれた。あとは俺に任せろ」

「はい……」

リリアーナは俺の胸に顔をうずめ、安堵したように小さく頷いた。

その温もりと信頼が、俺の全身に新たな力を与えてくれる。

俺は彼女をそっと離すと、戦場の中心、邪悪な水晶体へとまっすぐに向き直った。

水晶体もまた俺という新たな脅威の出現を察知したのか、その脈動をさらに激しくさせている。周囲の空間が震えるほどの強烈な邪悪の波動が、俺に向かって放たれた。

だが俺は一歩も引かない。

「さてと。まずはこの淀んだ空気を浄化することから始めるとしようか」

俺は懐から、故郷の拠点を出る時に用意しておいた生命樹の種子を数粒取り出した。

そしてそれを戦場の灰色に染まった大地へと力強く投げつける。

「能力【畑耕し】、応用……『生命樹林・顕現』」

俺の能力が最大級の力で発動する。

大地に投げつけられた種子は邪悪な波動をものともせず、むしろそれを養分としながら凄まじい勢いで成長を始めた。

ごごごごごっ。

地響きと共に大地が裂け、そこから巨大な黄金色に輝く生命樹が何本も何十本も、天を突く勢いで姿を現したのだ。

あっという間に不毛の戦場は、神々しい光を放つ生命樹の森へと変貌を遂げた。

生命樹の葉の一枚一枚から放たれる清らかで力強い生命の波動が、水晶体の放つ邪悪な波動を中和し淀んでいた空気を浄化していく。

「おお……。なんという光景だ……」

「体が軽くなる……。力が蘇ってくるようだ」

アルス連合の兵士たちは生命樹の森が生み出す清浄な空気を吸い込み、その身に活力を取り戻していく。

逆に水晶体が操っていた石化の魔物たちは、生命樹の波動に触れた途端に動きが鈍り、体表の石化した部分がひび割れていくのが分かった。

「よし、形勢逆転だな。リリアーナ、全軍に告げろ。総攻撃を開始する」

「はい、アルス様」

リリアーナの号令一下、士気を取り戻したアルス連合軍が一斉に反撃を開始した。

弱体化した石化の魔物たちはもはや彼らの敵ではない。次々と打ち破られ浄化の光の中に消えていく。

戦況は完全に俺たちのものとなった。

だが俺の本当の目的は、こんな雑魚どもを相手にすることではない。

「クロ、行くぞ」

「グルルルルァァァッ」

俺は再びクロの背に飛び乗った。クロは力強い咆哮を上げると、邪悪な水晶体に向かって一直線に飛翔する。

水晶体も最後の抵抗とばかりに、これまでで最大級の邪悪な波動の塊を俺たちに向かって放ってきた。

それは触れたもの全てを一瞬で石に変えてしまうであろう、凝縮された絶望そのものだった。

「無駄だ」

俺はクロの背の上で両手を天に掲げた。

そして戦場に広がる全ての生命樹の力を俺の体へと集束させる。

「能力【畑耕し】、最大奥義……」

俺の全身が黄金色の光に包まれる。

それは大地と生命そのものの力。

この星が持つ全ての希望の力だ。

「喰らえ。『創世新星』」

俺の手から放たれた生命力の奔流が、邪悪な波動の塊と正面から激突した。

世界が光に包まれる。

創造と破壊。

生命と死。

二つの相反する絶対的な力がこの南の大陸で、今、雌雄を決しようとしていた。

その凄まじい力の衝突は空間そのものを震わせ、天と地を揺るがす。

リリアーナたちもそのあまりにも神々しい戦いを、ただ息を飲んで見守ることしかできなかった。

やがて光が収まった時。

そこに立っていたのは俺とクロだけだった。

邪悪な波動の塊は俺の放った生命の光によって完全に消滅していた。

そしてその先にある巨大な水晶体には、大きな大きな亀裂が走っている。

「……終わりだ」

俺の呟きと同時に、水晶体は甲高い断末魔のような音を立てて粉々に砕け散った。

その破片は光の粒子となって空に舞い上がり、やがて静かに消えていった。

元凶が滅びたことで南の大陸を覆っていた灰色の靄が、まるで朝霧が晴れるようにすーっと消えていく。

そしてその後に現れたのは、信じられないような奇跡の光景だった。
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