社畜生活に疲れた俺が転生先で拾ったのは喋る古代ゴーレムだった。のんびり修理屋を開店したら、なぜか伝説の職人だと勘違いされている件

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タマの案内は正確だった。
森を抜けると、遠くに大きな街の城壁が見えた。煙突から煙が立ち上っているのが見える。どうやら、かなりの規模の街のようだ。

俺とタマは、街道を通って街の門を目指した。
道中、荷馬車を引く商人や、武装した冒険者らしき人々とすれ違う。誰もが俺の肩に乗っているタマを興味深そうに見ていたが、特に何か言ってくる者はいなかった。

街の門では、門番に簡単な質問をされた。
名前と目的を尋ねられ、「遠くの村から職人になるために出てきた」と答えると、特に入市税なども取られることなく、あっさりと通してくれた。のどかなものだ。

街の中は活気に満ち溢れていた。
石畳の道を行き交う人々。露店で響く威勢のいい声。俺がいた日本の都市とは全く違う、ファンタジーの世界そのものの光景だった。

「マスター、スゴイニギワイデス」

「ああ、そうだな。さて、まずはどこに行こうか」

俺たちの目的は、この街で修理屋を開いて、のんびり暮らすことだ。
そのためには、まず店を構える場所を見つけなければならない。それから、職人として仕事をするためには、ギルドのような場所に登録する必要があるかもしれない。

「タマ、この街に職人ギルドってあるか、わかるか?」

「ショクニンギルド……。データ、検索シマス。……アリマス。アッチノホウコウ」

タマが短い腕で、大通りから一本外れた道を示した。
どうやら、この街の地理情報もどこかから受信できるらしい。本当に便利なやつだ。

俺はタマが指し示した方角へ向かって歩き始めた。
その通りは「職人街」と呼ばれているらしく、鍛冶屋の金槌を打つ音や、木工所の木の匂いが漂っていた。様々な工房が軒を連ねている。

「ここなら、俺の店を開くのにもちょうどよさそうだな」

俺は職人街をぶらぶらと歩きながら、手頃な空き家がないか探した。
中心部はどこも立派な店構えで、家賃が高そうだ。俺はもう少し、街の外れの方へと足を向けた。

すると、一軒の寂れた建物が目に入った。
元々は何かのお店だったようだが、今は窓ガラスが割れ、壁もところどころ崩れている。完全に廃屋だった。

「ここなら、安く借りられるか、もしかしたらタダで使わせてくれるかもしれない」

俺は建物の前に立ち、中を覗き込んだ。
中は埃まみれでガラクタが散乱しているが、広さは十分だ。一階を工房と店にして、二階を住居にすれば快適に暮らせそうだ。

「よし、ここにしよう。まずは持ち主を探さないとな」

近くの住民に聞き込みをしてみると、この建物はもう何年も持ち主が現れず、実質的に街の共有財産のような扱いになっていることがわかった。
役所に行って簡単な手続きをすれば、住居として使っていいとのことだった。しかも、使用料は格安だ。

早速役所で手続きを済ませ、俺は正式にこの廃屋の主となった。
鍵を受け取り、再び建物の前に立つ。

「さて、これからここが俺たちの家だ」

「ハイ、マスター。ワタシタチノ、オウチ」

タマが嬉しそうに言った。
だが、このままではとても住めそうにない。まずは大掃除と修理が必要だ。

「普通の人間なら何日もかかりそうだけど……」

俺には「分解」と「再構築」のスキルがある。
これを使えば、一日で終わるかもしれない。

俺は早速、作業に取り掛かった。
まずは建物の中にあるガラクタを全て外に出す。そして、建物そのものにスキルを使った。

「『分解』!」

建物の構造情報が、一瞬で頭の中に流れ込んでくる。
木材の腐食した部分、石壁のひび割れ、屋根の穴。全ての損傷箇所が手に取るようにわかる。

「なるほど、これならいける。『再構築』!」

俺は修復後の、綺麗で頑丈な建物の姿をイメージした。
すると、建物が軋むような音を立てて、変化を始めた。

腐った木材は健康な部分だけが残り、再構成されていく。ひび割れた石壁は隙間なく組み直され、割れた窓ガラスは周囲の壁材から生成された透明な結晶で塞がれていく。

屋根の穴もあっという間に塞がり、床の汚れは分解されて消滅した。
ものの数時間で、あれほどボロボロだった廃屋が、まるで新築のような立派な工房兼住居に生まれ変わったのだ。

「フゥー、こんなもんかな」

「マスター、スゴイデス!ピカピカニナリマシタ!」

タマが俺の周りをカタカタと歩き回りながら、感心したように言った。
内装も、俺のイメージ通りに作り変えた。一階はカウンターと作業スペースを確保した工房に。二階は寝室と簡単なリビング。家具も、外に出したガラクタを分解・再構築して作り出した。

「これで住む場所は確保できたな。次は、仕事を得るためにギルドに行ってみよう」

俺はタマを肩に乗せて、再び職人街の中心部へと向かった。
職人ギルドの建物は、ひときわ大きく、頑丈な石造りだった。扉には金槌と歯車を組み合わせた紋章が掲げられている。

俺が中に入ると、そこは多くの職人たちで賑わっていた。
皆、屈強な体つきの男たちばかりだ。ヒョロっとした俺が入っていくと、怪訝そうな視線が一斉に集まった。

「なんだ、兄ちゃん。ひやかしか?」

カウンターの奥から、ドスの効いた声が聞こえた。
声の主は、いかにもといった感じのドワーフだった。背は低いが、肩幅は広く、腕は丸太のように太い。見事な髭をたくわえている。

「いえ、ギルドに登録したくて来ました」

俺がそう言うと、ドワーフは鼻で笑った。

「登録だと?お前さんのような若造が、何の職人だって言うんだ?」

「修理屋です。壊れたものなら、大抵のものは直せます」

俺の言葉に、周りにいた職人たちからクスクスと笑い声が漏れた。
ドワーフは、値踏みするように俺を上から下まで眺めた。

「ほぅ、大きく出たな。このワシが、ここのギルドマスター、ドルガンだ。口だけ達者な若造は、このギルドにはいらん。腕を見せてみろ」

ドルガンはそう言って、カウンターの下からゴトリと何かを取り出した。
それは、複雑な形をした手のひらサイズの金属の塊だった。ところどころが焼け焦げ、部品がいくつか欠けている。

「こいつは、冒険者がダンジョンから拾ってきた魔道具の残骸だ。高名な魔道具職人たちも、誰も直せなかった代物よ。これを直せるもんなら、直してみろ」

挑戦的な目で、ドルガンが俺を睨みつける。
周りの職人たちも、面白そうにこちらを見ていた。完全に、俺を試している。

面倒なことになったな、とは思った。
だが、ここで実力を見せておかなければ、この街で仕事をしていくのは難しいだろう。

俺はその魔道具の残骸を受け取った。
手に取った瞬間、俺はスキルを発動させる。

「『分解』」

頭の中に、再び膨大な情報が流れ込んできた。
これは、ただの魔道具じゃない。古代文明の技術が使われている。内部構造はタマよりもさらに複雑で、精密なものだった。

だが、一度構造を理解してしまえば、あとは簡単だ。
損傷箇所は複数あるが、致命的なものではない。欠けている部品も、この魔道具自身の素材を少し変形させれば作り出せる。

「……なるほど、こういう仕組みだったのか」

俺はブツブツと独り言を言いながら、両手で残骸を包み込むようにしてスキルを発動した。

「『再構築』」

俺の手の中で、魔道具がカシャカシャと音を立てて組み上がっていく。
焼け焦げた部分は輝きを取り戻し、欠けていた部品が新たに出現して、然るべき場所にはまっていく。

ドルガンも、周りの職人たちも、何が起きているのかわからないという顔で、俺の手元を凝視していた。
やがて、俺の手の中の魔道具は、完璧な形を取り戻した。手のひらサイズの、美しい鳥の形をした魔道具だ。

俺はそれをカウンターの上にそっと置いた。

「できましたよ。これは、周囲の魔力を集めて光に変える照明器具ですね。少し改良して、魔力の集積効率を上げておきました。前より明るく光るはずです」

俺が説明を終えても、誰も何も言わなかった。
ギルドの中は、水を打ったように静まり返っている。

ドルガンが、恐る恐るという感じで、鳥の形の魔道具に手を伸ばした。
その指が触れた瞬間、魔道具がふわりと宙に浮き上がり、柔らかな光を放ち始めた。それは、ギルドの薄暗い室内を昼間のように明るく照らした。

「なっ……!?」

ドルガンが驚きの声を上げる。
周りの職人たちも、「光ったぞ!」「信じられん……」「あいつ、一体何をしたんだ?」とざわめき始めた。

ドルガンは、信じられないものを見る目で、魔道具と俺の顔を交互に見た。

「お、おい、若造……。お前、今、何をしたんだ?道具も使わずに、一瞬で……」

「企業秘密、というやつです。とにかく、これで俺の腕は信じてもらえましたか?」

俺が笑顔でそう言うと、ドルガンはゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、それまでの見下したような態度を完全に改めて、深々と頭を下げた。

「す、すまなかった!ワシの目が節穴だった!あんたは、ただの若造なんかじゃない……。伝説級の腕を持つ職人様だったとは……!」

その声は、ギルド中に響き渡った。
周りの職人たちも、もはや疑いの目ではなく、畏敬の念を込めた眼差しを俺に向けていた。

なんだか、思った以上に話が大きくなってしまったようだ。
俺はただ、静かに修理屋をやりたいだけなのだが。

「いや、そんな大したもんじゃ……」

「とんでもない!どうか、この職人ギルドに登録してください!いや、ぜひ登録させていただきたい!」

ドルガンの剣幕に、俺は断ることもできず、差し出された登録用紙にサインするしかなかった。
こうして俺は、晴れて職人ギルドの一員となった。

ギルドを出て、自分の工房に戻る。
「タクミの修理工房」と書いた、手作りの看板を店の前に掲げた。

「さて、これで準備は万端だ。あとはお客さんが来るのを待つだけだな」

「マスターナラ、ダイジョウブデス」

タマが肩の上で励ましてくれる。
本当に、頼もしい相棒だ。

俺は工房の椅子に座り、のんびりと最初の依頼人が来るのを待つことにした。
もう、時間に追われる生活は終わりだ。これからは、自分のペースで、好きなように生きていく。

そう決意して間もなく、工房の扉がギィ、と音を立てて開かれた。

「ごめんくださいな。ここ、新しくできた修理屋さんかい?」

入ってきたのは、人の良さそうな、ふくよかな体型のおばちゃんだった。
手には、柄が折れてしまった鍬を握っている。

「はい、そうです。何かお困りごとですか?」

俺が立ち上がって応対すると、おばちゃんはにこやかに笑った。

「それがねぇ、うちの畑で使ってる鍬が、こんなふうにポッキリと折れちまってねぇ。これを直してもらえないかと思ってさ」
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