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記念すべき工房の最初のお客さんは、近所で農業を営んでいるという、人の良さそうなおばちゃんだった。
名前はマーサさんというらしい。
「まあ、新しいお店ができたって聞いたから、さっそく来てみたのよ。若いのに感心だねえ」
マーサさんはそう言って、カウンターの上に折れた鍬を置いた。
見ると、金属の刃と木の柄を繋ぐ部分が、錆びて腐食し、そこからポッキリと折れてしまっている。長年使い込まれてきたのだろう。
「これはまた、見事に折れてしまいましたね」
「そうなのよ。昨日、畑を耕していたら、急にガクンッて。もう寿命かねえ。でも、これはおじいさんの形見でねえ。できれば直して使いたいんだけど……」
少し寂しそうにマーサさんは言った。
なるほど、ただの農具ではない、思い出の品ということか。そういう依頼、嫌いじゃない。
「わかりました。お任せください。すぐに直しますよ」
俺が笑顔でそう言うと、マーサさんは少し驚いた顔をした。
「え、今すぐにかい?普通は一日くらい預けるもんだと思ってたけど」
「簡単な修理ですから。そこに座って、少し待っていてください」
俺は工房の隅に置いてあった椅子を指差した。
マーサさんはまだ半信半半疑といった様子だったが、大人しく椅子に腰掛けた。俺の肩に乗っているタマを、不思議そうに見ている。
「マスター、ガンバッテクダサイ」
「ああ、任せとけ」
タマに小声で返事をしつつ、俺は折れた鍬を手に取った。
まずは、スキルの出番だ。
「『分解』」
鍬にそっと手を触れると、その構造情報が頭の中に流れ込んでくる。
金属部分はただの鉄ではなく、少量の魔力を含んだ鉄鉱石から作られているようだ。だからこそ、長年の使用に耐えてきたのだろう。柄の部分は、硬い樫の木が使われている。
問題の折れた部分は、やはり金属の腐食が原因だった。
長年の間に染み込んだ水分と土が、金属を少しずつ侵食していったようだ。
「なるほどな……」
原因がわかれば、あとは修理するだけだ。
ただ元通りにくっつけるだけでは、また同じ場所から壊れてしまうだろう。せっかくの最初の仕事だ。少しサービスしてあげよう。
俺はマーサさんには見えないように、カウンターの陰で作業を始めた。
「『再構築』」
まずは、鍬の刃の部分。
腐食した部分を分解して取り除き、代わりに刃全体の鉄の分子構造を再構築して、強度を高める。ついでに、切れ味も少し上げておこう。土を掘り起こしやすいように、刃の角度も微調整する。
次に、木の柄だ。
折れた部分を繋ぎ合わせるだけでは芸がない。俺は柄の内部構造を、繊維がより緻密に絡み合うように再構築した。これで、以前よりも軽くて丈夫な柄になるはずだ。
そして最後に、刃と柄を結合させる。
ここが一番の肝だ。俺は、それぞれの素材の分子を直接結合させるようなイメージで、スキルを発動した。これなら、もう二度と接合部から壊れることはないだろう。
作業時間は、ほんの数分だった。
俺が顔を上げると、マーサさんが目を丸くしてこちらを見ていた。
「もう終わったのかい?」
「はい、どうぞ。確認してみてください」
俺は修理を終えた鍬を、マーサさんに手渡した。
マーサさんは恐る恐るそれを受け取ると、自分の目を疑うように、鍬を隅々まで眺め始めた。
「な……!なんだいこれは……!?」
無理もない。
あれほど錆びていた刃は、まるで新品のように黒光りしている。柄の木目も美しく蘇り、折れていた部分はどこだったのか、全くわからない。
「持ってみて、なんだか軽くなったような……それに、刃がピカピカじゃないか。折れたところをくっつけてもらっただけなのに……」
「せっかくなので、全体的に手入れしておきました。前よりも使いやすくなっていると思いますよ」
俺がそう言うと、マーサさんは感動したように俺の顔を見つめた。
「あんた、一体何者なんだい……?ただの修理屋じゃないだろ?」
「ははは、ただのしがない修理屋ですよ」
俺は曖昧に笑って誤魔化した。
まさか異世界転生者で、チートスキル持ちです、とは言えない。
マーサさんはしばらく鍬を撫で回していたが、やがてハッとしたように顔を上げた。
「それで、お代はいくらだい?こんなに綺麗にしてもらったんだ。きっと高いんだろうねえ……」
心配そうに、腰につけた小さな財布を握りしめている。
俺は少し考えてから、値段を告げた。
「そうですね……。開店したばかりなので、今回はサービスです。銅貨五枚で結構ですよ」
銅貨五枚。
この世界の貨幣価値はまだよくわかっていないが、おそらく大した金額ではないはずだ。屋台の串焼きが一本、銅貨一枚くらいだったから。
俺の言葉に、今度はマーサさんが仰天した。
「ど、銅貨五枚!?そんな馬鹿なことがあるかい!普通の鍛冶屋に頼んだって、安くても銀貨一枚は取られるよ!」
「いいんです。最初の、大事なお客さんですから」
俺がにっこり笑うと、マーサさんは少しの間、呆然としていた。
やがて、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あんた……神様みたいな人だねえ……」
マーサさんはそう言って、財布から銅貨を五枚取り出すと、さらに何かをごそごそと探し始めた。そして、布に包まれた小さな塊をカウンターの上に置いた。
「これ、受け取っておくれ。今朝焼いたパンだよ。お礼だ」
それは、まだほんのりと温かい、手作りの黒パンだった。
素朴だが、とてもいい匂いがする。
「ありがとうございます。ありがたくいただきます」
「こっちこそ、本当にありがとうよ。おじいさんの形見、諦めなくてよかった。これからも、何かあったら絶対にあんたの所に持ってくるからね!」
マーサさんは満面の笑みでそう言うと、何度も頭を下げながら工房を出ていった。
その背中を見送りながら、俺はなんだか温かい気持ちになっていた。
「マスター、ヨカッタデスネ」
「ああ。いいお客さんだったな」
これが、俺の新しい人生の第一歩だ。
誰かに感謝されて、その対価としてパンをいただく。前世では考えられなかった、人間らしい営み。
俺はもらったパンを一口かじった。
少し硬いが、噛めば噛むほど小麦の優しい甘さが口の中に広がる。今まで食べたどんなご馳走よりも、美味しく感じられた。
「さて、タマ。俺たちの生活も、いよいよ本格的に始まったな」
「ハイ、マスター。コレカラモ、ガンバリマショウ」
タマが俺の肩の上で、ぴょこんと小さく跳ねた。
俺はパンを食べながら、静かな工房でのんびりと次の依頼を待つことにした。急ぐ必要なんて、どこにもないのだから。
その日の午後は、他に客が来ることもなく、穏やかに過ぎていった。
俺は工房の周りを散策したり、タマと話したりしながら過ごした。
この職人街は、様々な職人が集まっているだけあって、歩いているだけでも面白い。
パン屋の窯から漂う香ばしい匂い、革製品店の独特な匂い、薬草を調合している店の不思議な匂い。活気はあるが、どこか落ち着いた雰囲気があった。
俺の工房は街の外れにあるため、人通りはそれほど多くない。
それがまた、俺にとっては好都合だった。
夕方になり、俺は工房の二階にある居住スペースで、夕食の準備を始めた。
マーサさんにもらったパンと、街の市場で買ってきた野菜で簡単なスープを作る。
料理なんて前世ではほとんどしなかったが、いざやってみると案外楽しいものだ。
タマは俺の足元をうろちょろしながら、興味深そうに様子を眺めている。
「タマは、何か食べたりしないのか?」
「ワタシハ、魔力ヲ、エネルギーニシテイマス。食事ハ、フヨウデス」
「そうか。でも、見てるだけじゃつまらないだろ。ちょっと待ってろ」
俺はスープの鍋から、少しだけ野菜を取り出した。
そして、それに「分解」と「再構築」のスキルを使う。野菜の栄養素を、タマが吸収できる魔力の塊に変換するのだ。
出来上がったのは、ビー玉くらいの大きさの、淡い緑色に光る球体だった。
「ほら、これならどうだ?」
俺がそれを差し出すと、タマは不思議そうに近づいてきた。
そして、短い腕でその光る球体に触れる。すると、球体はすうっとタマの体に吸い込まれていった。
「……オイシイ、デス。マスター」
タマの水晶の目が、嬉しそうにパチパチと点滅した。
それを見て、俺もなんだか嬉しくなった。
こうして、異世界での最初の夜は、穏やかに更けていった。
新しいベッドは少し硬かったが、心地よい疲労感もあって、すぐに深い眠りに落ちることができた。もう、悪夢にうなされることもないだろう。
翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました。
窓から差し込む朝日が気持ちいい。こんなに爽やかな朝を迎えるのは、一体何年ぶりだろうか。
俺が階下の工房に下りていくと、すでに店の前で誰かが待っていた。
昨日のお客さん、マーサさんだ。その手には、大きなカゴが抱えられている。
「おはよう、タクミさん。昨日は本当にありがとうね」
「マーサさん、おはようございます。どうかしたんですか?」
「あの鍬ね、今朝さっそく使ってみたんだけど、もうビックリするくらい使いやすくなっててね!土がスイスイ掘れるんだよ。おかげで、いつもよりずっと早く仕事が終わっちまったさ」
マーサさんは興奮した様子でまくし立てた。
そして、持っていたカゴを俺に差し出した。
「これ、お礼の気持ちだよ。うちの畑で採れた、とびっきりの野菜さ!」
カゴの中には、瑞々しいトマトやキュウリ、そして見たこともないような不思議な形の野菜が、たくさん詰め込まれていた。
「こんなにたくさん……!お金もちゃんといただいたのに」
「いいからいいから!あたしの気持ちだよ。それとね、ご近所さんにもあんたの店のことを話しといたから。きっと、すぐにお客さんが来ると思うよ!」
マーサさんはそう言って、にっこりと笑った。
どうやら、俺の仕事ぶりに、心から満足してくれたようだ。
名前はマーサさんというらしい。
「まあ、新しいお店ができたって聞いたから、さっそく来てみたのよ。若いのに感心だねえ」
マーサさんはそう言って、カウンターの上に折れた鍬を置いた。
見ると、金属の刃と木の柄を繋ぐ部分が、錆びて腐食し、そこからポッキリと折れてしまっている。長年使い込まれてきたのだろう。
「これはまた、見事に折れてしまいましたね」
「そうなのよ。昨日、畑を耕していたら、急にガクンッて。もう寿命かねえ。でも、これはおじいさんの形見でねえ。できれば直して使いたいんだけど……」
少し寂しそうにマーサさんは言った。
なるほど、ただの農具ではない、思い出の品ということか。そういう依頼、嫌いじゃない。
「わかりました。お任せください。すぐに直しますよ」
俺が笑顔でそう言うと、マーサさんは少し驚いた顔をした。
「え、今すぐにかい?普通は一日くらい預けるもんだと思ってたけど」
「簡単な修理ですから。そこに座って、少し待っていてください」
俺は工房の隅に置いてあった椅子を指差した。
マーサさんはまだ半信半半疑といった様子だったが、大人しく椅子に腰掛けた。俺の肩に乗っているタマを、不思議そうに見ている。
「マスター、ガンバッテクダサイ」
「ああ、任せとけ」
タマに小声で返事をしつつ、俺は折れた鍬を手に取った。
まずは、スキルの出番だ。
「『分解』」
鍬にそっと手を触れると、その構造情報が頭の中に流れ込んでくる。
金属部分はただの鉄ではなく、少量の魔力を含んだ鉄鉱石から作られているようだ。だからこそ、長年の使用に耐えてきたのだろう。柄の部分は、硬い樫の木が使われている。
問題の折れた部分は、やはり金属の腐食が原因だった。
長年の間に染み込んだ水分と土が、金属を少しずつ侵食していったようだ。
「なるほどな……」
原因がわかれば、あとは修理するだけだ。
ただ元通りにくっつけるだけでは、また同じ場所から壊れてしまうだろう。せっかくの最初の仕事だ。少しサービスしてあげよう。
俺はマーサさんには見えないように、カウンターの陰で作業を始めた。
「『再構築』」
まずは、鍬の刃の部分。
腐食した部分を分解して取り除き、代わりに刃全体の鉄の分子構造を再構築して、強度を高める。ついでに、切れ味も少し上げておこう。土を掘り起こしやすいように、刃の角度も微調整する。
次に、木の柄だ。
折れた部分を繋ぎ合わせるだけでは芸がない。俺は柄の内部構造を、繊維がより緻密に絡み合うように再構築した。これで、以前よりも軽くて丈夫な柄になるはずだ。
そして最後に、刃と柄を結合させる。
ここが一番の肝だ。俺は、それぞれの素材の分子を直接結合させるようなイメージで、スキルを発動した。これなら、もう二度と接合部から壊れることはないだろう。
作業時間は、ほんの数分だった。
俺が顔を上げると、マーサさんが目を丸くしてこちらを見ていた。
「もう終わったのかい?」
「はい、どうぞ。確認してみてください」
俺は修理を終えた鍬を、マーサさんに手渡した。
マーサさんは恐る恐るそれを受け取ると、自分の目を疑うように、鍬を隅々まで眺め始めた。
「な……!なんだいこれは……!?」
無理もない。
あれほど錆びていた刃は、まるで新品のように黒光りしている。柄の木目も美しく蘇り、折れていた部分はどこだったのか、全くわからない。
「持ってみて、なんだか軽くなったような……それに、刃がピカピカじゃないか。折れたところをくっつけてもらっただけなのに……」
「せっかくなので、全体的に手入れしておきました。前よりも使いやすくなっていると思いますよ」
俺がそう言うと、マーサさんは感動したように俺の顔を見つめた。
「あんた、一体何者なんだい……?ただの修理屋じゃないだろ?」
「ははは、ただのしがない修理屋ですよ」
俺は曖昧に笑って誤魔化した。
まさか異世界転生者で、チートスキル持ちです、とは言えない。
マーサさんはしばらく鍬を撫で回していたが、やがてハッとしたように顔を上げた。
「それで、お代はいくらだい?こんなに綺麗にしてもらったんだ。きっと高いんだろうねえ……」
心配そうに、腰につけた小さな財布を握りしめている。
俺は少し考えてから、値段を告げた。
「そうですね……。開店したばかりなので、今回はサービスです。銅貨五枚で結構ですよ」
銅貨五枚。
この世界の貨幣価値はまだよくわかっていないが、おそらく大した金額ではないはずだ。屋台の串焼きが一本、銅貨一枚くらいだったから。
俺の言葉に、今度はマーサさんが仰天した。
「ど、銅貨五枚!?そんな馬鹿なことがあるかい!普通の鍛冶屋に頼んだって、安くても銀貨一枚は取られるよ!」
「いいんです。最初の、大事なお客さんですから」
俺がにっこり笑うと、マーサさんは少しの間、呆然としていた。
やがて、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あんた……神様みたいな人だねえ……」
マーサさんはそう言って、財布から銅貨を五枚取り出すと、さらに何かをごそごそと探し始めた。そして、布に包まれた小さな塊をカウンターの上に置いた。
「これ、受け取っておくれ。今朝焼いたパンだよ。お礼だ」
それは、まだほんのりと温かい、手作りの黒パンだった。
素朴だが、とてもいい匂いがする。
「ありがとうございます。ありがたくいただきます」
「こっちこそ、本当にありがとうよ。おじいさんの形見、諦めなくてよかった。これからも、何かあったら絶対にあんたの所に持ってくるからね!」
マーサさんは満面の笑みでそう言うと、何度も頭を下げながら工房を出ていった。
その背中を見送りながら、俺はなんだか温かい気持ちになっていた。
「マスター、ヨカッタデスネ」
「ああ。いいお客さんだったな」
これが、俺の新しい人生の第一歩だ。
誰かに感謝されて、その対価としてパンをいただく。前世では考えられなかった、人間らしい営み。
俺はもらったパンを一口かじった。
少し硬いが、噛めば噛むほど小麦の優しい甘さが口の中に広がる。今まで食べたどんなご馳走よりも、美味しく感じられた。
「さて、タマ。俺たちの生活も、いよいよ本格的に始まったな」
「ハイ、マスター。コレカラモ、ガンバリマショウ」
タマが俺の肩の上で、ぴょこんと小さく跳ねた。
俺はパンを食べながら、静かな工房でのんびりと次の依頼を待つことにした。急ぐ必要なんて、どこにもないのだから。
その日の午後は、他に客が来ることもなく、穏やかに過ぎていった。
俺は工房の周りを散策したり、タマと話したりしながら過ごした。
この職人街は、様々な職人が集まっているだけあって、歩いているだけでも面白い。
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俺の工房は街の外れにあるため、人通りはそれほど多くない。
それがまた、俺にとっては好都合だった。
夕方になり、俺は工房の二階にある居住スペースで、夕食の準備を始めた。
マーサさんにもらったパンと、街の市場で買ってきた野菜で簡単なスープを作る。
料理なんて前世ではほとんどしなかったが、いざやってみると案外楽しいものだ。
タマは俺の足元をうろちょろしながら、興味深そうに様子を眺めている。
「タマは、何か食べたりしないのか?」
「ワタシハ、魔力ヲ、エネルギーニシテイマス。食事ハ、フヨウデス」
「そうか。でも、見てるだけじゃつまらないだろ。ちょっと待ってろ」
俺はスープの鍋から、少しだけ野菜を取り出した。
そして、それに「分解」と「再構築」のスキルを使う。野菜の栄養素を、タマが吸収できる魔力の塊に変換するのだ。
出来上がったのは、ビー玉くらいの大きさの、淡い緑色に光る球体だった。
「ほら、これならどうだ?」
俺がそれを差し出すと、タマは不思議そうに近づいてきた。
そして、短い腕でその光る球体に触れる。すると、球体はすうっとタマの体に吸い込まれていった。
「……オイシイ、デス。マスター」
タマの水晶の目が、嬉しそうにパチパチと点滅した。
それを見て、俺もなんだか嬉しくなった。
こうして、異世界での最初の夜は、穏やかに更けていった。
新しいベッドは少し硬かったが、心地よい疲労感もあって、すぐに深い眠りに落ちることができた。もう、悪夢にうなされることもないだろう。
翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました。
窓から差し込む朝日が気持ちいい。こんなに爽やかな朝を迎えるのは、一体何年ぶりだろうか。
俺が階下の工房に下りていくと、すでに店の前で誰かが待っていた。
昨日のお客さん、マーサさんだ。その手には、大きなカゴが抱えられている。
「おはよう、タクミさん。昨日は本当にありがとうね」
「マーサさん、おはようございます。どうかしたんですか?」
「あの鍬ね、今朝さっそく使ってみたんだけど、もうビックリするくらい使いやすくなっててね!土がスイスイ掘れるんだよ。おかげで、いつもよりずっと早く仕事が終わっちまったさ」
マーサさんは興奮した様子でまくし立てた。
そして、持っていたカゴを俺に差し出した。
「これ、お礼の気持ちだよ。うちの畑で採れた、とびっきりの野菜さ!」
カゴの中には、瑞々しいトマトやキュウリ、そして見たこともないような不思議な形の野菜が、たくさん詰め込まれていた。
「こんなにたくさん……!お金もちゃんといただいたのに」
「いいからいいから!あたしの気持ちだよ。それとね、ご近所さんにもあんたの店のことを話しといたから。きっと、すぐにお客さんが来ると思うよ!」
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