勇者召喚に巻き込まれた俺は『荷物持ち』スキルしか貰えなかった。旅商人として自由に生きたいのに、伝説の運び屋と間違われています

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「スキル【荷物持ち】、か……」

授与の儀式で俺のスキルがそう告げられた瞬間、玉座に座る国王の顔があからさまに歪んだのが見えた。周囲のざわめきが、まるで遠い世界の出来事のように聞こえる。

クラスメイトたちが次々と『聖剣技』や『神聖魔法』といった、いかにも勇者パーティーに相応しい強力なスキルを授かっていく。その中で、俺、高橋昇(タカハシノボル)が授かったのは、その名の通り、ただ荷物を持つだけのスキルだった。

「ひどいな、高橋のやつ」
「荷物持ちって、ただの雑用じゃん」

後ろに並ぶクラスメイトたちのひそひそ話が耳に突き刺さる。俺だってそう思う。なんだよ、【荷物持ち】って。もっとこう、何かあっただろうに。

授与の儀式が終わり、俺たちは謁見の間に集められた。国王は満足げな顔で、勇者に選ばれたクラスの人気者、木村拓也の肩を叩いている。

「勇者よ、よくぞ来てくれた。君たちの力があれば、長きにわたる魔王軍との戦いにも終止符を打てるだろう」

木村は満更でもない顔で頷いている。その隣には、彼と同じように強力な戦闘スキルを授かったクラスメイトたちが誇らしげに胸を張っていた。俺はというと、部屋の隅で小さくなっているしかなかった。

やがて、国王の視線が俺を捉える。その目には、値踏みするような、それでいて侮蔑の色がはっきりと浮かんでいた。

「うむ。貴様が【荷物持ち】か」

「は、はい」

国王はため息を一つつくと、側に控えていた宰相に目配せした。宰相は心得たとばかりに一歩前に出て、俺に向かって冷たく言い放つ。

「高橋昇殿。貴殿のスキルは、我らエルロード王国が魔王軍と戦う上で、何ら有用性を見出せぬ」

「……はあ」

「よって、貴殿を勇者パーティーに加えることはできん。これは決定事項だ」

あまりに一方的な宣告に、俺は言葉を失った。追放、ということだろうか。異世界に召喚しておいて、使えないと分かったら即ポイ捨てか。あまりにも理不尽だ。

「そんな……俺はどうすれば」

「案ずるな。これまでの労に免じて、ささやかながら餞別をやろう。金貨十枚だ。それで城下町にでも降り、好きに暮らすがよい」

宰相が懐から取り出した革袋を、まるで汚いものでも投げるかのように俺の足元に放った。チャリン、と軽い音が虚しく響く。

「待ってください! ノボルは俺たちと一緒に召喚された仲間です! スキルが戦闘向きじゃないからって、追放なんてあんまりだ!」

声を上げたのは、意外にも木村だった。正義感が強い彼らしいと言えばらしい。だが、国王は鼻で笑った。

「勇者よ、情けは無用だ。戦場において、足手まといは死を招く。荷物を運ぶだけの存在など、奴隷でも雇えば済む話。それよりも、君たちには一刻も早くレベルを上げ、魔王軍との戦いに備えてもらわねばならんのだ」

その言葉に、木村はぐっと唇を噛み締めて黙り込んでしまった。彼の隣にいた女子生徒が、「でも……」と何か言いかけたが、その仲間たちに止められてしまう。結局、誰も俺を助けてはくれなかった。

こうして俺は、城の裏門からたった一人で放り出された。握りしめた金貨十枚だけが、この世界での唯一の頼りだった。

城下町はそれなりに活気があった。石畳の道を馬車が行き交い、様々な人種の人々が楽しそうに話している。だが、俺の心はどんよりと曇ったままだった。

「これからどうしろって言うんだ……」

元の世界に帰る方法も分からない。この世界で生きていくための知識も、力もない。あるのは【荷物持ち】という、何の役にも立ちそうにないスキルだけ。

とりあえず、当面の宿と食料を確保しなければならない。俺は一番安そうな宿屋を見つけて一泊することにした。

ベッドに寝転がりながら、俺は自分のスキルについて考える。

「【荷物持ち】……」

ステータス画面を開いて、スキルの詳細を確認してみる。そこには簡単な説明しか書かれていない。『任意のアイテムを収納できる』。それだけだ。

「収納、ねえ……」

試しに、枕元にあった水の入ったコップに意識を集中させてみる。「収納」と心の中で念じると、目の前のコップがふっと音もなく消えた。

「お、消えた」

本当に収納できたらしい。今度は「取り出し」と念じてみる。すると、手の中にさっきのコップが現れた。中に入っていた水も、一滴もこぼれていない。

「なるほど。アイテムボックスみたいなものか」

ゲームでよくある、便利な収納機能。それ自体はありがたいが、これだけでこの先生きのこっていけるだろうか。

「容量はどれくらいなんだろうな」

試しに、部屋にあった椅子を収納してみる。消えた。テーブルも、ベッドも、次々と収納していく。部屋の中がどんどん空っぽになっていく。

「おいおい、まさか……」

俺は恐る恐る、部屋の壁に手を当てて「収納」と念じてみた。すると、壁の一部がごっそりと切り取られ、目の前から消え去った。壁の向こう側、隣の部屋が丸見えになっている。

「やっべ!」

慌てて「取り出し」で壁を元に戻す。幸い、誰にも見られていなかったようだ。

どうやらこのスキル、ただのアイテムボックスじゃない。収納できるものの大きさや重さに制限がないのかもしれない。それどころか、空間そのものを切り取って収納しているような感覚だ。

もしそうだとしたら、これはとんでもないスキルなんじゃないか?

翌日、俺は街を出てみることにした。このスキルがどれほどのものか、街中で試すわけにはいかないからだ。

街の外れにある森までやってきた俺は、手始めに目の前にあった大きな岩を収納してみることにした。直径三メートルはあろうかという巨大な岩だ。

「収納」

念じると、巨大な岩は跡形もなく消え去った。何の抵抗も、手応えもない。まるで最初からそこになかったかのようだ。

「……マジか」

これなら、もしかしたら商人としてやっていけるかもしれない。どんなに大量の商品でも、どんなに大きな商品でも、これ一つで運べてしまう。輸送コストはゼロだ。

「よし、決めた。俺は旅商人になろう」

勇者パーティーから追放された時はどうなることかと思ったが、逆に自由を手に入れたのかもしれない。面倒な魔王討伐なんてごめんだ。俺は俺の好きなように、この世界でのんびり生きていく。

そうと決まれば、まずは商品を仕入れなければならない。俺は商業ギルドで情報収集をすることにした。

ギルドで話を聞くと、この街では塩が貴重品として扱われているらしい。内陸にあるこの街まで塩を運ぶのは大変で、どうしても値段が高くなってしまうのだという。

「塩か……」

海沿いの街まで行けば、安く大量に手に入るはずだ。それをこの街に持ってくれば、大きな利益になるだろう。

俺は早速、一番近くにある海沿いの街を目指して歩き始めた。

道中、俺はスキルのさらなる可能性に気づいた。自分の足元の空間を収納し、少し先の空間に取り出す。これを連続して行うことで、まるで瞬間移動のように高速で移動できるのだ。

「これ、やばいな……」

この移動方法を使えば、普通なら数日かかる距離も、半日とかからずに移動できてしまう。商人にとって、移動時間の短縮は大きなアドバンテージだ。

あっという間に海沿の街に着いた俺は、早速塩を仕入れることにした。有り金全部をはたいて、山のような量の塩を購入する。塩商人は、俺が一人でそれをどうやって運ぶのかと不思議そうな顔をしていたが、俺は構わず全ての塩をスキルで収納した。

商人は腰を抜かさんばかりに驚いていた。まあ、無理もないだろう。

再び高速移動で内陸の街に戻った俺は、仕入れた塩を商業ギルドに持ち込んだ。ギルドの職員は、俺がたった一日で大量の塩を運んできたことに信じられないという顔をしていた。

「こ、これを本当に君一人で?」

「ええ、まあ。スキルがあるので」

俺がスキルで塩の山を出現させると、ギルド内は騒然となった。

塩はすぐに高値で買い取られ、俺は金貨百枚という大金を手に入れた。元手は金貨十枚だったから、一気に十倍の利益だ。

「すごい……商人、いけるぞこれ」

思わぬ才能の開花に、俺は興奮を隠せなかった。

最初の商売がうまくいったことで、俺は自信をつけた。次に何を売ろうかと考えながら街を歩いていると、裏路地から小さなうめき声が聞こえてきた。

気になって覗いてみると、三人の男が、一人の小さな女の子を取り囲んでいるのが見えた。女の子はボロボロの服を着ていて、頭からは猫のような耳が、お尻からは尻尾が生えている。獣人だ。

この世界では、獣人などの亜人は人間から差別的な扱いを受けていることが多いと、ギルドで聞いていた。

「おい、その金目の物を全部渡しな」

「いや……これは、お母さんの形見だから……」

女の子は小さなペンダントを胸に握りしめ、震えている。男たちは下品な笑みを浮かべて、女の子にじりじりと迫っていた。

面倒ごとは嫌いだ。見て見ぬふりをして通り過ぎるのが、いつもの俺のやり方だった。でも、なぜか今日は、それができなかった。

「お前ら、そこで何してる」

俺が声をかけると、男たちは一斉にこちらを振り返った。

「あ? なんだてめえ」

「その子から離れろ。見てて気分が悪い」

俺の言葉に、男たちは顔を見合わせて笑い出した。

「なんだこのガキ。英雄気取りか?」

「痛い目見ねえうちに消えな」

男の一人がナイフをちらつかせながら、威嚇するように近づいてくる。

普通なら、ここで逃げ出すのが正解なのだろう。だが、今の俺には【荷物持ち】スキルがある。

男がナイフを振りかざした瞬間、俺は男と俺との間の空間をスキルで切り取った。男の腕は空を切り、その体はバランスを崩して前のめりに倒れ込む。

「なっ!?」

俺はその隙を見逃さなかった。先ほど森で収納しておいた、あの巨大な岩を男の真上に取り出す。

ドッゴォォン!!

凄まじい音と共に、岩が地面に落下し、男はそれに押しつぶされた。もちろん、殺すつもりはない。ギリギリのところで岩を再収納したので、男は地面に叩きつけられただけだ。それでも、気を失うには十分な衝撃だっただろう。

残りの二人も、何が起こったのか理解できずに呆然としている。

「次はお前らか?」

俺がそう言って微笑むと、二人は悲鳴を上げて逃げ出していった。

静かになった裏路地で、俺は獣人の女の子に近づいた。

「大丈夫か?」

「……あ、ありがとう、ございます……」

女の子は怯えた目で俺を見上げながら、か細い声で礼を言った。

「名前は?」

「リリ、です」

「そうか、リリ。俺はノボルだ。行くあてがないなら、俺と来るか?」

お人好しだとは思う。でも、この子を一人にしておくことはできなかった。

リリはこくりと頷いた。こうして、俺の旅に仲間が一人加わった。
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