僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

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アンデッドの少女 002

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「……」

 僕は半ば放心状態で、墓守が使う作業用の小屋であぐらをかいていた。
 両脇には、二人の少女。
 一人はミア・アインズベル……言わずもがな、僕とパーティーを組んでいる金髪のギャルだ。
 彼女はゾンビとの戦闘でマナ切れを起こして意識を失っているが、しばらくすれば自然とマナも回復し、問題なく目覚めるだろう。
 だから、問題なのはもう一人の方だった。

「すー、すー」

 絵に描いたような寝息を立てながら眠る、十歳くらいの少女。
 首元まで伸びた蒼い髪に、年相応の幼い顔立ち……取ってつけたように身体に巻かれた布が、この場の犯罪的な空気を高めていた。
 まるで人攫いでもしてきたような有様である。
 だがもちろん、品行方正を地でいくイチカ・シリルがそんなことをするはずがない。
 ではどうしてこんな状況が生まれたのかと問われれば、あの真っ白なカミサマの所為だった。

 僕のスキルを使っても殺すことができない不死性を持つゾンビの変異種……そんな厄介過ぎる魔物を何とかするためにあの人が取った手段が、ゾンビを人間に戻すことだった。
 いやそれ、普通に退治するよりもやばいことをしてるじゃねえかという突っ込みが出たのは言うまでもない。
 だが、あのカミサマが僕の文句など気にするはずもなく、結果こんな犯罪染みた状況が生まれてしまったのである。
 人気のないうす暗い建物の中に、布切れ一枚の少女を監禁しているという図。
 誰かに見られたら言い訳の余地なくブタ箱行きだ。
 この世界に未成年略取という法律はないはずだけど、人道的にアウト過ぎる。

「……」

 とまあ、冗談はさておき(冗談で済んでくれ)……これからどうしたものか。
 カミサマはこの女の子の一切を投げ出して消えてしまいやがったので(好きにしてくれと言われた)、後のことは僕が何とかしなければならない。
 いつまでも放心してはいられないだろう。
 いい加減、目の前の現実と向き合うべきである。

「……つっても、マジでどうすりゃいいんだ、これ」

 思わず弱音が漏れてしまった。
 理想を言えば家族の元に帰してあげたかったが、この子がゾンビになったのは少なくとも三百年以上前らしいので、実現不可能な案である。
 となると、どこかの孤児院に預けるのが現実的だろうか……。

「ん……うーん……」

 と、あれこれ頭を悩ましていたところに、ミアの寝ぼけ声が響いた。

「あれ、ここは……」

 ミアは上半身を起こし、不思議そうに周囲を見回す。
 そして僕の存在に気づき。
 同時に、見覚えのない少女にも気づいた。

「イチカ……あなた、いくら童貞だからってこれはやり過ぎよ……」
「待って待って待って待って違う違う違う違う」

 僕は大袈裟な身振り手振りでミアの勘違いを否定し、この状況に至った経緯を説明する。

「……またカミサマか。あなた、随分気に入られてるみたいじゃない。まあ、私をここに運んでくれたらしいし、あんまり悪態をつきたくないけど……でも、その人の所為でややこしいことになったのは間違いないわよね」

 言って、ミアは寝息を立てる少女に目をやる。

「元人間のゾンビか……アンデッド系の魔物の中には人間を仲間にする種類もいるとは聞いていたけど、この子もその被害にあったってことね」
「そうらしい。今は人畜無害の人間に戻っているから、警戒はしなくていいはずだよ」
「だといいけど。目が覚めて話をするまでは、油断しない方がいいと思うわ。いきなり魔物から人間に戻ったんだから、その事実を受け入れる前に暴走するかもしれないし」
「……そんなことになるかな?」
「さあ……でも、用心するに越したことないでしょ。イチカは一回、この子に殺されてるんだから」

 言われて、お腹の辺りがブルっと震えた。
 そうか、僕は一度殺されてるんだもんな……慎重に慎重を重ねて損はないか。
 酷なことを言えば、三百年もの間魔物と化していた少女が正常な人間に戻れているかもわからないし。
 僕は自然と、少女から距離を取るように移動する。

「とにかく、この子が起きるまでは交代で番をしましょ……ってことでよろしく!」

 言うが早いか、ミアは壁際まで毛布を引っ張っていって就寝の体勢に入る。
 さてはこいつ、ビビってるな。
 ここは墓所近くの小屋だし、怖がるのも無理はないか。
 彼女が眠ったらイタズラでもしてやろうと思ったけど、仲間の絆にヒビが入りそうなのでやめておこう。

「……」

 ミアと蒼い髪の少女を交互に眺めながら、僕はあぐらをかき直した。
 交代で番をしようと言っていたが、ここは男として、僕が一晩中でも監視役を務めようじゃないか。
 幸い、夜更かしは得意である。
 精々無駄で無為なことでも考えながら、少女が目覚めるのを待つとしよう。

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