僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

文字の大きさ
55 / 60

倫理の否定 002

しおりを挟む

「正面突破か! 漢気があるのかただの馬鹿か、どっちだろうな!」

 テスラは可笑しそうに笑う。

「【倫理の否定マッドサイエンス】で復元した魔物には大雑把な命令しか出せねえ……そいつらには、目の前の人間を全力でぶち殺すようインプットした。さあ、どこまで抗える?」

 余裕綽々に構えているテスラの元へ辿り着くには、まず五体の魔物を倒さなくてはならない。
 やることは一つだけ。
 僕は右手を構える。

「【神様のトリック――ぐっ⁉」

 スキルを発動する直前、脇腹に激痛が走った。
 肋骨を砕き、内臓が損傷する感覚。
 これは……石の爪か。
 悪魔を模した石像の魔物、ブラックガーゴイルが、死角から攻撃を仕掛けてきたらしい。
 鋭い爪が引き抜かれるのと同時に、大量の血液が噴射される。

「――っ」

 その場に卒倒しそうな痛み……だが、死なない。
 不死身のスキル、【不死の王ナイトウォーカー】によって、苦痛と引き換えに傷が癒える。

「おいおいおいおい、なんだそれ、回復系のスキルか? にしては、回復速度が異常過ぎるぜ。治癒系の上位スキルか、はたまた特異系か? なーなー、教えてくれよ」
「……お前に説明する義理は――がっ⁉」

 テスラの言葉に気を取られたつもりはなかったが、僕は更なる追撃を食らう。
 地中から這い出てきた細長い尾……巨大蛇、ベノムサーペントのものだろう。
 豆腐でも抉るような軽快さで、左肩が吹き飛ばされる。
 血肉と共に意識を持っていかれる……だが、死なない。

「こいつはすげえ! そんじゃそこらのAランク冒険者とは比べ物にならない治癒スキルじゃねえか! こりゃ良い暇潰しになりそうだ!」

 僕の不死性を見てテンションが上がるテスラ。
 まるで、面白いオモチャを手に入れた子どものようである。

「はあ、はあ……――くそっ」

 【不死の王】の代償として味わう苦痛……その一瞬の隙を突き、レオンキマイラが飛び掛かってくる。
 次いで、ジャイアントイエティの拳。
 上空から、キングスライムの巨体が落ちてくる。

「どこまで耐えられるか見せてみな!」

 気づけば。
 僕は、魔物たちに取り囲まれていた。

「――――――」

 貫かれ。
 抉られ。
 噛まれ。
 砕かれ。
 潰され。
 切り刻まれ。
 引き千切られ。
 嚙み荒らされ。
 擦り潰され。
 圧し伸ばされ。
 肉という肉がずり落ち。
 骨という骨が粉々になり。
 臓器と血液がミキサーされ。
 人間が体験していい痛みの許容量をとうに超え。
 それでも――死なない。
 そんな程度じゃ。
 僕は、死なない。
 僕は、死ねない。


「――ごふっ」


 けれど、それは死なないだけで。
 状況は悪化する一方だった。
 絶え間ない暴力と再生に次ぐ再生の所為で、【神様のサイコロトリックオアトリート】を発動する余裕がないのだ。

 スキルを使う前に殺される。
 生き返った瞬間殺される。
 殺されている間に殺される。

 せめて数秒の隙さえ生まれれば何とかなるが……しかし、これは完全なる自業自得である。
 何の考えもなく激情に身を任せた僕の責任だ。
 このまま魔物たちに殺され続ければ、遅かれ早かれマナ切れを起こすだろう。
 そうなればもう、不死身のスキルは使えない。

「――――がはっ――――」

 甘かった。
 その一言に尽きる。
 フェンリルの群れを倒せたり、Aランクモンスターのドラゴンを倒せたり……そんな成功体験が、僕の認識を無意識の内に甘くしていた。
 何を調子に乗っていたんだ、僕は。

 僕は、こんなにも弱いのに。

 正義感や使命感に身を任せていいのは、一握りの力を持つ人間だけだ。
 僕みたいな弱者は、冷静に憶病に、身の丈を弁えた行動をしなきゃならないのに。
 ああ、なんて情けない。
 僕はまた、何も為せずに死んでいく――

「――イチカ‼」

 僕の頭上で。
 橙色の炎が、燃え上がった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

処理中です...