僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃

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第十九話

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香奈姉ちゃんが言ってた握手会は、純粋にファンの方たちや違うバンドをやってる人たちと交流するためのものだった。
中にはサインを名刺交換のようにやっているバンドチームもあるくらいだ。
香奈姉ちゃんもその例に漏れず、ファンの方たちや他のバンドの人たちに書いてあげていた。
香奈姉ちゃんが書いたサインを、ファンの方たちや他のバンドのメンバーたちにあげた後、握手をしていくのだが──
他のメンバー同士での握手も催されていた。
女装した僕との握手は、どう感じてるんだろうか。
やっぱり、見た目どおりの女の子だと思って握手してるのかな。
だとしたら、なんとなくではあるけど罪悪感がある。
それでもやる事はやらないといけないから、必要最低限のことはやるつもりだ。
僕は、あくまでも笑顔でファンの方と応対する。

「ありがとうございました!」
「ありがとうね!」

香奈姉ちゃんたちは、ファンの方たちや他のバンドの人たちにお礼を言っていたが、僕は声には出さずに会釈だけをしていた。
メイクは理恵先輩がし直してくれたから、まわりにはバレてはいないはずだと思うけど。

「ねぇ、君」

ふとしたところで、他のバンドの女の子に声を掛けられてしまう。

「ん? なにかな?」

僕は、キョトンとした表情でその女の子を見る。
普通に可愛い女の子だ。
髪をツインテールにして肩の辺りまで伸ばしてる。
目はつり目で少しだけキツそうなイメージだ。
見た感じ、僕よりも年上っぽい。

「君は、他の女の子たちからずいぶんと距離をとるわね。何か理由でもあるの?」
「あの……。えっと……」

そんなことをいきなり言われて、僕はしどろもどろになる。
すると女の子は、僕の手を取って言ってきた。

「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。このライブハウスには女の子しかいないんだから。もっと肩の力を抜いていいんだよ」

気がついてみれば、たしかにこのライブハウスには、女の子しかいない。
ファンの方たちや違うバンドチームの方たちを見ても、女の子しかいないのだ。
あれ?
さっきまでは、たしかに男の人がいたような気が──
それに、この女の子の言い分だと、どうやら僕のことも女の子だと勘違いしているみたいだ。
でもバレるわけにはいかない。

「あぁ、うん。そうだね。ありがとう」
「せっかくだから、私が一緒にいてあげようか? その方が君にとっても良い事だと思うし。それに──」
「それに?」
「私は、君に興味津々なんだ。だから、なんとなく…ね」

それは、僕にしか聞こえないようにわざわざ耳元でそう言ってくる。
ふと見れば、彼女は照れているようにも思えた。
まさか、僕が女装してるっていうのがわかっているのかな。

「もしかして──」
「どうしたの、楓? 何かあったの?」

僕が言いかけようとして、香奈姉ちゃんが割り込んでくる。
ナイスタイミングだ。

「ううん。特に何もないよ。…ちょっとね」

僕は、そう言って意味ありげに女の子の方に視線を向けていた。
香奈姉ちゃんは、僕のちょっとした感情の変化に何かを悟ったみたいである。
女の子の方に笑顔を向けた。

「私の『楓』に、何か用件でもあったのかな?」

その『笑顔』も、心からのものじゃない気がするけど、この際何も聞かないでおく。

「え、いや、その……。私は、彼女に興味があってね──」

まさか香奈姉ちゃんが目の前にくるなんて思ってもみなかったんだろう。
女の子は、あきらかに動揺していた。
もしかして、全部バレて……。
香奈姉ちゃんは、あくまでも笑顔のままでさらに訊いていた。

「そうなんだ。『彼女』にね。一体どんなところに興味が湧いたのかな?」
「そうだなぁ。普通の女の子よりも、ずいぶんと凛々しいところかな──」
「そっかぁ。凛々しいのかぁ。…まぁ、たしかに楓には、普通の女の子にはないものがあるけどさ」

凛々しいって……。
僕は、普段どおりに振る舞っただけなんだけど。
それに僕は、『男』だから──
そんなことを、僕の口から言えるわけもなく、閉口してしまう。

「そうだよね! だからこそ、彼女のことをもっと知りたいんだよ。…別に悪い話じゃないでしょ?」

そう言ってくる女の子の表情はキラキラと輝いていて、まさしく興味津々といったものだ。
やっぱり僕が『男』だということをわかっていてそう言っているのかな。
香奈姉ちゃんは、どう思っているんだろう。

「そうだね。悪い話じゃないね。彼女が『男』じゃなかったらね……」
「え? 今、なんか言った?」

最後の方は、ボソッと呟くように言ったので女の子には聞こえなかったみたいだ。
女の子は、訝しげに首を傾げる。
香奈姉ちゃんは、女の子の反応に思わずにんまりとした表情を浮かべていた。

「ううん。なんでもないよ。…でも楓はダメなんだ。楓は私のものだから、他の女の子には諦めてもらってるんだよね」
「ふ~ん……。そっか。それは余計に興味が……。っていうか狙いたくなっちゃうな」

女の子の方も、諦める気はないらしい。
僕のことを、覗きこむような熱い視線で見つめてくる。
僕は、ちょっとだけ怖くなってしまい、香奈姉ちゃんの後ろに隠れる。
香奈姉ちゃんも、それで何かを察したんだろう。身を挺して言った。

「そんな顔をしたって、ダメなものはダメなんだからね! 楓は私のものなんだから──」
「わ、わかったわよ。仕方ないなぁ……。それなら──」

女の子は、残念そうな表情でそう言ったのも束の間、僕のところに顔を近づけてくる。そして──

「私は、絶対に諦めないんだからね。覚悟してよね。『楓』君」

ボソッと呟くようにそう言ってきた。

「っ……⁉︎」

僕は、思わずドキッとしてしまう。
やっぱりバレてるんじゃないか!
女の子は、颯爽とこの場から去っていく。

「ん? どうしたの、楓。なんか言われたの?」
「いや、別に何も……」
「そう。それなら、いいんだけど……」

どうしてかわからないが、香奈姉ちゃんは不満げな表情になる。
ひょっとして、僕のことを疑ってるのか。
疑われても、何も出ないというのに。

「大丈夫だよ。僕は、今のメンバーを信頼してるから。香奈姉ちゃんたちから離れる気は、まったくないよ」
「楓……。もしかして、さっきの女の子が絡んできたのってメンバーの引き抜きの話だった?」
「ううん。違うよ。…普通に声を掛けられただけだよ」
「そっか」

僕の返答に安心したのか、香奈姉ちゃんはホッと一息吐いていた。
それに気づいたのか、今度は理恵先輩がこちらにやってくる。
理恵先輩は、思案げな表情で

「どうしたの?」

と、訊いてきた。
この場合、どう返したらいいのか、僕にはよくわからない。
適当にあしらうのは、ちょっと悪い気がするし。
悩む……。
そんな僕の代わりに、香奈姉ちゃんが微苦笑して答えた。

「なんでもないよ。…ちょっとね」
「ちょっと…か。なんか気になるなぁ」

理恵先輩は、香奈姉ちゃんの陰りのある表情を見てそう言う。
その表情は、見るからにして訝しげだ。
そんな顔をされても、ホントになんでもないのに……。

「あの……。えっと……。理恵先輩。これには事情が──」

僕が口を開くが、うまく言葉にして出てこない。
それもこれも、さっきの女の子が話しかけてこなければこんな事にはならなかったのに。
理恵先輩は、僕の表情を見て何かを察したのか、笑顔で言った。

「楓君の言いたいことは、よくわかったよ。みんなが集まってから、よく話し合おうか」
「………」

やっぱり、誤解してるじゃん。
僕と香奈姉ちゃんは、笑顔の理恵先輩に何も言えなかった。
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