僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃

文字の大きさ
240 / 380
第十九話

12

しおりを挟む
家に帰ると、さっそく花音と出会してしまう。
自分の部屋に向かう途中の階段の前に立っていたのだから、避けようがないのだけど。
花音は私の姿を見るやいなや、なぜか不機嫌な様子になって口を開く。

「お姉ちゃん。今日は、ライブだったんだよね?」
「そうだけど。…どうかしたの?」
「別に……。ただ、うまくいったのかなって……。楓は……」

花音にとっては、ライブそのものではなく、楓の女装がうまくいったのかが気になるみたいだ。
そんなこと気にしたって、しょうがないと思うんだけど。
だからといって何も話さなかったら後でしつこいので、テキトーに言っておこう。

「楓は、うまくやってくれたよ。花音が心配するような事は、何もなかったよ」
「そうなの? てっきり失敗しちゃって、今頃、部屋で塞ぎ込んでるんじゃないかなって──」

たしかに花音の言うとおり、多少のトラブルには見舞われたかもしれないが、それはなんとか乗り切ってくれたし。
なにより、ライブがうまくいったのだから、むしろ良かったのではないかと思う。
そのことも含めて、後で楓の家に行ってみようかと──

「楓に限ってそんなことはないよ」
「そうかなぁ。内心では、結構ショックを受けたんじゃないのかな? よくわからないけど……」

花音は、神妙な面持ちでそう言った。
いやいや。失敗したっていうことはないでしょ。
楓だって、満ち足りた表情をしていたし。
私は、何事もなかったかのように階段に一歩だけ足を乗せる。

「大丈夫だよ。楓だって、私たちのバンドの大切なメンバーなんだし。ショックを受けたのなら、まず私に言ってくるはず──」

その言葉と同じタイミングで、メールの着信音が鳴った。
私は、すぐにスカートのポケットの中からスマホを取り出す。
入ってきたメールを確認すると──

『どうしよう。兄貴に女装が見られちゃった……』

そんな内容だった。
あらまぁ。
隆一さんに見られてしまったか。
楓の女装姿は可愛いからね。
もしかしたら、楓と気づかずに口説きにいってるかもしれないかも。

楓の部屋に行くと、ずいぶんと気落ちした様子の楓が女装姿のままで座っていた。
しかも部屋の隅っこにだ。

「大丈夫、弟くん? 女装姿を見られたって書いてあったけど……」

私は、本気で楓のことが心配でそう声をかけた。
悪いことをしていたわけでもないのに体育座りをしていたら、心配にもなる。
しかし、そんな姿も普通に見たら『女の子』のそれにしか見えない。
楓は、今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。

「香奈姉ちゃん……」

こんな時、なんて声をかけてあげればいいかわからない。
だけど楓に女装を促したのは、まぎれもなく私たちだ。
だからこそ、責任は取らないといけない。

「とりあえず、女装姿はやめにしようか? 話はそれからでも──」
「うん。そうだね……」

楓は、素直に頷くとゆっくりと立ち上がって服を脱ぎ始める。
その立ち振る舞いは、まるで一人の女の子を見てるみたいだった。恥じらいながら服を脱いでいる姿なんて、女の子のそれだ。
そんなことを思うのは、楓に対してすごく悪いんだけど。
私の目からは、そんな風に見えてしまったのだ。
これは、私も手伝わないとダメだろう。

「香奈姉ちゃんは、一旦、部屋から出てくれないかな? 着替えが終わったら、呼ぶから──」
「え、でも……」
「着替えを見られてしまうと、とても恥ずかしいんだ。…お願い」

そんなことお願いされても……。
楓は、乙女じゃないんだから。
そんなツッコミにもなんとか耐える。

「わかった。弟くんがそう言うのなら、私は部屋の外で待ってるよ。着替えが終わったら呼んでね」

私は、そう言うと楓の部屋を後にした。
楓の裸だったら、何度も見てるんだけどな。
何が恥ずかしいんだろう?
まさか女装にハマってしまったとか。
そんなことは、万が一にもないか。
たしかに最近、私とのセックスもほとんどないけど。
そのことが原因でってわけでもないだろうし。
最近の楓の気持ちって、ほとんどわからなくなってるのはたしかだ。
今日からでも、楓の気持ちを知るためにスキンシップをとってみるのもいいかもしれない。
少し時間があるから、準備しておこう。

緊張してるのか、楓は私の方を見て何か言いたそうな表情をしている。
そんなに女装姿を見られたことが、恥ずかしいのかな。
私は、思案げな表情を浮かべ、訊いていた。

「それで? 隆一さんに女装姿を見られたって言ってたけど。…何かあったの?」
「そのことなんだけど……。なんて説明すればいいのか……」
「そんなもったいぶらずに、わかるように言いなさいよ。何があったの?」
「それが……。僕の女装姿を見て、兄貴がおかしくなったんだよ」
「おかしくなったって……。まさか口説きにきたとか?」

まさかね。
口説きにきたっていうのは、さすがにないか。
楓の反応を見るに、そんなことはなさそうだ。

「さすがに口説きにはこなかったけど、なんかフリーズしてたんだよね。まさに嵐の前の静けさって感じで──」
「なるほどね。それで、弟くんも『まずい』と思って、自分の部屋に避難してきたってわけなのか?」
「うん。まぁ、そんなところ。何をしてくるかわからないから、とりあえず自分の部屋に避難して、香奈姉ちゃんにヘルプのメールをっていうところかな」
「それじゃ、これからかな。口説いてきそうなのは──」

私がそう言って納得していると、誰かが部屋のドアをノックしてくる。
誰なのかすぐにわかるのが、なんとも言えないけど。
とりあえず、部屋のドアは開けなかったが、楓が冷静に応対する。

「どうしたの?」
「さっきの女の子だけど、お前の知り合いか? すげー可愛かったんだけど──」
「………」

あまりのことに、楓は絶句してしまう。
それは、私も同じだった。
なんて説明すればいいんだろう。
隆一さんがいう『女の子』の正体は、楓なんだけどな……。

「その女の子なら、もう家に帰っていったよ」
「そうなのかぁ。名前くらいは知りたかったなぁ……」

隆一さんは、ドアの向こうでもわかるくらいに残念そうな声色でそう言っていた。
冗談にしても、他の女の子の名前なんて知りたいものなんだろうか。
だから、隆一さんは恋愛対象にならないんだよな。
浮気癖みたいなのがあるから。
その点、楓は違う。
楓には、一途なところがあるから、他の女の子に気を取られることはない。
なんにせよ、せっかく楓の部屋に来たのだから、それなりのスキンシップはしていくつもりだ。

「話はそれだけ? 夕飯なら作り置きがあるから、温めるだけだよ」
「おう。わかった。ありがとうな」

隆一さんは、そう言って部屋の前から去ったみたいだった。
それからしばらくして──

「ふぅ~」

私と楓は、ほぼ同時に息を吐く。

「よかった……。バレてなくて……」

楓は、安心したのかその場にへたり込んだ。
それもそうだろう。
女装した時の洋服が、まだベッドの上にあるのだから。

「ごめんね、弟くん。今度からは、気をつけるようにしよう」

私は、そう言って楓に寄り添う。
とりあえず、その洋服は楓の部屋には置いておけない。
どこかに隠さないと。
今は楓とのスキンシップよりも、そちらの方が先だ。
私は、考えを巡らせる。
いい隠し場所はないものかな。

結局、楓の女装用の洋服は、私の部屋のタンスの中に隠すことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...