最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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大迷宮ニクス・ヘル編

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アダン・ダル


クロードとローラは雑貨屋の二階にいた。
二階は四つ部屋があるようだった。

一番奥の部屋はドアが開いており、そこに入ると殺風景な部屋にベッド。
寝ていたのは白骨死体を抱いた下着姿の"アンナ"であった。
褐色肌は変わらないが、髪は肩のあたりまで伸びているのを見ると、やはり魔物がこの町を襲ってから半年経っているのだと容易に判断できた。
口にはチューブのようなものが繋がれていたが、それをクロードが外す。
アンナは半分ほど飲み込んでいたドロドロとした液体を吐き出した。

それを見たローラは眉を顰めて口を手で押さえる。
クロードは無表情でアンナに外傷が無いか見たが、そのようなものはなかった。

「彼女をここから運び出す。何か着せる物が無いか探してくれないか?」

「え、ええ」

「母親の……ミリアが着ていたものがあればいいが、ケイトの服だと小さすぎるだろう」

「わかったわ」

ローラは部屋から出た。
他の部屋は"向かい"、"斜向かい"、"隣"だ。
クロードはアンナの様子を伺いながらローラを待った。

するとすぐにローラは戻ってきた。

「あったわよ。誰のだかわからないけど」

「すまない」

ローラが持ってきたのは茶色いローブだった。
クロードは受け取ると、それでアンナの体を巻いて抱きかかえた。

「でも……なんか変なのよね」

「何がだ?」

「隣の部屋にだけベッドが二つあって、あとの部屋は商品の物置みたいな感じで……そのローブは物置にあったのよ」

「四人住んでいるはずの家に三つしかベッドが無い……考えられる可能性は僕らがアンナの夢で会った人物の中に、ここには住んでいない偽りの人間がいるということだろう」

「偽りの人間?」

「ああ、恐らくニクス・ヘルはアンナが来る前からこの町にいたんだ」

「それって……どういうこと?」

「どこかで先に土の高波動の人間を見つけて、その人物になりすまして、この雑貨屋に最初からいたように見せかけていた……と考えるのが妥当か。アンナの夢を考えると、彼女は家族が四人いたと認識している。つまり家族の誰かが赤の他人でニクス・ヘルがどこからから連れてきた人間だということだ。その人間を物置に閉じ込めていたんだろう」

「それって、誰なのよ」

「ベッドの位置関係から考えると、恐らく、"あの人物"だな。まぁガイかメイアがゴールに辿り着いていたなら出会ってるかもしれないね」

クロードは迷宮を作った人間が誰なのか完全にわかった。
2人は廃墟となっている雑貨屋を出て、宿の方へ向かった。

____________


西の遺跡


メイアとフィオナ、スキンヘッドの冒険者の3人は巨大な扉の前にいた。

青く発光する壁で辺りは少し明るいが、それはこの迷宮の暗さに目が慣れていたこともある。

「これはゴールかもしれんな」

フィオナが言った。

「半年かかってようやく辿り着いたか……」

「あんた、ここに半年もいたのか!?」

スキンヘッドが驚いた様子でフィオナを見る。
それは珍獣を見るような目だ。

「とにかく進むしか無いですよね」

「ああ。ここまで来たなら、この迷宮の主に会わねばなるまい。おいハゲ、扉を開けるんだ」

「はぁ?なんで俺なんだよ!!」

「か弱い女子に、こんな力仕事させる気か?これは男の仕事だろうに」

スキンヘッドは息を呑む。
"か弱い"とは笑えない冗談だ。
自分が苦戦した魔物相手に、たった1人で勝ってしまったメイアは明らかにその部類では無い。
さらに、このフィオナという女性は見た目は若いが、メイアの師匠のようだった。
逆らったら逆らったで何をされるかわからない。
スキンヘッドは扉の前に立つと深呼吸して意を決した。

「ふー。開けるぞ!!」

扉に両手を添え、正面へ一気に力を入れる。
ギギギという鈍い音と共に扉はゆっくりと開いた。

部屋は今いるところよりも、もっと薄暗かった。
目を凝らしても先が見えない。
スキンヘッドが前を歩き、メイアとフィオナはそれに続いた。

すると暗闇の向こうから声がした。

「あら……いらっしゃい!」

元気で活発そうな、笑みを含んだような声。
部屋に入った3人の中、たった1人だけ、その声に聞き覚えがあった。

「ケイト……さん?」

声の主は雑貨屋のケイトのように聞こえた。
暗闇から姿を現したのは、やはり古びたワンピースを着たケイトだった。
部屋の中央に立ってニコニコと笑っていた。

「この姿を知っているということはアダン・ダルの夢の中を通ってきたわね」

「やはり、"ニクス・ヘル"か」

「あら、あなたは……もう死んだものだと思ってたけど」

「貴様を葬るまでは死なんよ」

「私の姉を殺した時のようにはいかないわ。人間の思考はわかる。こちらには人質がいるのよ」

目が慣れてきたのか、部屋の全貌が見えてきた。
円形の広い部屋で天井も高い。
奥の、いつもは扉がある場所にはベッドが一つだけ置いてある。
そこには人影があった。
女性が裸で寝させられていたのだ。

「ケイトさんが、もう一人?」

「彼女は近くの町で奴隷として売られていたから買った名も無き少女。その姿を借りて、あの町で少しの間だけ暮らしてたの。家族に暗示をかけて子供が二人いるように見せかける。町の人には養子だと思ってもらう。溶け込むのに苦労したわ」

「なぜそんなことを……」

「"人間の思考を理解するため"、"弱点を探るため"、"楽しいから"。そんなところかしら?でも"面白い人間"が町にやって来たから、ついついみんな殺しちゃったわ。私の悪い癖ね」

ケイトは興奮気味に笑みを浮かべる。
メイアは絶句したが、フィオナは黙っていられなかった。

「クズが……わしがいることを忘れるなよ」

「フィオナ・ウィンディア……我が"あるじ"が、この世界で二番目に恐れた人間」

「ほう、それは光栄じゃな」

「あなたをここで倒せば主もさぞお喜びになるでしょう」

「その"主"とやらは、今どこにいる?」

「さぁ?もしかしたら私のように人間社会に溶け込んでいるかも。それも""で……」

「なんじゃと?」

「おしゃべりはここまでにしましょう。人間と長く話していたくはない」

そう言うとケイトの姿がどんどん変化する。
衣服は灰になり小柄で綺麗なボディがあらわになった。
長いブラウンの髪は全て銀色に変わり、肌の色は青白くなる。
さらに濃い青の花柄のタトゥーが開花するように全身に刻まれていく。
よく見ると、その花は"青薔薇"のように見える。

美しい……そう感じるよりも、さらに強く"恐怖"がメイアの心を包み込んだ。
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