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第八章
パーティー当日
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第八章 パーティー当日
子爵家が傾き出してから、人が訪れることのなかった屋敷に、今夜は大勢の人が訪れていた。咲き競う花々のようにあでやかな貴婦人たちと、それをエスコートしてきた燕尾服の男性が集まっている。
楽団が美しい旋律を奏で、人々が談笑する声、シャンパンの栓を抜くポンという景気の良い音も、あちこちで聞こえていた。
先ほど、招待客の前で、第七代目のミッドフォード伯爵となったことを告げたレイモンドと、その婚約者として紹介されたベアトリックスは、二人で会場を歩き、祝賀のために集まってくれた客たちに挨拶をしていた。
「王太子殿下までお越しとは、名誉なことですわ」
母クローディアが、声高にそう言っているのが聞こえた。
「おめでとう、ミッドフォード新伯爵、それに、フィアンセのベアトリックス」
パトリシア王女が、声をかけてこられた。
「有難う存じます。王女殿下」
そう挨拶をしてから、失礼致します、と歩き去り「王女をお呼びになったの?」と、ベアトリックスは将来の夫に聞いた。
「王族のどなたかに御臨席いただければ光栄です、と、近衛隊長のマッケイ侯爵にお願いを伝えたら、王太子と王女が来られたんだ。傍系の方でも名誉なことだったのに、まさか王太子と第三王女がお越しとは」
「王太子さまと妃殿下ではなくて、第三王女がお見えですの?」
ベアトリックスが訝ると
「王女の強いご希望だそうだ。ベアトリックスとは友人だからと言われたらしい」と、レイモンドはこたえた。
(強いご希望、とやらで、いつもわがままを通されるのね)
「当然ながら、王女の婚約者に内定しているきみの元婚約者も来ているよ」
ほら、あそこ、と言ってレイモンドが指をさした。
(人を指さすなんて・・・)
メイド上がりの母親は、彼を躾けていなかったのだろうか。ベアトリックスは、苦々しく思ったが、あえて何も言わず
「あら、ハミルトン家の夫人が呼んでらっしゃるわ。レイモンド、わたくしとご一緒に挨拶してくださる?」
と聞いた。
エドワード・アーヴィンの近くにはいたくなかった。
「このたびはおめでとう。ベアトリックス」
母の友人だというハミルトン子爵夫人は
「小さな女の子だったベアトリックスが、もうすぐお嫁さんなのね」
と目を細め
「旦那さまになる方が近衛士官だなんて、ほんと素敵。わたくしも娘時代は、近衛隊の殿方に憧れたものよ。あなた、良い方と出会えたわね」
と、微笑んだ。
ほんとうに友人だというのなら、困窮した時に手土産の一つも持ってたずねてくれればいいのに、ベアトリックスの婚約が決まり、伯爵家のお家再興が成った、ということでやっと顔を出した母の知人に、彼女は不快感を覚えたが、傍らのレイモンドは
「可愛がってくださったハミルトン夫人のことを、ベアトリックスがなつかしそうに話していましたので、初めてお会いする気がしません」
などと言っている。
(そんな話、一度だってしたことないのに・・・いずれがキツネか、タヌキやら)
ベアトリックスは心で苦笑しつつも
「ええそうなの。この方がハミルトン家のカレンおばさま。あなたにお会わせしたかったのよ。おばさま、本日はお越しくださってありがとうございます。どうぞ、今後ともよろしくお願いいたしますね」
と言った。
「ミッドフォード少尉」
レイモンドの仲間の近衛士官が声をかけてきた。
「きれいな方ですね。少尉が羨ましいです。僕が結婚相手に立候補すればよかったな」と言ったのは、オーウェンズ伯爵家の次男だった。
子爵家が没落後、こちらのことは歯牙にもかけなかった家門の男の一人だ。そんな男に、見え透いたお世辞を言われて、ベアトリックスは不愉快になった。
「ベアトリックス嬢、一曲目は婚約者同士で踊られるとして、二曲目のダンスはわたくしと踊っていただけませんか?今から、あなたのパートナーとして、次のダンスの予約を受けつけてくださると有難いです」
と、空気の読めないその男は言って
「いいだろう?結婚したらきみが独り占めできるんだから、ぼくがレディにダンスくらいお願いしても」
とレイモンドに向かって言うと、白い歯を見せて笑った。
楽団がワルツを演奏し出した。
「踊っていただけますか?」
と言って手を差し伸べたレイモンドに、ベアトリックスは笑みを返して手を取った。
「悪いな、オーウェンズ。次の曲でも彼女は渡さん」
と、レイモンドは優越感に満ちた笑顔を返す。
「そういうことですの。ごめん遊ばせ」
ベアトリックスは言った。
二人は曲の流れに乗った動きをしつつ、その場を離れた。
彼に背中を支えられながら、くるくると回る。大勢の貴婦人たちが、同じようにくるくると美しいドレスを花のように広げながらダンスに興じている。ダンスをする人たちの中には、叔父の前伯爵と、その夫人がいた。今夜だけは新伯爵の襲名のために仲のいい「両親」を演じているようだった。
「レイモンドはとてもお上手だわ。ダンスって楽しいのね」
二曲目も、ベアトリックスはレイモンドの手を放さなかった。それは、子爵家が勢いを取り戻してから調子のいいことを言ってきた、多くの家門の子弟たちに対する彼女なりの意思表示だった。
レイモンドは満足げにベアトリックスに微笑み、二人は二曲目を踊りながら、壁を背にして立っているオーウェンズの横を通り、さらに、三曲目のダンスも一緒に踊り続ける。
そのダンスのさなか、レイモンドが彼女の耳もとで囁いた。
「このダンスが終わったら、薔薇の庭に出ないか?噴水の前で、あなたに、あらためてプロポーズがしたいんだ」
「いくら婚約中のカップルでも、同じパートナーとばかり踊ってちゃダメ。周りは興ざめよ。あなたたち、見せつけてくれるわね」
ベアトリックスがレイモンドの言葉に頷くいとまもなく、甲高い声がした。
声の主はパトリシア王女だった。王女は、二人の間に割り込み、レイモンドの腕を掴んで「次はわたくしと。よろしいわね」と言った。
その王女の側に、エドワード・アーヴィンが立っていた。
「あなたは、わたくしのパートナーと踊ればいいわ。いいでしょ、エドワード。昔のフィアンセとダンスを一曲くらい」
そう言われたエドワード・アーヴィンは
「ミッドフォード伯爵閣下、レディ・ベアトリックス。このたびはご婚約おめでとうございます」
と言った。
「ありがとうございます」
と、ベアトリックスは笑みを返した。
「パトリシア王女殿下、わたくし、少し疲れました。お声をかけてくださって、ちょうどよかったですわ。ダンスは遠慮して少し休みます。レイモンド、あなたは姫さまと踊っていらして。せっかくのお申し出ですもの」
パートナーを王女に譲り、ベアトリックスは、冷たい水で喉を潤したあと、夜風に当たるため庭へ出た。
レイモンドと約束した場所ではなく、彼女は、お気に入りの場所、クチナシの花が咲く小道へとやってきた。薔薇が咲き誇り、大きな噴水のある前庭よりも、ベアトリックスは裏側にあるクチナシの植え込みが続く場所が好きなのだ。
(あの夜、なぜ、前庭ではなくこちらをエドワードと歩いたのかしら・・・)
と、思っていた時
「こんばんは。レディ」
道の脇にあるベンチで横たわっていた人が、急に身を起こし、彼女に挨拶した。
月がその人を照らす。金色の髪が光を受けて白っぽく見える。
「あなた、いつの間にこんなところに?」
「お久しぶりです、レディ・ベアトリックス」
「ミスター・エドワード・アーヴィン・・・」
彼の名を呼んだ途端、ベアトリックスの胸にこみあげたのは、なつかしさのようなものだった。
「こんなところにいらっしゃるなんて」
「わたしにだって、夜風に吹かれて物思いにふける、って時がありますよ・・・ほんと言うと、あなたがここへ来そうな気がして、先回りして来たんですが。ずいぶん待ちましたよ」
と笑った。
「わたくし、ちょうど、あなたのことを考えていましたわ」
と、ベアトリックスは言った。
「ここを二人で歩いた夜を思い出していましたの」
「やめてください。あなたの何気ない言葉を深読みして、眠れなくなるのはいやだ」
エドワード・アーヴィンは苦笑して、ベアトリックスの言葉を制した。
「あなたはダンスがお上手なんですね」
「体を動かすのって楽しいわ。わたくし、ダンスが好きみたい」
「未来の旦那さまと踊るんだから、なおさら、でしょうね。こっちは新伯爵が羨ましくて、胸が焦げそうだった」
「そんなこと、本気でおっしゃってないわよね」
ベアトリックスは、彼に微笑みを返したあと
「伯爵は、旦那さま、というより、それこそ親戚のお兄さま、って感じですのよ。亡き父にそっくりで、威厳があって、ちょっと怖い時もあるけど、身内だからか安心感もあるの」
ベアトリックスが言うと
「今夜のあなたは幸せそうだ」
と、エドワード・アーヴィンはつぶやくように言った。
「あれから一年か。ここであなたにプロポーズしましたね」
「一年が、あっという間に感じるのなら、それは年を取った証拠ですわ。ばあやがいつも言っていますの。ついこの間、ツリーを片付けたと思っていたのに、もう次のクリスマスの準備ですわ、って」
「あっという間だなんて、フラれた男の一年はつらくて長い時間ですよ」
と彼は言った。
「袖にされたのは、わたくしですわよ。『あんたは性格の悪い女だ』、『俺はもう夢から醒めた』と言って踵を返して部屋を出て行ったのはあなたではなくて?そう言えば、今日はわたくしに『あんた』とおっしゃいませんのね」
「さすがに、レディに『あんた』は失礼でしょう。あのときは腹立ちまぎれに言いすぎました。あの日の無礼をお許しください」
そういうエドワード・アーヴィンに
「あなたがご立腹されたのは当然ですわ。わたくしを叱ってくださって、思い違いを正して下さった・・・ありがとうございました」
と、ベアトリックスは言って
「あのときは・・・いえ、知り合ってからお別れするまでずっと、わたくし、あなたに失礼なことをいっぱい言ったわ。ずっと後悔してきました。それをお伝えする手立てもなくて・・・婚約を解消したのに、お詫びを伝えるために連絡をとるのも憚られて・・・今、お目にかかれてよかったわ。あの頃は、ほんとうにごめんなさい」
彼女は、エドワード・アーヴィンに頭を下げた。
彼は驚いたように目を見開き、彼女を見返したが、すぐに真顔に戻り
「いいえ、すんだことですから。それに、あなたは、敢えてああいう言い方をしたんでしょう。王女からの申し出を断るのは大変だろうとわたしを気遣って」
と言った。
そして
「そのうえ、可愛いことに、メイドの女の子が俺を見つめているのに嫉妬して、そんなにあの子が気に入ったなら嫁にもらいなさい、なんて言ったりして。ジェラシー全開でしたよね。あの嫉妬を性格悪いなんて言って、俺も余裕なかったよ。こちらのほうが失礼しました」
と笑った。
「あ、あなた・・・」
ベアトリックスは唖然となって、二の句が継げない。
「図星だろ?」
「そんなわけないわ。うぬぼれないで!わたくしがいつ嫉妬なんかしまして?どうして、そんなに、人の言葉を自分に都合よく解釈できるのかしら。あなたってほんと幸せな方ね。あきれるわ」
ベアトリックスが言い返すと
「いいねえ。調子が出てきた。それでこそベアティだよ」
彼は茶化すように言って笑うと
「ベアティと呼ぶの、ダメなんだっけ?」
と聞いた。
「それはかまわないわ。だって、あなたは、もうわたくしにとって大切なお友達ですもの」
そう言ってベアトリックスが笑うと、エドワードは
「大切なお友達、そう言ってもらえて、ありがとうとこたえなきゃいけないのかな。あなたは、次々と心を抉ってくるね」と寂しげに笑った。
涼しい風が吹き抜けた。
「心を抉るって、どういうこと?わたくし何もしてやしないわ。あなたが、ご自分のことを俺って言われるのを聞いて、懐かしい気がするくらいですもの。わたくし、ずいぶん心が広くなったでしょ?」
ベアトリックスは笑って
「夜風が気持ちいいわ。わたくしはあと少し、ここで休んでいきます。あなたはもう戻られたら?王女さまを放っておいちゃいけないんじゃなくって」と、エドワード・アーヴィンを見た。
「そんなに追い立てなくていいだろう?」
苦笑いしながら、エドワードは
「でも、二人で長くここにいたらまずいかな?」
と言った。
「そうね。王女さまが心配されると思いますわ」
そう言いつつも、二人は、どちらも互いの相手のもとへ戻ろうとはしなかった。
「先日、王立劇場でお芝居を見たの。レイモンドが連れて行ってくれて」
「のろけ話なら、勘弁してほしいな。二人が仲睦まじいのはダンスの様子で、いやというほどわかったから。ついさっき、これ以上、心を抉らないでくれって言ったばかりだろ」
と、エドワードが言う。
「違うの。フィル・ハーディーを見た、って言いたかったの。王女さまがご贔屓の俳優さんよ。ハムレットが似合っていたわ。素敵な人だったから、好きになられたのね。王女さまの気持ちが少しわかった気がして」
「俺に似てた?」
「まあね」
「まあね、か。そりゃそうだろう。王立劇場の主演俳優に見た目で勝てるわけないよ」
そう言ったエドワードにベアトリックスは
「違うわ。あなたのほうが、素敵だとわたくしは思いましたの」とつぶやき、それから「ご結婚はいつ頃なの?ご準備、進めてらっしゃる?」と、彼にたずねた。
王女とエドワード・アーヴィンの交際については、王室は、国民への告知はもちろん、社交界にすら正式には発表していなかった。ただ、噂だけが独り歩きしている状態だったのだが、彼が王女とともに伯爵家の婚約披露パーティーに出席していることからみても、二人の交際は順調で、結婚が間近なものに、ベアトリックスには思えた。
「俺は彼女の非公式の恋人、ってことになってるんだ。国王も本心では賛成していなくて、姫が飽きて別れるのを待っているんじゃないかな」
「爵位を授かる話は、どうなったの?」
「正式に婚約を発表するさいに、男爵位がもらえるらしいよ、とりあえず、二年間、俺は教育を受けることになった」
「あなたは王立学院で理工系の学位を取られ、首席で卒業されたんじゃなかったかしら。今さら教育を受けなくてはいけないなんて、どういうことですの?」
「ああ、俺が習うのはそういうんじゃなくて、ダンスやマナー、それに、会話術っていうのかな。いわゆるお坊ちゃま教育ってやつを受けろってこと。つまらないことに関わる羽目になったよ」
「真面目にやらなきゃ。王女さまのご夫君になるためには、必要な試練よ」
「レディ・ベアトリックスを妻にするためなら頑張ろうって気にもなるけど、あのわがまま王女のためなんて、うんざりだ。ベアティじゃないなら誰でも同じだ、オヤジも喜ぶし、と思って王女との交際を承知したけど、後悔してる」
「今さら、後戻りはできませんわよ」
ベアトリックスが苦笑すると
「あーあ、自分の心に反することを受け入れちゃいけない、なんてベアティに言ったのは俺なのに。まったく何やってんだか。自分が嫌になるよ」
「お互い、今のお相手と幸せになるしかない、ってことじゃなくって?運命なのよ」
「王女の非公式の恋人、ってなんだかなあ・・・男めかけみたいなポジション、正直言って全然嬉しくない。名誉だなんて少しも思えないよ。でもまあ、いきなり結婚って話になるよりマシか」
「男めかけって?まさか、王女さまの貞操を・・・」
驚くベアトリックスに
「いや、神の前で誓いを立てるまでは、あなたには指一本触れませんから、と言って、俺は手も握ってません。俺のお坊ちゃま教育が終わるまでの間に、待ちくたびれて別の男に目移りしてくれるといいんだけどね。王女から見限られるのが、一番平和的な解決法だろ?」と、彼は言った。
「王女さまがお気の毒だわ。手も握らないなんておっしゃってないで、ダンスくらいは誘っておあげになったら?」
「ダンスなら踊ったよ。いくら結婚前は手を握らないと言っててもパーティーに同行していて、一緒に踊りましょうと言われたら、それは断れないし」
「王女さまの誘いに応じるんじゃなくて、あなたから誘っておあげになるべきよ。好きな殿方からダンスに誘われたら、どれほどお喜びになられるか」
ベアトリックスが言うも、エドワード・アーヴィンはそれにこたえず、「そういうベアティはどうなんだ?結婚式を待たずして、伯爵と夫婦同然の関係とか?」とたずねてきた。
「そんな不道徳なこと、あるわけないわ。神への誓いの前に関係を結ぶなんてこと、伯爵もわたくしも望んでないわ。あなただって、先ほど、ご自身が王女さまに同じことをおっしゃっていたはずよ」
「それは王女だからだよ。ベアティとなら、結婚式を待たずに同居して、俺以外に目がいかないように、一日でも早く自分のものにするよ」
「まあ!なんて不道徳なことをおっしゃるのよ。せっかく、あなたを少し見直しかけたのに、やっぱり破談で正解だったわ」
ベアトリックスが言うと
「伯爵というのは気苦労なものだな。紳士として、淑女に対する礼儀をわきまえなきゃいけないから気の毒だよ。きっと、ベアティに会うたびに、彼は凄く自分を抑えていると思うよ。俺だったら王立劇場でも舞台なんか見てないで、あなたの横顔に釘付けだったと思う」
と笑った。
「くだらない冗談はおよしになって。彼とは、いとこ同士だから、家族のような気安さはあるけれど、お互い、相手に対して、そんな劣情を抱いているはずはありませんわ。もうこれ以上、あなたとお喋りすることもなくってよ。わたくし戻らないと」
「待ちなよ。劣情なんて言い方するな。相手を愛しいと思って結ばれることを願うのは、自然な欲求だと思うよ。そういう気持ちが起きない男女関係、なんて、これほどつまらないものはない」
と、エドワード・アーヴィンは笑った。
「互いを思いやって一緒にいられれば、それで充分ですわ、伯爵とわたくしがつまらないなんて、大きなお世話よ。せっかく、先ほど、あなたへの失礼を詫びた、わたくしの心をどうして下さるの?あなたがこんなにお下品な方だったなんて」
「下品でけっこう。これが俺の本音だし」
「あなた、以前、自分は俳優じゃない、ってわたくしにおっしゃったわね。だけど、わたくしの目から見れば、並みの役者以上よ。王女さまや貴族たちの前での礼儀正しいふるまいと、わたくしの前での本性。落差を知っていると、つくづく思いますわ。エドワード、あなたはほんとうにお芝居が上手だって。フィル・ハーディーが舞台に立てないときは、あなたが代わりにお出になるといいわ」
「では失礼」と、立ち上がったベアトリックスに
「そう急ぐなって」
彼は言って、腕を掴んだ。
ベアトリックスは、その手を振り払うことができなかった。二人がホールにいないことに気づき始めた人たちが探しにくるかもしれない。それがわかっていながら、彼女はこの場から立ち去ることができずにいた。
風に乗って、くちなしの甘い香りが漂ってくる。月あかりに照らされた白い花が地上に落ちた星のように見えた。
「もう戻らなくちゃいけないわ。あなたもね」
「二人一緒に戻るのも変だろう?俺はここにもう少しいるよ」
「さよなら」
ベアトリックスは言った。
そのとき、誰かが窓を開けたのか、ホールの音楽が漏れてきた。
ヴァイオリンの旋律が歌っている。美しいワルツだった。
「さよならの前に、ワルツを一曲だけ」
「図々しい方ね」
と、苦笑するベアトリックスに
「あなたの人生のパートナーになれなかった男に、このワルツが流れている間だけ、あなたとの思い出の時を恵んでほしい」
「一曲だけよ」
緩やかに、甘く響くヴァイオリンの旋律が、黙ったまま踊る二人の間に流れる。
そして、夜風に乗ったくちなしの香りは、ますます甘く、強く匂い立ってきた。
ソリストが切なく歌い上げている主旋律をオーケストラが追うようにリズムを刻み、二人は、石の小道の上をゆらゆらと動いていた。
月に照らされて光る彼の金色の髪、自分を見つめる青い瞳。
なぜか息苦しくなって、ベアトリックスは
(お願い。もうダンスを止めて)
と心でつぶやいた。
エドワード・アーヴィンと踊ると、なぜこんな気持ちになるのだろう。
自分の心のうちを自分で言い表すこともできず、ベアトリックスは自分の背中を支えている彼の手のぬくもりを、どうしたら意識せずにいられるか、そればかりを考えていた。
(ヴァイオリンがいけないのよ)
こんなに素晴らしいソリストを誰が呼んだのだろう。名のある演奏家なのだろうか。ベアトリックスは、今度は音楽のことだけを考え続けた。
甘い旋律が途切れた時、ベアトリックスはホッとした。
(ようやく終わったわ)
「ベアティ。疲れた?」
エドワード・アーヴィンがそう言ったとき、ベアトリックスは
「ゆっくりしたワルツだったのに・・・息があがってしまって・・・ど、どうしてかしら」
と、やっと言った。
「飲み物を持ってこようか?何がいい?」
エドワード・アーヴィンが体を離そうと、彼女の背中に回した手をはずした時だった。
「行かないで」
自分でも思いがけない言葉が口をついて出た。
「このまま、こうしてらして。少しの間だけ」
ベアトリックスは、エドワード・アーヴィンの腕に抱かれたまま、その胸にもたれかかった。
「ベアティ・・・」
驚いたように目を見開き、自分を見下ろす彼の切なげな青い瞳を、ベアトリックスは、胸の痛みとともに見つめ返した。
これ以上、彼の眼差しを受けとめることが怖くなって、ベアトリックスが目を閉じた時、エドワード・アーヴィンの唇が、自分の唇に重なってきたのを感じた。
ベアトリックスは彼を押しのけることもなく、声を上げることもなく、ただされるがままでいた。
閉じた唇をこじ開けるように、彼の舌が入り込んできた時、一瞬、ビクっとはしたが、すぐに
(これがキスなんだわ)
と悟った。
そして、彼が顔を離した時、ベアトリックスは目を閉じたまま、自ら顎を少し上げた。
二度目のキスは、もっと激しかった。
貪るように互いの舌を絡ませ、音を立てて唇を吸い合って、ベアトリックスは頭が真っ白になっていた。背の高いエドワードが膝を折り、少しつらい姿勢になりながら自分を支えていることにも気づかず、さらにもう一度、唇を重ね合わせた時だった。
「そこで何をしている?」
咎めるような男の声がした。
レイモンド・バイロン・ミッドフォード伯爵、彼女の婚約者が立っていたのだ。
「ベアトリックス、まさか、きみがわたしを裏切っているとも知らず、前庭でずっときみを待っていたのに・・・姿を見せないから、体調が悪くなったんじゃないかと心配になって、さっきからずっと館内や庭を探していたんだ。こんなところにいたとはな」
そう言った伯爵は、怒りでこぶしを震わせていた。
「レディ・ベアトリックスに非はありません。わたしが無理やりこの方を。ミッドフォード伯爵閣下、本当に申し訳ありませんでした」
そう言ったエドワード・アーヴィンをちらっと見たレイモンドは
「卑しい平民ふぜいが・・・王女と交際しながら、わたしの婚約者を襲うとは。今さらベアトリックスが惜しくなったのか」
苦々しげに言った。
「処罰はいかようにも受けます。国王に報告していただいて、わたしを社交界から、いえ、この国から永久追放されても異存はございません。わたしは閣下と、閣下の婚約者に対して、大変な無礼を働いてしまいました」
彼に、行くなといって縋りつき、その腕の中にいたのはベアトリックス自身の意思だった。それなのに、エドワード・アーヴィンは自分が悪いと言っているのだ。
ベアトリックスが何かを言いかけた時、エドワード・アーヴィンが小さく首を左右に振った。
「今夜のような宴の日に、わたしに大騒ぎをしてすべてを台無しにしろと言うのかね」
レイモンドはそう言うと
「まるで寝取られ男のような醜態を、大勢の来客の前でさらせと言うのか?そんなみっともないことは出来ない。わたしが騒いだら、お前とベアトリックスが面白おかしい見世物になって、世間に醜聞が広がるだけだ」
それから、エドワードに向かって
「汚らわしい平民め。目障りだ。失せろ!お前の女みたいなツラを見てると反吐が出る」
と吐き捨てた。
レイモンドはベアトリックスに向き直ると、まるで何事もなかったかのように
「ベアトリックス、王太子さまが『きみのフィアンセにダンスを申し込みたい』と言われてもいたからね。体調が悪くないなら殿下と踊ってほしい」
と言った。
「わかりました。ホールに戻ります」
ベアトリックスが言うと
「そのひどい顔で戻られても困る。鏡でよく見てみるんだな」
と、小声で言った。
振り返って、立ちつくしているエドワードを見ると、口もとと頬に彼女のルージュが薄っすらとついていた。
その彼を見て、ベアトリックスは、自分がどんな顔をしているかを知った。
レイモンドに痛いほど手首をつかまれたまま、ベアトリックスは化粧室まで引っ張られていった。
「あの痴態を見たのが、わたしでよかった。他の誰かに見られたら、どんなスキャンダルになったことか」
彼に引きずられるようにして廊下を歩いていたベアトリックスは、何も言えないままだった。
「廊下で誰かに会うかもしれないし、化粧室の中にどこかの婦人がいるかもしれない。きみの化粧が剥がれるほど、激しいキスをしたのは、わたしということにしておかないと。わかったな」
と、苦々しげに、レイモンドは言った。
子爵家が傾き出してから、人が訪れることのなかった屋敷に、今夜は大勢の人が訪れていた。咲き競う花々のようにあでやかな貴婦人たちと、それをエスコートしてきた燕尾服の男性が集まっている。
楽団が美しい旋律を奏で、人々が談笑する声、シャンパンの栓を抜くポンという景気の良い音も、あちこちで聞こえていた。
先ほど、招待客の前で、第七代目のミッドフォード伯爵となったことを告げたレイモンドと、その婚約者として紹介されたベアトリックスは、二人で会場を歩き、祝賀のために集まってくれた客たちに挨拶をしていた。
「王太子殿下までお越しとは、名誉なことですわ」
母クローディアが、声高にそう言っているのが聞こえた。
「おめでとう、ミッドフォード新伯爵、それに、フィアンセのベアトリックス」
パトリシア王女が、声をかけてこられた。
「有難う存じます。王女殿下」
そう挨拶をしてから、失礼致します、と歩き去り「王女をお呼びになったの?」と、ベアトリックスは将来の夫に聞いた。
「王族のどなたかに御臨席いただければ光栄です、と、近衛隊長のマッケイ侯爵にお願いを伝えたら、王太子と王女が来られたんだ。傍系の方でも名誉なことだったのに、まさか王太子と第三王女がお越しとは」
「王太子さまと妃殿下ではなくて、第三王女がお見えですの?」
ベアトリックスが訝ると
「王女の強いご希望だそうだ。ベアトリックスとは友人だからと言われたらしい」と、レイモンドはこたえた。
(強いご希望、とやらで、いつもわがままを通されるのね)
「当然ながら、王女の婚約者に内定しているきみの元婚約者も来ているよ」
ほら、あそこ、と言ってレイモンドが指をさした。
(人を指さすなんて・・・)
メイド上がりの母親は、彼を躾けていなかったのだろうか。ベアトリックスは、苦々しく思ったが、あえて何も言わず
「あら、ハミルトン家の夫人が呼んでらっしゃるわ。レイモンド、わたくしとご一緒に挨拶してくださる?」
と聞いた。
エドワード・アーヴィンの近くにはいたくなかった。
「このたびはおめでとう。ベアトリックス」
母の友人だというハミルトン子爵夫人は
「小さな女の子だったベアトリックスが、もうすぐお嫁さんなのね」
と目を細め
「旦那さまになる方が近衛士官だなんて、ほんと素敵。わたくしも娘時代は、近衛隊の殿方に憧れたものよ。あなた、良い方と出会えたわね」
と、微笑んだ。
ほんとうに友人だというのなら、困窮した時に手土産の一つも持ってたずねてくれればいいのに、ベアトリックスの婚約が決まり、伯爵家のお家再興が成った、ということでやっと顔を出した母の知人に、彼女は不快感を覚えたが、傍らのレイモンドは
「可愛がってくださったハミルトン夫人のことを、ベアトリックスがなつかしそうに話していましたので、初めてお会いする気がしません」
などと言っている。
(そんな話、一度だってしたことないのに・・・いずれがキツネか、タヌキやら)
ベアトリックスは心で苦笑しつつも
「ええそうなの。この方がハミルトン家のカレンおばさま。あなたにお会わせしたかったのよ。おばさま、本日はお越しくださってありがとうございます。どうぞ、今後ともよろしくお願いいたしますね」
と言った。
「ミッドフォード少尉」
レイモンドの仲間の近衛士官が声をかけてきた。
「きれいな方ですね。少尉が羨ましいです。僕が結婚相手に立候補すればよかったな」と言ったのは、オーウェンズ伯爵家の次男だった。
子爵家が没落後、こちらのことは歯牙にもかけなかった家門の男の一人だ。そんな男に、見え透いたお世辞を言われて、ベアトリックスは不愉快になった。
「ベアトリックス嬢、一曲目は婚約者同士で踊られるとして、二曲目のダンスはわたくしと踊っていただけませんか?今から、あなたのパートナーとして、次のダンスの予約を受けつけてくださると有難いです」
と、空気の読めないその男は言って
「いいだろう?結婚したらきみが独り占めできるんだから、ぼくがレディにダンスくらいお願いしても」
とレイモンドに向かって言うと、白い歯を見せて笑った。
楽団がワルツを演奏し出した。
「踊っていただけますか?」
と言って手を差し伸べたレイモンドに、ベアトリックスは笑みを返して手を取った。
「悪いな、オーウェンズ。次の曲でも彼女は渡さん」
と、レイモンドは優越感に満ちた笑顔を返す。
「そういうことですの。ごめん遊ばせ」
ベアトリックスは言った。
二人は曲の流れに乗った動きをしつつ、その場を離れた。
彼に背中を支えられながら、くるくると回る。大勢の貴婦人たちが、同じようにくるくると美しいドレスを花のように広げながらダンスに興じている。ダンスをする人たちの中には、叔父の前伯爵と、その夫人がいた。今夜だけは新伯爵の襲名のために仲のいい「両親」を演じているようだった。
「レイモンドはとてもお上手だわ。ダンスって楽しいのね」
二曲目も、ベアトリックスはレイモンドの手を放さなかった。それは、子爵家が勢いを取り戻してから調子のいいことを言ってきた、多くの家門の子弟たちに対する彼女なりの意思表示だった。
レイモンドは満足げにベアトリックスに微笑み、二人は二曲目を踊りながら、壁を背にして立っているオーウェンズの横を通り、さらに、三曲目のダンスも一緒に踊り続ける。
そのダンスのさなか、レイモンドが彼女の耳もとで囁いた。
「このダンスが終わったら、薔薇の庭に出ないか?噴水の前で、あなたに、あらためてプロポーズがしたいんだ」
「いくら婚約中のカップルでも、同じパートナーとばかり踊ってちゃダメ。周りは興ざめよ。あなたたち、見せつけてくれるわね」
ベアトリックスがレイモンドの言葉に頷くいとまもなく、甲高い声がした。
声の主はパトリシア王女だった。王女は、二人の間に割り込み、レイモンドの腕を掴んで「次はわたくしと。よろしいわね」と言った。
その王女の側に、エドワード・アーヴィンが立っていた。
「あなたは、わたくしのパートナーと踊ればいいわ。いいでしょ、エドワード。昔のフィアンセとダンスを一曲くらい」
そう言われたエドワード・アーヴィンは
「ミッドフォード伯爵閣下、レディ・ベアトリックス。このたびはご婚約おめでとうございます」
と言った。
「ありがとうございます」
と、ベアトリックスは笑みを返した。
「パトリシア王女殿下、わたくし、少し疲れました。お声をかけてくださって、ちょうどよかったですわ。ダンスは遠慮して少し休みます。レイモンド、あなたは姫さまと踊っていらして。せっかくのお申し出ですもの」
パートナーを王女に譲り、ベアトリックスは、冷たい水で喉を潤したあと、夜風に当たるため庭へ出た。
レイモンドと約束した場所ではなく、彼女は、お気に入りの場所、クチナシの花が咲く小道へとやってきた。薔薇が咲き誇り、大きな噴水のある前庭よりも、ベアトリックスは裏側にあるクチナシの植え込みが続く場所が好きなのだ。
(あの夜、なぜ、前庭ではなくこちらをエドワードと歩いたのかしら・・・)
と、思っていた時
「こんばんは。レディ」
道の脇にあるベンチで横たわっていた人が、急に身を起こし、彼女に挨拶した。
月がその人を照らす。金色の髪が光を受けて白っぽく見える。
「あなた、いつの間にこんなところに?」
「お久しぶりです、レディ・ベアトリックス」
「ミスター・エドワード・アーヴィン・・・」
彼の名を呼んだ途端、ベアトリックスの胸にこみあげたのは、なつかしさのようなものだった。
「こんなところにいらっしゃるなんて」
「わたしにだって、夜風に吹かれて物思いにふける、って時がありますよ・・・ほんと言うと、あなたがここへ来そうな気がして、先回りして来たんですが。ずいぶん待ちましたよ」
と笑った。
「わたくし、ちょうど、あなたのことを考えていましたわ」
と、ベアトリックスは言った。
「ここを二人で歩いた夜を思い出していましたの」
「やめてください。あなたの何気ない言葉を深読みして、眠れなくなるのはいやだ」
エドワード・アーヴィンは苦笑して、ベアトリックスの言葉を制した。
「あなたはダンスがお上手なんですね」
「体を動かすのって楽しいわ。わたくし、ダンスが好きみたい」
「未来の旦那さまと踊るんだから、なおさら、でしょうね。こっちは新伯爵が羨ましくて、胸が焦げそうだった」
「そんなこと、本気でおっしゃってないわよね」
ベアトリックスは、彼に微笑みを返したあと
「伯爵は、旦那さま、というより、それこそ親戚のお兄さま、って感じですのよ。亡き父にそっくりで、威厳があって、ちょっと怖い時もあるけど、身内だからか安心感もあるの」
ベアトリックスが言うと
「今夜のあなたは幸せそうだ」
と、エドワード・アーヴィンはつぶやくように言った。
「あれから一年か。ここであなたにプロポーズしましたね」
「一年が、あっという間に感じるのなら、それは年を取った証拠ですわ。ばあやがいつも言っていますの。ついこの間、ツリーを片付けたと思っていたのに、もう次のクリスマスの準備ですわ、って」
「あっという間だなんて、フラれた男の一年はつらくて長い時間ですよ」
と彼は言った。
「袖にされたのは、わたくしですわよ。『あんたは性格の悪い女だ』、『俺はもう夢から醒めた』と言って踵を返して部屋を出て行ったのはあなたではなくて?そう言えば、今日はわたくしに『あんた』とおっしゃいませんのね」
「さすがに、レディに『あんた』は失礼でしょう。あのときは腹立ちまぎれに言いすぎました。あの日の無礼をお許しください」
そういうエドワード・アーヴィンに
「あなたがご立腹されたのは当然ですわ。わたくしを叱ってくださって、思い違いを正して下さった・・・ありがとうございました」
と、ベアトリックスは言って
「あのときは・・・いえ、知り合ってからお別れするまでずっと、わたくし、あなたに失礼なことをいっぱい言ったわ。ずっと後悔してきました。それをお伝えする手立てもなくて・・・婚約を解消したのに、お詫びを伝えるために連絡をとるのも憚られて・・・今、お目にかかれてよかったわ。あの頃は、ほんとうにごめんなさい」
彼女は、エドワード・アーヴィンに頭を下げた。
彼は驚いたように目を見開き、彼女を見返したが、すぐに真顔に戻り
「いいえ、すんだことですから。それに、あなたは、敢えてああいう言い方をしたんでしょう。王女からの申し出を断るのは大変だろうとわたしを気遣って」
と言った。
そして
「そのうえ、可愛いことに、メイドの女の子が俺を見つめているのに嫉妬して、そんなにあの子が気に入ったなら嫁にもらいなさい、なんて言ったりして。ジェラシー全開でしたよね。あの嫉妬を性格悪いなんて言って、俺も余裕なかったよ。こちらのほうが失礼しました」
と笑った。
「あ、あなた・・・」
ベアトリックスは唖然となって、二の句が継げない。
「図星だろ?」
「そんなわけないわ。うぬぼれないで!わたくしがいつ嫉妬なんかしまして?どうして、そんなに、人の言葉を自分に都合よく解釈できるのかしら。あなたってほんと幸せな方ね。あきれるわ」
ベアトリックスが言い返すと
「いいねえ。調子が出てきた。それでこそベアティだよ」
彼は茶化すように言って笑うと
「ベアティと呼ぶの、ダメなんだっけ?」
と聞いた。
「それはかまわないわ。だって、あなたは、もうわたくしにとって大切なお友達ですもの」
そう言ってベアトリックスが笑うと、エドワードは
「大切なお友達、そう言ってもらえて、ありがとうとこたえなきゃいけないのかな。あなたは、次々と心を抉ってくるね」と寂しげに笑った。
涼しい風が吹き抜けた。
「心を抉るって、どういうこと?わたくし何もしてやしないわ。あなたが、ご自分のことを俺って言われるのを聞いて、懐かしい気がするくらいですもの。わたくし、ずいぶん心が広くなったでしょ?」
ベアトリックスは笑って
「夜風が気持ちいいわ。わたくしはあと少し、ここで休んでいきます。あなたはもう戻られたら?王女さまを放っておいちゃいけないんじゃなくって」と、エドワード・アーヴィンを見た。
「そんなに追い立てなくていいだろう?」
苦笑いしながら、エドワードは
「でも、二人で長くここにいたらまずいかな?」
と言った。
「そうね。王女さまが心配されると思いますわ」
そう言いつつも、二人は、どちらも互いの相手のもとへ戻ろうとはしなかった。
「先日、王立劇場でお芝居を見たの。レイモンドが連れて行ってくれて」
「のろけ話なら、勘弁してほしいな。二人が仲睦まじいのはダンスの様子で、いやというほどわかったから。ついさっき、これ以上、心を抉らないでくれって言ったばかりだろ」
と、エドワードが言う。
「違うの。フィル・ハーディーを見た、って言いたかったの。王女さまがご贔屓の俳優さんよ。ハムレットが似合っていたわ。素敵な人だったから、好きになられたのね。王女さまの気持ちが少しわかった気がして」
「俺に似てた?」
「まあね」
「まあね、か。そりゃそうだろう。王立劇場の主演俳優に見た目で勝てるわけないよ」
そう言ったエドワードにベアトリックスは
「違うわ。あなたのほうが、素敵だとわたくしは思いましたの」とつぶやき、それから「ご結婚はいつ頃なの?ご準備、進めてらっしゃる?」と、彼にたずねた。
王女とエドワード・アーヴィンの交際については、王室は、国民への告知はもちろん、社交界にすら正式には発表していなかった。ただ、噂だけが独り歩きしている状態だったのだが、彼が王女とともに伯爵家の婚約披露パーティーに出席していることからみても、二人の交際は順調で、結婚が間近なものに、ベアトリックスには思えた。
「俺は彼女の非公式の恋人、ってことになってるんだ。国王も本心では賛成していなくて、姫が飽きて別れるのを待っているんじゃないかな」
「爵位を授かる話は、どうなったの?」
「正式に婚約を発表するさいに、男爵位がもらえるらしいよ、とりあえず、二年間、俺は教育を受けることになった」
「あなたは王立学院で理工系の学位を取られ、首席で卒業されたんじゃなかったかしら。今さら教育を受けなくてはいけないなんて、どういうことですの?」
「ああ、俺が習うのはそういうんじゃなくて、ダンスやマナー、それに、会話術っていうのかな。いわゆるお坊ちゃま教育ってやつを受けろってこと。つまらないことに関わる羽目になったよ」
「真面目にやらなきゃ。王女さまのご夫君になるためには、必要な試練よ」
「レディ・ベアトリックスを妻にするためなら頑張ろうって気にもなるけど、あのわがまま王女のためなんて、うんざりだ。ベアティじゃないなら誰でも同じだ、オヤジも喜ぶし、と思って王女との交際を承知したけど、後悔してる」
「今さら、後戻りはできませんわよ」
ベアトリックスが苦笑すると
「あーあ、自分の心に反することを受け入れちゃいけない、なんてベアティに言ったのは俺なのに。まったく何やってんだか。自分が嫌になるよ」
「お互い、今のお相手と幸せになるしかない、ってことじゃなくって?運命なのよ」
「王女の非公式の恋人、ってなんだかなあ・・・男めかけみたいなポジション、正直言って全然嬉しくない。名誉だなんて少しも思えないよ。でもまあ、いきなり結婚って話になるよりマシか」
「男めかけって?まさか、王女さまの貞操を・・・」
驚くベアトリックスに
「いや、神の前で誓いを立てるまでは、あなたには指一本触れませんから、と言って、俺は手も握ってません。俺のお坊ちゃま教育が終わるまでの間に、待ちくたびれて別の男に目移りしてくれるといいんだけどね。王女から見限られるのが、一番平和的な解決法だろ?」と、彼は言った。
「王女さまがお気の毒だわ。手も握らないなんておっしゃってないで、ダンスくらいは誘っておあげになったら?」
「ダンスなら踊ったよ。いくら結婚前は手を握らないと言っててもパーティーに同行していて、一緒に踊りましょうと言われたら、それは断れないし」
「王女さまの誘いに応じるんじゃなくて、あなたから誘っておあげになるべきよ。好きな殿方からダンスに誘われたら、どれほどお喜びになられるか」
ベアトリックスが言うも、エドワード・アーヴィンはそれにこたえず、「そういうベアティはどうなんだ?結婚式を待たずして、伯爵と夫婦同然の関係とか?」とたずねてきた。
「そんな不道徳なこと、あるわけないわ。神への誓いの前に関係を結ぶなんてこと、伯爵もわたくしも望んでないわ。あなただって、先ほど、ご自身が王女さまに同じことをおっしゃっていたはずよ」
「それは王女だからだよ。ベアティとなら、結婚式を待たずに同居して、俺以外に目がいかないように、一日でも早く自分のものにするよ」
「まあ!なんて不道徳なことをおっしゃるのよ。せっかく、あなたを少し見直しかけたのに、やっぱり破談で正解だったわ」
ベアトリックスが言うと
「伯爵というのは気苦労なものだな。紳士として、淑女に対する礼儀をわきまえなきゃいけないから気の毒だよ。きっと、ベアティに会うたびに、彼は凄く自分を抑えていると思うよ。俺だったら王立劇場でも舞台なんか見てないで、あなたの横顔に釘付けだったと思う」
と笑った。
「くだらない冗談はおよしになって。彼とは、いとこ同士だから、家族のような気安さはあるけれど、お互い、相手に対して、そんな劣情を抱いているはずはありませんわ。もうこれ以上、あなたとお喋りすることもなくってよ。わたくし戻らないと」
「待ちなよ。劣情なんて言い方するな。相手を愛しいと思って結ばれることを願うのは、自然な欲求だと思うよ。そういう気持ちが起きない男女関係、なんて、これほどつまらないものはない」
と、エドワード・アーヴィンは笑った。
「互いを思いやって一緒にいられれば、それで充分ですわ、伯爵とわたくしがつまらないなんて、大きなお世話よ。せっかく、先ほど、あなたへの失礼を詫びた、わたくしの心をどうして下さるの?あなたがこんなにお下品な方だったなんて」
「下品でけっこう。これが俺の本音だし」
「あなた、以前、自分は俳優じゃない、ってわたくしにおっしゃったわね。だけど、わたくしの目から見れば、並みの役者以上よ。王女さまや貴族たちの前での礼儀正しいふるまいと、わたくしの前での本性。落差を知っていると、つくづく思いますわ。エドワード、あなたはほんとうにお芝居が上手だって。フィル・ハーディーが舞台に立てないときは、あなたが代わりにお出になるといいわ」
「では失礼」と、立ち上がったベアトリックスに
「そう急ぐなって」
彼は言って、腕を掴んだ。
ベアトリックスは、その手を振り払うことができなかった。二人がホールにいないことに気づき始めた人たちが探しにくるかもしれない。それがわかっていながら、彼女はこの場から立ち去ることができずにいた。
風に乗って、くちなしの甘い香りが漂ってくる。月あかりに照らされた白い花が地上に落ちた星のように見えた。
「もう戻らなくちゃいけないわ。あなたもね」
「二人一緒に戻るのも変だろう?俺はここにもう少しいるよ」
「さよなら」
ベアトリックスは言った。
そのとき、誰かが窓を開けたのか、ホールの音楽が漏れてきた。
ヴァイオリンの旋律が歌っている。美しいワルツだった。
「さよならの前に、ワルツを一曲だけ」
「図々しい方ね」
と、苦笑するベアトリックスに
「あなたの人生のパートナーになれなかった男に、このワルツが流れている間だけ、あなたとの思い出の時を恵んでほしい」
「一曲だけよ」
緩やかに、甘く響くヴァイオリンの旋律が、黙ったまま踊る二人の間に流れる。
そして、夜風に乗ったくちなしの香りは、ますます甘く、強く匂い立ってきた。
ソリストが切なく歌い上げている主旋律をオーケストラが追うようにリズムを刻み、二人は、石の小道の上をゆらゆらと動いていた。
月に照らされて光る彼の金色の髪、自分を見つめる青い瞳。
なぜか息苦しくなって、ベアトリックスは
(お願い。もうダンスを止めて)
と心でつぶやいた。
エドワード・アーヴィンと踊ると、なぜこんな気持ちになるのだろう。
自分の心のうちを自分で言い表すこともできず、ベアトリックスは自分の背中を支えている彼の手のぬくもりを、どうしたら意識せずにいられるか、そればかりを考えていた。
(ヴァイオリンがいけないのよ)
こんなに素晴らしいソリストを誰が呼んだのだろう。名のある演奏家なのだろうか。ベアトリックスは、今度は音楽のことだけを考え続けた。
甘い旋律が途切れた時、ベアトリックスはホッとした。
(ようやく終わったわ)
「ベアティ。疲れた?」
エドワード・アーヴィンがそう言ったとき、ベアトリックスは
「ゆっくりしたワルツだったのに・・・息があがってしまって・・・ど、どうしてかしら」
と、やっと言った。
「飲み物を持ってこようか?何がいい?」
エドワード・アーヴィンが体を離そうと、彼女の背中に回した手をはずした時だった。
「行かないで」
自分でも思いがけない言葉が口をついて出た。
「このまま、こうしてらして。少しの間だけ」
ベアトリックスは、エドワード・アーヴィンの腕に抱かれたまま、その胸にもたれかかった。
「ベアティ・・・」
驚いたように目を見開き、自分を見下ろす彼の切なげな青い瞳を、ベアトリックスは、胸の痛みとともに見つめ返した。
これ以上、彼の眼差しを受けとめることが怖くなって、ベアトリックスが目を閉じた時、エドワード・アーヴィンの唇が、自分の唇に重なってきたのを感じた。
ベアトリックスは彼を押しのけることもなく、声を上げることもなく、ただされるがままでいた。
閉じた唇をこじ開けるように、彼の舌が入り込んできた時、一瞬、ビクっとはしたが、すぐに
(これがキスなんだわ)
と悟った。
そして、彼が顔を離した時、ベアトリックスは目を閉じたまま、自ら顎を少し上げた。
二度目のキスは、もっと激しかった。
貪るように互いの舌を絡ませ、音を立てて唇を吸い合って、ベアトリックスは頭が真っ白になっていた。背の高いエドワードが膝を折り、少しつらい姿勢になりながら自分を支えていることにも気づかず、さらにもう一度、唇を重ね合わせた時だった。
「そこで何をしている?」
咎めるような男の声がした。
レイモンド・バイロン・ミッドフォード伯爵、彼女の婚約者が立っていたのだ。
「ベアトリックス、まさか、きみがわたしを裏切っているとも知らず、前庭でずっときみを待っていたのに・・・姿を見せないから、体調が悪くなったんじゃないかと心配になって、さっきからずっと館内や庭を探していたんだ。こんなところにいたとはな」
そう言った伯爵は、怒りでこぶしを震わせていた。
「レディ・ベアトリックスに非はありません。わたしが無理やりこの方を。ミッドフォード伯爵閣下、本当に申し訳ありませんでした」
そう言ったエドワード・アーヴィンをちらっと見たレイモンドは
「卑しい平民ふぜいが・・・王女と交際しながら、わたしの婚約者を襲うとは。今さらベアトリックスが惜しくなったのか」
苦々しげに言った。
「処罰はいかようにも受けます。国王に報告していただいて、わたしを社交界から、いえ、この国から永久追放されても異存はございません。わたしは閣下と、閣下の婚約者に対して、大変な無礼を働いてしまいました」
彼に、行くなといって縋りつき、その腕の中にいたのはベアトリックス自身の意思だった。それなのに、エドワード・アーヴィンは自分が悪いと言っているのだ。
ベアトリックスが何かを言いかけた時、エドワード・アーヴィンが小さく首を左右に振った。
「今夜のような宴の日に、わたしに大騒ぎをしてすべてを台無しにしろと言うのかね」
レイモンドはそう言うと
「まるで寝取られ男のような醜態を、大勢の来客の前でさらせと言うのか?そんなみっともないことは出来ない。わたしが騒いだら、お前とベアトリックスが面白おかしい見世物になって、世間に醜聞が広がるだけだ」
それから、エドワードに向かって
「汚らわしい平民め。目障りだ。失せろ!お前の女みたいなツラを見てると反吐が出る」
と吐き捨てた。
レイモンドはベアトリックスに向き直ると、まるで何事もなかったかのように
「ベアトリックス、王太子さまが『きみのフィアンセにダンスを申し込みたい』と言われてもいたからね。体調が悪くないなら殿下と踊ってほしい」
と言った。
「わかりました。ホールに戻ります」
ベアトリックスが言うと
「そのひどい顔で戻られても困る。鏡でよく見てみるんだな」
と、小声で言った。
振り返って、立ちつくしているエドワードを見ると、口もとと頬に彼女のルージュが薄っすらとついていた。
その彼を見て、ベアトリックスは、自分がどんな顔をしているかを知った。
レイモンドに痛いほど手首をつかまれたまま、ベアトリックスは化粧室まで引っ張られていった。
「あの痴態を見たのが、わたしでよかった。他の誰かに見られたら、どんなスキャンダルになったことか」
彼に引きずられるようにして廊下を歩いていたベアトリックスは、何も言えないままだった。
「廊下で誰かに会うかもしれないし、化粧室の中にどこかの婦人がいるかもしれない。きみの化粧が剥がれるほど、激しいキスをしたのは、わたしということにしておかないと。わかったな」
と、苦々しげに、レイモンドは言った。
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