王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。

實藤圭

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2章:王都に降る雨

聖女の婚礼

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 翌日、セラドが評定の間に行くと、すでに何人かの上級貴族や、執政官らが集まっていた。
 王命により、開かれる枢密会議は、王が呼び掛けた重臣たちによって開催される。
 やがて、評定の間に、王太子リオネル・アルトラディアが現れ、枢密会議が始まった。
 多くの者は、今日の会議の内容について知らされてはおらず、集まった国の中枢を担う面々の中では、先日神託の間の騒ぎがあったこともあり、おそらくそれに関連する会議であろうと囁かれていた。
 だが、若き王太子の発した言葉は、そんな想像のはるかに上をいく言葉であった。

「……私は、聖女ミラ・セレスタを、次代の王妃とすることと決めた」

 文官、貴族、騎士団の長たちが息を呑んだ。
 皆が、いったい、この発言にどのような答えを用意すればよいのか戸惑い、神妙な空気が広がっていく。
 セラドをはじめ、一部のすでに知っていた者以外にとっては、まさに予期せぬ宣言であった。

「これは──聖女様が、聖女の務めを退いてからの話でございましょうか?」

 重臣のひとりが発言した。
 だがリオネルは、おそらく準備していたであろう答えを披露する。

「否。ミラは聖女のまま、王太子妃となる。神の加護を授かる者こそ、国の礎にふさわしい。民もまた、聖女の加護に包まれて暮らすことを望んでいるはずだ」

 評定の間がざわめきたつ。

 「聖女は本来、信仰に専心する立場にございます」
 「王妃の責務とは、政と王統の継承……聖務とは重ならぬものです」
 「教権と王権の併合は、前例がありません」

 次々とあがる反対の声に、しばらくの間リオネルは耳を傾けていたが、やがて、片手をあげてそれらを制した。
 リオネルは静かに、しかし確固たる意思をもって、反対の声の主に言葉を返した。

「過去に前例がないのであらば、我が代にそれを成すだけだ。”神託”は我らに変革を求めている。本日の建議、これは予言に込められた神の意思に従い、余が形にするものである」

 誰もが言葉を失った。
 もし、王太子殿下の言葉が事実なのであれば──

 評定の間に集まった者たちの脳裏に、数日前のクラリスの姿が浮かぶ。

 ──反論は、すなわち神意への抗いとなる。



 セラド・ヴァレンティスは、目を静かに閉じ、黙して、座っていた。

  ──リオネル殿下は“神託が変革を求めている”とおっしゃられた。
  神は本当にそんな“変革”を望んでいるのだろうか?
 
「……」


 セラドは口を開きかけた。
 だが、その一瞬の逡巡を、誰かの賛同の声が追い越した。
 その声は高位の神官の一人だった。

「王太子殿下の仰る通りにございます。聖女様こそ、この国の未来の光──」

 沈黙が破れたのはその瞬間だった。
 次々と賛同の声が広がっていく。
 最初反対していた者たちも、いつの間にか、賛成を口にしているようだった。

 セラドは、声を呑み込んだ。
 神に仕える身として、正義を貫く者として──今、その言葉を放つことが何を意味するのか。
 それが、あまりに明白すぎた。


 いつの間にか場は「王太子殿下万歳、王太子妃殿下万歳、聖女様万歳」の声に包まれている。

 セラドには、ただその喧噪の中、万歳の声を聴くことしかできなかった。


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