薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第二章

第十一話 どうしてあたしのためにここまでしてくれるの?

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~タマモ視点~





 兄さんとシャカールがレースで勝負をすることが決まると、兄さんは無言のまま踵を返してあたし達から離れて行く。

「ふぅ、どうにか上手くいったな。それにしても、お前の兄って本当にバカだな。俺の言葉をそのまま信じてしまうなんて」

「え? それって?」

 シャカールの言葉を聞いた瞬間、あたしはピンときた。どこまでが真実なのかは未だに不明だが、今までの会話の中には嘘が含まれていたのだ。

「お、どうやらタマモは気付いたみたいだな。兄と違って賢さはお前の方が優秀じゃないか。この録音機には、今までの会話は収録されていない。それに破壊されれば、会話が全世界に聞かれるなんて機能もついてはいない。そんなものがあるなんて、普通は信じられないはずなのにな。相当タマモが予想外の方法で優勝したことに対して、動揺していたのだろう」

 悪戯に成功した悪ガキのような笑みを浮かべながら、シャカールは種明かしをする。

 そうだ。あたしは彼に聞かなければいけないことがあった。

「シャカール、あなたの気持ちを確認したい。お題に対してあたしを抱き抱えたってことは、あなたはあたしのことを……そのう」

 途中で恥ずかしくなり、言葉が詰まってしまった。彼と真正面で向き合うことができずに顔を俯かせる。

 ゴールの直後、彼が持っていた紙の内容が偶然見えてしまった。

 彼のお題は『あなたに取って大切な人』だった。

 お題であたしを抱き抱えてゴールをすると言うことは、彼はあたしのことを大切な存在だと思っていると言うことになる。

 それに、彼は事前に兄さんとのやり取りを盗み聞きして、あたしが優勝できなければ学園を去ることになっていることを知っている。

 大切な存在だからこそ、いなくなって欲しくないと思った。だからあたしが転倒した時、急いで近付いて抱き抱え、そのままゴールしてわざとあたしを優勝させたのなら、辻褄が合う。

 彼のことを考えると心臓の鼓動が早鐘を打つ。

 ど、どうしてシャカール相手に、こんなにドキドキしているのよ。おかしいわよ。

 もし、彼が本気であたしのことが大切な存在であるのなら、学級委員長として彼の気持ちに応えなければいけない。

「あー、気付いてしまったか。俺なりに隠し通せると思っていたのだけどなぁ」

 最後まで言葉が言えず、両手の指を合わせてモジモジしていると、シャカールは手を後頭部に持っていき、ぶっきらぼうに言う。

 彼の態度って、もしかして本当に?

 確かにシャカールは性格が悪いけれど、でも、本当はとても真っ直ぐで、レースで走っている姿は格好良い。それにちゃんとオシャレをして綺麗に着飾れば、イケメンになり得る容姿はしているわ。

 でも、ケモノ族と人族のカップルだなんて。それに兄さんとの蟠りがある状態では、色々とスカーレット家としても問題がある。でも、あたしはいずれどこかに嫁ぐ身。それなら、シャカールに連れ去られても……って、何を考えているのよ! あたしは!

 脳内でノリツッコミを入れつつ、彼が次に出す言葉を待つ。

 もし、彼が本気であたしのことが好きだったのなら、一度考えさせてもらう時間が必要となるわ。

 生唾を飲み込み、心臓の鼓動が早鐘を打つ中、彼はゆっくりと口を開いた。

「あー、本当に最後の最後でヘマをしてしまったぜ。お題だけでは、俺が嘘を言っているのかは分からない。だから倒れたタマモを利用して、そのままゴールしたまでは良かったが、タマモがお題のものを握っているとは思わなかった。これなら、その辺の観客にでもすれば良かったぜ」

「へ?」

 予想外の言葉に頭の中が一瞬真っ白になる。

「そ、それじゃあ、兄さんに喧嘩を売って私の優勝を受け入れるように言ったのは?」

「それか? ただ単純に俺はイケメンが嫌いなだけだ。それに約束を破るやつも嫌いだ。だからこの2つが合わさって、偶然的にもお前の味方をすることになっただけだ。良かったな。運が良かったから、学園を去らずに済むぞ。さすが知識と運が要求される無限回路賞に出るだけのことはある……どうした? 顔が赤くないか?」

 シャカールの返答を聞いた瞬間、全身から熱が湧き上がった。これは別に風邪を引いて熱が上がったものではない。羞恥心で神経が乱れ、その結果体温が一時的に上がってしまったことによるもの。

「うるさい! バカ! 死ね! 女誑おんなたらし! クソザコ種族!」

 羞恥心でこの場に居づらかったあたしは、咄嗟に照れ隠しとして、思ってもいない暴言を吐く。そして松葉杖を使い、彼の横を通り過ぎると急いでこの場を去った。

 せっかく見直してあげたのに、勝手に浮かれていたあたしがバカみたい。兄さんに立ち向かって行くあの姿勢は、とても格好良くって、あたしにはヒーローに写ってしたのに、結局は自分のためにあたしを利用していただけじゃないのよ。

 羞恥心と自分自身への怒りで、頭の中がゴッチャになる。けれど、何故か本気で彼を憎めなかった。

 理由はどうであれ、結果的にはあたしを助けてくれたのだから。

 関係者である以上、あたしは今後知らない振りをする訳にはいかない。兄さんをレースで負かせてもらうためにも、彼にサポートをしなければ。

 今後の方針を決めると、あたしは会場から出た。

「お、やっと来たかい。おや? シャカールが迎えに行ったはずでは?」

 会場の外に出ると、ルーナ学園長があたしに気付き、声をかけてきた。彼女の他にも今回のレースで実況を担当してくれたアルティメットさん、解説を担当したサラブレットさんの姿もあった。シャカール以外は全員が揃ったことになる。

「シャカール君からの伝言です。俺は用事があるから先に帰ってくれとのことです」

「そうかい? なら、ワタシたちは先に帰るとするか。さぁ、みんな馬車に乗りたまえ。学園に帰るとしよう」

 ルーナ学園長が馬車の扉を開け、あたしたちに中に入るように促す。

 シャカール、乙女の心を弄んだ罰よ。あなたは自分の足で帰りなさい……なんて言うのは嘘なのだけどね。今のあなたでは、スタミナ的にも兄さんには勝てない。隣町から学園まで1人で帰ることで、スタミナと根性を鍛えてもらうわ。

 これが、今のあたしにできる精一杯のサポート。

 あたしが嘘を言ったことがバレたら相当怒るでしょうが、その時はその時よ。

 頑張ってね。シャカール。応援しているから。
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