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第三章
第一話 夢の中の金縛り
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~シャカール視点~
無限回路賞の翌日、俺は教室の机の上に腕を組み、それを枕代わりにして眠ろうとしていた。
本当に昨日は散々だった。遅れてレース会場に出たら、ルーナもタマモの姿もなく、俺を隣町まで運んでくれた馬車の姿も見当たらなかった。
いくら待ってもルーナもタマモも、アルティメットもサラブレットも姿を見せない。そのことから、これはルーナのドッキリであることを悟った。そのせいで俺は、走って10キロメートル離れた学園まで戻ることになったのだ。
学園に辿り着いた頃には深夜を迎えていた。すぐに学生寮に帰って自分の部屋のベッドで横になり、死んだように眠ったのだが、睡眠不足であることには変わらない。
お陰で眠い状態で学園生活を送ることになったのだが、正直不満である。
どうしてレースに出場して疲弊している走者が、翌日も学園で授業を受けないといけない! ブラックじゃないか!
本当なら声を上げたいところだが、眠くてそんな気力すら湧かない。
「タマモ委員長! 無限回路賞優勝おめでとう! 廊下に張り出されたレースの結果を見た時、嬉しくって泣きそうになった!」
「ありがとう。でも、あたしが優勝できたのはシャカール君のお陰よ。彼のサポートがなければ、あたしは優勝することができなかったから」
「そう言えば、シャカール君は2着だったね。ワンツーフィニッシュで、この教室の走者が上位3人の中に入るなんて。私も頑張らないと」
眠りに付こうとすると、タマモがクラスメイトと会話をしている声が聞こえてきた。俺の名前が話題に上がったような気がするが、そんなことを気にしていては、眠ることができない。早く眠って、至福の時間を過ごさなければ。
「でも、最下位はピックだったわよね。本当にどうして無限回路賞なんかに出たの? マジであり得ないのだけど? 知力適性が合っていないってこと、分かっていないのかしら?」
「うるせー! 思い出させるなよ! 俺だって、あんなに難しい問題を出されるとは思ってもいなかったんだよ! もう少し簡単な問題を出してくれよ! 1+1=? 的な問題が出ると思っていたのに!」
お前の方が一番うるさいじゃないか!
クラスメイトの陰口が聞こえたようで、ピックが声を上げたようだ。だが、今の俺が求めているのは動物の奇声ではなく、静寂な空間だ。
さっきから眠りを妨げられ、若干の苛立ちが募ってくる。
頼むから、お前たちは静かにしていろよ。俺は眠いんだ。
そんなことを心の中で呟くと、鐘の音が聞こえてきた。どうやら朝のホームルームが始まる時間になったようだ。
担任教師が来れば、クラスメイトたちも静かになるだろう。その間に睡眠の深いところにまで到達してみせる。
眠ることに意識を集中させていると、次第に眠気が強まり、意識を失う。
『おや? シャカールは眠っているようだね。仕方がない。起こしてやるとするか。でも、普通に起こすだけでは面白くない。ホームルーム中に居眠りをしないように、肝に銘じさせるような起こし方をしなければな』
どれくらい眠っていたのか分からないが、ルーナの声が聞こえて目が覚める。彼女は何かを企んでいるかのような顔をして、俺のことを見ていた。
何かをされる前に起き上がって残念だったなと言ってやる。
彼女の目論みを阻むためにも、俺は上体を起こそうとした。
そんなバカな! 体が動かないだと!
必死に体を動かそうとするが、俺の意思通りに体を動かすことができないでいる。
これは金縛りと言うやつか。だが、金縛りと言うものは、本当は実在していない。
睡眠中にレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されることで、半覚醒をしている最中に、金縛りの夢を見ているんだ。
そして半覚醒中であるため、耳から聞こえた音を鮮明に脳内に送り届けることができる。
つまり俺は、リアルな夢を金縛りと言う形で見ているのだ。
おそらく実際の俺は瞼を閉じている。けれど耳から入った情報を、脳の記憶を司る海馬から記憶を引き出すことで、眠る前の空間を夢として再現している。
だから俺は机の前で腕を置き、それを枕代わりにしているし、ルーナも本物そっくりに登場している。
『さて、どんな面白いことをしてあげようか? 耳たぶを甘噛みしてやろうか? それとも頬を嘗めてあげようか?』
夢の中のルーナが耳元で囁く。
リアルな夢を見ている以上、実際に現実の彼女が囁いている可能性が高い。
そんなことをさせるか!
「は!」
気が付くと、俺は椅子から立ち上がった。
「どうやら目が覚めたみたいだね。惜しいことをした。後もう少し遅ければ、君の体に悪戯をしてやるところだったと言うのに」
近くでルーナの声がすると、顔を横に向ける。すると、白衣を纏った銀髪の女性が、残念そうな顔をしながら赤い瞳で俺のことを見てくる。
本当にリアルで聞いた言葉を参考に、夢の中で再現されていたみたいだ。
「これからホームルームが始まると言うのに、眠っていてはダメじゃないか」
「睡眠不足なのは、お前のドッキリのせいじゃないか! よくも俺を残して先に帰りやがったな!」
咄嗟に声を上げる。すると、何故かルーナは不思議そうな顔をしていた。
「いったい何のことだい? ワタシは先に帰るように言われたとタマモから聞いたので、先に帰ったのだが?」
小首を傾げながら俺のことを見つめるルーナは、嘘を言っているようには感じられなかった。
まさか、あれはタマモの仕業だったと言うのか。
「アハハハハ! まさか、タマモ君が嘘を言っていたとはね。これは一本取られたよ。まさに極上ではないか。アハハハハ!」
自分自身も彼女の嘘に騙されていたことにルーナは気付くと、彼女はお腹を押さえながら笑い声を上げる。
タマモの方を見ると、彼女は片目を瞑って小さく舌を出す。
くそう。お前を利用したことを根に持ってあんな仕返しをしやがったな!
「まぁ、でも。お陰で君はスタミナと根性が付いたはずだよ。今後のレースに活かすことができて良かったじゃないか。長距離適性もあるだろうし、クラウン路線の3冠も夢ではないはずだよ」
「ちっとも嬉しくない。それよりも、どうしてルーナがこの教室に居るんだよ?」
「ああ、そうだったね。先ほどタマモ君の兄のフェインから連絡が合ってね。現役復帰を発表したそうだ。そこで、3冠目をかけたテイオー賞で、シャカールと約束の勝負をするとのことだ」
「「「「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」
タマモが俺に伝言を伝えた後、クラスメイトたちが一斉に驚きの声を上げる。
どうしてお前たちの方が驚くんだよ。
無限回路賞の翌日、俺は教室の机の上に腕を組み、それを枕代わりにして眠ろうとしていた。
本当に昨日は散々だった。遅れてレース会場に出たら、ルーナもタマモの姿もなく、俺を隣町まで運んでくれた馬車の姿も見当たらなかった。
いくら待ってもルーナもタマモも、アルティメットもサラブレットも姿を見せない。そのことから、これはルーナのドッキリであることを悟った。そのせいで俺は、走って10キロメートル離れた学園まで戻ることになったのだ。
学園に辿り着いた頃には深夜を迎えていた。すぐに学生寮に帰って自分の部屋のベッドで横になり、死んだように眠ったのだが、睡眠不足であることには変わらない。
お陰で眠い状態で学園生活を送ることになったのだが、正直不満である。
どうしてレースに出場して疲弊している走者が、翌日も学園で授業を受けないといけない! ブラックじゃないか!
本当なら声を上げたいところだが、眠くてそんな気力すら湧かない。
「タマモ委員長! 無限回路賞優勝おめでとう! 廊下に張り出されたレースの結果を見た時、嬉しくって泣きそうになった!」
「ありがとう。でも、あたしが優勝できたのはシャカール君のお陰よ。彼のサポートがなければ、あたしは優勝することができなかったから」
「そう言えば、シャカール君は2着だったね。ワンツーフィニッシュで、この教室の走者が上位3人の中に入るなんて。私も頑張らないと」
眠りに付こうとすると、タマモがクラスメイトと会話をしている声が聞こえてきた。俺の名前が話題に上がったような気がするが、そんなことを気にしていては、眠ることができない。早く眠って、至福の時間を過ごさなければ。
「でも、最下位はピックだったわよね。本当にどうして無限回路賞なんかに出たの? マジであり得ないのだけど? 知力適性が合っていないってこと、分かっていないのかしら?」
「うるせー! 思い出させるなよ! 俺だって、あんなに難しい問題を出されるとは思ってもいなかったんだよ! もう少し簡単な問題を出してくれよ! 1+1=? 的な問題が出ると思っていたのに!」
お前の方が一番うるさいじゃないか!
クラスメイトの陰口が聞こえたようで、ピックが声を上げたようだ。だが、今の俺が求めているのは動物の奇声ではなく、静寂な空間だ。
さっきから眠りを妨げられ、若干の苛立ちが募ってくる。
頼むから、お前たちは静かにしていろよ。俺は眠いんだ。
そんなことを心の中で呟くと、鐘の音が聞こえてきた。どうやら朝のホームルームが始まる時間になったようだ。
担任教師が来れば、クラスメイトたちも静かになるだろう。その間に睡眠の深いところにまで到達してみせる。
眠ることに意識を集中させていると、次第に眠気が強まり、意識を失う。
『おや? シャカールは眠っているようだね。仕方がない。起こしてやるとするか。でも、普通に起こすだけでは面白くない。ホームルーム中に居眠りをしないように、肝に銘じさせるような起こし方をしなければな』
どれくらい眠っていたのか分からないが、ルーナの声が聞こえて目が覚める。彼女は何かを企んでいるかのような顔をして、俺のことを見ていた。
何かをされる前に起き上がって残念だったなと言ってやる。
彼女の目論みを阻むためにも、俺は上体を起こそうとした。
そんなバカな! 体が動かないだと!
必死に体を動かそうとするが、俺の意思通りに体を動かすことができないでいる。
これは金縛りと言うやつか。だが、金縛りと言うものは、本当は実在していない。
睡眠中にレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されることで、半覚醒をしている最中に、金縛りの夢を見ているんだ。
そして半覚醒中であるため、耳から聞こえた音を鮮明に脳内に送り届けることができる。
つまり俺は、リアルな夢を金縛りと言う形で見ているのだ。
おそらく実際の俺は瞼を閉じている。けれど耳から入った情報を、脳の記憶を司る海馬から記憶を引き出すことで、眠る前の空間を夢として再現している。
だから俺は机の前で腕を置き、それを枕代わりにしているし、ルーナも本物そっくりに登場している。
『さて、どんな面白いことをしてあげようか? 耳たぶを甘噛みしてやろうか? それとも頬を嘗めてあげようか?』
夢の中のルーナが耳元で囁く。
リアルな夢を見ている以上、実際に現実の彼女が囁いている可能性が高い。
そんなことをさせるか!
「は!」
気が付くと、俺は椅子から立ち上がった。
「どうやら目が覚めたみたいだね。惜しいことをした。後もう少し遅ければ、君の体に悪戯をしてやるところだったと言うのに」
近くでルーナの声がすると、顔を横に向ける。すると、白衣を纏った銀髪の女性が、残念そうな顔をしながら赤い瞳で俺のことを見てくる。
本当にリアルで聞いた言葉を参考に、夢の中で再現されていたみたいだ。
「これからホームルームが始まると言うのに、眠っていてはダメじゃないか」
「睡眠不足なのは、お前のドッキリのせいじゃないか! よくも俺を残して先に帰りやがったな!」
咄嗟に声を上げる。すると、何故かルーナは不思議そうな顔をしていた。
「いったい何のことだい? ワタシは先に帰るように言われたとタマモから聞いたので、先に帰ったのだが?」
小首を傾げながら俺のことを見つめるルーナは、嘘を言っているようには感じられなかった。
まさか、あれはタマモの仕業だったと言うのか。
「アハハハハ! まさか、タマモ君が嘘を言っていたとはね。これは一本取られたよ。まさに極上ではないか。アハハハハ!」
自分自身も彼女の嘘に騙されていたことにルーナは気付くと、彼女はお腹を押さえながら笑い声を上げる。
タマモの方を見ると、彼女は片目を瞑って小さく舌を出す。
くそう。お前を利用したことを根に持ってあんな仕返しをしやがったな!
「まぁ、でも。お陰で君はスタミナと根性が付いたはずだよ。今後のレースに活かすことができて良かったじゃないか。長距離適性もあるだろうし、クラウン路線の3冠も夢ではないはずだよ」
「ちっとも嬉しくない。それよりも、どうしてルーナがこの教室に居るんだよ?」
「ああ、そうだったね。先ほどタマモ君の兄のフェインから連絡が合ってね。現役復帰を発表したそうだ。そこで、3冠目をかけたテイオー賞で、シャカールと約束の勝負をするとのことだ」
「「「「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」
タマモが俺に伝言を伝えた後、クラスメイトたちが一斉に驚きの声を上げる。
どうしてお前たちの方が驚くんだよ。
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