薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
166 / 269
第九章

第三十九話 エコンドル杯決着

しおりを挟む
 最後のギミックのスライムが暴走し、落下する前から走者を襲うようになった。

 ギミック用に用意されたモンスターの行動に観客たちはある意味の悲鳴を上げる。

 怒りや喜び、そして戸惑いなどの様々な感情が入り混じった悲鳴であった。

 スライムの肉体に触れれば衣服が全部溶かされ、全裸にされてしまう。俺の裸なんてものは、マーヤくらいにしか需要がないだろう。

 それでも、スライムは必要以上に俺を攻撃してきた。余程邪魔をされたことに対して憤慨しているのだろうな。

 スライムをいかにして倒すか。

「アタイの靴をよくも溶かしてくれたな! あれがいくらすると思っているんだ! オーダーメイドの特注品なんだぞ! 絶対に許さない! こいつでくたばれ! ファイヤーボール!」

 思考を巡らせていると、激怒したコールドシーフが火球を放つも、スライムにはほとんど効果がないように見られた。

 スライムはモンスターの中でも上級に位置する。魔法は殆どダメージを通らないし、斬っても肉体が直ぐに引っ付いて元の状態に戻る。更に取り込まれてしまえば肉体が溶かされて骨になってしまうのだ。

 今回のスライムは、品種改良を施され、衣服の繊維を食べる。しかし、品種改良を施されたスライムと言っても、取り込まれたら窒息死してしまうはずだ。

 全裸で死ぬなんて格好悪すぎるだろう。

「コールドシーフ! スライムを倒すには、内部にある心臓や脳の役割を持つ核の破壊が必要だ!」

 コールドシーフに攻略法を伝えつつ、床下のいるスライムを見る。ジェル状の肉体の中に、赤い球体のようなものが見えた。

 あれが核だな。さて、どうやって取り出すか。

 思考を巡らせるも、良いアイディアが思いつかない。

 とりあえずは片っ端から攻撃してみるか。

「アイシクル!」

 氷の魔法を発動し、空気中の水分を集めて三角錐の形状に変え、その後水の気温を下げて氷へと変化。氷柱となった物体をスライムの核に向けて投げ飛ばす。

 氷柱は真っ直ぐにスライムの核に目がけて飛んで行き、肉体に接触した。だが分厚く、弾力のあるジェル状の肉体は氷柱を受け止め、核に到達することができない。

 俺たちは協力して炎、水、氷、雷、風、土など、様々な属性の魔法で攻撃してみるも、スライムには効果があるようには見えなかった。

「くそう。アタイたちの魔法が通用しないとはな。品種改良されていても、さすがスライムだ。こうなったら、アタイのアイテムで攻撃してみるか。えーと、何かあったか。基本的には妨害アイテムしかなかったような?」

 コールドシーフが、勝負服のポケットから次から次へと様々なアイテムを取り出しては、使えないと判断したのか周辺に放り投げていた。

 彼女の勝負服のポケットは簡易的なアイテムボックスになっていたのか。

「チッ、どれもこれも使えそうもないアイテムばかりだ。最後に出てきたのが調味料とか、泣けてくる」

 砂糖と塩と思われる瓶を握りしめていたコールドシーフは苦渋の表情をしている。しかし、俺は彼女の持っている物を見た瞬間、大きく目を見開いた。

「それだ!」

「あ? それってどれだ?」

「お前が持っている砂糖と塩だ! そいつをスライムに向けて投げろ!」

「どうしてスライムに調味料を投げる必要があるんだよ。お前、とうとう頭がおかしくなったのか?」

 俺の言動に疑っているコールドシーフだが、説明している暇はない。何せ、スライムが標的を変え、コールドシーフにジェル状の肉体を伸ばしていたからだ。

「コールドシーフ、危ない!」

「チッ、これで全裸にされたら、お前に責任取ってもらうからな!」

 コールドシーフが瓶の蓋を開けて砂糖を掴むと、触手のように伸ばされたスライムの肉体に向けて砂糖を投げる。

 その瞬間、スライムの肉体が溶け、そのまま霧散した。

「マジかよ。いったいどうなっているんだ?

「スライムの身体は、コロイドと呼ばれる原理でジェル状の肉体を形成している。スライムの肉体に砂糖が身体に触れると、砂糖の粒子が浸透圧によって水分を出し、ドロドロにさせることができるんだ」

 モンスターの中でも上位に君臨するスライムだが、その弱点は砂糖や塩といった調味料だ。

 スライムの体内のポリビニルアルコールは高分子の鎖であり、ホウ砂のイオンが鎖を留めて網目構造を作っている。

 この小さな部屋に水分子が入り込むことで、ぷにぷにとした弾力のある身体になっている。

 ナメクジに塩をかけると溶けるように、砂糖が身体に触れると、砂糖の粒子が浸透圧によって水分が出て、ドロドロになったのだ。

「今度は食塩を投げてみろ。また違ったことが起きる」

「分かった」

 俺の指示に従い、コールドシーフがスライムに向けて食塩を投げる。すると、スライムの肉体から水分が吹き出し、弾力がなくなってぐったりとした。

 これで触手のように体を伸ばすことができなくなったはずだ。

 食塩をかけたことにより、スライム内の水と周りにかかっている塩化ナトリウムとの間で、濃度の違いが生じ、塩化ナトリウムが高張液となって、スライム内の水分が塩化ナトリウムの濃度差を埋めようとするため、水が出てきたのだ。

「これでこのギミックを妨害するものは居なくなった。俺は先に行かせてもらう」

 俺は動く床のチャレンジに戻り、床を渡って最後のギミックを突破する。

『色々とトラブルのあったエコンドル杯も終わりが見えて来ました。先頭はシャカール、続いてコールドシーフが追いかける展開となっています。しかし、2人が最後のギミックに苦戦している間にも、他の走者が追い付いて来ています。これは漁夫の利があるかもしれませんね』

 残り200メートルを切った。ここからが魔法禁止エリアだ。さて、ここでフィニッシュと決めますか。

 俺はユニークスキルを発動し、過去に投与された薬物の効果を体内で再現する。これにより、足の筋肉の収縮速度が速くなり、加速魔法を使った時と同様の速度で走ることができる。

『ここでシャカール走者のお得意の走りが発動だ!』

『彼は、魔法禁止エリアからの加速と言う不思議な力を持っています。これは決まったでしょうか』

「負けてたまるか! このレースに勝つのはアタイだ! 走者界の怪盗のプライドにかけて、絶対に優勝してやる!」

 後方から物凄い勢いで追い掛けるコールドシーフに思わず萎縮してしまった。そのせいか、速度が僅かながらにも落ちてしまった。

『ゴールまで後もう少し! このままシャカール走者の勝ちで決まったか!』

 どうにかギリギリで俺の勝ちのようだな。これで俺の方はどうにかなった。後はクリープの勝利を祈るのみ。

 そう考えていた瞬間、突然俺の足に何かが捕まり、そのまま転倒してしまった。

『おっと! ここでコールドシーフがバランスを崩して転倒だ! そしてその勢いでシャカール走者の足を掴んでしまい、彼も巻き込まれるようにして転倒! そして、そして後方から追いかけていたカリン走者が2人を追い越してそのままゴールだ!』

 実況の言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が早鐘を打つ。

 嘘だろう。俺が、負けたのか。

 しかし、動揺してしまっても仕方がない。今は2着でもゴールしなければ。

 俺は立ち上がると、重たい足取りのままゴールした。

『ここでシャカール走者が2着、そしてコールドシーフが3着となりました』

「異議有りだよ!」

 実況担当のアルティメットの言葉を遮り、異を唱える者の声が耳に入った。

 この声、マーヤか。

「勝ったのはシャカールちゃんだよ! マーヤはこの目で見えていたもの!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...