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第九章
第四十話 疑惑の判定
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「勝ったのはシャカールちゃんだよ! マーヤはこの目で見えていたもの!」
観客席から見守っていたマーヤが、声を上げた。
あいつ、何を言っているんだ? 俺は負けたんだぞ。
「早く映像判定をしてよ! 出ないと、ここのレース場を使い物にならないようにするのだから!」
マーヤが声を上げると、彼女は両手を広げた。そして片方の掌には水の塊が、もう片方は風か渦巻いていた。
彼女の目は本気だ。本気でこのレース場を破壊するつもりだ。
「マーヤ待て! 早まるな!」
「アハハハハハ! これはなんとも極上な展開ではないか。面白くなって来たではないか。アルティメット、サラブレット、ワタシからも頼む。映像判定をしてくれないか」
俺が声を上げた瞬間、マーヤの隣にいたルーナが笑い声を上げ、映像判定をするように要求してくる。
『えー、トラブルを避けるために、映像判定をさせていただきます。会場の皆様は納得いかないかもしれませんが、ご理解の程をよろしくお願いします。皆様、中央の湖にご注目ください』
ルーナの要求が通り、中央の湖の水が噴き出した。すると、ゴール直前の映像が映し出される。
ゴール直前で、俺は転倒したコールドシーフに足首を掴まれた。その勢いで転倒してしまい、俺は無様にもその場で倒れる。そしてそんな俺たちの横を女性走者が駆け抜け、ゴール板を駆け抜ける。
どこからどう見ても、俺の負けだ。マーヤはどこに対して不服に思っているのだろうか? もしかして、俺を転校させないために無理をしている? もしそうならやめてほしい。
俺の運がなかっただけなのに、それでマーヤが悪者になって欲しくはない。
「ふーん、なるほどな。確かにある意味、これはシャカールの勝ちと言う見方もできるじゃないか」
俺の隣で映像を見ていたコールドシーフがポツリと言葉を漏らす。彼女には、マーヤが言いたいことを理解したみたいだ。
「おい、もっとシャカールの転倒シーンを可能な限り、アップにしてくれ!」
何かに気付いたコールドシーフが、映像を拡大化するように要求する。すると、映像が早戻しにされ、俺の転倒シーンが拡大される。
大勢の前での転倒シーンを見せられると、気恥ずかしいものがあるが、今は文句を言っている場合ではない。
「ほら見て! シャカールちゃんの中指が、ゴール板のラインに触れている! これはゴールしているよ!」
映像が拡大化され、核心に変わったのか、マーヤは更に声を上げる。
しかし、本当に疑惑の判定となっているな。マーヤのこの要求が呑まれるのだろうか?
そんなことを思っていると、観客席から1羽のリピートバードが飛んで行くのが見えた。
『えー、ただいま審議中のため、もうしばらくお待ちください』
実況席からのアナウンスがあるが、観客席は響めきの声が聞こえてくる。それもそうだろう。観客席にいるやつらの大半が賭けをしている。俺か、もう一人の走者のどっちかが1着なのか、それだけで倍率の方にも影響を与え、払い戻しの内容も変わって来る。
疑惑の判定が起きてから、体感で10分は経過しただろうか。まだ審議中なのか。アナウンスがない。
「おいおい! なにをしているんだよ! シャカールの負けで決まっているだろうが! これ以上待たせるなよ!」
「何を言っているんだ! あれはどう見てもシャカールの勝ちだろうが! そうでなければ、俺のこの走券がただの紙切れになってしまう!」
観客席でも、揉め事に発展しつつある。早く決着を付けてくれないと、暴動へと発展してしまうかもしれない。そうなったら、俺が止めに向かわないといけないな。
『長らくお待たせしました。魔競走のルールブックによると、基本的には体の一部でもゴール板のラインに触れていればゴールの扱いと言うことになります。なので、疑惑の判定となりましたが、シャカール走者の1着でのゴールとなります』
俺が1着でのゴールと言うことになり、会場内では色々な感情が露わになった。
ある人は喜び、ある人は納得せずに怒りの声を上げ、またある人はやっと終わったかと安堵の表情を浮かべる人もいる。
どうにか1着を取ることができたが、正直に言って複雑だ。こんな終わり方をするのは、俺の走者人生の中でも初めてだ。ある意味、忘れられないレースの思い出になってしまった。
優勝した俺はトロフィーを受け取り、控え室で着替える。
男性走者たちは、コールドシーフのギミックとして放ったグラビアチェキの写真を持って、ニヤニヤしていた。
あの写真、あいつらに悪用されなければ良いが。まぁ、あのチェキが何に使われようと、俺には関係ない。
着替え終わり、外に出る。すると、外にはマーヤやルーナ、そしてコールドシーフの他に、タマモとクリープ、アイリンまでいた。
クリープの手には、優勝トロフィーが握られている。どうやら、彼女も優勝できたみたいだ。
これで俺たちの2勝だ。これで転校の件は白紙に戻される。
「本当に良かったです。シャカールトレーナーが転入することになれば、わたしはアイネスビジンさんにバカにされる日々を送るところでした。やっぱりシャカールトレーナーはなんやかんやで勝ってくれます」
「あら、あら。うふふ、そんなこと言ってアイリンちゃんは先ほどまでショックで気絶していたではないですか。シャカール君が勝って、安心して元気が出てくれたみたいですね。ママは安心しました」
「本当に心臓に悪いわね。ローレルから連絡が来たときはマジで焦ったわ。でも、どうにか勝ってくれたようね」
俺の姿を見て、もう一つのレースに向かっていたメンバーたちが口々に言葉を漏らした。
「いやー残念だ。せっかく筋トレマスターになれる素質のある人材を見つけたと思っていたのに2連敗とは。しかし、教え子たちにはまだ伸び代があることがわかって安心した。明日からまたマッスル授業を強化しようではないか」
「ナンバ言っているとタイ! 明日くらいは休ませてほしいタイ!」
「そうだ! そうだ! 週休6日はほしいぞ! アタシは練習なんかしたくない!」
マッスル先生の言葉に、サザンクロスとコールドシーフは休みをくれと要求してきた。
本当に転入なんてことにならなくってホッとした。あんな地獄の筋トレはできれば二度としたくないものだ。
「さて、では我々は宿に戻って、明日の朝に学園に戻ろうではないか。それでは、マッスル先生、我々はこの辺りで失礼させていただく」
「ああ、またいつか競い合うレースがあれば、互いの生徒をぶつけ合おう」
ルーナとマッスル先生が握手を交わし、彼は踵を返した。
「よし! サザンクロス! コールドシーフ! あの夕日に向けて走るぞ! 俺に着いて来い!」
「なんでそうなるとタイ!」
「嫌だ! アタシはもう走りたくない!」
彼女たちの背中を見送ると、俺たちも手配した宿へと向かうことにした。
宿へと向かっている帰り道。
「あ、やっと見つけた!」
1人の女の子がこちらに指を向けると走ってきた。そして俺に飛び付くと腕を回してギュッと抱きしめて来る。
「やっと会えた。ゼロナ兄!」
女の子の言葉に衝撃を受け、頭の中が一瞬だけ真っ白になる。
「ゼロナ兄って……まさか……うそだろう。どうして……お前がこんなところに居るんだ」
観客席から見守っていたマーヤが、声を上げた。
あいつ、何を言っているんだ? 俺は負けたんだぞ。
「早く映像判定をしてよ! 出ないと、ここのレース場を使い物にならないようにするのだから!」
マーヤが声を上げると、彼女は両手を広げた。そして片方の掌には水の塊が、もう片方は風か渦巻いていた。
彼女の目は本気だ。本気でこのレース場を破壊するつもりだ。
「マーヤ待て! 早まるな!」
「アハハハハハ! これはなんとも極上な展開ではないか。面白くなって来たではないか。アルティメット、サラブレット、ワタシからも頼む。映像判定をしてくれないか」
俺が声を上げた瞬間、マーヤの隣にいたルーナが笑い声を上げ、映像判定をするように要求してくる。
『えー、トラブルを避けるために、映像判定をさせていただきます。会場の皆様は納得いかないかもしれませんが、ご理解の程をよろしくお願いします。皆様、中央の湖にご注目ください』
ルーナの要求が通り、中央の湖の水が噴き出した。すると、ゴール直前の映像が映し出される。
ゴール直前で、俺は転倒したコールドシーフに足首を掴まれた。その勢いで転倒してしまい、俺は無様にもその場で倒れる。そしてそんな俺たちの横を女性走者が駆け抜け、ゴール板を駆け抜ける。
どこからどう見ても、俺の負けだ。マーヤはどこに対して不服に思っているのだろうか? もしかして、俺を転校させないために無理をしている? もしそうならやめてほしい。
俺の運がなかっただけなのに、それでマーヤが悪者になって欲しくはない。
「ふーん、なるほどな。確かにある意味、これはシャカールの勝ちと言う見方もできるじゃないか」
俺の隣で映像を見ていたコールドシーフがポツリと言葉を漏らす。彼女には、マーヤが言いたいことを理解したみたいだ。
「おい、もっとシャカールの転倒シーンを可能な限り、アップにしてくれ!」
何かに気付いたコールドシーフが、映像を拡大化するように要求する。すると、映像が早戻しにされ、俺の転倒シーンが拡大される。
大勢の前での転倒シーンを見せられると、気恥ずかしいものがあるが、今は文句を言っている場合ではない。
「ほら見て! シャカールちゃんの中指が、ゴール板のラインに触れている! これはゴールしているよ!」
映像が拡大化され、核心に変わったのか、マーヤは更に声を上げる。
しかし、本当に疑惑の判定となっているな。マーヤのこの要求が呑まれるのだろうか?
そんなことを思っていると、観客席から1羽のリピートバードが飛んで行くのが見えた。
『えー、ただいま審議中のため、もうしばらくお待ちください』
実況席からのアナウンスがあるが、観客席は響めきの声が聞こえてくる。それもそうだろう。観客席にいるやつらの大半が賭けをしている。俺か、もう一人の走者のどっちかが1着なのか、それだけで倍率の方にも影響を与え、払い戻しの内容も変わって来る。
疑惑の判定が起きてから、体感で10分は経過しただろうか。まだ審議中なのか。アナウンスがない。
「おいおい! なにをしているんだよ! シャカールの負けで決まっているだろうが! これ以上待たせるなよ!」
「何を言っているんだ! あれはどう見てもシャカールの勝ちだろうが! そうでなければ、俺のこの走券がただの紙切れになってしまう!」
観客席でも、揉め事に発展しつつある。早く決着を付けてくれないと、暴動へと発展してしまうかもしれない。そうなったら、俺が止めに向かわないといけないな。
『長らくお待たせしました。魔競走のルールブックによると、基本的には体の一部でもゴール板のラインに触れていればゴールの扱いと言うことになります。なので、疑惑の判定となりましたが、シャカール走者の1着でのゴールとなります』
俺が1着でのゴールと言うことになり、会場内では色々な感情が露わになった。
ある人は喜び、ある人は納得せずに怒りの声を上げ、またある人はやっと終わったかと安堵の表情を浮かべる人もいる。
どうにか1着を取ることができたが、正直に言って複雑だ。こんな終わり方をするのは、俺の走者人生の中でも初めてだ。ある意味、忘れられないレースの思い出になってしまった。
優勝した俺はトロフィーを受け取り、控え室で着替える。
男性走者たちは、コールドシーフのギミックとして放ったグラビアチェキの写真を持って、ニヤニヤしていた。
あの写真、あいつらに悪用されなければ良いが。まぁ、あのチェキが何に使われようと、俺には関係ない。
着替え終わり、外に出る。すると、外にはマーヤやルーナ、そしてコールドシーフの他に、タマモとクリープ、アイリンまでいた。
クリープの手には、優勝トロフィーが握られている。どうやら、彼女も優勝できたみたいだ。
これで俺たちの2勝だ。これで転校の件は白紙に戻される。
「本当に良かったです。シャカールトレーナーが転入することになれば、わたしはアイネスビジンさんにバカにされる日々を送るところでした。やっぱりシャカールトレーナーはなんやかんやで勝ってくれます」
「あら、あら。うふふ、そんなこと言ってアイリンちゃんは先ほどまでショックで気絶していたではないですか。シャカール君が勝って、安心して元気が出てくれたみたいですね。ママは安心しました」
「本当に心臓に悪いわね。ローレルから連絡が来たときはマジで焦ったわ。でも、どうにか勝ってくれたようね」
俺の姿を見て、もう一つのレースに向かっていたメンバーたちが口々に言葉を漏らした。
「いやー残念だ。せっかく筋トレマスターになれる素質のある人材を見つけたと思っていたのに2連敗とは。しかし、教え子たちにはまだ伸び代があることがわかって安心した。明日からまたマッスル授業を強化しようではないか」
「ナンバ言っているとタイ! 明日くらいは休ませてほしいタイ!」
「そうだ! そうだ! 週休6日はほしいぞ! アタシは練習なんかしたくない!」
マッスル先生の言葉に、サザンクロスとコールドシーフは休みをくれと要求してきた。
本当に転入なんてことにならなくってホッとした。あんな地獄の筋トレはできれば二度としたくないものだ。
「さて、では我々は宿に戻って、明日の朝に学園に戻ろうではないか。それでは、マッスル先生、我々はこの辺りで失礼させていただく」
「ああ、またいつか競い合うレースがあれば、互いの生徒をぶつけ合おう」
ルーナとマッスル先生が握手を交わし、彼は踵を返した。
「よし! サザンクロス! コールドシーフ! あの夕日に向けて走るぞ! 俺に着いて来い!」
「なんでそうなるとタイ!」
「嫌だ! アタシはもう走りたくない!」
彼女たちの背中を見送ると、俺たちも手配した宿へと向かうことにした。
宿へと向かっている帰り道。
「あ、やっと見つけた!」
1人の女の子がこちらに指を向けると走ってきた。そして俺に飛び付くと腕を回してギュッと抱きしめて来る。
「やっと会えた。ゼロナ兄!」
女の子の言葉に衝撃を受け、頭の中が一瞬だけ真っ白になる。
「ゼロナ兄って……まさか……うそだろう。どうして……お前がこんなところに居るんだ」
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