Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十六章

第十二話 どうして俺が師匠にならないといけない

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 ~シロウ視点~



「はぁ? 弟子?」

 アッテラの言葉に、俺は驚く。

「はい。ワタシは元々強者と戦い、己を磨き上げることを目的としていました。封印をされたのも、次に目が覚めれば、この世は強者に溢れた世界になるのではと思い、わざと封印されていたのです。まぁ、結果はクソザコの世界になっていましたが」

 アッテラの言葉に、苦笑いを浮かべる。

 何だかマリーたちのご先祖様が哀れに思えてきた。

 きっと当時は、彼女を封印して喜んでいたはずだ。だけどあの封印がわざとだと知ったら、ショックは大きいはず。

 この話は聞かなかったことにして、俺の胸の中だけに秘めておこう。

 もう一度彼女を見てみると、俺に熱い眼差しを向けている。

「師匠」

 いや、俺は弟子をとるつもりはないし、師匠になるつもりもない。

「悪いけど、弟子をとるつもりはない」

 きっぱり断ると、彼女は石化したみたいに数秒間動かなくなる。

「ど、どうすれば弟子入りさせてくれるのですか! 貢ぎ物が必要ですか! 今はこれしか持っていないのですが」

 アッテラは懐から木の実を取り出す。

「木の実?」

「はい。これは今から五百年ほど前に手に入れた貴重な木の実です」

 彼女の言葉に、つい苦笑いをしてしまう。

 確かに今から五百年前の木の実と言うのは、現代では貴重であるよな。アッテラのやつ、巧みに言葉を使って、この木の実がすごいものだと刷り込もうとしていやがる。

「そんな木の実で弟子入りさせるか……」

 途中で言葉を詰まらせる。

 アッテラの目尻には涙が溜まっており、今にも溢れ落ちそうになっている。

 だから、泣かないでくれ! 俺、本当に女の子の涙には弱いんだよ。

 俺は古びた木の実程度で落ちるほど、安い男ではない。だけど涙を流されると、心が揺らいでしまう。

 それに男の甲斐性を考えるのであれば、木の実を受け取らないわけにはいかない。

 考えろ。この状況を打破するいいアイディアがあるはずだ。俺はユニークスキル【魔学者】から得た異世界の知識のお陰で頭がいい。何か、突破口があるはずだ。

 思考を巡らせていると、あるアイディアが思い浮かぶ。

 よし、これならあの木の実をもらった上で、彼女から距離を置くことができる。

「分かったよ。この木の実はもらう」

「それじゃあ」

「ああ、アッテラは俺の弟子だ」

「やった! やった!」

 弟子入りを認めると、彼女はその場で何度もジャンプした。

 そんなに俺の弟子になるのが嬉しいんだ。まぁ、尊敬されるというのは嫌な気分ではない。

「それじゃあ、早速弟子としての初仕事をしてもらおう」

「はい師匠! 何でも命じてください!」

 お、今何でもと言ったな。何でもと言った以上、彼女には拒否権がなくなる。

「よし、それじゃあこの魔大陸に住む魔族の意識改革を頼む。無闇に人間を殺さず、逆に歩み寄るように考え方を変えるように促してください」

「洗脳ですね! お任せください!」

「誰がそこまでしろと言った! 少しずつでいいんだ。一気にしようとはせずに、一人ずつ確実に考え方を変えるように促すんだ」

「わかりました。師匠!」

 指示を出しておきながら、何だか不安になってくるな。だけど、これで彼女はしばらくの間、この魔大陸から離れることができない。

「それでは早速作業に入らせてもらいます」

 作業を始めると言うと、アッテラはソロモンの作った要塞を殴る。すると、建物全体にヒビが入り、要塞は砕けた。

 要塞を壊していったい何をする気なんだ?

「なぁ、アッテラ? 要塞を破壊してどうするつもりなんだ?」

「あ、これはですね。建物に使われている鉄を利用して、師匠の像を作ろうと思いまして」

「はぁ?」

「まずは第一段階として、師匠を魔族が崇める神として祀り上げます。そして弟子であるワタシが、師匠の言葉を神の神託として、魔族のみんなに伝えるのですよ。邪神の言葉であれば、魔族も考えを改めるでしょう」

 いや、そんなにドヤ顔で言われても。俺の方が困ってしまうのだが。

 って、そんなことよりも、どうして俺が邪神扱いをされないといけない!

「シロウ!」

 マリーの声が聞こえ、声が聞こえた方を見る。

「マリー、それにみんな。どうして戻って来た?」

「それはね。大きな爆発音が聞こえて、マリーさんが心配だから引き返そうと言ったの」

「ちょっと、クロエ。余計なことは言わないでください」

 なるほど、みんなあの大爆発の音を聞いて心配して来てくれたのか。

「シロウ、魔王はまだ生きているようだが、戦闘中ではなさそうだね」

「第一魔族を発見!」

 ミラーカが声をかけると、それに反応したアッテラが彼女に近づく。

「我らの崇める神の言葉を聞きなさい。人間を襲うな。仲良くしろ。そして邪神シロウ様を崇め奉れ」

「えーと、シロウ? これはどういうことなのか説明してもらえるのかな?」

 状況が理解できていないようで、ミラーカは俺に訊ねてくる。

「えーと。実は――」

 俺は彼女たちにこれまでの経緯いきさつを語る。

「なるほど、そう言うことでしたの。まぁ、シロウさんに惹かれる気持ちはわかりますが」

 言葉の途中でエリーザはチラリと周辺を見る。

「これでライバルは五人。いえ、憧れと言うことは、まだライバル認定する必要はないと思いますわ。ですが、何がきっかけで彼女の感情が変わるかわからないですもの。このわたしがそうだったように」

 エリーザのやつ、みんなを見た後にぶつぶつと何かを言っているみたいだな。だけど声が小さくて聞き取ることができない。

『ワン、ワン』

 キャッツが近づき、俺の肩に飛び移る。すると、鼻をひくひくとさせながら俺の手を見ていた。

「キャッツ、もしかしてこれが気になるのか?」

 握っている木の実をキャッツに見せる。すると神獣は、俺の掌の上にある木の実をパクリと食べた。

 え?

 その光景を見て、俺は数秒間固まってしまった。

 キャッツ! それは五百年前の木の実だぞ! いくらお腹が減っているからと言って、食べていいものではないんだ! お腹を壊したらどうする!

 心の中で訴えるも、時既に遅い。

 こうなってしまった以上、キャッツが腹を壊さないように心から祈るしかないな。

「まぁ、結果はどうあれ、これで世界の危機がなくなったとみて良さそうですわね。スカーヤ」

「コヤン! これでワタクシたちは宝玉から解放されて自由です」

「何を言っているのですか? 宝玉を守る仕事はなくなりましたが、わたくしたちは巫女としての仕事があるのですよ。あ、そうですわ。ついでに魔族の神様となったシロウさんも、ケモノ族の神として祀り上げましょうか?」

「お願いします!」

「アッテラ! 余計なことは言うな! コヤンさん。頼むからそんなことをしないでくれ!」

 俺は心から彼女に頼む。

 すると、それを見ていたみんなが笑い出した。

 彼女たちの笑顔を見ていると、ここまで頑張ってきてよかったと思う。

「さぁ、帰ろうか」
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