12 / 53
第一章 回想
嘘①
しおりを挟む
そして、現在ーー。
確かに、病名が判明しても、花乃の病状が劇的に変化することはなかった。だが、その告知を受ける前後、19歳をピークに、24歳の現在まで体調は落ち着いた状態が続いている。まぁ、少しずつ麻痺は広がりを見せているし、何となく食欲も落ちて来ているので悪化していることは間違いないが。
「...ケホッ、ゴホッゴホッ」
「...千春?大丈夫?...最近よく咳出るね」
屋上でベンチに腰掛け、二人で景色を眺めていたところで、千春が咳き込み始めた。
「...大丈夫だ」
「寒くない?ブランケット、一緒に使おう?」
花乃は、先ほど千春が膝にかけてくれたブランケットを、少し彼に身を寄せてから二人の膝に掛け直す。
「はは、ありがとう。そうだ、花乃。もうすぐ誕生日だろ」
「あ...本当だ。もうそんな時期なんだね」
「あの花乃も25かぁ。大きくなったなぁ」
「ふふ、何それ。私はもう大人よ?千春、親戚のおじさんみたい」
「お、おじ...はぁ~。まぁ、俺も29だしな。30もすぐ目の前で...もうおじさんか...はぁ~」
花乃のツッコミに、あからさまに千春が落ち込んだフリをする。
「え...ちょ、ちょっと、本気で落ち込まないでよ?千春は、おじさんなんかじゃないわ。ほら、このお顔。お肌もツルツルでー...あれ?千春....また発疹増えたんじゃない?....これ、一時期腕に出ていたものよね?」
花乃が、千春を励まそうと腕を伸ばして千春の顔に触れた時。伝わる感触は、いつものすべすべしたものと違っていた。
「....あぁ。時々、季節の変わり目に出るんだ」
「...季節の、変わり目?」
「そうだ。またすぐに治るさ」
「...でも、あの時もそう言って随分長く荒れていなかった?....検査とか、しなくて大丈夫なの?」
「はは、花乃は心配症だな。大丈夫だって。もし必要な時は、同僚に頼んで診てもらうから」
「....うん」
千春の大きな手に、背中をポンポンと優しく撫でられる。
「あ...誕生日、欲しいものとかある?」
「....ううん、何もない」
「花乃は本当、昔からいつもそれだな。....誕生日プレゼントくらい、友人なんだから強請ればいいのに。ちょっとくらいワガママ言え?」
花乃は、呆れたようなため息混じりの声のする方に顔を傾けて、フルフルと首を振った。
「いつももらってる」
「ん?」
「千春からは、いっぱいもらってる。....この二十年近く、毎日のように」
「.....?」
「お花とか、貝殻とか。石とか...本。溶けちゃったけど、雪も触れてすごく嬉しかったし。それに、優しさも。私の宝物は、ほとんど千春からもらったものなんだよ。ふふ、知ってた?...だから、もう十分なの。千春が居てくれたら、それでいいの」
花乃は、満足げな微笑みとともに、千春の方を向いた。
「....毎日は言い過ぎだろ。ただ拾ってきたものだし」
千春が照れているのは、花乃に伝わっていた。
「...私の喜ぶ顔、想像しながら見つけてきてくれたんだなって思うのが、嬉しいの。それに、千春が私に見せたいとか話したいって会いに来てくれるってことも。だって、その度に私たちは友達だって実感するから」
「.........」
「.....千春?」
「あ...あぁ。そう、だな」
「........」
その後黙ってしまった千春に、何故か花乃の胸がザワザワと騒いだ。
それなのに...気になるのに、聞けなくて。
結局、静かに屋上での『気分転換』は過ぎていった。
「花乃、そろそろ戻ろう。冷えてしまうから」
ベンチから立ち上がり、千春はブランケットをたたんだ。慣れた動きで、花乃に腕を差し出す。
もう先ほどの雰囲気など、微塵も残っていなかった。
「....もう少し、座っていたかったな」
「....だめだ。そういえば、昨日、あまり食が進んでなかったみたいだな。食欲ない?」
「........」
「...戻ったら、書天堂の筆饅頭あげるよ」
「え、買ってきてくれたの?」
「食欲がなさそうな時でも、これなら食べてくれるからな。念の為に買って来た」
「ありがとう」
その通り、病室に戻ったら花乃の大好物の筆饅頭が出て来て、彼女は目を輝かせた。
「いただきます!」
そう言って手を合わせると、パクリと大きめの口でかぶりつく。
「むぅぅ~~、美味しい」
「はは、良かった」
その時、ガラリと病室のドアが開いて看護師が飛び込んできた。
「先生!患者さんが...」
「...あぁ、すぐ行く。花乃、それ食べたらゆっくり休むんだよ。俺はもう行かなきゃ。後で退勤前に、また顔を出すよ」
「え、えぇ。気をつけてね」
バタバタと急ぎ足で離れていく足音を聞きながら、花乃は口をむぐむぐさせていた。
確かに、病名が判明しても、花乃の病状が劇的に変化することはなかった。だが、その告知を受ける前後、19歳をピークに、24歳の現在まで体調は落ち着いた状態が続いている。まぁ、少しずつ麻痺は広がりを見せているし、何となく食欲も落ちて来ているので悪化していることは間違いないが。
「...ケホッ、ゴホッゴホッ」
「...千春?大丈夫?...最近よく咳出るね」
屋上でベンチに腰掛け、二人で景色を眺めていたところで、千春が咳き込み始めた。
「...大丈夫だ」
「寒くない?ブランケット、一緒に使おう?」
花乃は、先ほど千春が膝にかけてくれたブランケットを、少し彼に身を寄せてから二人の膝に掛け直す。
「はは、ありがとう。そうだ、花乃。もうすぐ誕生日だろ」
「あ...本当だ。もうそんな時期なんだね」
「あの花乃も25かぁ。大きくなったなぁ」
「ふふ、何それ。私はもう大人よ?千春、親戚のおじさんみたい」
「お、おじ...はぁ~。まぁ、俺も29だしな。30もすぐ目の前で...もうおじさんか...はぁ~」
花乃のツッコミに、あからさまに千春が落ち込んだフリをする。
「え...ちょ、ちょっと、本気で落ち込まないでよ?千春は、おじさんなんかじゃないわ。ほら、このお顔。お肌もツルツルでー...あれ?千春....また発疹増えたんじゃない?....これ、一時期腕に出ていたものよね?」
花乃が、千春を励まそうと腕を伸ばして千春の顔に触れた時。伝わる感触は、いつものすべすべしたものと違っていた。
「....あぁ。時々、季節の変わり目に出るんだ」
「...季節の、変わり目?」
「そうだ。またすぐに治るさ」
「...でも、あの時もそう言って随分長く荒れていなかった?....検査とか、しなくて大丈夫なの?」
「はは、花乃は心配症だな。大丈夫だって。もし必要な時は、同僚に頼んで診てもらうから」
「....うん」
千春の大きな手に、背中をポンポンと優しく撫でられる。
「あ...誕生日、欲しいものとかある?」
「....ううん、何もない」
「花乃は本当、昔からいつもそれだな。....誕生日プレゼントくらい、友人なんだから強請ればいいのに。ちょっとくらいワガママ言え?」
花乃は、呆れたようなため息混じりの声のする方に顔を傾けて、フルフルと首を振った。
「いつももらってる」
「ん?」
「千春からは、いっぱいもらってる。....この二十年近く、毎日のように」
「.....?」
「お花とか、貝殻とか。石とか...本。溶けちゃったけど、雪も触れてすごく嬉しかったし。それに、優しさも。私の宝物は、ほとんど千春からもらったものなんだよ。ふふ、知ってた?...だから、もう十分なの。千春が居てくれたら、それでいいの」
花乃は、満足げな微笑みとともに、千春の方を向いた。
「....毎日は言い過ぎだろ。ただ拾ってきたものだし」
千春が照れているのは、花乃に伝わっていた。
「...私の喜ぶ顔、想像しながら見つけてきてくれたんだなって思うのが、嬉しいの。それに、千春が私に見せたいとか話したいって会いに来てくれるってことも。だって、その度に私たちは友達だって実感するから」
「.........」
「.....千春?」
「あ...あぁ。そう、だな」
「........」
その後黙ってしまった千春に、何故か花乃の胸がザワザワと騒いだ。
それなのに...気になるのに、聞けなくて。
結局、静かに屋上での『気分転換』は過ぎていった。
「花乃、そろそろ戻ろう。冷えてしまうから」
ベンチから立ち上がり、千春はブランケットをたたんだ。慣れた動きで、花乃に腕を差し出す。
もう先ほどの雰囲気など、微塵も残っていなかった。
「....もう少し、座っていたかったな」
「....だめだ。そういえば、昨日、あまり食が進んでなかったみたいだな。食欲ない?」
「........」
「...戻ったら、書天堂の筆饅頭あげるよ」
「え、買ってきてくれたの?」
「食欲がなさそうな時でも、これなら食べてくれるからな。念の為に買って来た」
「ありがとう」
その通り、病室に戻ったら花乃の大好物の筆饅頭が出て来て、彼女は目を輝かせた。
「いただきます!」
そう言って手を合わせると、パクリと大きめの口でかぶりつく。
「むぅぅ~~、美味しい」
「はは、良かった」
その時、ガラリと病室のドアが開いて看護師が飛び込んできた。
「先生!患者さんが...」
「...あぁ、すぐ行く。花乃、それ食べたらゆっくり休むんだよ。俺はもう行かなきゃ。後で退勤前に、また顔を出すよ」
「え、えぇ。気をつけてね」
バタバタと急ぎ足で離れていく足音を聞きながら、花乃は口をむぐむぐさせていた。
11
あなたにおすすめの小説
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる