26 / 53
第二章 25th Birth day
仲直りのホットココア
しおりを挟む
****
トン。トントン。
「.......?」
肩を優しく叩かれた。
蹲っていた花乃は、ゆるゆると顔をあげる。
『ホッホッホ。甘いココアは、いかがかな?美しいお嬢さん』
「........」
『今なら、なんとマシュマロもプレゼント中だよ!ほら、ココアに浮かべれば美味しさ倍増!...ここの人気商品、ぜひ味わってみないかーい?ホッホッホ』
花乃は、しばし停止して、おずおずと手を伸ばした。
その人物は、すぐに動きに気づいて自分から顔を寄せてくれる。
花乃の手に、ふわふわツルツルした柔らかなものが触れた。
「...千春。これ、どうしたの?」
ギクリ。
その瞬間、目の前の人物は身をかたくして...大きなため息をついた。
「...はぁ~。どうしてわかった?声も意識して変えたのに」
千春だ。さっき離れていったはずの千春が、何故か違う格好をして現れた。
「...ふ、ふふふ。だから...足音。千春はね、最後に少しだけ足が地面に擦れるの」
「...何だ、それ。俺、そんなクセがあるのか」
「うん。音にもしっかりそれが伝わってるよ」
「へぇ~。花乃はやっぱりすごいな」
よしよしと、また頭を撫でられる。
(すごくないよ。当たり前だよ。...だって、私の一番好きな音だもん。...千春が、会いに来てくれた音だもん)
「あ...と、悪い。これが嫌なんだな?」
「嫌じゃない...」
「ん?」
「...さっきのは、完全に八つ当たり。...ごめんなさい」
「...そうか」
千春は、優しい声でそれだけ言ってまた頭をポンポンしてくれる。
「...怒らないの?」
「ん?」
「...八つ当たりなんてして。私...本当子供っぽいでしょ?...もっと怒っていいよ?」
「...んー。そうだな」
「.........」
千春は、その後一瞬考え込んで...「でも」と続けた。
「...花乃は、そのままでいい。...そのままがいい。俺、嬉しいんだ。花乃が俺に自分を見せてくれるのが。だから...感情隠すな。...俺には、全部言ってほしい」
それは、心の底からの声で...花乃は身を震わせる。
「...何それ。...千春、優しすぎるよ」
「はは、花乃、いつもそれ言うな」
「だって...」
「花乃なら、いいんだ」
「え?」
「花乃なら、何されてもいい」
「...言ってる意味わかってる?」
「ああ、もちろん。というか、花乃に何されても嫌になる気がしないんだよ。...あ、大学の頃に『来なくていいよ』って言われた時はムッとしたけど」
「...ごめんなさい」
「いいよ。...俺のこと考えて言ってくれたのわかってるから」
二人の間に穏やかな沈黙が落ちたあと、千春がゆっくり口を開いた。
「...そういえば、“喧嘩したら相手をより知れてもっと仲良くなれる“んだっけ?」
「あ...」
初めて喧嘩した時、そんな話をした気がする。
「昔、花乃が言ったんだぞ?...ってことは、今日、俺らもっと仲良くなれたし...良いことずくめだな」
千春がニッと笑った感じがして...花乃は肩の力が抜ける。
「...うん」
何だか無性に千春のそばに行きたくなって、花乃は手探りで服の裾を探す。
触れた布を小さな手でギュッと握れば、千春が気づいて花乃と距離をつめるみたいにもっと歩み寄ってくれた。
「ん?」
優しい声音が上からおちてきて、自分でも驚くほど甘えた声が出る。
「...ううん。...一人、怖かった。...自分で言っといて変なのわかってるけど」
「あ...ごめんな?怖かったよな」
「......」
「花乃の姿は見えてたんだ。すぐそこの店に寄ってただけだから」
「...これ、買ったの?」
花乃が千春の顎のあたりを、ゆっくりと手で探る。
触れたふわふわの正体を、千春に尋ねるために。
「ああ。花乃の様子が変だったから、何かないかなって」
花乃は千春の顎から上に、少しずつ手でペタペタ触れて、頭に触れるためにつま先立ちになった。
千春が屈んでくれた気配がして、また、花乃の足全体が地面につく。
「...サンタクロース?」
「はは、わかるか?何故か、そこのお土産屋でさ、サンタクロースの髭と帽子が売ってて。まぁ、ちょっと時期は早いけど...花乃、笑わせてやれるかなって」
「ふ、ふふふ。もう、千春、突然すぎるよ」
「そうか?...でも、ほら」
「......?」
千春が急に黙って...花乃の頬を、優しい指がそっと撫でる。
「...笑っただろ」
「あ....」
「良かった。...花乃が笑って」
千春が、ふっと笑んだのが伝わって...花乃の胸がきゅっと音をたてた。
(...きゅっ、てなに?)
嫌な感じはない。でも、何か...今までと違う気持ちが、花乃の心に積もっている気がして...花乃は、黙って俯いた。
少し頭を傾けたら、千春の胸にくっつきそうな距離。
まだ湯気を立てているであろうココアの甘い香りがすぐそばでしていた。
もう離れてもいいはずなのに、千春も...花乃も...二人の足は動かない。
(離れたくないな...)
そう思ったのは、一人になった怖さと、千春と仲直りできた嬉しさ。その気持ちからくる感情だろうか。
その正体が何なのか、やっぱり花乃にはわからなくて....花乃は考えることより、千春とのこの時間をゆっくり味わうことにした。
トン。トントン。
「.......?」
肩を優しく叩かれた。
蹲っていた花乃は、ゆるゆると顔をあげる。
『ホッホッホ。甘いココアは、いかがかな?美しいお嬢さん』
「........」
『今なら、なんとマシュマロもプレゼント中だよ!ほら、ココアに浮かべれば美味しさ倍増!...ここの人気商品、ぜひ味わってみないかーい?ホッホッホ』
花乃は、しばし停止して、おずおずと手を伸ばした。
その人物は、すぐに動きに気づいて自分から顔を寄せてくれる。
花乃の手に、ふわふわツルツルした柔らかなものが触れた。
「...千春。これ、どうしたの?」
ギクリ。
その瞬間、目の前の人物は身をかたくして...大きなため息をついた。
「...はぁ~。どうしてわかった?声も意識して変えたのに」
千春だ。さっき離れていったはずの千春が、何故か違う格好をして現れた。
「...ふ、ふふふ。だから...足音。千春はね、最後に少しだけ足が地面に擦れるの」
「...何だ、それ。俺、そんなクセがあるのか」
「うん。音にもしっかりそれが伝わってるよ」
「へぇ~。花乃はやっぱりすごいな」
よしよしと、また頭を撫でられる。
(すごくないよ。当たり前だよ。...だって、私の一番好きな音だもん。...千春が、会いに来てくれた音だもん)
「あ...と、悪い。これが嫌なんだな?」
「嫌じゃない...」
「ん?」
「...さっきのは、完全に八つ当たり。...ごめんなさい」
「...そうか」
千春は、優しい声でそれだけ言ってまた頭をポンポンしてくれる。
「...怒らないの?」
「ん?」
「...八つ当たりなんてして。私...本当子供っぽいでしょ?...もっと怒っていいよ?」
「...んー。そうだな」
「.........」
千春は、その後一瞬考え込んで...「でも」と続けた。
「...花乃は、そのままでいい。...そのままがいい。俺、嬉しいんだ。花乃が俺に自分を見せてくれるのが。だから...感情隠すな。...俺には、全部言ってほしい」
それは、心の底からの声で...花乃は身を震わせる。
「...何それ。...千春、優しすぎるよ」
「はは、花乃、いつもそれ言うな」
「だって...」
「花乃なら、いいんだ」
「え?」
「花乃なら、何されてもいい」
「...言ってる意味わかってる?」
「ああ、もちろん。というか、花乃に何されても嫌になる気がしないんだよ。...あ、大学の頃に『来なくていいよ』って言われた時はムッとしたけど」
「...ごめんなさい」
「いいよ。...俺のこと考えて言ってくれたのわかってるから」
二人の間に穏やかな沈黙が落ちたあと、千春がゆっくり口を開いた。
「...そういえば、“喧嘩したら相手をより知れてもっと仲良くなれる“んだっけ?」
「あ...」
初めて喧嘩した時、そんな話をした気がする。
「昔、花乃が言ったんだぞ?...ってことは、今日、俺らもっと仲良くなれたし...良いことずくめだな」
千春がニッと笑った感じがして...花乃は肩の力が抜ける。
「...うん」
何だか無性に千春のそばに行きたくなって、花乃は手探りで服の裾を探す。
触れた布を小さな手でギュッと握れば、千春が気づいて花乃と距離をつめるみたいにもっと歩み寄ってくれた。
「ん?」
優しい声音が上からおちてきて、自分でも驚くほど甘えた声が出る。
「...ううん。...一人、怖かった。...自分で言っといて変なのわかってるけど」
「あ...ごめんな?怖かったよな」
「......」
「花乃の姿は見えてたんだ。すぐそこの店に寄ってただけだから」
「...これ、買ったの?」
花乃が千春の顎のあたりを、ゆっくりと手で探る。
触れたふわふわの正体を、千春に尋ねるために。
「ああ。花乃の様子が変だったから、何かないかなって」
花乃は千春の顎から上に、少しずつ手でペタペタ触れて、頭に触れるためにつま先立ちになった。
千春が屈んでくれた気配がして、また、花乃の足全体が地面につく。
「...サンタクロース?」
「はは、わかるか?何故か、そこのお土産屋でさ、サンタクロースの髭と帽子が売ってて。まぁ、ちょっと時期は早いけど...花乃、笑わせてやれるかなって」
「ふ、ふふふ。もう、千春、突然すぎるよ」
「そうか?...でも、ほら」
「......?」
千春が急に黙って...花乃の頬を、優しい指がそっと撫でる。
「...笑っただろ」
「あ....」
「良かった。...花乃が笑って」
千春が、ふっと笑んだのが伝わって...花乃の胸がきゅっと音をたてた。
(...きゅっ、てなに?)
嫌な感じはない。でも、何か...今までと違う気持ちが、花乃の心に積もっている気がして...花乃は、黙って俯いた。
少し頭を傾けたら、千春の胸にくっつきそうな距離。
まだ湯気を立てているであろうココアの甘い香りがすぐそばでしていた。
もう離れてもいいはずなのに、千春も...花乃も...二人の足は動かない。
(離れたくないな...)
そう思ったのは、一人になった怖さと、千春と仲直りできた嬉しさ。その気持ちからくる感情だろうか。
その正体が何なのか、やっぱり花乃にはわからなくて....花乃は考えることより、千春とのこの時間をゆっくり味わうことにした。
12
あなたにおすすめの小説
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる