【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい

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第二章 25th Birth day

閑話〜千春's 25th Birth day〜

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「雨か...どうするかな」

 今日は、休日だ。

 約一年前、医大を卒業し、研修医になった千春。それから、毎日、ほとんど休みなく動き回っていた。

 放っておいたら休もうとしない千春を見かねた『先輩』が、「たまには休め」と言って...強引に休みを入れられたのが今日。

 丸一日休みなんて本当に久しぶりで、千春は昨日から何をしようかずっと考えている。

「やっぱり...」

 映画、買い物、家にこもってDVD...。
 色々考えてみるものの、どれもしっくりこない。

 たまの休日でも、思い浮かぶのはーー。

「花乃、ちゃんと食べてるかな。...顔見に行くか」

 三日前にも行ったけど、と独りごちる。

 千春はどんなに忙しくても、花乃のところに通うことだけは欠かさない。

「冷えるな...花乃、あったかくしてるかな」

 何をしていても、何を食べても、何を見ても。
 花乃は、いつも千春の頭の中心にいた。
 10歳の頃から、それが千春にとって自然だった。


 さっきまで、何をしようにもしっくりこなくて止まっていた体が、花乃のことを考えるだけで勝手に動き出す。

 千春はすぐに着替えて、部屋を飛び出した。
 あいにくの雨模様なんて、全く気にならない。

****

「...起きてるかな」

 日に何度か短い昼寝をはさむ友人は、時折寝息を立てていることがある。まだ午前中だから大丈夫だろうと思いつつ、そーっとドアを開けた。

 ベッドに座っている姿を見て、ホッとして近づいていくと、すぐに音に気づいた花乃がこちらを向く。
 

「花乃」
「千春。きてくれたの?」

(...やっぱり笑ってくれた)

 することが思いつかなくて気が重かった休日が、それだけでいい休日になる。

「あ...千春。あのね、目瞑って?」

 突然、花乃がニコニコ言った。
 千春は首を傾げたが、何だか嬉しそうな友人の顔を見ていたら、どうでもよくなってすぐに言われた通り目を閉じる。

「...ん。閉じたよ」
「ふふ、まだ開けないでね?」
「...ああ」

 ウキウキ跳ねるみたいな声音だ。
 楽しそうで、千春までニコニコしてくる。

「...いいよ、千春。目、開けて?」
「ああ。...開けるぞ」

 目を開けたさき。千春の目の前に差し出されていたのは、手のひら大の小さなマスコット。

 綿が詰められた丸い形に『ちはる』と切り取られた文字が、縫い付けられている。

「...これは?」
「えへへ、作ったの。...千春、25歳のお誕生日おめでとう」
「あ...」

 今日は、千春の25歳の誕生日。
 後になって、無理やり休みを入れてくれた『先輩』の気持ちがわかった。

「下手だし、ちょっと手伝ってもらったんだけどね...これくらいしかできなくて、ごめんね」
「...いや、めっちゃ嬉しいよ。ありがとう、花乃。大事にするな」

 ちらりと視線を向けた先は、絆創膏だらけの細い指。
 千春は、差し出されたマスコットを受け取って、しみじみとそれを眺めた。

「いつも忙しそうだから、当日は無理かなって諦めてたけど...今日渡せて良かった~」

 安堵したようにホッと息を吐いて、満面の笑みを向ける花乃を見て、千春は胸がじんわりあったかくなる。

「あ、ケーキもあるよ」

 そう言って出してくれたのは、カップケーキ。

「あのね、病院の調理室、借りられたの。ずっと前からお願いしてたら、特別に少しだけならって。手探りだから見た目はあんまりかもだけど...お母さんにそばについててもらったから、味は大丈夫だと思う」
「...ありがとう、いただくよ」
「うん!」

 サクッと一口かじった千春は、顔いっぱいに笑みを浮かべて言った。

「花乃。美味しい。店出せるんじゃないか?」
「ふふ、大袈裟だよ。私も食べてみようかな」

 ここはいつ来ても温かい。

 人の裏側に神経をすり減らさなくていい、『自分の居場所』。

 家にいるよりも、楽に息ができる。

 千春は、同じくカップケーキをかじる花乃を見つめた。

 きっと心の中にすっかり溶け込んでいる...素直な幼馴染のおかげだなとしんみり思った。

 そして、同時に思う。

(あと何年、こんな風に過ごせるのかな)

 小さな胸の痛みは見ないふりをした。

 それから毎日...マスコットは千春の鞄で揺れているーー。




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