【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい

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第三章 芽吹き

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「もうすぐクリスマスだね。ねぇ、知ってる?先生たちがクリスマス会してくれるんだって!」
「そうなの?やったあ!サンタさんもきてくれるかな?」
「うん!私ね、ユニコーンのぬいぐるみお願いするの」
「いいなぁ!僕は...車のおもちゃ!」
「楽しみだね」
「うん!楽しみ」

 パタパタ....。

 小児病棟に入院している子どもたちの声と足音。残り一ヶ月を切ったクリスマスに期待しているようだ。

「クリスマス会のお知らせでも掲示してたのかしら」

 花乃は、病室を出て廊下を歩いた先にある休憩室にいた。母は、洗濯をしに家まで戻ってくれている。

 手すりをつたってここまで歩き、自販機の「ブーン」という機械音を頼りに、缶ジュースを買って休憩室の机についた。

 プシュッとプルタブを引っ張ると、甘酸っぱいフルーツの香りがして、花乃は口に運んでコクリと一口飲む。

「晴れてるみたいね。とっても明るい」

 この休憩室は天井がガラス張りになっているらしい。以前、瞼の裏に感じる光を理由に母に尋ねたら、そう教えてもらった。

「さて、これからどうしましょう?...千春、今日は仕事かな?...後で会えるかも」

 ここ一週間、姿を現さない千春のことを考える。休日だったのだろうか。

 その間、別の医師が花乃の担当をしてくれていた。

 思えば千春が担当医になってくれてからは、ほとんど毎日顔を合わせていた。数日会っていないだけでなんだか落ち着かない。

*****

 先日、花乃の誕生日を千春と過ごした日。
 宿に泊まって、翌朝もまた早朝の静けさの中で温泉に入り、美味しい朝食を食べて。

 花乃が満足したところで、病院に戻ると、実は両親も羽を伸ばしていたことを知った。

 両親は、花乃がどんな顔で帰ってくるか楽しみにしていたらしく、事前に聞いていた帰宅時間に病棟の外まで出てきてくれていた。ニコニコで戻った娘をみて、嬉しそうな声で「おかえり」と言って抱きしめてくれたのだ。

「ふふ、楽しかったなぁ」

 毎日その日のことを思い返して、ニマニマしてしまう。両親からは、「また思い出してるのか」と何度もツッコミが入っていた。

****

 缶ジュースをゆっくり味わっていると、廊下の向こうから小さな話し声が聞こえてきた。

「...ね。知ってる?新しい先生が入ってきたの」

 どうやら看護師たちが、声をひそめて話しているようだ。

「え、そうなの?知らなかった」
「...そう。今日、病棟に挨拶に来たって。他の看護師たちが騒いでた」
「へぇ。...珍しいね、こんな時期に」
「...それがね、私聞いちゃったのよ」
「...何を?」
「...妙な噂」
「...噂?」
「...そう。手越先生の」
「手越先生って、春斗先生?...そんなの前からじゃない?」
「違うわよ。...私が言ってるのは、千春先生の方」

 何気なく会話が耳に入ってきていた花乃は、よく知る名前が出てきて驚いた。思わず、耳をそばだてる。

「え...千春先生?」
「そう」
「...千春先生がどうしたの?」
「なんかね、連絡がとれないって。...一週間前から、行方不明なんだって」

 ヒュッと花乃の喉が鳴る。

「...それ、本当?」
「...真実はわからないの。でも、事実、今千春先生出勤してないでしょ?」
「確かに...。じゃ、その新しく来た先生は千春先生の代わりってこと?」
「...わからないわ。でも、どうもそうらしいって話になってて」
「え~...どうなってるんだろうね」
「...ね。...あ、やば。師長だ。仕事戻らなきゃ」
「うわ、いこっ」

 それを最後に、看護師たちはパタパタ早足で行ってしまった。

(なに、それ?)

 千春が行方不明?...そんなの嘘だ。

 花乃は、缶ジュースのことも忘れて、立ち上がる。朝から痺れがあって少しふらついたが、そんなことは関係ない。確かめなければ。
 手すりをつたってなるべく急ぎ足で、病院の電話が置いてある場所まで歩いていった。

(...この辺だったはず。...あった!)

 ペタペタと手で探って、電話らしき形を見つける。

 千春の電話番号。何かあったらかけておいでと、念の為に教えてくれていた。

 点字を確認しながら、ひとつひとつ確実にボタンを押していく。

 プルルル...プルルル...。

 受話器の向こうで呼び出し音が鳴った。
 心臓が勝手に騒いで、嫌な汗で手がじっとりと濡れていた。

(千春...千春...出て、お願い)

 ...おかけになった電話をお呼びしましたがーー。

「出ない...」

 結局、何度電話しても電話の向こうから響くのは、同じ音声だった。

(...どうして出ないの?...千春?)

 花乃は、病室に戻っても胸騒ぎがおさまらず、一晩中眠ることができなかった。



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