【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい

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番外編

その後 〜春斗と名子〜

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 カチャ....カチャ。
 トントントン...。
 ジュー.....。

 妻・名子が料理をしている。
 台所で野菜を切って、魚を焼いて....味噌汁のための出汁をとっている。

 春斗は、リビングの椅子に腰掛けてその背中をじっと見つめていた。

 部屋中いい香りがただよっていて...一人で別の家を借りていた時にはなかった温かさがここにはあった。

 今となっては、どうしてあんなに一人になりたかったのかさえわからない。

 妻は毎日こんなにせっせと....自分のために温かい料理を用意して待ってくれていたというのに。

 春斗が立ち上がり、妻のそばまで寄っていく。
 そして、出来上がったばかりのほやほやと真っ白な湯気を立てる器を手に取り言った。

「...これ、運べばいいのか?」

 名子はそんな夫に一瞬目を丸くして...少しだけ震える唇で返事をした。

「....は、い。お願いできますか?」

 春斗はじっと名子を見下ろして....かたかった表情をふわりを緩めた。

「...ああ」

 そして、テーブルと台所を何度か往復して料理を運んだ。



 二人は、席について手を合わせる。

「....いただきます」
「....いただきます」

 つやつやの炊き立てご飯。こんがり焼かれた塩鮭に、出汁からとってある味噌汁。小鉢には、だし巻きやほうれん草の白和え。カリフラワーなど数種類の野菜を蒸した温野菜のサラダ。

 食卓に並んだ料理は、どれも手間がかかり。
 食べる人の....春斗の健康を第一に考えた献立内容だった。

「....母さん。...いや、名子」

 ピクリ。
 名子の...いつのまにか小さな皺やシミがところどころに刻まれた....年齢を重ねた手が。名前を呼ばれて小さく揺れた。

 いつからか呼んでくれなくなった名前。
 「お前」だとか「母さん」だとか...そんな呼び方に変わってしまっていた名前。

 名子はバッと顔を上げ。瞳を揺らして春斗を見た。

 春斗は料理に視線をむけながら、ゆっくりと口を開く。

「....ありがとう。いつも、美味しい料理を用意してくれて」
「.......っ」

 名子は片手で口元を覆って、小さく喉を鳴らした。
 春斗は、料理から視線をあげて名子をじっと見据える。そっと腕を伸ばして、食卓の上に乗せられていた彼女のもう一方の手を握った。

 じんわりと...二人の体温が重なって溶け合っていく。

「....ごめんな。どうしようもない夫で。....名子の優しさにまるで気づいていなかった」

 名子は、目をギュッとつぶってふるふると首をふる。
 声にならない嗚咽が漏れる。

 ーーごめんなさい....あんなバカなことして。

 そう言いたいのに。喉の奥が詰まって言葉が出てこない。

 春斗は本当に優しげに....目を細めて。目尻に皺を刻んだ。

「...なぁ。俺にも料理、教えてくれないか?」

 思わぬ言葉に....名子はパチリと目を開け、首を傾げて春斗に尋ねた。

「....あ、なたが?」
「ああ。...俺も名子に...美味しい料理作ってやりたい」
「.........」
「....やり直そう?俺たち。患者たちに誠心誠意、謝罪して。罪を償って。....それから」

 ーー「もう一度....結婚しよう?....名子」

 それはプロポーズ。
 初めは父・宗一郎の言いなりで。何の思い入れもない、ただ、父の命令を遂行するためのプロポーズだった。
 今回は違う。正真正銘...春斗の意思で。
 名子に求婚した瞬間ーー。

「...ふ、ふふふ。おかしな人。....私たち、もう結婚してますよ?」

 名子は、泣き笑いで言った。

「....そうだな。でも...必要だと思ったんだ。...俺、これから変わるから。....家族を守れるように、頑張るから」

 決意のこもった声。春斗自身の.....誰に命令されるでもなく、春斗の意思で歩む未来。

「....愛してるよ、名子」

「....私も。....愛してるの。....春斗さん」

 二人で歩む新たな未来。
 夫婦で...支え合っていく未来。

 春斗に握られていた手は絡み合い。
 今、しっかりと繋ぎ直されたーー。

 
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