【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい

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番外編

その後 〜啓治と照乃〜

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「...あら?あなた...ここじゃない?」
「...え?そうか?....俺はあっちだと思ったんだが」
「.....困ったわ」
「.....これは完全に迷子だな」

 そんな会話をしながら、ある夫婦があっちへ行き、こっちへ行き。ガヤガヤとたくさんの人が行き交う空港で彷徨っていた。

 夫は頭をぽりぽりかきながら、壁に備え付けられた地図をジィッと目を凝らして見つめた。
 妻はキョロキョロと眉を下げながら、どこかに見知った人物の姿は見当たらないかと探している。

 と、そこへ可愛らしい声が響いてきてーー。
 夫婦の耳にしっかりと届いた。

「ばぁばー!じぃじー!ここに居たぁ!」

 タタタタ......ガバッ。

 勢いよく走って来た声の主は、そのままの勢いで夫婦の腰にむぎゅりと抱きついた。

「...会いたかったよ~、ばぁば、じぃじ~」

 すりすりと頬ずりしながら嬉しそうに目を細めて言ったその子は、夫婦にとって目に入れても痛くないほど可愛がっている5歳の孫。

 と、あとからもう一つ。小さなおぼつかない足取りでこちらに向かってくる靴音。

 タ...タタ...タ...っ、トタン。

 もうすぐ辿り着くというところで、躓いて体ごと前のめりに倒れてしまった。

「...ふっ、うぇ~ん...お、お兄た~ん」

 その声に、夫婦に抱きついていた孫は振り返り、腕を解いて泣き声のもとまで駆けていく。

 自分よりも2つ下の小さな妹のそばまでいくと、ぐっと力を込めて立ち上がるのを助けた。

「...大丈夫?虹乃(この)?」
「...ふ、ぅ...痛かった...」
「...どこが痛いの?お兄ちゃんに教えて?」
「...ここぉ」
「...あ、本当だ。擦りむいちゃったんだね」

 心配そうに妹をよしよししながら、膝の擦りむけた部分をのぞきこんで、兄の実春(みはる)は眉を下げた。

 と、そこに低く優しい声が響いて大きな手が実春と虹乃の頭をなでる。

「....大丈夫だ。後でお父さんが綺麗に洗って手当してやるから」
「痛かったわね、虹乃。ほらもう泣かないで?...実春も。虹乃のこと気遣ってくれてありがとうね」

 それは、二人の両親、千春と花乃だった。

「お義父さん、お義母さん。ご無沙汰しています」
「いらっしゃい、お父さん、お母さん」

 千春と花乃は、久しぶりに会う両親に目を向けて優しく笑った。

「ああ、千春くん。花乃。...それから、実春に虹乃。久しぶりだなぁ。元気そうで嬉しいぞ」
「本当ね。実春はすっかりお兄ちゃんらしくなって。虹乃も。また大きくなったわねぇ」

 自分の娘家族を眺めて、啓治と照乃はしみじみと目を細める。

 今日は、照乃と啓治が休みをとって、アメリカまで飛行機に乗ってやってきていた。
 なかなか会えない娘家族と久しぶりに顔を合わせて楽しく過ごすためだ。

「へへ、僕、お兄ちゃんになったでしょ?虹乃ともたくさん遊んであげてるんだよ?」

 えっへんと胸をはる実春は、じぃじとばぁばに褒めてもらいたくて仕方ない様子だった。

「おお!偉いぞ~、実春!妹に優しくできるなんて、なんてカッコいい男なんだ!」
「本当ね!実春は将来きっと素敵な男性になるわ!虹乃はとっても美人さんだから....女優さんかしら?うふふ」

「お、お父さん...お母さん....恥ずかしいから」

 自慢の孫を褒め称え始めた親に困って、花乃と千春は苦笑いした。

 空港は休日で特ににぎわっていて、新たに飛行機に乗って出かける人たちが、ガヤガヤと搭乗口に列を作り始めた。

「そろそろ行きましょう?混んできたわ」
「ああ。今日はずっと一緒だぞ!実春と虹乃の行きたいところに行こうな?それから夜は....みんなでお泊まりだぞ~!」

 啓治と照乃はさらにテンションを上げて。
 孫との時間をウキウキと楽しむ。



『....まで行ってもらえますか?ああ、それからーー』

 タクシーに乗り込んだ瞬間、職場から電話が入った千春はその対応。代わりに、花乃が滑らかな発音で何やら運転手とやりとりしている。

 照乃と啓治は、膝に乗せた孫の頭を撫でながらしんみりとその様子を眺めた。車は発車して、某テーマパークへの道を進んでいく。千春は既に電話を終えていた。

「....本当に。良かったな」
「...え?」
「....花乃が千春くんを追ってアメリカにいくと言った時は、実は少し心配したんだ。...お前の自由にさせてやらなきゃと思いながら...言葉も通じない場所で...ずっと病院に居たお前がやっていけるだろうかって」
「....お父さん」

 隣の啓治がポツリとこぼし始めると、花乃は感慨深げにその話に耳を傾ける。千春も照乃も、車内に響く啓治の声をただ黙って聞いている。

「でも、そんな心配不要だった。...三年かけて必死に英語を習得して...満面の笑みで飛行機に乗る背中を見送った時、思ったよ」

 ーーもう、花乃は自分の足で人生を歩み始めたんだって。

「親の俺たちの役目は終わったんだってな」
「........」

 啓治と照乃は晴れ晴れとした顔で。
 花乃と千春を見つめた。

「今日来て、改めて安心した。お前たちが本当に幸せそうで」
「ふふ、そうね。私たちには一番嬉しいことだわ」

「....ありがとう、お父さん。お母さん」

 と、会話を聞きながら啓治の膝に乗る実春がおもむろに言った。

「ねぇ、じぃじは好きな人いる?」

 突飛な方向転換だったが、啓治は目尻を垂れながら答える。

「ん?好きな人か?」
「うん!...あのね、僕パパの好きな人知ってるの。教えてあげようか?」

 実春が声を顰めて、耳元に顔を寄せる。
 その声はひそめてはいるが、車内にいる全員に筒抜けだった。

「....パパ、好きな人がいるのか?」
「うん!パパはね~」

 ーーママのことが大好きなんだよ。

「もうね、お家ではママにベッタリでね?僕がママに甘えたいのに、次はパパの番だって言って、ママのこととっちゃうの。だから僕、いつもパパにぷんぷん怒っちゃうんだ~」
「...ほう?はは、そうか~!実春のパパとママは仲良しなんだな~」

「み、みはる!!」

 千春が恥ずかしそうに顔を赤らめて、実春を咎めた。
 だが実春は全く気にしていない。

「うん!仲良しなの。ママとられちゃうのは嫌だけど~...僕も虹乃も、パパとママが仲良しなの嬉しいんだ~。ね?虹乃?」
「うん!わたちもパパとママが仲良し、うれちぃ!」

 へへ、と天使の笑顔でいう実春と虹乃に。

 千春も花乃も。啓治も照乃も。
 朗らかに笑ってーー。

 今日も楽しい一日になりそうだーー。

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